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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第271話 統覇戦、静かなる異変

ルセリア中央大学構内に設えられた巨大競技場は、昼の空気を震わせるほどの熱気に包まれていた。


青空を背に、宙へと浮かび上がるいくつもの魔力球。

それぞれが淡く光りながら、ダンジョン・サバイバルの内部映像を映し出している。


観客席は、学生、冒険者、貴族、そしてその父兄たちで埋め尽くされ、あちこちから興奮した声が弾けていた。




「今回の予選会……レベル、高すぎないか!?」


「ラグナ殿下、やはり人智を超えておられる……!チームメンバーも、揃いも揃って化け物だ……!」


「いや、”銀の新星(シルバー・ノヴァ)“も凄いぞ!何をしたのか分からんが、あのザイード・ジュナザーン皇子を倒したんだ!」


「それより、あの”ザキ・チーム”は何者だ!?聞いたこともない連中なのに、動きが異常だぞ!」




ざわめきは波のように広がり、やがて一つの名前に収束していく。




「……いや、それよりも何よりも……」




声が、ひときわ熱を帯びた。




「“悲劇の令嬢”、ブリジット・ノエリア嬢だ!!」


「ハズレスキル持ちだと聞いていたが、とんでもない!あのスキル……いや、何だあれは!?規格が違う!」


「それに、あの従魔だ!なんだかよく分からんが……胴が長すぎるし、強すぎる!」


「兄のセドリック卿も”神聖騎士団”の一員……一体どうなっているんだ!?ノエリア家の若者たちは!!」




その瞬間。




「見ろ!!ザキ・チームと、ブリジット・チームが……開戦したぞ!!」




誰かの叫びを合図に、競技場は一斉に爆発した。




「うおおおおおお!!」




歓声が、空を揺らす。

魔力球の映像に映る、ダンジョン内で対峙する人影。その一挙手一投足に、観客たちは息を呑み、次の瞬間には叫んだ。


その喧騒から、少し離れた観戦席。


ヴァレンは、宙に浮かぶ水晶球を見上げたまま、楽しそうに口角を上げた。




「おいおい……ブリジットさん、随分と人気者じゃあないの」




その声には、驚きよりも、どこか誇らしげな響きがあった。

隣に座るリュナは、黒いマスクの奥で目を細める。

肩をすくめるようにして、鼻で笑った。




「当然っしょ。むしろ、どいつもこいつも……」




マスクの下で、にやりと笑う気配。




「姉さんの魅力に気づくの、おせーし」




その言葉に、ヴァレンは小さく肩を揺らして笑った。

さらにその隣。

猫のマスクを被るグェルは、水晶球を見つめながら、ぽつりと呟く。




「あ、兄上が……ダンジョン内に召喚された時は……流石に、驚きましたけどね……ッ」




その声には、驚きと、ほんの僅かな敬意が混じっていた。

ヴァレンは視線を水晶球から外さぬまま、内心で思考を巡らせる。




(──しかし……)




観戦席の喧騒とは裏腹に、彼の思考は静かだった。




(佐川くん以外にも……“勇者”が、生徒の中にいたとはね)




水晶球の一つに映る、大柄な男。

鬼塚と向き合うその姿を、ヴァレンはじっと見据える。




(ディオニス……か。聞いたことが無い名前だ。偽名……の可能性が高いな)




眉が、わずかに寄る。

そして、ヴァレンは小さく息を吐いた。

まるで、届かぬと分かっていながらも、忠告を送るように。




「──油断するなよ、鬼塚くん」




声は低く、穏やかだが、その奥には確かな警戒が滲んでいる。




「君もよく知っての通り……“勇者の力”ってのは、侮れないぜ?」




水晶球の中では、まだ、嵐は起きていない。

だが、観戦席の誰も知らぬ場所で、確かに──

“何か”が、静かに、動き始めていた。




 ◇◆◇




ヴァレンは、並んで宙に浮かぶ水晶球の一つから、ふっと視線を外した。

そして、もう一つ──少し離れた位置に浮かぶ水晶球へと目を向ける。


映し出されていたのは、あまりにも見慣れた光景だった。




「それにしても……相棒」




ヴァレンは、肩をすくめるようにして、苦笑を浮かべる。




「相変わらず、めちゃくちゃやってくれてるな……」




水晶球の中。

ダンジョンの薄暗い通路に、ひときわ騒がしい存在がいた。




『ワッ!!』




甲高い悲鳴が響いたかと思うと、次の瞬間、ピタリと動きが止まる。

耳を澄ませる仕草。空気の揺らぎ。床を伝う微細な振動。


──来る。




「……ッ!」




次の瞬間には、ドドドドッ!!と地鳴りのような足音が走った。

アルドは全力で駆け出し、目前に現れたダンジョンモンスターの群れを、体当たりに近い勢いで弾き飛ばしていく。


剣も魔法も、ほとんど使わない。

ただ、速さと重さと、理不尽な耐久力だけで、フロアを“踏み抜いて”いく。

モンスターたちが吹き飛び、壁に叩きつけられ、床に沈む。

そのまま勢いを殺さず、アルドは次の通路へと消えていった。


それを見て、リュナが吹き出す。




「ひゅー!兄さんスゲー!」




黒マスクの奥で、目を輝かせる。




「流石だわー、カッケー!これ、あっという間に最深部までクリアしちゃうんじゃね?」




その声音は、完全に身内贔屓だ。

ヴァレンは、やれやれと言いたげに肩を落とす。




「……ああ。まあ、アイツならな」




だが、すぐに表情が変わった。

笑みが消え、視線が鋭くなる。




(──だが)




ヴァレンは、もう一つの水晶球へと目を移した。




(相棒と……ほぼ同じペースで、攻略してるヤツがいる)




そこに映っていたのは、もう一つの“異常”。


風が渦を巻く。

ラグナ第六王子は、自身の身体を風魔法でふわりと浮かせ、宙を舞うようにダンジョン内を進んでいた。


足を地につけることなく、障害物を越え、罠を見切り、魔物の攻撃を最小限の動きでかわしていく。

無駄がない。洗練されている。


そして何より──速い。


ヴァレンは、顎に手を当て、目を細める。




(ラグナ第六王子が、人間としては規格外の力を持っているのは知っていたが……)




視線が、離れない。




(こいつは……ちと、想像以上だな)




風を裂いて進むその姿は、もはや“学生”の域ではない。




(下手をすると……俺やリュナに、迫る力を持っているんじゃあないか?)




一瞬、思考がよぎる。




(──ただの人間が、そんな事……あり得るのか……?)




感じ取る、違和感。

だが、その正体は掴めない。

隣に座るリュナも、同じ水晶球に気づいた。




「おっ」




首を傾げる。




「あれ、兄さんのライバルみてーに扱われてる王子サマじゃね?」




そう言ってから、じっと映像を見つめ、目を細める。




「……んー?」




ヴァレンが、ちらりと横目で見る。




「どうした?リュナ」




リュナは、顎に指を当て、考えるように言った。




「なんかさー。アイツ……魔力の揺らぎ方、変じゃね?……元々の魔力も、でけーっちゃでけーんだけどさ」




声が、少しだけ低くなる。




「何つーか……外から引っ張られてるっつーか、無理矢理デカくされてるっつーか」




その言葉に、ヴァレンの眉がぴくりと動いた。




「──なんだと?」




思わず、水晶球へと視線を戻す。




(“魂視”スキルは……大学構内じゃ使用禁止、だったな)




規則を思い出しながら、目を凝らす。




(だが……リュナがそう言うなら……)




次の瞬間。

ラグナの周囲に、ほんの薄く。

まるで、空気が汚れているかのような──黒いモヤが、まとわりついているのが見えた。




「……おいおい」




ヴァレンは、思わず呟く。




「マジじゃあないの。あの王子様……妙な魔力に、覆われてるな」




リュナは、どこか得意げに胸を張る。




「だろ?言ったっしょ。あーしの目に、狂いはねーのよ」




だが、ヴァレンの表情は、晴れなかった。




(──なんだ?)




顎に手を当て、思考を深める。




(ラグナ王子を取り巻く、あの黒い魔力は……?)




視線を巡らせても、誰一人として、その異変に気づいている様子はない。




(俺と……リュナ以外、誰も、気付いていない……?)




そして、さらに胸騒ぎを覚える。




(それに……あの魔力の“形”……どこかで……見たことがある気がする……)




脳裏に、ぼんやりとした既視感が浮かぶ。

だが、記憶はそこで途切れる。




(……いや。思い出せない。まるで……記憶の中から、すっぽりと、抜け落ちているみたいだ)




ヴァレンは、静かに息を吐いた。

そして、水晶球の向こう──ダンジョンを進むアルドの姿を見据える。




「──相棒」




届かぬと知りながら、風の中で呟く。




「油断するなよ」




視線は鋭く、声は低い。

わずかに、口角が下がる。




「この“統覇戦(ドミナンス・カップ)”……思ったより、複雑な事に……なってきてるかも知れないぜ」




 ◇◆◇




ヴァレンたちの座る一角から、少し距離を置いた観戦席。

そこに、並んで腰を下ろしている二人の姿があった。


佐川颯太と、天野唯。


二人の前にも、宙に浮かぶ水晶球がいくつも並び、ダンジョン内部の映像を映し出している。

だが、佐川はその中の一つから、目を離せずにいた。




「……俺の他にも……」




ぽつりと、漏れた声。




「“勇者”のスキルを持ってるヤツが、いるなんて……!」




その声音には、驚きと、ほんのわずかな戸惑いが混じっていた。

勇者という称号。それは、彼にとって“特別”であり続けてきたものだ。

同じものを持つ存在が、すぐ近くにいる──その事実が、胸の奥に小さな波紋を広げる。


隣の天野は、水晶球を見つめたまま、慌てたように身を乗り出す。




「そ、それに……!」




言葉が少し裏返る。




「その勇者さん……玲司くんと……ブリジットさんと、戦うみたい……!」




あわあわと、胸の前で手を握りしめる天野。

不安が、表情にそのまま浮かんでいた。

佐川は、水晶球の中をじっと見つめる。

鬼塚玲司。ブリジット・ノエリア。

そして、その二人と向き合う、大柄な男──ディオニス。


その姿を、逃がすまいとするかのように。

やがて、佐川はふっと口元を緩め、天野の方を見た。




「──大丈夫だ」




言葉は、静かで、しかし迷いがない。




「玲司は……対人戦なら、勇者である俺より、確実に強い」




自信に満ちた笑顔だった。

それは虚勢ではなく、長い付き合いの中で積み重ねてきた、確かな実感。




「だからさ」




にっと、歯を見せて笑う。




「あの勇者にも……負けない」




その言葉に、天野は一瞬きょとんとし──

次の瞬間、ぱっと表情を明るくした。




「そ、そうだよね……!」




胸に手を当て、何度も頷く。




「玲司くん……負けないよね!」




佐川は、軽く肩をすくめる。




「ああ。負けるわけがない」




そう言ってから、もう一度、水晶球へと視線を戻す。




(……気をつけろよ、玲司)




胸の奥で、静かに言葉を重ねる。




(その勇者は……上手く言えないが……)




視線が、ディオニスの動きを追う。

喉の奥が、わずかに乾く。




(俺とは……何かが、決定的に違う……気がする)




額に、じんわりと汗が滲んだ。




◇◆◇




競技場の上段、重厚な装飾が施された観戦席──

生徒の父兄や、有力貴族たちが集うVIP席。


そこでも、水晶球を前に、様々な感情が渦巻いていた。




「いいぞっ!!うちの子は、まだ残っているッ!」


「クソッ……!我が子、アンディが……こうもアッサリ脱落するとは……ッ!?」


「ハァ……今回も、ダメだったか……」


「まあ、今大会はラグナ殿下も参加している。優勝は無理だとは……薄々思っていたがな……」




期待、落胆、諦観。

それぞれの想いが、ざわめきとなって広がっていく。


その時だった。


コツ、コツ、と。


床を叩く、規則正しい足音。

VIP席の後方から、一組の貴族夫婦が姿を現す。

ざわり、と空気が変わった。




「……お、おい……見ろ……」




誰かが、声を潜める。




「あれは……公爵家の……!」


「グレゴール・ノエリア卿……!」


「それに……奥方の、ミレーユ様も……!」




ひそひそとした囁きが、瞬く間に広がった。

道を空けるように、貴族たちが左右へと身を引く。

その間を、グレゴール・ノエリアと、妻のミレーユは、悠然と歩いていく。


だが、近くで見ると、その顔には疲労が色濃く滲んでいた。

目の下には濃いクマ。張り付いたような無表情。




「……グレゴール卿……顔色が、よろしくないな……」


「ホラ……ノエリア公爵家は……今、財政状況が……」




小声の囁き。次の瞬間。

グレゴールが、キッ、と鋭い視線を投げた。




「……っ!」




貴族たちは、一斉に息を呑み、短い悲鳴を上げて押し黙る。

その眼光には、長年権力の中枢に立ってきた者の、冷たい威圧が宿っていた。


やがて、グレゴールとミレーユは席に着く。

二人の視線は、同時に、一つの水晶球へと向けられた。


そこに映っているのは──セドリック・ノエリア。


神聖騎士団(セイクリッド・ナイト)の紋章が描かれたマントを(まと)い、危なげなくダンジョンモンスターを打ち倒し、着実にスコアを稼いでいく姿。


グレゴールは、低く呟く。




「……セドリック」




口元が、わずかに緩む。




「お前こそ……ノエリア家の、誇りだ」




その声には、疑いの余地がない。

正統な後継者。期待通りの存在。

だが、次の瞬間。

グレゴールの視線は、別の水晶球へと移った。


そこに映るのは──娘、ブリジット・ノエリア。




「……ブリジット」




声音が、わずかに低くなる。




「ロカ家の……ビビアーナ嬢を、打ち倒したらしいが……」




グレゴールは目を細める。




「──お前に……そんな、強力な力は……無かったはずだ」




疑念。苛立ち。




「どこで……どうやって……手に入れた……?」




その問いに、答える者はいない。

グレゴールは、さらに目を細め、拳を握りしめた。




「……お前の手に入れた、その力は……」




低く、重い声。




「ノエリア家の為に、ある」




一拍。




「いずれ……お前も……」




吐き捨てるように。




「儂の下に、帰ってくる運命に、あるのだ……!」




ぎしり、と拳が鳴る。

その周囲に、ほんの薄く。

まるで空気が歪むかのように、黒いモヤが、立ち上った。


執着。支配欲。──嫉妬。


それらに呼応するかのように、静かに、絡みつく魔力。


だが──

その異変に、気づく者は、誰一人としていなかった。


競技場は、今日も熱狂に包まれている。

その足元で、見えない“何か”が、確かに、根を張り始めていた。

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