表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/316

第264話 side.ブリジット・チーム⑤──バカとお人好し──

紫の魔力が、まだ空気の中に薄く漂っていた。


鬼塚は、拳を天に突き上げたまま、静かに立っている。

その拳の先には、意識を失い、全身の力を抜いた大男がぶら下がっていた。

二十人近くいた挑戦者たちの中で、最後の二人になるまで立っていた男だ。


床には、倒れ伏した者たちの痕跡が点在している。

砕けた武器、削れた石畳、そして戦闘の余熱だけが残る大広間。


その光景を、ただ一人、立ったまま見つめている少年がいた。


ロングソードを握る、細身の青年──マテオ・マルティン。


剣を持つ両手は震え、膝は今にも折れそうで、歯の根が合わない。

視線は鬼塚から離れないのに、まるで現実を直視することを拒むかのように、焦点が定まらない。




「な……な……」




喉がひくりと鳴る。




「何なんだよ……お前の、その力は……!?」




声は掠れ、情けないほどに細かった。


その瞬間。

鬼塚の拳の先で、吊り上げられていた大男の身体が、光の粒子へとほどけていく。


バシュウウウン──。


無機質な消失音と共に、男の姿は完全に消え去った。




『ネームプレート破壊、クリア。ブリジット・チーム、10×1=10pt獲得』




淡々としたアナウンスが、場違いなほど明瞭に響く。


鬼塚は拳を下ろし、首を軽く回すと、最後に残った少年──マテオの方を振り返った。




「おいおい……力の話はすんなよ。こう見えて、結構気にしてんだぜ?」




仮面の奥で、口の端が吊り上がる。




「パワーで言えば、俺がチーム内で一番非力なんだからよ」




冗談めいた口調だった。

だが、その言葉は、マテオの心を容赦なく抉った。




(こ……こいつが、チーム内で一番……非力……?)




マテオの喉が鳴る。




(優勝候補第2位、ブリジット・チーム……化け物ばかりじゃねぇか……!)




奥歯を噛みしめる。




(手を出すべきじゃあ……なかった……でも……ッ!)




鬼塚はゆっくりと、マテオの正面に身体を向けた。




「──残るは、お前だけだぜ」




低く、静かな声。

その一言で、マテオの全身がびくりと跳ねる。

目に涙が滲み、視界が揺れる。

それでも、彼は剣を握り直した。




「お……俺は……!」




声が裏返る。




「俺は、まだ消える訳にはいかないッ!!」




震えながらも、必死に構えを取る。

逃げたい。

だが、逃げられない。

鬼塚は一歩、また一歩と、無言で距離を詰めていく。




「悪ぃな」




淡々とした声。




「諦めろ」




その言葉に、マテオの心が崩れかける。




「俺が……俺が脱落したら……!」




涙が零れ落ちる。




「ビビアーナ様も……失格になっちまう……ッ!!」


「それだけは……それだけは、絶対に……ダメなんだッ!!」




叫びは、必死そのものだった。

鬼塚の手に展開されたビームブレードが、紫の光を帯びる。

その刃が、マテオへと振り下ろされ──ピタリ、と止まった。

刃先は、マテオの胸元すれすれ。空気が張り詰める。


しばしの沈黙。


やがて、鬼塚は小さく息を吐き、ふっとビームブレードを消した。


そして、軽く──


ペシッ。


マテオの剣を、叩き落とす。




「あうっ!?」




情けない声と共に、マテオは尻餅をついた。

鬼塚はそのまま変身を解除し、素の姿に戻ると、マテオを見下ろして大きく息を吐いた。




「──『チームの三名が脱落したら、そのチームは失格』……」




ボリボリと頭を掻く。




「そういや、そんなルールだったな」




そのまま、ドカッとマテオの隣に腰を下ろし、胡座をかく。

戦場の真ん中とは思えない、妙に気の抜けた光景だった。

マテオは混乱しきった顔で、恐る恐る尋ねる。




「お……俺に……トドメを刺さないのか……?」




鬼塚は天井を仰ぎ、ぼそりと答える。




「……刺さねえよ。むしろ、思い出させてくれて助かったぜ」




目を細める。




「ブリジットさんが……うちの大将が、まだ戦ってる……ってことは、何か理由があるんだろうよ」




マテオは理解できず、首を傾げる。




「……?」




その時だった。

バリ、バリ、という異様な音が、背後から聞こえてくる。




「アラッ!?鬼塚きゅん!」




振り向くと、そこには──

グレア・オックスのツノを片手に持ち、豪快にかじりながら歩いてくる美女の姿があった。




「ホントに一人で全部やっちゃったのねッ!!ギャタシとやり合った時より、さらに腕を上げたんじゃなくてッ!?」




楽しげな声。

マテオはびくりと肩を震わせる。

鬼塚は半目になり、額に汗を浮かべながら聞いた。




「……ジュラ姉。何食ってんだよ……?」




ジュラ姉はにっこりと微笑む。




「フフッ……鬼塚きゅんみたいな男子には、少し難しいかも知れないけど……」


「カルシウムはね、肌細胞の代謝を促進して、ハリとツヤを与えてくれるのよッ!」




そう言いながら、ツノをバリバリと食べ進める。

鬼塚は視線を逸らし、力なく頷いた。




「あ、ああ……そうかよ……」




それ以上、突っ込む気力はない。

マテオは内心、完全に凍り付いていた。




(な、何だ……あの女……!?あれだけいた魔物の大群を……全部……?)




ジュラ姉は、怯えるマテオを一瞥すると、ふっと表情を和らげた。




「そっちの男子は……ああ、そういう事ねッ!」




事情を察したように、鬼塚の隣へと、そっと腰を下ろす。

戦場の中心で、三人は並んで座ったまま、柱の上で続く戦いの行方を見上げていた。




 ◇◆◇




鬼塚は胡座をかいたまま、隣に縮こまっているマテオを横目で見た。


戦場の余韻が残る広間は、不思議なほど静かだ。

遥か上方、四角柱の先端では、まだ金属音と衝撃音が断続的に響いているが、ここだけ切り取られたように、時間が緩んでいる。


鬼塚は、あくまで軽い調子で口を開いた。




「なぁ、アンタ。なんであのヤバい女……ビビアーナっつったか?アイツに従ってんだ?」




マテオの肩が、びくりと跳ねる。

隣で、ジュラ姉が足を組み替え、顎に指を当てた。




「ギャタシも、それは気になるわねッ!あの子……スキルこそ強力だけど……正直、リーダー張るタイプではないんじゃなくて?」




からかうようでいて、視線は真剣だった。

鬼塚はマテオの横顔を観察する。




(力で縛ってるのか?それとも、貴族同士の力関係か……?)




どちらにせよ、従っている理由は一つではないはずだ。


マテオは唇を強く噛みしめた。

かすかに血の味が広がり、喉が鳴る。

一度だけ、深く、大きく息を吐く。

まるで胸の奥に溜め込んできたものを、まとめて外に逃がすように。


そして──腹を括ったように、視線を床へ落としたまま、口を開いた。




「──ビビアーナ様はな……」




声は震えていた。

だがそれは、さっきまで鬼塚に向けていた“恐怖”の震えとは違う。

自分の中で、大切に抱え込んできた何かを語ろうとする時の、覚悟の震えだった。


鬼塚は、自然と胡座を組んだ背筋を伸ばす。

ジュラ姉も、いつもの余裕ある微笑みを少しだけ引っ込め、視線をマテオへ向けた。


マテオは、次の言葉を──逃げ道を断つように、はっきりと言い切る。




「あの方は……すっっっげぇ、バカなんだ」




一瞬、広間の空気が、すとんと落ちる。

鬼塚とジュラ姉は、ほぼ同時に、小さく目を瞬かせた。




(……ん?)




だが、二人とも即座にツッコミは入れない。

鬼塚は片眉を上げただけで、ジュラ姉も口元に指を添えたまま、続きを待つ。


マテオは、(せき)を切ったように言葉を連ね始めた。




「さっき……ビビアーナ様、言ってたろ?『勉強苦手なのに、一生懸命勉強して大学に合格した』って」




その口元が、わずかに歪む。

笑いでも嘲りでもない、自分でも整理しきれない感情の歪みだ。




「あれな……本人は、本気でそう思ってる。でも、実際は……全然、違うんだ」




マテオは、自分の指を見つめながら、一本ずつ折るように続ける。




「あの人、入学試験の学科の点数……合計で十四点しか取れてなかったんだ。一教科じゃないぞ?三教科の合計で、だ」




鬼塚の眉が、ぴくりと跳ねた。




「いっつも口開いてるし……十八になるのに、いまだに九九もな……六×九=七十二(ろっくななじゅうに)、とか……平気で、自信満々で言う。そういうレベルの話なんだ。」




ジュラ姉が、思わず口元を押さえる。




「……あら」




小さな呟きだったが、そこには驚きと、ほんの少しの哀れみが滲んでいた。

マテオは自嘲気味に肩をすくめる。




「でもさ……スキルが……あまりにも、強力すぎた」




視線を逸らし、鼻で短く笑う。




「それだけで、滑り込み合格させてもらえたんだ。周りの大人が勝手に決めて、勝手に許可出して」




小さく鼻を鳴らす。




「それも本人は、よく分かってねぇ。自分の努力が報われたって……本気で、思ってる」




少し間を置いて、低く呟く。




「……バカだからな」




鬼塚は、たまらず額に手を当てた。




「ちょ、ちょっと待て!何の話してんだ?あんた……あいつの手下じゃねぇのかよ?」




マテオは、すぐに首を横に振る。




「手下って訳じゃねぇ。命令されて従ってるとか、そういうのじゃない」




一度、唇を噛みしめてから続ける。




「確かに、貴族としての格はロカ家の方が上だ。逆らえば、面倒な事になるのも事実だ」




だが、と。




「俺たちが、あの人に力貸してるのは……」




自然と、視線が上へ向く。

遥か高み。四角柱の先端で、ブリジットの巨大ハンマーが振り下ろされ、火花と衝撃波が散る。

それを必死にかわし、喚き、悲鳴を上げながら応戦するビビアーナの姿が、豆粒ほどに見えた。




「バカだけどさ、本当に、どうしようもなくバカだけど」




マテオの声は、少し掠れていた。




「バカなりに……一生懸命なんだよ、あの人」




拳を、ぎゅっと握りしめる。




「失敗しても、転んでも、皆に笑われても」




一つずつ、噛みしめるように言葉を置く。




「悔しがって、泣いて、怒鳴って……それでも、逃げない」




視線は、なおも柱の上を追っている。




「そんな姿、毎日見せられてたらよ……応援したくなっちまうだろ」




弱々しく、だが確かな声で。




「皆……そうなんだ」




鬼塚は、黙ったまま柱の上を見上げた。




(あの情緒不安定女……意外と、仲間からは……慕われてんだな)




その事実が、少しだけ胸に引っかかる。

隣で、ジュラ姉が柔らかく微笑んだ。




「なるほどねッ」


「ブリジットさんとの戦いが、なかなか終わらないのも……」




視線を上に向けたまま、楽しげに言う。




「そこらへんが理由って事かしらッ?」




鬼塚は、短く頷く。




「ま、そういう事だろうな」




マテオは、二人の会話についていけず、恐る恐る尋ねた。




「ど……どういう事だよ……?」




鬼塚とジュラ姉は顔を見合わせる。

そして、ほぼ同時にマテオを見た。

鬼塚は、少し照れくさそうに鼻を鳴らす。




「うちの大将はな……超がつく、お人好しなんだよ」




ジュラ姉も、くすりと笑って続ける。




「もしかしたら……アナタ達のボスとも、仲良くなっちゃうかもしれないわねッ」




その瞬間──

遥か上方から、




「えいやぁーーっ!!」




という、やけに元気な叫び声。

続けざまに、


ドゴォォォン!!


と、柱を揺るがす破壊音が轟いた。

さらに、




「ハーーー!!しっ、死ぬっ!!」




という、ビビアーナの必死すぎる悲鳴。

マテオは、思わず頭を抱えた。




(ほ……本当に……?)




額に汗が滲み、背中を冷たいものが伝う。

一方で、鬼塚とジュラ姉は、どこか安心したような、穏やかな表情で、ただ柱の上を見上げ続けていた。


まるで──

あの騒がしさこそが、正しい光景だとでも言うように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ