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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第262話 side.ブリジット・チーム③──オシャレは乙女の武装──

柱の上で、鞭が風を裂いた。


乾いた破裂音と共に、空間が歪み、赤く燃える円環──火の輪がいくつも宙に浮かび上がる。

その内側から、蠍の鋏が、蜘蛛の脚が、蝙蝠の翼が、次々と覗いた。


鬼塚はそれを見上げ、目を細める。




(コイツ……完全にバカみてぇなノリだが……)




内心で吐き捨てながらも、視線は一切逸らさない。




(スキルは、本物だ)



「──『使役した魔物を、いつでも、どこでも、いくらでも呼び出せる』……か」




低く呟く声は、戦場の喧騒にかき消されそうになりながらも、確かな重みを帯びていた。




「藤野のスキル……“召喚獣(ファミリア・マスター)”と同じタイプだな」


「……いや、藤野にゃ悪いが、あれの上位互換って感じか?」




その言葉に、隣で魔物の群れを眺めていたジュラ姉が、ふっと肩をすくめる。




「うーん……それはまだ、何とも言えないわねぇ……」




どこか含みを持たせた声。

鬼塚は眉を寄せ、横目で彼女を見る。




「あ? どういう事だよ、ジュラ姉」




だが、その問いは最後まで続かなかった。




「二人とも、そこまでっ!」




張りのある声が、空気を切り裂く。

ブリジットだった。




「来るよっ!!」




その声とほぼ同時に、柱の上でビビアーナが大きく身を反らし、鞭を頭上で振り回した。




「ハーー!! いい加減にするねぇ!!」


「美少女や美女のビジュでアタシを籠絡しようなんて、姑息な手を使ってくれるねぇ!!」




鞭が、空を叩く。




「やっておしまい!!ビビちゃんズ魔物軍団! そして第六王子派のボーイズ&ガールズ!!」




号令と同時に、周囲を囲んでいた挑戦者たちが、一斉に動いた。剣が抜かれ、魔法陣が展開され、殺気が一気に膨れ上がる。


それに呼応するように、火の輪から魔物の群れが雪崩れ込んできた。蠍が床を這い、蜘蛛が天井から降り、蝙蝠が空を埋め尽くす。




「はわわっ……!?」




ブリジットは思わず声を上げ、巨大ハンマー・ピコ次郎を構えたまま、視線を忙しなく巡らせる。




「ど、どこから相手をすればいいのかなっ……!?」




その迷いを、鬼塚の声が断ち切った。




「いや! ブリジットさん!」




彼は一歩前に出ると、重心を低く落とし、自然と拳を構える。




「アンタは、あのヤベェ女をやってくれ!!こっちの(アタマ)はブリジットさん、アンタだッ!!」




口の端を、ニッと吊り上げる。




「トップが相手のトップを取っちまえば、その闘争(ケンカ)はこっちの勝ちだぜッ!!」




その言葉に、ジュラ姉が楽しげに笑った。




「いい事言うわねッ、鬼塚きゅん!!ギャタシもその案に賛成よッ!!」




彼女はパラソルを畳み、くるりと回してから、魔法のポーチへと滑り込ませる。その動作は、戦場とは思えないほど優雅だった。


ブリジットは二人を見て、一瞬だけ目を見開き、すぐに力強く頷いた。




「分かった!あたし、ビビアーナさんの相手をするよっ!」




次の瞬間。

彼女の額から、短い銀色の角が、にょきりと生える。




「えいやぁーーっ!!」




掛け声と共に、ブリジットの身体が宙を切った。

信じられない跳躍力で、四角柱の柱の先端──ビビアーナの立つ場所へと一直線に飛ぶ。




「おおおっ!?」




ビビアーナが目を見開き、次いで楽しそうに口角を上げる。




「やる気かねぇ!?上等だねぇ……!! 相手してやるよッ!!」




鞭が構えられる。


その場に残された鬼塚とジュラ姉は、自然と背中合わせの陣形を取っていた。周囲から迫る人間の群れと、魔物の奔流を同時に視界に収める。


鬼塚は、低く呟く。




「なぁ、ジュラ姉。人間の相手は俺に任せてくれねぇか?……魔物の方を、アンタに頼みてぇ」



「アラッ?」




ジュラ姉は首を傾げ、楽しげに尋ねる。




「それは構わないけど……どうしてかしらッ?」




鬼塚は、視線を前に固定したまま、肩をすくめた。




「──アンタが連中の相手しちまったら、とんでもねぇスプラッタ絵面になりそうだからな」




冗談めかした言い方だった。

だが、ジュラ姉はクスリと笑った。




「フフッ、いいじゃない?どうせダンジョンで死んだって、復活できるんだからッ!」




一拍置いてから、にっこりと微笑む。




「でもまぁ……鬼塚きゅんがそう言うなら、それでよくってよッ!!」




そう言って、彼女は魔物の大群へ向かって、軽やかに駆け出した。

その背中を見送る間もなく、鬼塚の正面から怒号が飛ぶ。




「バカがっ!!」


「お前一人で、この人数を相手出来るつもりかっ!?」




二十名ほどの挑戦者たちが、一斉に鬼塚へと殺到する。

鬼塚は、その様子を見て、静かに笑った。




「当たりめぇだろ……」




鋭い目つきのまま、口の端を上げる。




「一対多でザコ戦闘員を蹴散らすのは……“変身ヒーロー”のお約束だからなッ!!」


「“神器解放”……」




低く、確かな声。




「“獏羅天盤(ばくらてんばん)”……ッ!!」




その瞬間、鬼塚の腰に、歯車を備えたバックルが顕現する。




「な……っ!?」


「気をつけろっ!! コイツは……神器使いだっ……!!」




挑戦者たちの動きが、一瞬だけ止まった。

鬼塚は、その隙を逃さない。




「──変身……ッ!!」




親指で歯車を、ギュイーン!と回す。

紫の魔力が爆発的に噴き上がり、鬼塚の身体を包み込む。

その中で、彼は低く呟いた。




「てめぇらは……俺が、ぶっ潰す……!」




戦場の空気が、決定的に変わった。




 ◇◆◇




眼前から押し寄せてくるのは、魔物の奔流だった。


蠍の鋏が床を擦り、蜘蛛の脚が空を掻き、粘つくスライムが波のようにうねり、ゴブリンの喚き声が重なり合う。その上空を、無数の蝙蝠が黒い雲となって覆い尽くしていた。


量だけで言えば、圧倒的。


だが──。


ジュラ姉は、その光景を前にしても、一切慌てなかった。

むしろ、うっとりとした表情で、自分の右手を持ち上げる。


指をゆっくりと反らし、真紅に塗られたネイルを、光に透かすように眺める。

その仕草は、まるで舞台に立つ女優が、開幕前に衣装を確かめるような優雅さだった。




「フフ……」




微笑みが、唇に浮かぶ。




「知ってる?オシャレってのはね……」




魔物の群れが、距離を詰める。

床を覆う影が、彼女の足元にまで迫る。




「いつだって、乙女にとっての“武装”なのよ……ッ!」




次の瞬間。

ジュラ姉の空気が、がらりと変わった。


腰を低く落とし、左足をわずかに前へ。右足を大きく後ろへ引き、地面を踏みしめる。

両腕が、眼前に掲げられる。


指は大きく開かれ、空間を挟み込むように──まるで、肉食獣が獲物に牙を突き立てる、その直前の構え。


ティラノサウルスを思わせる、原始的で、圧倒的な捕食の型。


紅のネイルが、光を受けて煌めく。

それは、血に濡れた牙のようだった。




「──“牙王拳(ガオーケン)”……ッ!」




低く、しかし芯の通った声。

次の瞬間、彼女の両腕が、上下から振り下ろされる。




「“暴君の牙(タイラント・ファング)”!!」




バクンッッ!!


空間そのものが、巨大な顎に噛み砕かれたかのような衝撃。


魔物の大群の最前列が、一瞬で消え失せた。

蠍も、蜘蛛も、ゴブリンも──肉片となり、血と魔力の飛沫となって、四散する。


まるで、見えない巨大竜が、ひと噛みで群れを喰いちぎったかのようだった。


だが、赤い光を宿した魔物の目は、怯えない。

操られた意思が、恐怖を上書きし、残った魔物たちは躊躇なく前進を続ける。


ジュラ姉は、その様子を見て、口元をわずかに吊り上げた。




「ふーん……」




細く、意味ありげな笑み。




「やっぱりね」




次の瞬間、彼女は再び腕を動かす。


ガチンッ。


恐竜の牙が噛み合うように、両手が閉じられる。

触れた魔物が、バクンッ!!と消える。


ガチンッ、ガチンッ。


二度、三度。

彼女の手の動きに合わせて、魔物の群れが、次々と“喰われて”いく。


血が舞い、魔力が霧散し、地面に崩れ落ちる暇すら与えられない。


そして──。


残った魔物たちが、四方から一斉に飛びかかってきた、その瞬間。

ジュラ姉の身体が、しなる。




「“暴君の尾鞭(タイラント・テール)”!!」




舞のように美しい、後ろ回し蹴り。

脚が弧を描き、空気を裂く。

その軌跡は、まさに巨大な竜の尾。


パパパパァァン!!


蹴りの風圧だけで、周囲の魔物が次々と弾け飛び、消滅していく。肉片と魔力が、花火のように空中で散った。


やがて……。


押し寄せていた奔流が、嘘のように収まる。

静寂。その奥から──重低音の足音が響いた。


ズン……ズン……。


姿を現したのは、小型とは明らかに違う存在。

全高五、六メートルはあろうかという牛型の魔物──グレア・オックス。

鋭い牙を剥き出しにした猪型──デスファング・ボア。

鱗に覆われた巨体を揺らす蜥蜴型──ロードリザード。


三体が並び立ち、ジュラ姉を見下ろす。

空気が、張り詰めた。

だが、ジュラ姉は怯まない。

むしろ、楽しげに微笑んだ。




「アラッ!」




指先をくるりと動かし、肩をすくめる。




「少しは、噛みごたえのありそうな子達が現れたじゃないッ」




その背後に、魔物達は幻視する。


──巨大なティラノサウルスが、ゆっくりと口を開き、獲物を品定めしている姿を。


次の瞬間、何が起きるか。それを理解しているのは、もはや魔物ではなく──捕食者である、彼女自身だけだった。




 ◇◆◇




三匹の魔物は、ゆっくりと距離を詰めながら、半円を描くようにジュラ姉を囲んだ。


グレア・オックスの巨体が床を軋ませ、デスファング・ボアの牙が擦れ合い、ロードリザードの鱗が鈍く光る。

明らかに“獲物を狩る配置”──そのはずだった。


だが。


彼らの本能が、悲鳴を上げていた。


ジュラ姉の周囲から、目に見えない圧が立ち上っている。

否、見る者には見える。

彼女の背後に、巨大な影が重なっていた。原始の王、太古の捕食者──ティラノサウルスの幻影。


開かれた顎。覗く牙。

踏みしめる大地。


魔物たちは、思わず一瞬だけ足を止めた。

ジュラ姉は、その様子を楽しむように、柔らかく微笑む。




「フフフ……どうしたの?ギャタシの後ろに……何か怖いものでも、見えちゃったかしら?」




声は優しい。だが、逃げ場はない。

三匹の魔物に、怯えが走る。

それでも──スキルによる支配は、恐怖よりも強い。命令に逆らうことはできず、彼らは歯を食いしばるように、三方向から同時に踏み込んだ。


左右から、グレア・オックスとデスファング・ボア。


ツノと牙を突き出し、圧殺する勢いで突進する。


正面からは、わずかに遅れてロードリザード。

前脚の鋭い爪と、裂けた顎を開いて飛びかかる。


三方向同時。必殺の包囲。

そのはずだった。


──次の瞬間。


ガシッ。


乾いた音と共に、世界が止まった。

ジュラ姉の両手が、それぞれ別の方向へ伸びていた。


左手は、グレア・オックスの巨大なツノを。

右手は、デスファング・ボアの牙とツノを。

完全に──掴み止めていた。


床が、ミシリと悲鳴を上げる。

ノースリーブのトップスから伸びる、細く白い腕。その表面に、ビキビキと筋肉が浮き上がり、血管が走る。

美しさの裏側に隠された、暴力的なまでの力。


ジュラ姉は、巨体に押されることもなく、むしろ余裕すら滲ませて、くすりと笑った。




「アラッ!ダメよ、ダメダメッ!レディへのアタックは……」




目を細め、二匹を見下ろす。




「もっと慎重に、しなくちゃいけなくてよッ。坊や達!」




その瞬間。

グレア・オックスとデスファング・ボアの脳裏に、同じ感覚が走った。


──格が、違う。


敵ではない。

獲物でもない。

これは、"捕食者"だ。

本能が、そう告げていた。


だが、もう遅い。


両手が塞がったジュラ姉の正面から、ロードリザードが吼え、跳躍する。

前脚の爪と牙を振り下ろし、致命の一撃を狙う。


その刹那、ジュラ姉の脚が、しなった。


ドゴォォッ!!


凄まじい衝撃音と共に、ロードリザードの巨体が、真上へと蹴り上げられる。

まるで、地面に反発されるボールのように、天井へ向かって一直線。


それと同時に。




「オラァァァッ!!」




短く、荒々しい掛け声。


ジュラ姉は、両手に掴んだままのグレア・オックスとデスファング・ボアを、力任せに振り上げる。


巨体が宙を舞う。


三体の魔物は、天井の高いダンジョンの一室で、ぐんぐんと高度を上げ、やがて身動きが取れなくなった。


浮かぶ、三つの“的”。


ジュラ姉は、それを見上げて、軽く肩をすくめる。




「──本気でやると、ダンジョン自体が壊れちゃうかもしれないものねッ! ここは……手加減して〜……」




そう言いながら、両手を上へ向ける。

赤く煌めく指の形が変わる。

再び、ティラノサウルスの牙を模した構え。

その両手の間に。


ビリビリッ……!


空気が震え、光が集束する。白熱したエネルギーが、雷のような火花を散らしながら、急速に凝縮されていく。


熱。衝撃。振動。


すべてが、そこに集まる。

ジュラ姉は、楽しげに微笑み、叫んだ。




「“暴竜咆哮波(タイラント・ロア)”ッ!!」




轟音が鳴り響く。


両手の間から放たれた、光と衝撃が凝縮された灼熱のビームが、一直線に空を貫く。

空中の三匹を、まとめて飲み込む。

断末魔すら、届かない。


エネルギーの奔流に包まれ、三体は存在ごと掻き消えた。


しかし、ビームは止まらない。


そのまま迷宮の天井をぶち抜き、遥か上──上階層へと突き抜けていく。


「ギャアアアア!!」「な……何だ、この光……うわぁぁぉッ!?!?」


遥か上方から、小さく悲鳴が聞こえてくる。

遅れて、アナウンスが響いた。




『ネームプレート破壊、クリア。ブリジット・チーム、10×6=60pt獲得』




ジュラ姉は、意外そうに、小さく声を上げた。




「アラッ!?貫通して……上の階層の男子達も、何人か消し飛ばしちゃったかしらッ!?」




ぺろりと舌を出し、髪をかきあげる。




「ギャタシったら、おっちょこちょい!──ごめんあそばせッ!」




イタズラっぽく微笑むその顔からは、

先程までの捕食者の影など、どこにも見当たらない。


ただそこにいたのは、場違いなほどに美しい──“いつものジュラ姉”だった。

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