表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/234

第220話 “統覇戦”と勅命権──それぞれの思惑

風を切り裂く高い金切り音が空に漂い、飛翔ボートは蒼い雲を滑るように進んでいた。

操縦席にはラグナ・ゼタ・エルディナス第六王子。

右手人差し指の先に点る白光が、まるで舵輪の代わりにボートの進路を操っている。


ラグナは頭を押さえながら、呻くように文句を漏らした。




「……っててて……完全にしくじったなぁ。

“ブラックドラゴンのスタンピード”……メインヒロイン・ブリジット攻略の数少ないイベントのうちの1つだったのに……。あそこでルート分岐に成功しておく予定だったんだけどなぁ〜……イテテ……」




わざとらしく嘆くよりも、傷んだ頭の方が本音で痛いらしい。


その横で操縦席に寄り添うセドリックは、眉をひそめつつも声をかける。




「だ、大丈夫ですか、殿下……?

一体、殿下の身に何が……?」




しかし内心は別だった。




(……まただ。妹のことを”メインヒロイン”と呼ばれる……この殿下の価値観、どうにも理解し難い……)




ラグナはこめかみを揉みながら、眉を寄せ考え込む。




「推測だけどね……。たぶん、僕を気絶させたのは──“咆哮竜ザグリュナ”だ。」



「ザグリュナ……!」




セドリックが息を呑む。飛翔ボートの後部座席では、ふわふわのメイド服を揺らしたリゼリアが目を丸くした。


ラグナは続ける。




「ヤツの咆哮には、人の心を操る効果がある。

記憶が抜けてる以上、断言はできないけど──

おそらく僕とザグリュナが会敵し、戦闘になり……ザグリュナは僕の攻撃を受けて撤退。

僕は咆哮に巻き込まれて……記憶が飛んだ……そんなところかな。」




淡々と言いながらも、その表情には僅かな悔しさが滲む。




(やっぱり……今の僕じゃザグリュナをソロ攻略は無理か。ヴァレン・グランツの線もゼロじゃないけど……アイツは”レアエネミー”だ。正規ルートを踏まずに戦闘イベントに突入ってのは……可能性低いんだよなぁ。なのに今、なぜかエルディナ王国の国賓になってるし……)




そんなゲーム目線の考察を続けるラグナの横で、リゼリアはオーバーに震えて見せる。




「で、殿下がやられるなんて~~っ!

ザグリュナって、そんなに恐ろしくって危険なドラゴンなんですか~~っ!?」




怯えた声。しかし──その瞳は笑っていた。




(なぁ~~んて。

殿下……ご自分が誰に倒されたのか、本当に覚えてらっしゃらないのですねぇ~~)




心の中でリゼリアは薄く笑い、長い睫毛の奥で瞳を細めた。




(……あの殿方。

アルドさん、と仰ってましたよねぇ~~。

ふふっ……またお会いできる日が、楽しみですぅ~~)




飛翔ボートの最後尾では、フードを深くかぶった少女──ルシアが、遠ざかって行くカクカクシティを一度だけ振り返る。




「……来た甲斐はあった。」




そしてそのまま、コトン、と頭を壁に預けて静かに目を閉じた。


ラグナは脚を前のデッキに投げ出し、座席に横たわる。ふう、と息を吐きながら空を眺めつつ、呟いた。




「ま、いいか。

Aルートは失敗したけど、Bルートがまだ残ってるし?」




ボートの魔力灯がキラリと光る。




「3ヶ月後の”ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”……僕ら4人で圧勝して”勅令権”を貰う。

そうすれば──」


「僕とブリジットは、全国民に祝福されながら、晴れて結ばれる……!」




嬉しそうに笑うラグナ。

しかしその横顔を見ていたセドリックは、別の表情になっていた。


──妹ブリジットが、張り付いた笑顔で王子に対応していた光景が脳裏をよぎる。


対してアルドと呼ばれた少年には、

心からの笑顔を向けていた。


セドリックは目を閉じ、深く考え込む。




(……アルドくん、だったか。

無詠唱で上級魔法を発動し、そして──

色欲の魔王ヴァレン・グランツとも親しい様子だった。ただ者ではない……ひょっとしたら……彼なら……)




風が四人の髪を揺らす中、セドリックは静かに、しかし確信を孕んだ思いを抱く。




(彼なら、妹を……ブリジットを、本当の意味で救ってくれるかもしれない……!)




飛翔ボートは、そのまま王都ルセリアへ向け、蒼い空を滑るように飛び続けた。




─────────────────────

(アルド視点)




「……“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”?」




思わず、持っていた湯呑みを口元で止めた。

その単語のあまりの“ゲーム感”に、現実味が追いつかなかった。


向かいの席では、テーブルに片肘をついたヴァレンが、いつものチャラい笑みを浮かべて指を立てる。




「そ!各国から名門ルセリア中央大学に集まった学生達が覇を競う、戦いの祭典さ。

三ヶ月後に開催される、四年に一度の“祭典中の祭典”だな。」




バトル漫画かよ。

さすが異世界。四年に一度の大学対抗戦で覇を競うって、どういう環境なのよ。


すると、俺の足元近くでハッハッハッと息を切らすミニチュアダックス──いや、フェンリル王のフレキくんが、短い前足をパタパタしながら身を乗り出してきた。




「聞いた事ありますっ!

ルセリア中央大学は、エルディナ王国だけでなく、北方王国ラインハルト、南のザラハドール連邦からも留学生を募る名門です!

“知識の坩堝るつぼ”とも呼ばれていて……!」




勢いがすごい。

何より、その小さな犬の身体で前足を必死にブンブン振ってしゃべる姿が、可愛いのに情報量はめちゃくちゃ学術的だ。


すする音が響いた。リュナちゃんだ。

湯気を纏ったラーメン椀を片手に、彼女はずずずーっと麺を吸い上げつつ言う。




「詳しいっすね、フレキっち」




フレキくんは胸を張り、尻尾をちぎれんばかりに振った。




「はいっ!

ボク、以前……通信制の大学の資料を集めてた時期があって、その時にルセリア中央大学も調べたんです!」



「通信制……大学……?」




思わず聞き返すと、フレキくんは得意げに鼻先を上げた。




「はいっ!必要単位まで取得したので、一応卒業した事になってます!」



「えっ……フレキくん、大卒なの?」




小型犬なのに?

俺らの中で一番高学歴じゃん。




「フレキくん、すごーいっ!」




ブリジットちゃんがぱぁっと目を輝かせて手を叩く。

その笑顔は本当に柔らかくて──こっちが照れるほど眩しい。


一方ヴァレンは、目をムキッと見開いて叫んだ。




「マジかよ……!?

確かに、魔物や魔族が大学通うってのは最近は割と聞くけど……フェンリルが学位持ってるとか、俺でも聞いた事ないぜ!?」




だよなぁ。おりこうワンちゃんってレベルじゃない。


ヴァレンは一度咳払いして、話を戻すように改めて指を立てた。




「で、本題だ。“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”は、ただの学生同士の大会ってわけじゃない。優勝チームには──とんでもねぇ“優勝賞品”が与えられるのさ。」




リュナちゃんがラーメン椀を傾けながら言う。




「とんでもない賞品?ラーメン1年分的な?」



「それも魅力的だが、そういう次元じゃねぇ。」




ヴァレンは「ふっ」とニヤつき、言葉を落とす。




「優勝チームに与えられるのは──“勅命権”だ。」



「“勅命権”?聞いたことない言葉だね」




俺が首をかしげると、ブリジットちゃんが椅子をギィッと引き寄せて、身を乗り出した。




「──聞いたことがあります!

“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”の優勝チームに与えられる、どんな望みでも叶えられる権利だって……!」




どんな望みでも……?

そんなチート権限ありなの?


ヴァレンは顎を上げ、説明を続ける。




「そう。“勅命権”は、

王命と同じ権限で“願いを発する”ことができる権利だ。例えば……制度を変える、爵位を引き上げる、国政に意見する、そんな無茶も通る。」




マジで王命クラス?

何その政治版ドラゴンボールの神龍みたいな特典。




「他国の留学生なら、エルディナ国王の進言と同等の権限で自国に意見できる。

つまり……“国をも動かせる賞品”ってわけだな。」




想像以上にヤバかった。


ヴァレンは椅子ごと俺の方へぐいっと体を傾け、ビシィッと俺を指差した。




「そこで、だ!ブリジットさんと相棒──つまりお前には、“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”に出場し、優勝して、“勅命権”を手に入れてもらう!」



「え、えぇぇぇぇっ!?!?」




思わず間抜けな声が出た。


……俺とブリジットちゃんが、そんな世界大会みたいなやつに出るの!?

いやいや、もうちょい段階踏もうよ!?

なんで急に“国動かせる権利を取りに行こう”みたいな流れに——!


ブリジットちゃんは驚き半分、期待半分の顔でこっちを見る。

瞳は揺れていたが……

そこに宿っている“信頼の色”だけは、はっきり分かった。


ラーメンの湯気が、ふわっと俺たちの間を横切る。

その温かさで、ごくりと喉が鳴った。


……どうするんだ、俺。


物語が、明らかにデカい方向へ転がり始めている。




 ◇◆◇




「ちょ、ちょっと待ってよ、ヴァレン!?

“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”に出場って……俺とブリジットちゃんが!? どういうことなのさ、それ!」




自分の声が、部屋の木壁に跳ね返って広がる。

さっきまで温かかった紅茶が、急に喉の奥でざらついた気がした。


ヴァレンは俺の狼狽を涼しい顔で眺めつつ、肩を竦めた。




「どうもこうも、そのまんまの意味だよ、相棒。」




その余裕ぶりにムッとしたが、続く言葉は理詰めで返される。




「“勅命権”があれば、ブリジットさんは“時間をかけずに”大学の卒業資格を得られる。そうなりゃ、ノエリア家の分家設立にスムーズに進めるだろ?」




たしかに……とは思うけど。




「いや、それだったらさ……

“勅命権”で直接『分家を設立したい!』とか

『フォルティア荒野の開拓を引き続き任されたい!』とか言えばいいんじゃないの?なんか遠回りじゃない?」




そう返すと、ヴァレンは深く椅子に腰掛けて、片手で髪を掻きながら答えた。




「それも“アリっちゃアリ”なんだがな。

けど、それだとノエリア本家のメンツを潰す形になるだろ?“勅命権を行使してまで本家の意思に背いた”ってのが、世間に知れ渡っちまう。それはブリジットさんの望むところじゃあないはずだぜ。」




その言葉に、ブリジットちゃんは静かにコクンと頷く。

俯いた金色のまつげが、柔らかい影を落とした。


──ああ。

この子、本当に家族のこと嫌いになれないんだな。


ヴァレンは指を組み、真面目な表情で続けた。




「それに、“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”で優勝したとなれば、ブリジットさんの名は国内だけじゃなく国外にも響く。

そうなりゃ、本家も安易にブリジットさんを軽んじる扱いなんか出来なくなる。

お父さんもお母さんも、ブリジットさんを見る目を変えるかもしれない。」




ブリジットの表情に、かすかな期待の光が差した。

その揺れが切なくて、胸が少しだけきゅっとなる。


……そうか。

これは単なる大会じゃない。

“家族と向き合うための戦い”でもあるんだ。


理解しつつも、俺には気になる点が一つあった。




「で……ブリジットちゃんは分かったけど、

なんで俺もその“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”に出ることになるの?」




俺の疑問に、ヴァレンはニヤリと口角を上げた。




「──もし、この作戦が上手くいけば、

ブリジットさんはエルディナ王国……いや、世界に名を馳せる存在になる。そうなった時に、相棒。

お前は“何者でもないまま”でいいのか?」




心臓がズキッと跳ねた。




「……え?」




ヴァレンは淡々と──けれど確実に俺の胸を射抜くように言葉を重ねてくる。




「今の時点ですら、スレヴェルドやベルゼリアにパイプを持つブリジットさんを手に入れたい貴族や派閥は多い。それこそ、“嫁に貰いたい”と考える連中も、な。」




その瞬間、ブリジットちゃんの表情が曇った。

不安、恐れ……そして、ほんの少しの寂しさ。


俺は息を呑んだ。


……ああ。

ヴァレンが言いたいこと、分かっちゃったよ。


彼はさらに言葉を続ける。




「さっきの第六王子なんかがいい例だろ。

アイツ、ブリジットさんを嫁に狙ってるって手紙に書いてあったじゃねぇか?」




紅茶の香りが、急にいやに遠く感じる。




「実際、アイツの魔法の腕は相当なもんだ。

下手すりゃ、“真祖竜の加護”を使ったブリジットさんでも、型に嵌められたら試合で負ける可能性もある。」




えっ……あの王子、そんな強かったの?

確かに、なんか強力っぽい魔法は使ってたけど。




「もしアイツのチームが優勝したらどうなる?

“勅命権”で【ノエリア家のブリジット嬢と婚約を結びたい!】なんて宣言されたら──断るのは難しくなるぜ?」




ブリジットちゃんは、今まで見たことないくらい嫌そうな“イーッ”という顔をした。

ほんとに嫌なんだろうな、あの王子のこと。


俺は紅茶をひと口──いや、ほぼ一気に飲んでから言った。




「なるほど。

だから俺が、あの第六王子をぶちのめして優勝を阻止すればいいってわけだね。」




その瞬間、ブリジットちゃんの顔がぱぁっと輝いた。

その笑顔を見ただけで、胸の奥が熱くなる。


するとヴァレンが身を乗り出し、さらに爆弾を投げ込んできた。




「その通り!

だが、それだけじゃあねぇ!!」




まだあるのかよ……!


ヴァレンはテーブルに手をつき、俺へ向けて力強く言い放つ。




「相棒……!

お前もブリジットさんと同じチームで“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”を戦い抜き、

“アルド・ラクシズ”という男を世に知らしめるんだよ!」


「そして、世界に宣言するんだ!

『ブリジット・ノエリアは、このアルド・ラクシズの女だ!何人たりとも手を出すんじゃねぇ!!』

ってな!!」



「ぶーーーっ!!!」




俺は盛大に紅茶を吹き出した。

ブリジットちゃんも「なっ……なななななっ!?」と顔を真っ赤にしている。


リュナちゃんは両手を叩いて喜び、




「ひゅ〜っ!

いいっすねソレ!

マジでアリよりのアリ!」




フレキくんは“ハッハッハッ”と息をしながら、きょとんとした顔で俺らを見ていた。


……いやいやいや!!

急に恋愛勝ち宣言イベントみたいになってるじゃん!!


心臓がドキドキして、紅茶よりも熱い何かが胸の中を駆け巡っていた。




 ◇◆◇




「ゴホッ……ごほ、ごほっ……!!

いやいや!何その急展開!?どういうことなの、ヴァレン!?」




紅茶を噴き出した喉がまだヒリついてる。

胸の鼓動まで一緒に暴れているみたいで、息が追いつかない。


ヴァレンは、そんな俺の様子をまるで気にも留めず、肘をテーブルに突きながらにんまり笑う。




「落ち着けよ相棒。これは冗談でも何でもねぇ。

むしろ今いちばん現実的な戦略なんだよ。」




その言い方があまりに自然で、逆にこっちの方が動揺する。

だって、言ってる内容はどう考えても“人生の重大局面”なんだぞ?


ヴァレンは椅子から立ち上がり、大きな身振りで語り出す。




「数々の功績を挙げ始めたブリジットさんは、今や各界でも注目の的。そこに加えて、この美貌だ。

嫁にもらおうと考える貴族や王族は、今後も山のように現れるだろうな。」




その瞬間、ブリジットちゃんが小さく肩を震わせた。

……そんなに嫌なのね。


ヴァレンは指を一本立てて続ける。




「でも本人はノエリア家との繋がりを大事にしたいと思ってる。となると、全ての縁談を断り続けるなんて、現実的じゃあない。だからどうするか!?

そう……!」




彼は両腕を思いっきり広げた。




「ブリジットさんには、“誰もが認めるスパダリ”が既にいる!そう世間に認知させればいい!」




(スパダリ……?スーパーダーリン?)




その単語の破壊力で、俺の顔がジワァァっと熱くなる。

横を見ると、ブリジットちゃんも真っ赤になって両手を胸の前でぎゅっと握っていた。


俺はしどろもどろになりながら問い返す。




「だ、だからって、急にそんな……!

そ、そもそも俺なんかが……!」




ブリジットちゃんのことは、好きだ。

そりゃあ、好き。


でも“スパダリ”とか“彼氏みたいに扱われる未来”をいきなり突きつけられたら……

心臓の準備が追いつかない。


しかし、ヴァレンは急に表情を引き締めた。




「……相棒。

ちょっと想像してみろ。」




低く、静かな声。

さっきまでの茶化すような調子じゃない。




「ブリジットさんの隣に、お前以外の男が並ぶ未来。

その未来が来たとして……お前は後悔せずにいられるのか?」




バカみたいに単純で、

なのに致命的なほど鋭い一撃だった。


脳裏に浮かんだのは、あの第六王子の横に立つブリジットちゃん。

嫌なのか、と聞かれたら——


嫌どころじゃない。

胸がぎゅうっと潰れそうなほど、苦しい。




「……絶対後悔するだろうね、それは。」




気づけば、俺はゆっくり席を立っていた。

足は震えているのに、言葉は不思議と滑らかだった。




「分かったよ、ヴァレン。

その話……乗った。」




ブリジットちゃんがぱちっと目を見開く。




「え……あ、アルドくん?」




呼ばれて、振り返る。

そこにいたのは、目を潤ませたブリジットちゃんだった。


俺は深呼吸を一度、

それから彼女に向き直って言う。




「俺も一緒に大学に行くよ。

そして“ルセリア統覇戦(ドミナンス・カップ)”って大会で優勝する。」


「そして……世間に言ってやる。

“ブリジットちゃんの隣に立つ男は、俺だ”ってね。

……いいかな?」




ブリジットちゃんは一瞬固まった。

本当に時間が止まったみたいに動かない。


そして——




「…………うんっ!」




ぱぁぁぁっと咲くような笑顔。

泣き出しそうなくらい、嬉しそうな。


胸の奥が、一気に熱くなる。


その瞬間。

空気をぶち壊す第三勢力が飛び込んだ。




「さっすが兄さん!!

あ、兄さんの第二婦人の座はあーしが予約してるんで、そこんとこヨロっす!」




リュナちゃんはギャルピース。

ノリが軽すぎる。


でも、ここまできたらもう怖くない。

俺は親指を立てて返した。




「はいはい、検討しとくよ。」



「やったーー!!」




リュナちゃんはわんこみたいに喜んで跳ねる。

その足元ではフレキくんが短い前足で必死に拍手していた。


そして、ヴァレンはと言えば——




「これだよ……!

これこそが……俺が見たかった神展開……!!

最高だ……!」




天を仰ぎながら号泣していた。

ほんと平常運転。


でも、俺の覚悟は確かに固まっていた。


ルセリア中央大学に入学して、

3ヶ月後の“統覇戦(ドミナンス・カップ)”で優勝する。

そしてブリジットちゃんの未来を守る。


あの第六王子の思い通りには……絶対にさせない。


──と、そこで思い出した。




「そういえばさ、ブリジットちゃん。」



「え?な、なに……?」



「どうしてあの第六王子のこと、あんなに嫌がってたの? 俺が言うのも変だけど、あの人、顔はめっちゃイケメンだったじゃない?」




言った瞬間、ブリジットちゃんが耳まで真っ赤に染まった。

両手をもじもじさせながら、視線をそらす。




「そ、それはぁ……」




妙な空気。

めっちゃ気になる。


そして、意を決したように——




「……あの人、あたしのタンクトップを急に無理矢理捲り上げて、せ、背中を見てきた“変態さん”だから……!」



「…………は?」




“何を言っているんだ?”と自分でも分かるほど素で声が漏れた。


ブリジットちゃんの服を捲り上げて、背中を覗いた……?


無理矢理……?


俺は静かに、恐ろしく静かに呟いた。




「──よし。

あのバカ王子……次は二度と目覚められないように、地中深くまでめり込ませてやる。」




横でヴァレンが、




「……相棒、あんまやり過ぎんなよ……?」




と、ちょっと引き気味の声で言っていた。


だけど、もう遅い。

俺の中の決意は、さっきのどの瞬間よりも濃く、固まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ