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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第217話 兄と妹、両親からの書簡

……え、これ、どうすんの?


地面にでっかく空いた穴。

その中心に、鼻の穴へ指をブッ刺したまま白目で沈んでいる男。

つい数分前、俺が全力のビンタをお見舞いして、漫画みたいに地面へ叩き込んでしまった男。


──そう、第六王子。エルディナ王国の皇族。


そう思えば思うほど、俺の背中をじっとりと汗が伝っていく。


そんな俺の目の前で、ブリジットちゃんのお兄さんは──




「で、殿下アアアアアーーーー!?!?」




ものすごい勢いで穴へ飛び込み、例のイケメン変質者……いや、殿下を抱き起こして必死に呼びかけている。


ああああああ……本当に王子様だったんだ……。


俺はこっそり目を逸らしながら、冷や汗の量が限界突破したのを感じた。

こういう時、どういう顔すればいいの?

誰か、答えて。笑えばいいと思う?


お兄さんは殿下の顔を覗き込むと、ぶるぶる震えながら呟いた。




「ルセリア・ロイヤル、4年連続“抱かれたい男1位”である事を、あんなにご自身で恥ずかしげも無く誇らしげに語っておられた殿下が……こんな……鼻糞ほじりながら眠ってしまったアホの子の様な無様な顔を……晒すなんて……! なんという事だ……!」




いや、言ってる内容わりと酷くない?

ていうかその前半、完全にバカにしてるよね?

お兄さん、この王子のこと、もしかして嫌いでは?


そう思わずにはいられなかった。


お兄さんはワナワナと肩を震わせながら顔を上げ、次の瞬間、俺にギロリと険しい視線を向けた。




「まさか……君が、殿下をこんな目に遭わせたのか!?」



「っ……!」




俺は背筋をピン!と伸ばして固まった。

いや、正確にいえば固まりつつ、全身から汗が吹き出していた。

当たり前だ。犯人は俺なんだから。


でも逃げるわけにもいかないので、しどろもどろの声を絞り出す。




「い、いや、そ、それは……!」




すると、お兄さんの表情が一瞬ピタリと固まり──




「……いや、失礼。そんな訳は無いな。」




と、何故か勝手に目を逸らし始めた。




「殿下は人類最強とも言われる程のお方……こんな無様に地に這い蹲らせる事が出来る人間など、存在する筈が無い。残念ながら。」




残念ながら?


絶対いま “残念ながら” って言ったよね。

その言葉の端々から、王子様への深い感情……いや、負の感情が漏れてない?


俺は思わず、お兄さんの手元を見てしまった。


──親指、立ってる。


え?

やっぱり嫌いなんじゃない、この王子のこと!?

内心「誰か知らないが、よくやった」って言ってない!?!?


そんな俺の心の叫びを聞いたかのように、佐川くん・鬼塚くん・天野さんの3人が互いの顔を見合わせていた。




(((これ、アルドさんがやったパターンのヤツでは……?)))




やめて!当たってるけどやめて!

今の状況でその“察しの目”やめて!?

頼むから空気読んで!!


俺は目をカッと見開き、3人に“余計な事を言わないでお願いオーラ”を全力で送る。

3人は微妙に口を開きかけたものの──俺の必死すぎる眼力に気づいたのか、そろって押し黙った。


そう、それでいいんだ。

今だけは、空気を読んでください。本当に。


すると、ブリジットちゃんが“ここぞ”とばかりに、兄へ向き直って言った。




「そ、そうなの、お兄ちゃん!

あたしが第六王子の顔を見ても気付かなかったから、ショックを受けちゃったみたいで……

王子様、“ズコーーッ!!”って言いながら急に倒れて、自分で地面にめり込んじゃったの!」




うん。


うん。


いや、その……ブリジットちゃん、それは流石に無理があるのでは……!


俺が心の中で全力で突っ込んでいると──




「何をバカな……!」




お兄さんは一度ツッコミかけたのだが、




「……いや、だが……殿下なら、あり得なくも無い、か……。普段から意味の分からない奇行の多い方だからな……」




と、何故かひとりで納得し始めた。


え?

そんなので納得しちゃうの?

ていうかこの王子、本当にどんな奴なの……?


俺の頭の中では、もはや疑問符と感嘆符が混ざった嵐が吹き荒れていた。




 ◇◆◇




──さて。


白目を剥いて鼻に指を突っ込んだまま眠る第六王子という、なかなかの地獄絵図を前に、俺はひとつ深呼吸した。


正直、動揺で心臓が変なビートを刻んでる。

だって自分で殴り飛ばした王子様が今ここにいるんだよ?

俺、いま国家転覆罪のプロローグ踏んでない?




「と、とりあえず、その王子様……?怪我してるみたいなんで、俺が治しますね!」




ほぼ条件反射みたいな声だった。


ブリジットちゃんのお兄さん──セドリックさんが、ピクッと目を剥く。




「お、おい、キミ! 一体何を……!?」




さっきから表情が忙しい人だ。まあ、俺のせいなんだけど。

真面目が故に心労が絶えないタイプだな、この人。


そこで、すっと横から頼もしい声がした。




「大丈夫だ。アルドさんに任せてみな。」




鬼塚くんの声だ。

ありがと……ほんと、今日一番頼もしい声だった。


俺はうなずき、気絶中の王子様──ラグナ王子の頭上に手をかざした。




(……いや、本当にどうすんの、これ)




頭の片隅で現実逃避しつつ、いつものように魔力を流し込む。

魔法陣も詠唱もなく、ただイメージだけで魔力が整っていく。




「"ヒール・アドバンス"」




青白い光が王子の顔を包み、数秒で巨大なタンコブがみるみる消えていく。


──まあ、この怪我させたのも俺なんだけどね!

自分で殴って、自分で治すというマッチポンプ。

まじで今だけ許してほしい。


王子の顔色は回復していくが、まだ目を覚ます気配はない。

いや目覚まされても困るけど……いや、でも目覚めなくても困るし……悩ましいね。


そんな俺の迷走をよそに、セドリックさんは目を剥いて叫んだ。




「──なっ!? 上級回復魔法を、無詠唱で……!?」




え?


上級?この魔法って、上級なの?


しかも、詠唱ってあるの……?


知らなかった。


いま初めて「詠唱説」という概念を理解してしまった俺。


俺が読んでた魔導書には、『魔法を使うには、呪文の詠唱が必要なんじゃ!』みたいな説明は書いてなかったのに!




(やっばい……余計な事しちゃったパターンじゃない?)




不安が胸をよぎる。


だが──


セドリックさんがふいに俺をじっと見つめた。

その視線は、驚きと……ほんの少しの希望が混ざってる?


え?ええ?

どういう感情なの、その目。

ちょっと期待してるみたいな、困惑してるみたいな、救いを求めてるみたいな……。




「……き、キミは……魔導士なのか……?

それも……かなりの腕前に見えるが……」




そう言われ、俺は「あ、ああー……」と曖昧に笑いながら答えた。




「えっ? い、いえ……魔導士って訳じゃないんですけど……そ、そうですね。魔法も、それなりに使えます。はい。」




自分で言ってて、何かややこしい言い回しだなとは思った。


だが──セドリックさんは俺の答えにもっと混乱したようで、顎に手を当て、




「魔導士ではない……?にも関わらず……これほどの魔法を無詠唱で……?──ひょっとしたら……キミなら……あるいは……」




と、何やらブツブツ言い始めた。


え?


いや、ちょっと待って。

さっきから何?なんなの?

俺、勝手に評価されたり期待されたり疑われたり忙しすぎじゃない?


とりあえず、話が変な方向に広がる前に場を締める必要を感じて俺は声を上げた。




「あ、あのっ!と、とりあえず、立ち話もなんですし……僕たちの拠点までご案内しますんで。そこで、詳しくお話しません?」


 


セドリックさんはハッと我に返り、こくりとうなずく。




「あ、ああ。お言葉に甘えさせてもらおう。──久しぶりに会った妹と、話したい事も多々ある事だしな。」




そう言ってブリジットちゃんへ視線を向けた。


ブリジットちゃんは一瞬、複雑な顔をした。

喜び、戸惑い、不安が全部少しずつ混ざった……そんな表情。


俺の胸が少し痛くなる。

ブリジットちゃんはずっと、家族のことを引きずってたんだ。




「──うん。」




小さく返した声は震えていたが、確かに前に進もうとする強さがあった。


俺はそっと隣でうなずき、さりげなくブリジットちゃんのバックアップに回るように歩き出した。


──さて。


ひょんなことからイケメン王子様をぶっ倒し、

その王子の護衛らしきイケメン兄貴と合流し、

家族再会イベントが始まりつつある。


俺の脳内はまだ大騒ぎのままだが──




(……まあ、なんとかなるよな。いや、なってくれ!!)




半ば祈るような気持ちで、俺は二人を連れて拠点へ向かうことにした。




 ◇◆◇




カクカクハウス──俺たちの拠点が見えてくる頃、背後から鬼塚くんたちが歩みを止めた。




「俺たちはブラックドラゴン討伐の報告をギルドにしなきゃならねぇんで!ここらで失礼しますね!」




三人そろって深々と礼をしてくる。


絶対気を遣ってくれたやつだ、これ。

ブリジットちゃんとお兄さんの久しぶりの再会、積もる話もあるだろう、と判断してくれたんだろう。




「ありがとう、みんな。また後でね!」




ブリジットちゃんが笑顔で手を振り、三人も笑顔で去っていった。


──さて。


俺は深く息を吸い、扉を開いた。


リュナちゃんの爆笑も、ヴァレンのGペンを走らせる音も、フレキくんのハッハッハッという息づかいも無い。

カクカクハウスの中は珍しく静まりかえっていた。




「今日は……誰もいないね。」



「……ふぅ、よかった。静かな場所で話せる。」




お兄さん──セドリックさんは緊張と疲労を滲ませながらも、

中に足を踏み入れた。


俺はまずブリジットちゃんとセドリックさんをテーブルに案内し、

気絶している第六王子をソファへどさりと寝かせる。


白目+鼻ほじり体勢のまま固まってるけど……

っていうか、誰か鼻の穴から指くらい抜いてあげてもよくない?やっぱ嫌われてる?この王子。




「お茶、入れますね。」




魔法コンロでお湯を沸かしてカップに注ぎ、

テーブルに置いたところで──




「……ああ、ご丁寧に。自己紹介が遅くなりすまない。」


 


セドリックさんが背筋を伸ばし、俺へ頭を下げた。




「私はセドリック……セドリック・ノエリア。

そこにいるブリジットの兄だ。」


 


やっぱり貴族家系だけあって、挨拶が綺麗だ。

テーブル越しでも緊張感が伝わってくる。


俺は一瞬慌てて椅子から立ち上がった。




「あ、こちらこそ自己紹介が遅れまして!!

俺……いや、僕はアルド・ラクシズと申します!」




頭を深く下げると、セドリックさんの眉がピクリと動いた。




「アルド・ラクシズ……

そうか……やはり、君が……!」


 


えっ、何この反応。

なんで俺の名前でそんな「やっぱり」みたいな顔するの?


俺が困惑しているのに気づいたのか、

セドリックさんは咳払いしながら言葉を続けた。




「ああ、失礼。グラディウス宰相から君のことは聞いている。妹を助けてくれていたらしいな。私からも、改めて礼を言わせてくれ。」




そう言って、また深々と頭を下げる。




「い、いえいえ!僕の方こそ、ブリジットさんにはいつもお世話になってます!!」


 


その言葉を口にした瞬間──


隣で緊張した表情だったブリジットちゃんが、

ふわっと肩の力を抜いて、少し息をついたように見えた。


ほんの少しだけど、笑った。


それが何だか嬉しくて、俺も自然と笑みが漏れた。


セドリックさんはそんな妹の様子を見て、一瞬だけ複雑そうな目をして──

そしてゆっくりと、ブリジットちゃんへ視線を移した。




「……ブリジット。」




静かな呼びかけ。

だがブリジットちゃんの肩はビクッと震えた。


無理もない。

“毒無効”というハズレ祝福を理由に、家を追い出されるように荒野へ送り出され、

たった一人で開拓を任されたあの日。


その時、お兄さんは自分を守ってくれなかった。


……その記憶が、きっとまだ痛んでる。


ブリジットちゃんは不安げに唇を噛み、

ちらり、と俺の方を見た。


目が震えていた。


──大丈夫。俺がいる。


そう言う代わりに、俺はそっとテーブルの下で彼女の手を握る。


温かくて、小さくて、でも頑張り屋の手。


ブリジットちゃんは目を丸くし、一瞬だけ頬を赤らめる。

だがすぐに、小さく息を吸って──


覚悟を決めるように、真っすぐ前を向いた。




「……うん。

久しぶり。お兄ちゃん。」




その声は震えていたけど、逃げてはいなかった。


セドリックさんの瞳がかすかに揺れた。

予想していたよりも強く、まっすぐな妹の姿に驚いたようだ。


数秒の静寂が流れ、やがて──


セドリックさんは深々と頭を下げた。




「……済まなかった。」




その声はかすれていて、

まるで胸の奥に何年も溜め込んでいたものが零れ落ちたような響きだった。


ブリジットちゃんが息を呑む。


そりゃそうだ。

兄から謝られるなんて、予想もしてなかったはずだ。




「え、ええっ!? ど、どうしたの、お兄ちゃん!?」




ブリジットちゃんが慌てて声を上げる。


だがセドリックさんは頭を下げたまま、震える声で続けた。




「……お前が“毒無効”の祝福を受けたあの日……

父上と母上が、お前を家から遠ざけようとしたあの日…… 私は、お前を庇ってやれなかった……」


テーブルの上の彼の拳は固く握られ、爪が掌に食い込んでいる。

悔恨がにじむその手が痛々しいほどだった。




「理不尽な扱いを受け、傷ついていたお前を……

私は守るべきだった。なのに……私は、何も出来なかった……」




静かな室内に、ひどく重い言葉が落ちていく。




「今さら何を言っているのか、と……

そう言われるかも知れないが……

どうか……妹よ。許してほしい。」




あぁ、この人……本気で後悔してるんだ。


その背中は小さく見えた。

誇り高く、責任感の強そうな彼が、こんなにも弱々しく見えるなんて。


ブリジットちゃんは、しばらく口を閉ざしていた。


俯き、その指をぎゅっと握りしめ──


やがて、ゆっくりと顔を上げた。




「──顔を上げて、お兄ちゃん。」


 


セドリックさんが恐る恐る顔を上げる。

その瞬間、ブリジットちゃんは優しく、あの大好きな笑顔を浮かべていた。




「……あたしね。フォルティア荒野の開拓を任されたこと、全然後悔してないんだ。」


 


その声は揺らぎなく、真っすぐだった。




「最初は……家族から見放されたって思って……すごく辛かったけど……そのおかげで、とっても大切な人たちに出会えたから!」




そう言って俺の方をちらりと見るブリジットちゃん。


不意打ちで心臓が跳ねた。

笑顔眩しすぎて死ぬかと思った。


セドリックさんはその様子に息を漏らし──そして笑った。




「……そうか。そう言ってもらえると……私も救われる思いだ。」




お兄さんと妹。

ずっと離れていた二人の距離が、

やっと少しだけ近づいたように見えた。


ブリジットちゃんも微笑み返す。




「うん。だから、お兄ちゃんもそんなに思いつめないで。昔みたいに、また仲良くできたら……あたし嬉しいな。」




相変わらず、優しすぎるよ……ブリジットちゃん。


俺はこっそり胸の中でガッツポーズした。




 ◇◆◇




セドリックさんは、妹に許してもらえた安堵からか、肩からすっと力が抜けたように見えた。




「そ、そうか……!」


 


ほっと息をついた後、

彼は何かを思い出したかのように姿勢を正した。




「そ、それでは、ここからが本題なのだが……」




ん?

まだ本題じゃなかったの?

今の流れ、本題中の本題だったような……?


そう思っていると、

セドリックさんは懐からA4サイズの封筒を取り出した。




「実は……父と母からも、お前宛に書簡を預かっていてな。」



「えっ? お、お父様とお母様から……?」




ブリジットちゃんが、少しだけ明るい声色で言う。


その頬には、微かな期待の色さえ滲んでいた。


──そりゃ、そうだよね。


お兄さんが謝ってくれた今なら、

「帰っておいで」みたいな優しい言葉が届いてる可能性、あるよね。


俺も同じ事を思った。


ひょっとしたら、彼女の両親も態度を改めてくれたのかもしれない。

この書簡をきっかけに、家族が歩み寄れるのかもしれない。


そんな淡い期待が、俺の胸の中にも芽生えていた。


 


──しかし。


封筒を開けたブリジットちゃんが、

一枚、また一枚と書類を読み進める度に……


彼女の笑顔は、すぅ……っと消えていった。




「……あれ……?」




声も漏れなくなった。


笑顔が消えたブリジットちゃんの横顔を見た瞬間、俺は背筋を冷たいものが走った。


その表情は、

これまで一度も見たことのないものだった。


無表情。

能面のような、感情が完全に死んだ顔。


次の瞬間──


ブリジットちゃんの額から、銀色のツノがニョキニョキと生えてきた。




「ひ……ひえっ……!?」




俺の喉が変な悲鳴を漏らす。


セドリックさんも目を見開き、身体を強張らせた。




「ブ、ブリジット……? お、お前……?」




ブリジットちゃんは一言も返さない。


ただ静かに、書面をめくり続ける。


ページを進める度に、

ツノの根本からビリビリとした光が漏れ、

空気が静電気を帯びたみたいにパチパチ鳴り始めた。


お……怒ってる。

今まで見たことがないレベルで、怒ってる……!!




「……なるほど、なるほど。」




ブリジットちゃんは、表情の死んだまま低く呟くと──


机の上で書類の束をトントンと綺麗に揃えた。


その音が、やけに丁寧で逆に怖い。


そして──


次の瞬間。




バァァァァァン!!!




書類の束が、彼女の両手で左右に真っ二つに引き裂かれた。




「え……ええぇぇぇーーっ!?!?」


 


俺は反射的に椅子から立ち上がって叫んだ。


セドリックさんの肩がビクッ!と跳ねる。


ブリジットちゃんは裂いた書類をふわりと空中へ放り投げた。


舞い散る紙。


その一枚一枚を──


額の銀色のツノから放たれるビームが、容赦なく焼き尽くす。


ビィィィィーーッ


ボッ、ボッ、ボッ!!


白い紙が、灰色の灰になっていく。


俺は目の前で繰り広げられる光景に、

ただ立ち尽くすしかなかった。


え……ええぇー……?


こ……こえぇ……!!


っていうか、ブリジットちゃん、そんな事出来たの!?


成長しすぎじゃない!?

真祖竜の加護、完全に使いこなしてない!?

俺、初めて見たんだけど、そのレーザーみたいなやつ!!


セドリックさんも唇を引きつらせながら言う。




「ま、待て。落ち着け、ブリジット。その書簡は……!」




……あ、やばい。


お兄さんも、妹の怒りの渦に巻き込まれようとしている。


しかしブリジットちゃんは──


ゆっくりと、お兄さんに笑いかけた。


その笑顔は、

いつものような柔らかい光とは程遠い。


優しい顔の形をした“圧”だった。




「……お兄ちゃん。」


「ひっ……」




セドリックさんが小さく悲鳴を漏らす。

すごい。兄の威厳も何もあったもんじゃない。


俺も同じく震えてるから責められない。




(な、なにこれ……こ、怖……!

でも、ブリジットちゃんの普段と違う一面……これはこれで……悪くないかも……?)




いやいやいやいや何言ってんだ俺。

落ち着け、俺。ちょっと興奮してる場合じゃないぜ?


そんな俺の葛藤を無視して、

ブリジットちゃんは無言のままソファへ歩いていく。


そして──


第六王子の首根っこを、猫の首つまむみたいにヒョイと持ち上げた。




「うぉっ……!」




人間ってそんな簡単に持ち上がる?

やはり、真祖竜の加護発動時のブリジットちゃんは、もはや人間の域から脱してるのかも知れないね。




「ぶ、ブリジット……?」




セドリックさんが青ざめながら見つめる。


ブリジットちゃんは返事をしない。


代わりに──


王子をポンッとセドリックさんの背中に乗せた。


その勢いで、王子の手がセドリックさんの肩にひっかかって、やけに様にならない“おんぶ状態”で安定した。


次の瞬間。


ブリジットちゃんは今度はお兄さんの襟首をひょいと掴み、完全に抵抗を封じたまま持ち上げた。


いや、持ち上げたっていうか、

抱えた。


両手で、軽々と。




「え……ちょっ……!」




騎士が妹に横抱きされてる絵面ってどうなんだこれ。


セドリックさんは恐怖に顔を引きつらせたまま呟く。




「ぶ……ブリジット……?」




しかし彼女は完全に無視。


そのまま一人(兄)と一人(王子)を抱えて玄関へスタスタと向かう。


俺はただその背中を呆然と見送った。



玄関に到着すると、ブリジットちゃんは

ほぼ投げるように二人を外へ──


ぽいっ!!


そしてバタンと扉を閉め、

ガチャリと鍵をかける。


扉が閉じるのと同時に、




「違うんだ、ブリジット!

その内容は、私の意見ではない!!

落ち着いて、一度話を……!!」




というセドリックさんの情けない叫びと、

ドンドンドンッ!!というドアを叩く音が響いた。


……完全に無視するブリジットちゃん。


いつもの優しい笑顔を、俺へ向けてくる。




「ふぅ! なんか、お腹空いてきちゃったな!

ねぇアルドくん、今日の夕飯って何かな?」




こ、怖い!!

けど可愛い!!

いや怖い!!!

いや可愛いんだけど……!!!


俺は完全に動揺しながら、

外でドアを叩くお兄さんの絶叫を聞きつつ思った。


ど、どういうこと……!?

何が彼女をこんなに怒らせたの!?


な……なにが……書いてあったんだ……

両親からの書簡に……!?


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