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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第215話 アルド vs. ラグナ(初戦) ──銀と金の初邂逅──

第六王子、ラグナ・ゼタ・エルディナス。


この名が王都ルセリアで語られるとき、そこには常に──崇敬と、畏れと、嫉妬が入り混じった沈黙が生まれる。


彼は生まれついての天賦を持つ。

それは人が努力して届く類のものではなく、まるで神々が「この少年に世界を担わせよ」と囁いたかのような、理不尽なほどの祝福だった。


エルディナ王国では十五歳になると“女神の祝福”を受け、誰もが一つだけ固有スキルを授かる。

しかし稀に、例外が生まれる。


──生来、スキルを帯びて生まれてくる者。


──あるいは、人生の中で追加のスキルを得る者。


ラグナは、そのどちらでもあった(・・・・・・・・)


生まれた瞬間から桁外れの魔力量を有し、あらゆる属性の魔法に適正を示し、生まれながらにスキルをその身に宿していた。

さらに15歳で女神から授かったスキルの他に、後天的に別のスキルを授かっている。


そのスキルのうちの一つが──


"魔杖五指(フィンガーファイブ)"。


左右の五指、計十本。

ラグナはその指先ひとつひとつに、発動前の魔法を“ストック”しておける。

そして任意のタイミングで放つことが可能。


すなわち──

最大十の魔法を同時発動できるという、常識外れの能力である。


高位の宮廷魔導士が一生に一度使えるかどうかの大魔法を、ラグナは指を弾く程度の感覚で発動できる。


それは天才や秀才などという枠をすでに逸脱していた。


彼にはさらに“二つのスキル”がある。

──どちらも国家機密とされ、宮廷魔法局ですらその詳細を知らぬほどに危険な力だ。


短く息をつけば、周囲の空気が熱を帯びる。

指先をわずかに曲げただけで、魔力の奔流が空間を歪める。


その存在感は、王族であるという肩書きよりも先に“化け物”として認識されてもおかしくないほどだった。


加えて、ラグナには"前世の記憶"があった。

そして、前世で遊んだ"ゲーム"の記憶も。


だからこそ、ラグナは確信している。


──自分こそが、この世界の主人公だ。


──世界が自分を中心に回るのは必然だ。


実際、その考えは大きく間違ってはいない。


ラグナを前に“人間”が正面から戦えば、勝利の可能性など皆無に等しい。


どれほどの武勇を誇ろうと、どれほどの術を操ろうと、“人間の枠”に収まる存在でラグナを凌駕できる者はほぼ存在しない。


──ほぼ、だ。


空を漂う魔力の風が、王子の背を静かに押す。

ラグナ・ゼタ・エルディナスは冷たい金光の瞳を細め、遥か先の地平を見据えた。


自分の人生は、必ず“正しいシナリオ”に沿って進む。


ヒロインも、栄光も、勝利も──全ては自分の元へ集まってくる。


世界の真理が、そのように設計されているのだから。


そう、彼は一瞬たりとも疑ったことはなかった。


今日、この時までは。




─────────────────────




銀髪の少年は、微かに眉を上げただけだった。


挑発というよりは──“呆れ半分・警戒半分”といった表情。それがラグナにとって、何よりも癪に障った。




「ぶちのめす……?」




ラグナはくつりと笑った。王族特有の気品をまとったまま、底の底まで見下すような笑み。




「お前が? 僕を?」




アルドは肩を回しながら、ぽきぽきと指を鳴らす。

殺気ではない。ただの“本気の怒り”だ。




「ああ。アンタがブリジットちゃんに何かするってんなら──遠慮なくボコボコにしてやるよ。」




静かな声だった。だがその声音は、偶然そこにいた少年のものではない。

大切なものに触れられた時の、本物の怒り。


ラグナはその音色だけで、こめかみに浮いた血管を自覚した。




(……こいつも、僕を知らないのか?)




胸の奥からぞわりとした苛立ちがせり上がる。


──“大賢者王子(ウィザード・プリンス)”ラグナ・ゼタ・エルディナス。


王都を歩けば悲鳴めいた黄色い声援が飛ぶ、王国の“希望の象徴”。

自分の顔を知らない者など、普通は存在しない。


なのに、この銀髪の少年は――平然と目を合わせたまま、臆する素振りすら見せない。




(……旅人風情か何かだな。──ならば消してしまって構わない。目撃したブリジットの記憶は後で修正すればいい。)




ラグナは冷たく息を吐いた。




「キミ……不敬だよ。」




低く囁く。

アルドはきょとんとした顔で首を傾げた。




「……父兄? 誰の?」




数秒の沈黙。

ラグナは無視した。返答する価値もない、とばかりに。




「"第一の魔杖指フィンガーケイン・ファースト"。」




ラグナの右手の人差し指が、淡く灼熱の色で燃え上がる。

次の瞬間──空気が爆ぜた。



轟ッ!!!



特大の豪火球が指先から吐き出される。

火球はまるで太陽の欠片のように膨張し、爆風で地面の砂が舞い上がった。


あまりの規模に空気が震え、遠くの木々が熱で波打って見える。

ラグナの金色の瞳に、殺意は一切の迷いなく宿っていた。




「僕のヒロインを誑かした罪──あの世で後悔したまえ。」




踵を返す。

もう一度、ブリジットの表情を見てやろうと思ったのだ。




(好きな男が目の前で焼き殺されれば……嘆き、膝をつき、涙を流すはずだ。──でも大丈夫だよ、ブリジット。キミの記憶は、僕が“あるべき形”に戻してあげる……)




──だが。


ブリジットの顔は。


咲いたままだった。


放心でも恐怖でもない。

満開の花のような、柔らかく、あたたかい、“安心”の笑顔。


そしてその視線は──火球に呑まれたはずの位置を、まっすぐ見つめていた。




(……なんだ? なんだその顔は……!?)




理解できない。

ラグナの胸が、鋭く脈打つ。




(目の前で、好きな男が焼き殺されたんだぞ……!?

なのに、どうしてそんな希望に満ちた目を……!?)




その瞬間──ラグナは気づいた。


──爆発音が、しない。




「……は?」




ゆっくりと振り向く。


そこには、焼け焦げたはずの少年も、炎の残滓もない。


銀色の髪を揺らした少年が、呆れ顔で立っていた。

周囲に、いくつものシャボン玉のような光球がふわりと漂っている。




「な……っ!?!?!?」




ラグナは目を見開き、喉から掠れた声を漏らした。




(僕の“焦熱豪火球”が、消えている……!?

どこへ消えた……? どうやって……!?)




アルドは、本当にただ呆れたように眉をひそめただけだった。


まるで──


子どもの悪戯を見た大人のように。




 ◇◆◇




銀髪の少年は、焼き殺されたはずの場所で、何事もなかったようにほこりを払っていた。


シャボン玉がふよふよ漂う中、アルドはうんざりしたように眉間を押さえ、肩をすくめる。




「あのさぁ。」




声は小さいのに、妙に重みがあった。




「近くに街がある森林で、そんな規模の火炎魔法ぶっ放すとか…… バカなの? アンタ。」




ラグナの肩がビクッと跳ね上がった。




「な……なんだと……!? この僕に……バカ……?」




怒りで声が震え、視界の端が赤く染まる。


だがアルドはラグナの怒りなど、そよ風ほどにも感じていない。

ため息をつきながら、軽く首を回す。




「さっきさ──南の森の火事を消火して、ついでに森を再生してきたんだけど……」



「……は?」



「ああいう森林火災って、アンタみたいな周囲の迷惑考えられないヤツが引き起こすんだよね。マジでさぁ……」




ぼそぼそと言うが、その“とても人間とは思えない内容”のインパクトは静かに重たく響いた。


ラグナは笑おうとして──頬の筋肉が固まるのを感じた。




(南の……森?ブラックドラゴン達の寝ぐらの森……!?ここから何キロ離れてると思ってるんだ……? それに……"森を再生した"だと?)




理解が追いつかない。

だが、確実に一つ言える。


──目の前の少年は、いま“ありえないこと”を口にした。


ラグナは震える声を押し殺し、怒りで自分を支える。




「……よかろう。そんな口を利くからには、覚悟はあるんだろうね……!」




右手を掲げ、中指と薬指をピンと立てる。




「ならば……お望み通り。別の魔法で屠ってやるよっ!!」




空気が震えた。

ラグナの魔力に反応し、地面の砂が浮き上がる。




「"第二・第三の魔杖指フィンガーケイン・セカンド・サード"!!」




中指と薬指から、二本の光線が迸った。

核撃魔法──地形ごと薙ぎ払う、王国最強クラスの絶対破壊。


光線は螺旋を描きながら、避けようのない速度でアルドに迫る。


──本来なら。




竜渦(ドラグ・ボルテックス)。」




アルドがぼそっと呟いた瞬間。


彼の目の前の空間が、ぐにゃりと黒くえぐれた。


黒渦。

空間そのものが丸ごと飲み込まれるような、漆黒の洞。


次の瞬間。


核撃魔法は、その洞に吸い込まれ──消えた。


跡形もなく。

光すら残さず。


ただ、“存在した事さえ疑うほど”綺麗に消滅した。




「………………」




風が止まった。

鳥の声さえ途切れた。


アルドは肩を竦め、静かに言う。




「だからさぁ……周囲に迷惑かかる魔法使うなって言ってんじゃん。アホなの?」




静かな怒りが淡く滲んでいた。


その口調は穏やか。

だが、不思議と背筋をぞわっと撫でる冷気がある。




「──は?」




ラグナは本当に、間抜けな声を上げていた。


核撃魔法が消えた。

魔法を防がれたのではない。

無効化でも、跳ね返されたのでもない。


『無かった事にされた』。


その不可解さが、喉を震わせる。




(ありえない……! こんなことは、ありえない……ッ!!)


(なんなんだ……なんなんだコイツは……!?)


(こんなキャラ……僕は知らない……!

まさか、このフォルティア荒野に――僕の知らない“隠しボス”が存在していたのか……!?)




膝ががくがくと笑い始めた。

心臓の鼓動が、嫌な汗を背中に押し出す。




(マズい。これは……マズい……ッ!!

一旦引く……体勢を整える……!!)




理性が警鐘を鳴らす。

今の自分では、コイツには勝てない。

このまま戦ってはいけない。


ラグナ・ゼタ・エルディナス。

自らを“物語の中心”だと疑わない男の胸に──


初めて、明確な“敗北の気配”が生まれた瞬間だった。




 ◇◆◇




ラグナは乾いた喉を鳴らした。


いま逃げれば命は助かる。

だが──それだけでは終われない。




(いや……!!逃げるにしても、これだけは……これだけは、やっておかないと……!!)




ブリジット。

彼女の心から、“あの銀髪の怪物”の記憶だけは、消さねばならない。


ラグナは左手の人差し指に、淡い紫色の魔力を灯した。

指先がぼんやり光り、空気がゆらりと揺れる。


精神操作魔法。


内容はシンプル──



『アルドに関する記憶をすべて失わせる』。




(せめて……ブリジットから、この化け物の記憶を消してから離脱する……ッ!!)




決意した瞬間、ラグナは地を蹴った。

身体強化魔法で限界まで強化した脚が爆ぜ、一瞬でブリジットへと肉薄する。


不意を突かれたブリジットが小さく声を漏らす。




「──えっ」




ラグナはニヤッと口角を吊り上げ、左手の人差し指をブリジットに差し出す。




「ブリジット……今、君を“正しいシナリオ”の中に連れ戻してあげるからね……!」


 


その瞬間──




「"竜刻(ドラグ・ステイシス)"。」




アルドの呟きが、空気を切り裂くように響いた。


世界が、止まった。


ラグナの視界の端で、風が動きを失う。

落ちかけていた木の葉が宙に“固定”される。

空気の揺らぎすらピクリとも動かない。




(……な、何……だ……?)




思考が追いつく前に。


次の瞬間、“空白”の中から銀髪の少年の姿が現れた。


ラグナとブリジットの間に、突然──。




「……は!?バカな……!?いつの間に前に……!?

まるで……時でも……止まったみたいに……ッ!?」


 


喉が乾き、心臓が痛い。

理解が追いつかない恐怖が、背骨を氷で撫でられたように走る。


そして、見えた。


アルドの右手。


全力で振りかぶられた“パー”の形。




(来る……ッ!!攻撃が……!!耐えろ──!!)




ラグナは即座に判断し、瞬時に防御態勢に移った。


左手の人差し指以外の、残り9本の指すべてに魔力を灯す。




「"防壁の魔杖指フィンガーケイン・バリアフィールド"!!」


 


九重の防衛障壁が、ラグナの周囲に展開される。

魔力の重なりが空気を震わせ、空間が薄く歪むほどの密度。


ラグナは勝利を確信して笑った。




(9本の魔杖指を防御に回した……!これなら──たとえ“大罪魔王”の攻撃だろうと突破出来ないさ……!!)


 


だが。


その楽観は、ほんの一秒だけ許された。




「ブリジットちゃんに近付くんじゃねぇ!!

この変質者がぁ!!」


 


アルドの叫びとともに。


ビンタが降ってきた。



──バリンッ!!!


──バッッッシャァァン!!!


──ガッシャアアアアアンッ!!!



凄まじい破砕音が辺りに響く。


九重障壁。

鉄壁。

王国最強の防御陣。


それらが、一撃ごとにガラス細工のように粉砕されていく。


ラグナの両目が見開かれる。




「……え?」




最後の障壁が砕けた瞬間。


バチコーーーーン!!!


アルドの平手が、ラグナの頭頂部に鮮やかに直撃した。


衝撃。


視界が反転し、世界が歪む。

同時に──


ズボッ!!!




「ホゲーーーーーーッッ!!!??」




ラグナの悲鳴が森にこだまし、

そのまま彼の身体は漫画のように地面に“人型”の穴を開けてめり込んだ。


鼻の穴には自分の左手の人差し指が刺さったまま、情けなく震えている。


土煙がふわりと舞い、しばし静寂。


そして──




「アルドくん!!」




ブリジットが花が咲くような笑顔で駆け寄り、両腕でアルドの腕にぎゅっと抱きついた。




「助けてくれてありがと!!

──約束通り、ピンチの時に駆けつけてくれたねっ!」



「いや〜、当然だよ〜」




アルドは照れたように頬をかき、にんまり笑う。

その耳が少し赤くなっている。


しかし次の瞬間。


アルドは地面にめり込んだ“ラグナの人型陥没”に目を向けて、首をかしげた。




「……で、結局、何だったのかな。このイケメン不審者。」




ブリジットも隣で頭に“?”を浮かべる。




「うーん……何処かで見たお顔の様な気もするんだけどねぇ……」




銀髪の少年と少女が仲良く首をかしげる横で。


穴の底のラグナは、白目を剥いたまま、震える指をいまだ鼻の穴に突っ込んだままだった。

その姿は──言葉にするなら、一つだけ。


完敗。


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