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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第211話 神器解放!ブラックドラゴンを討て!

漆黒の巨影が五体。森の大地を揺らしながら、うねるように立ち塞がる。


ブラックドラゴン。


その名の通り、闇のように艶やかな鱗をまとい、二本の角を持つワニに似た体躯は、どれも10メートルを超えていた。


セドリック・ノエリア──"神聖騎士団"の騎士は、剣を抜きながら、二人の少年の前に立ちはだかった。




「君たち……! その魔物は、ただの魔物ではない!」




真剣な声音が森に響く。




「一体一体が軍隊で当たるべき強さだ! 君たちだけでは……!」




だがその警告に対して、茶髪の少年― ──佐川颯太は口の端を軽く上げた。




「……だってさ。どうする、玲司?」




佐川の隣、紫がかった赤髪を無造作に立てた少年──鬼塚玲司は、不敵に鼻を鳴らす。




「油断はしねぇよ。……俺たちは、あの人みてぇに、敵を前に手加減して制圧できるほど強くはねぇからな」




その声には、恐怖も虚勢もなかった。ただ、確かな自負と、荒々しい意志だけが宿っていた。




「──最初から、全開で行くぜ!」


セディの隣に立っていた少女、天野唯は、柔らかな微笑みを浮かべて言う。




「──二人なら、大丈夫です」




その笑顔は、何の裏もなく、まるで祈りのようにまっすぐだった。

セディは、二人を見る。その背は細く、あまりにも若い。だが──。




「しかし……!」




言いかけたその瞬間。

二人の少年は、声を揃えた。




「「"神器"、解放――!!」」




次の瞬間、世界が変わった。


佐川の手にあった片手剣が、虹のような光を放つ。




「"破邪七星剣(グランシャリオ)"!」




七つの光球が、剣から解き放たれた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫──。まるで七色の星が、空を舞い始めたように。

それらは彼の周囲を旋回し、ふわりと浮遊していた。だが、その光にはただの幻想ではない“威圧”が宿っていた。


一方、鬼塚の腰元には、突如として出現したベルトバックル。歯車状のパーツがギュイイィィィンと唸りを上げて回転する。




「"獏羅天盤(ばくらてんばん)"……!」




低く呟いたその言葉と同時に、紫の魔力が爆ぜる。

稲妻のように走った魔力は彼の全身を包み、弾け、燃え、噴き上がった。




「──変身……ッ!!」




その言葉を最後に、鬼塚の身体は紫の装甲に包まれた。

鬼の面を思わせる兜、尖った二本のツノ、牙を模した顎の造形。

肩、胸、脚には鈍く紫黒い輝きを放つ魔装鎧。

人とは思えぬ禍々しさと、神話的な威厳が、そこにはあった。


セディはその変化に、言葉を失う。




「“神器”……だと……!?」




震える声が漏れた。




「“スキル”を極めし者にしか顕現できない、外付けの魔力の器……! それを──彼らが!?」


「我ら"神聖騎士団"ラグナ殿下以外に、その使い手がいようとは……!」





だが、今──その目の前に、“二人”の神器使いが立っていた。




「えっ?」




天野唯が小さく驚くが、セディはそれを気にも留めず、ただ目を見開いていた。


その間にも、戦いは始まる。




「行くぞ、玲司!!」




佐川が叫ぶと、七つの星が空を駆けた。

闇の竜たちに向かって飛ぶ星々。ブラックドラゴンは咆哮を上げ、牙を剥いて迎え撃とうとするが──。


レーザーのような光が、光球から放たれる。

その一閃が、龍の頬を裂き、鱗を穿ち、森の木々を焼き払った。




「お前こそ、遅れんなよ、颯太!!」




鬼塚が叫び、歯車を一度、親指で回す。

ギュイイイィィィィン!!という音と共に、バックルから機械音声が響く。




『インカネーション! ブチブチ! ブッチ斬リ!』




次の瞬間、鬼塚の両拳に、紫のビーム刃が出現した。

メリケンサック状の器具から、刀身のように伸びた双刃の光刃。それは、獣を切り裂くために存在する“拳の刃”だった。


鬼塚が跳ぶ。


紫の稲光が、森を貫いた。

一体、また一体。ブラックドラゴンが次々と斬り伏せられ、濃い血が噴き出す。


その流れに合わせて、佐川の姿が消えた。




「ッ──!」




セディが思わず目を凝らすと、彼は既に空中にいた。

七つの星と位置を入れ替えながら瞬間移動し、ブラックドラゴンの背に乗り、斬り、舞い、飛び──

星の光と刃の連撃が交錯する。これが、“破邪七星剣”の真髄。


四体のドラゴンが、まるで紙のように斬り裂かれ、崩れ落ちていく。




「な、なんだこれは……!」




セディは叫ばずにはいられなかった。

神器。奇跡。神話の遺産。

それを、軽口を叩きながら使いこなす二人の少年。


── 一体、彼らは何者なのか。


その問いが、セディの胸を焼き付けたまま、

次なる敵、“親玉”の気配が立ち上がろうとしていた──。




 ◇◆◇




「──何者だ……君たちは……!」




セドリック・ノエリアの喉が、驚愕と戦慄で震えた。

茶髪の剣士と、紫の装甲を纏った拳闘士。ふたりの少年は、まるで一対の歯車のように噛み合い、連携し、巨躯の黒竜たちを撃破していく。


その一撃一閃は、熟練の神聖騎士である彼ですら、目を見張るほどだった。




(……個々の力も、凄まじい。しかし、それ以上に──)




セディの脳裏に焼き付いたのは、その連携だった。

視線だけで意図を読み合い、互いの隙を補い、攻撃の波状を絶やさぬ巧みな間合い。

これは、数年どころではない、魂の奥で繋がった者同士にしか成しえない呼吸だ。




(──この二人、何者なんだ……!?)




その刹那、彼の鋭敏な戦士の勘が警鐘を鳴らす。




「っ……後ろだ!! 危ないッ!!」




セディが叫ぶよりも早く、彼の左腕が動いていた。

左手に構えたラウンドシールドを振りかぶり、円盤投げの様に投げ放つ。




「ハァァッッ!」




金属が甲高く鳴き、キィィィィィィィン!!という鋭い音が森に響き渡る。

ラウンドシールドは高速回転しながら宙を飛び、黒い暴風のような一閃となって、背後から襲い来ていたボス個体のブラックドラゴンの喉元を切り裂いた。




「ギャアアアアアアアアアアッ!!」




咆哮。

いや、悲鳴。

竜の首元から、赤黒い血が吹き上がる。分厚い鱗ごと、喉の肉を削ぎ落とされたのだ。


佐川と鬼塚が振り返る。血の臭いと熱風の中で、鋭く煌めくラウンドシールドは、ワイヤーに繋がれたまま旋回し、そのまま空中でくるりと弧を描いて戻ってきた。


カシィン!


それを片手で受け止めたセディに、鬼塚が思わず声を上げた。




「おおっ!? スゲェ……!? キャプテン・ア⚪︎リカかよ……!?」




佐川も目を丸くして、思わず剣を引いた。




「"盾投げ(シールド・ロブ)"……!? いや、それにしても…… あの威力、普通じゃない……!」




セディは血飛沫に染まった額を軽く拭い、苦笑しながら呟いた。




「すまない。君たちの戦いに……つい見惚れてしまった。出遅れたが、私も戦おう」




そう言って、セディは腰から銀の剣を抜いた。

刃の縁には、チェーンソーのような小さな歯車が無数に埋め込まれている。



ギュイイイイイイィィィィィィィィン……!!



駆動する刃は、咆哮するかのような唸りを上げて高速回転を始める。

それを見て、鬼塚がニッと笑った。




「何だそのカッケェ武器!?──だったら、一緒にやろうぜ!」




言うやいなや、鬼塚は歯車型のバックルを親指で四回回転させた。



ギュイン……ギュイン……ギュイン……ギュイン!



音声が唸る。




『必殺!!──特攻(トッコー)速攻(ソッコー)超特急(チョートッキュー)!!』




装甲の背面。紫の魔力が一気に噴き上がり、背中から二基のスラスターが展開する。

足元の土が吹き飛び、衝撃波と共に魔力の炎が爆ぜた。




「俺は……ケリで決めるぜ……!」




一方、佐川も七つの星を剣先に集約させていた。

七色の光が収束し、一本の直剣となって手元に形を成す。




「よっしゃ!最大火力で、押し切りますかね!」




佐川の呟く声に合わせて、天野唯が小さく頷く。

手を前に突き出し、呪文を紡ぐ。




「──加護の風よ、彼らの刃を満たせ。支援魔法、トリプルブースト!」




魔法陣が三人の足元に咲き、柔らかな光が身体を包む。

筋力、反応速度、魔力制御。それぞれに強化が施されていく。




「お願いっ! 颯太くん! 玲司くん!」




天野の声が、戦場に響いた。


──そして。




「おおおおおおおおおおおおおっ!!」


「せぇぇぇぇぇのぉッ!!!」


「……一閃ッ!」




三人が、動いた。


先陣を切ったのは、鬼塚だった。

紫のスラスターがドガァァァァァン!!と音を立てて火を吹く。

重力すら捻じ曲げるその加速で、鬼塚の身体が流星のように飛び出す。


紫の爆炎が伸び、膝を折りたたんだ彼の右足が、ブラックドラゴンの巨体に直撃した。




「喰らいやがれッ!! 流星魔脚(ブースト・ブレイク)!!」




激突。

爆風。

龍の鱗が砕け、骨ごとへし折られた脚がめり込む。


そこに、佐川の剣が追いついた。

七色の剣が、喉元から腹部までを一直線に断ち割る。




「貫け、“七虹光臨斬(アルコンシエル)”!!」




最後に、滑るような低い姿勢からセディが駆け込む。

チェーンブレードが唸りを上げながら竜の側腹を切り裂いた。




「"回転斬裂・極式ギアエッジ・フルドライブ"──!」




斬撃。

爆風。

絶叫。


数秒間の同時攻撃――。

黒き巨竜は、咆哮を残す暇もなく、断末魔の声を上げて崩れ落ちた。


天野が息を呑み、次の瞬間には歓喜の声を上げていた。




「やった──!!」




戦場の静寂。血の匂い。吹き抜ける風。


佐川は剣を肩に担ぎ上げ、余裕の笑みを浮かべる。




「ふぅ。ま、こんなもんでしょ」


 


鬼塚は、スラスターから立ち上る煙を払いながら、セディを振り返る。




「アンタ……なかなかやるじゃねぇか。もしかして、俺らの手助け、余計な世話だったか?」




挑発気味の口調。しかし、そこに悪意はなかった。

むしろ、認め合う者への軽口。それが、鬼塚なりの“仲間”の証だった。


セディは、静かに笑う。




「……いや、助かった。君たちの力に、心から感謝する」




そして、深く頭を下げた。


佐川と鬼塚は、顔を見合わせる。

どちらともなく、口元に笑みが浮かぶ。




 ◇◆◇




黒き巨竜の骸から立ち上る煙と血の匂いが、ようやく静まった。


森を吹き抜ける風が、戦いの余韻を連れ去っていく。


セドリック・ノエリアは血に染まったラウンドシールドを腰に戻し、深く頭を下げた。




「改めて礼を言わせてくれ。……君たちのおかげで助かった。感謝する」




静かに、けれど確かな敬意と誠意を込めた声音だった。

紫のコートを纏った少年──鬼塚玲司は、腰を折りながらブラックドラゴンの爪を器用に引き抜いていた。

手早く、だが雑ではない。小さな狩人ナイフが光を弾くたびに、魔物の素材が戦利品として姿を変えていく。




「いいって、そんなの」




鬼塚はナイフをくるりと回し、鞘に戻す。




「魔物退治は、冒険者の務めってヤツなんだろ? あんたを助けるためっていうより、俺たち、ちょうど通りがかっただけだしな」




軽く笑って肩をすくめるその口調はいつも通り飄々としていたが、どこか誇らしげな響きもあった。


佐川颯太は、竜の頭骨の傍に腰掛けながら、セディの顔をじっと見つめていた。




(……この人、誰かに似てるんだよなぁ……)




どこかで見たような、いや“似ている”というより、“感じたことのある気配”──

そんな言葉にできない既視感が、彼の胸の奥をくすぐっていた。




「そうそう、俺たち、ルセリアの街で冒険者登録してるんスよ」




佐川は目を細めて笑った。




「少しでも稼いで、お世話になってる人達に恩返ししたいなって思って。だから、こういう戦いも、ある意味修行みたいなもんです」




その言葉に、セディの瞳が大きく見開かれる。




「なんと……!その若さで"神器"の覚醒にまで至っている冒険者がいたとは、初耳だ……!」


「君達の等級は?A級……まさか、S級かな?」




驚愕が混じる声に、天野唯が恥ずかしそうに両手を前で重ね、控えめに苦笑した。




「いえ……私達、つい最近登録したばかりで……まだまだ未熟です」


「等級も……そんな高くないですし……」




その言葉に、佐川はふと鬼塚に振り向く。




「今、俺らって……何級なんだっけ?」




鬼塚は首をひねりながら、記憶をたぐるように呟いた。




「あー……最初、Fから始まって……昇格試験で飛び級させてもらえたから……今、Dとかじゃねぇか?」




途端に、セディの表情が凍った。




「……何……だと……!?」




あまりのことに、彼の声が少し裏返る。

数秒の沈黙の後、セディはぐっと拳を握った。




「そんな馬鹿な! 君たちほどの冒険者が、たったのD級とは……!? それはあまりにも不当だ!」




佐川、鬼塚、天野の三人が、思わず顔を見合わせた。




「え、いや……別にそこまで気にしてないというか……」




と佐川。




「まぁ、まだ始めて日も浅いし、仕方ねぇだろ。新参者の俺らは、スジは通さねえとな。」




と、鬼塚はニッと笑ったが──


セディの瞳は真剣そのものだった。




「君たちのように実力のある若者が、正しく評価されず埋もれるなど、あってはならない……!」


「ルセリアの冒険者協会には私から直接掛け合おう。実力に相応しい等級まで昇格させるよう、進言しようじゃないか!」




あまりに真面目すぎる発言に、三人は再び顔を見合わせた。


……この人、なんか、めっちゃ真っ直ぐだな。


……っていうか、もしかして……


佐川は少しおっかなびっくり尋ねる。




「……お兄さんって、ひょっとして……偉い人、だったりします?」




その言葉に、セディはピシィッと背筋を正した。




「ああ、これはこれは……紹介が遅れてしまったな」




彼は右手を胸に当て、軽く頭を下げた。




「私はエルディナ王国、公爵家ノエリア家の嫡男。セドリック・ノエリアという」




──沈黙。


風が一陣、木々を揺らした。




「こ、公爵家!?」




と、天野が素っ頓狂な声を上げた。


佐川と鬼塚も固まる。




「いや、それより……ノエリア、って……!?」



「まさか……ブリジットさんの、身内か……!?」




その名が口にされた瞬間、セディの顔色が変わった。




「──!!」




目を見開き、驚きに満ちた表情で佐川に駆け寄る。




「やはり君たちは、ブリジットの……妹の知り合いだったのか!」




勢いよく肩を掴まれ、佐川の体がぐらりと揺れた。




「ぶ、ブリジットさんの……お兄さん!?!?」



「マジかよ……!!」




と鬼塚も素で声を上げる。


天野は口を押え、瞳をぱちくりさせながら三人を見つめていた。


森の中。日差しが木々の隙間から差し込み、戦いの余韻を照らすように注ぐ。


思わぬ再会の予感が、静かに、この旅路を変えようとしていた──。




────────────────────



木々がざわめきを止め、風がぴたりと止まった。

森の奥、枝葉が途切れた円形の空間。

そこだけぽっかりと天を仰ぐように広がる広場に、美しい青年がひとり、背筋をまっすぐに伸ばして立っていた。


エルディナ王国第六王子──ラグナ・ゼタ・エルディナス。


その少年の周囲を、十体の漆黒の巨影が取り囲んでいる。


ブラックドラゴン。


すでに幾度となく街を焼き、人を喰らい、災厄の象徴として恐れられてきた魔物たち。


だが、ラグナの目にはそれらが脅威として映っている様子はなかった。むしろ──




「ふふ。……うん、上々だね」




口元に笑みを浮かべながら、ラグナはゆっくりと首を巡らせる。

漆黒の鱗に覆われた巨躯、鋭い眼光、地を揺らす息遣い。


そんな脅威に囲まれながらも、彼の声は実に穏やかだった。




「ブラックドラゴン達は、想定通り(・・・・)フォルティア荒野の方へ移動してきてるみたいだね」




その言葉に応えるように、南東の空に伸びる黒煙が、わずかにたなびいている。




「うん、イベント通り、イベント通り」




誰に語りかけるでもなく、ひとりごちる声には妙な確信と愉悦が混ざっていた。




「わざわざ、この“イベント”の発生日に合わせて、こんなフォルティアくんだりまでやって来たんだからさ。……ちゃんと動いてくれなきゃ困るよね、運命の歯車くんたち」




ラグナの表情には芝居がかった冗談めいた響きがあったが、その奥には何かを読み取ろうとする知性の光がちらついていた。


──だが。


突如、空気が唸る。

周囲のブラックドラゴン達が、一斉に咆哮を上げた。




「グギャアアアアアアッ!!!」




地を割らんばかりの咆哮と共に、十の影がラグナに向かって一斉に突進する。

足音が地を揺らし、魔力の濁流が空間を圧迫する。


だが──ラグナの瞳が、冷たく細められた。




「……あーあ、違う違う。キミたちが狙わなきゃいけないのは、僕じゃあないさ」




その瞬間、彼の足元に薄氷が走った。


次いで、彼が小さく、ほとんど耳打ちのように囁く。




「"氷結牢獄(ジェイル・グラキエス)"」


 


──瞬間。


 

パキィィィィィィィン!!!!


 

天を裂くような音が広場全体を揺らした。


地面を中心に透明な氷柱が奔流のように噴き上がる。

まるで意思を持つ生き物のように、凶暴な魔竜たちを次々に包み込み、凍てつかせていく。


突撃しようとしたドラゴンの脚が凍り、翼が凍り、咆哮が砕け散る。

わずか数秒の間に、十体すべてが巨大な氷の棺へと閉じ込められた。


薄青く透けた氷の向こうで、ブラックドラゴン達は恐怖の表情を浮かべたまま動かない。

死んではいない。

だが、このままでは、誰にも触れられることなく──封印されるだろう。


その中心で、ラグナは肩をすくめて笑った。




「……あ、もう聞こえてないか。残念」




気配を殺した声は、かすかに寂しさと、わずかな嘲笑を帯びていた。




「ま、いいさ。10匹くらい減っても問題無いでしょ。」




くるりと踵を返す。

彼の足元から、再び氷の結晶がほとばしるが、それもすぐに霧のように溶けていった。


そして、空を見上げながら、ラグナは独り言のように呟く。




「……それにしても、セディもリゼリアも、どこ行っちゃったのかな〜。……転校生は、まあ、あの調子だし……うん、想定内」




遠くで雷鳴が鳴った。フォルティア荒野のどこかで、戦いが続いている気配がある。


ラグナは、くるりと指を回し、帽子のつばを下げた。




「よーし。……それじゃあ」




少年の笑みが、次第に不穏さを帯びていく。




「ぼちぼち、“ピンチのメインヒロイン”を颯爽と救ってくるとしようかな」


 


言葉の最後に、不気味な楽しさが滲む。


そしてラグナは氷の野を踏みしめながら、ゆっくりと──だが迷いなく、フォルティア荒野中央部、カクカクシティの方角へと歩き出していった。


その背に、砕けた氷の欠片がきらきらと舞っていた。


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