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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第五章 魔導帝国ベルゼリア編

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第197話 『0.3%』の価値

ガシャンッッッ!!


重厚な扉が音を立てて開くと同時に、俺は飛び出した。

勢いそのままに──。


 


「すみませんでしたーーーっ!!」


 


ザザーッ!


床に膝から滑り込んで、完璧なスライディング土下座。

磨き抜かれた金属床に、自分の額が“ガンッ”といい音を立てた。でもそんなこと気にしてる場合じゃない。


 


「ちょ……調子に乗って、とんでもないことを……っ!」


「まさか……装置を……壊してしまうなんてぇぇぇ!!」


 


もう涙目だ。完全に動揺してる。

背中から冷や汗が止まらない。

装置が静かになった瞬間、嫌な予感しかしなかったんだ!切腹ものの失態と言わざるをえない!


 


「落ち着くのじゃ、道三郎」


 


マイネさんのため息混じりの声が、俺の上に降ってくる。


 


「そ、そんな! 落ち着ける訳……っ!」




「ソウル・ドライバーは壊れてなどおらぬわ」


 


「──え?」


 


「お主の魔力出力に吸収機構が耐えきれず、リミッターが起動しただけじゃ。

一時的に強制シャットダウンしたに過ぎぬ。安心せい」


 


俺はガバッと跳ね起きた。

勢い余ってまた転びそうになる。


 


「そ、そうだったんだーーーっ!!よかったーーーっ!!」


「てっきり……てっきり俺、出力上げすぎてぶっ壊したのかと……!!」


 


背中をポリポリかきながら、情けなく笑う。

もう心臓がバクバクだ。


 


「影山くんや鬼塚くん達に、どうお詫びすればいいかと……! まさか帰還のチャンスを、俺の手で台無しにしちゃったんじゃないかって……!!」


 


ダラダラと汗をかきながら、両手をバタバタさせて謝罪のジェスチャー。


我ながら見苦しいことこの上ない。

でも、あの“沈黙”を体験した身としては、仕方ないのよ。


そのとき、小声で何かが聞こえた。


 


「……あの人、なんであんなに強いのに、あんなに腰低いんスか……?」


 


初対面で俺にレーザーを浴びせてきた勇者・佐川颯太くんが、隣のヴァレンにヒソヒソ話してる。

本人に丸聞こえだよ、それ。


 


「さあ……?初めて会った時からあんな感じだったからなぁ……それが相棒のいいとこでもあるんだが……」


 


ヴァレンが苦笑交じりに答える。

すると、今度はリュナの声が割り込む。


 


「あーしも、初めて会った時に土下座されたっすね。そう言えば」


 


うん、確かにしたね。思いっきりセクハラチックなムーブをかましてからの、美しい土下座。


これはもう性格だから、しょうがないよね……!


とりあえず空気を落ち着けようと深呼吸した、その時だった。


 


「し……信じられない……!」


 


鋭い声が響いた。

視線を向けると、ベルゼリアの女魔導官フラム・クレイドルが蒼白な顔で立ち尽くしていた。

拘束されたまま、震える指先を俺の方に向けている。


 


「今の魔力……“重奏構造”……!?

まさか……さっきの銀竜を召喚したのは……貴方なの……!?」


 


“重奏構造”? 何それ、かっこいい単語だな。

でも、なんか妙な方向に誤解されてない?


 


「“重奏構造”? よく分からないけど──」


「それ、勘違いだと思うよ」


 


俺は首をかしげながら笑う。


 


「あれは俺が召喚したんじゃない。

──あの竜自体が俺だからね」


 


フラムの表情が、固まった。


口を開けたまま、何も言えず、ただ唇が震えている。

理解が追いつかない、って顔だ。


 


「な……っ……!?」


 


その反応を見て、なんか悪いこと言ったかな、と思ったけど……

もう俺の正体は、バレてもいいんだ。


その瞬間、マイネさんの深い溜息が、場に静かに響いた。


 


 ◇◆◇




「以前、リヴィスが準備していた時はの……長期間にわたって、龍生水を使い、地道にエネルギーを蓄えておったからな」


 


マイネさんは、ふぅ……と肩で息をつきながら、俺の方を見た。


 


「まさか……一度にチャージできる魔力量の限度を、お主が軽々と超えてくるとは……妾も想定外じゃったわ」


 


頭を掻きながら苦笑する俺の横で、マイネさんは操作パネルの前にいる二人に声をかける。


 


「ベル、再起動を」


「一条雷人、現在のエネルギー装填率のチェックを。あと、魔力変換システムの作動状況を確認しておくれ」


 


「承知致しました、お嬢様」


 


すぐにベルザリオンくんが神妙な顔で頷き、手袋を外して、静かにパネルへと右手を当てた。

ピィ……という機械音とともに、操作盤の光が戻る。


その隣では一条くんが無言で頷くと、タッチパネルの文字列を流し見て、数値を確認し始めた。

その仕草が、妙に板についている。


っていうか一条くん、何でそんなに手馴れてるの。

秀才キャラが過ぎる。

異世界の謎装置をスマホ感覚で操作してるし。

現代知識で異世界無双出来そうなタイプだよね。


 


「……魔力変換機構は……一時的なオーバーヒートを起こしてるようです」


 


一条くんが冷静な声で報告する。


 


「冷却が必要ですね。推定で……一日。明日には、問題なく再稼働が可能でしょう」


 


おおー、良かった。俺、マジで壊したわけじゃなかった!


 


「エネルギー充填率ですが……」


 


タッチパネルの操作が止まる。

一条くんの指が止まったまま、顔がこわばった。


 


「──!?充電率……れ……0.3%……!?」


 


「えぇぇぇぇっ!?」


 


反射的に俺が叫んだ。


 


「ちょ、ちょちょっ、0.3パーって!? 必要エネルギーの、0.3パーしか貯まってないの!?!?!?」


「ご、ごめんね!? もっと貯まってるかと思ったんだけど……え、あれ!? 俺って……思ったより強くないのかな!?!?」


 


自分で自分を疑い始める。

さっきまでのテンションどこ行った、俺。


 


「……えっ……たったのそれだけ……?」


 


「アルドさんがやっても、それだけしか貯まらないなんて……」


 


「じゃあ、もう……ダメじゃん……」


 


「……あたし達……おうちに、帰れないの……?」


 


召喚高校生たちの間に、絶望の空気が広がっていく。

顔面蒼白になった生徒たちの目が、次々と伏せられていく。

ギャル達はまた泣きそうになってるし、男子たちも無言で俯いたまま動かない。


 


(あああああっ!!)


(やばいやばいやばいっ! 俺のせいで、みんなが「帰れない」って顔してるぅぅぅっっ!!!)


 


もう、変な汗が背中を伝って止まらない。


 


……と、次の瞬間。


 


「──違うぞ、みんな!!逆だ(・・)!!」


 


一条くんが叫んだ。

あの冷静沈着系男子が、珍しく興奮気味に声を張り上げていた。


 


「この装置は、恒星級のエネルギーが必要だと言われていたんだぞ!?」


 


「いくら変換効率が高くなっているとはいえ……それを、たった一人で!たった一度で! 0.3% "も" 貯めたんだ!!」


 


全員が、言葉を失って彼を見つめる。


 


「エネルギーは一度装填されれば、時間経過で減衰することはない! つまり──」


「仮に、毎日これを続けることができれば……!」


 


「──お、おい、一条……!?」


 


鬼塚くんが戸惑った声で問いかける。


 


「オレらにも分かるように喋ってくれ……!」


 


その声に、一条くんが──珍しく顔を紅潮させながら叫んだ。


 


「つまり! 毎日今のアルドさんの魔力を装填し続ければ──」


「──約一年で、帰還エネルギーが貯まる!!」


 


……しん……と静まり返る場。


 


そして──


 


「「「マ、マジかよ……!!??」」」


 


「「「あたし達、帰れるの……!?」」」


 


高校生たちの間に、歓声と安堵の波が一気に押し寄せた。

目の潤んだ高崎さんは顔をクシャッと笑顔に変えて、藤野くんの腕にしがみついて泣いていた。

鬼塚くんも、乾くんも、榊くんも、五十嵐くんも、それぞれに仲間の肩をバンバン叩き合ってる。


 


(よ……よかったあぁぁぁぁ……!!!)


(0.3%って、いい数字だったのか……! 焦った……マジで焦った……!)


 


俺は全力で胸を撫で下ろした。


 


「ね? アルドくん、頼りになるでしょ?」


 


隣から、ブリジットちゃんがニコニコしながら高校生たちに言った。

ちょっと誇らしげに胸を張っているその姿を見て──


 


(……ああ、救われるわ、そういうの)


 


と、俺はぽかぽかした気持ちで、ホッコリとした笑みを浮かべるのだった。




 ◇◆◇




「そんな……たった一人の魔力で……異世界召喚……いえ、異世界帰還に足るエネルギーが装填されたというの……!?」


 


フラム・クレイドルの声が、震えていた。


 


「ありえない……! そんな事……あってはならない!!」


 


言葉とは裏腹に、その目ははっきりと”理解してしまっている”ようだった。


理解しているからこそ、怒りが込み上げている。


 


「異世界召喚は……ベルゼリアにのみ許された、神域に迫る技術……!」


 


フラムはぎりっと奥歯を噛み、そして、真っ直ぐ俺を睨んだ。


 


「それを……!」


 


(……あーあ、目ぇ据わっちゃったよ)


 


俺は内心でため息を吐きながら、静かに彼女を見返す。


 


「……ベルゼリアは、貴方を見逃さないわよ」


 


「異世界とのコンタクトという技術を、他国に流出させるなど……!」


 


「……あってはならないっ……!」


 


叫びに近い声で、彼女は宣言した。


 


「いつか必ず……ベルゼリアは、貴方を始末しに動くわっ!! アハハハハハ……!!!」


 


フラムの口元が歪む。

勝ち誇ったような、あるいは――自分自身を保つための、空笑い。


でも──


 


「いやー」


 


俺は、まるで雑談でも始めるように、肩をすくめて、ぽつりと呟いた。


 


「わざわざ来てもらわなくていいよ?」


 


 


笑い声がピタリと止まる。


 


「──えっ」


 


フラムの表情が凍りついた。


 


「……いやさ」


 


俺は、ゆっくりと彼女を見据えた。

声は穏やか。でも、心の奥には、冷たい怒りが確かにある。


 


「平和に暮らしてた高校生たちを、無理やり異世界に召喚してさ」


「“帰してあげる”って言いながら、実際は洗脳スキルで操ってさ」


「マイネさんの街、占拠して。リュナちゃんの命も狙って。好き放題やってくれたわけじゃん?」


 


「……えっ? えっ!?」


 


フラムは額に汗を浮かべ、目を泳がせる。

明らかに狼狽えていた。

その姿を見ながら、俺は静かに、にこりと笑った。


ただの笑顔。けれど、周囲の空気が明らかに冷えた気がした。


 


「──だから、俺の方から行くよ」


「ベルゼリアって国の、一番偉い人のところに」


 


俺がそう言った瞬間、


 


「……え……えええぇぇぇぇええっっ!?!?」


 


フラムの絶叫が、トンネルの天井にまで響いた。


後ろでリュナちゃんが、フラムの背中を見ながら、ぽつりと呟く。


 


「……あーあ、終わったな〜ベルゼリア」


 


いやマジで。これはちょっと……“釘刺し”に行く必要あるよね。


このまま見逃したら、絶対また何かやらかすタイプの国だ。

それなら、地上最強の生物イズム全開で、正面から行って、トップをシバいておくのが一番早いよね。


フラムは震える唇を押さえ、明らかに引きつった顔で俺たちを見る。


でも、誰も止めない。

誰も、彼女に同情の言葉はかけない。


ぶっちゃけ──俺は、まだ優しい方だと思うよ?

 

でもそれには、ちゃんと“分かってもらう”必要がある。


どこまでが「許されるか」ってことをね。


 


「よーし、じゃあ次は──外交という名の『ご挨拶』、してこようかなっと」


 


俺は軽く腰を伸ばし、背中を鳴らした。

次の目的地は、ベルゼリア。


かつてリヴィスとマイネさんが始めたその帝国に、俺自身の言葉で“筋を通し”に行く。



──この物語の"魔導帝国ベルゼリア編"は、

いよいよ、クライマックスを迎える時が来たんだ。


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