第184話 還らぬ魂に、還る場所を
夜の空気は静まり返り、焼け焦げた瓦礫の隙間から、まだ白い湯気が立ち上っていた。
その中で、黄龍と蒼龍——二つの幻影が宙に浮かび、柔らかな光を放っていた。まるで月明かりが形を持ったような、優しい輝きだった。
紅龍はその光景を見上げ、目を見開いたまま動けずにいた。
血と煤に汚れた頬に、わずかな月光が反射する。
唇が震え、掠れた声がこぼれる。
「な……何故……!? ……儂は……兄者と姉者の魂を、喰らってなど……」
その言葉に応えるように、黄龍の幻影がゆっくりと目を細めた。
淡い金色の光が揺らぎ、まるで生前と変わらぬ兄の静かな声音が空気を震わせる。
「紅龍……お前の宝貝 “緋蛟剪”が真の力に目覚め、初めて喰らった魂は……誰のものだった……?」
その問いは、まるで刃のようだった。
紅龍の呼吸が止まる。
記憶の底に沈んでいた光景——緋蛟剪に貫かれ緋色の石像と化していく、あの巨大な竜の影。
初めて、魂を喰らった存在。
喰竜。
紅龍の瞳が見開かれ、声にならぬ吐息が漏れる。
「ま……まさか……」
蒼龍の幻影が、寂しげな笑みを浮かべながら静かに言葉を継いだ。
青白い光がふわりと揺れ、柔らかく紅龍の頬を照らす。
「紅龍ちゃんが喰らった、師匠——喰竜の魂……。
その中に、直前に喰竜に喰われ、取り込まれたアタシと兄さんの魂も……形を保ったまま残っていたの。」
「な、何を……」
「その喰竜の魂を、紅龍ちゃんが取り込んだことで——」
蒼龍の声が少しだけ震える。
けれど、その震えは悲しみではなく、優しさの滲むものだった。
「アタシ達の魂は、紅龍ちゃんの魂の中に、残滓として残っていたみたい……。奇跡みたいな話よね。」
紅龍は呆然としたまま、両手を見つめる。
戦いの果てに血で染まった指先。
無数の命を奪い、踏みにじってきた手。
その中に——兄と姉の魂が、ずっと宿っていたというのか。
「そ……そんな……では、兄者と姉者は……ずっと、儂の中に……!?」
「まさか……分身達の不可思議な動きも……儂の中にあった、本物の兄者と姉者の魂が、干渉して……?」
紅龍の声は震え、最後は嗚咽にかき消された。
足元の瓦礫が、涙の雫を受けて小さく光る。
黄龍は、優しく目を細める。
その表情には、かつての厳格な兄ではなく——弟を見守る“家族”のぬくもりがあった。
「紅龍……お前は、我らの魂に導かれて戦っていたのだ。だからこそ、完全な怪物にはならなかった。
……憎しみの果てにいたとしても、お前の心は、まだギリギリのところで、人のままだった。」
蒼龍もまた、微笑んだ。
その笑みは、あの日、戦火の中で紅龍の頭を撫でてくれたときと同じものだった。
「ずっと、見てたよ。紅龍ちゃんのこと。
どんなに壊れても……どんなに遠く離れても……。
ちゃんと、生きててくれて、よかった。」
その言葉を聞いた瞬間、紅龍の胸の奥で、何かが崩れた。
怒りでも誇りでもない。
ずっと押し殺していた、“寂しさ”だった。
喉が詰まり、息が出来ない。
涙が頬を伝う。
紅龍は震える声で、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「……儂は……今まで何を……何をしていたというのだ……ッ……!」
光が彼を包み、夜の風が静かに流れる。
銀の粒子が舞う中、三つの魂の再会は、誰よりも優しい沈黙に包まれていた。
◇◆◇
静寂が訪れた。
焼け焦げた地表から立ち上る煙の中、淡く光る三つの影が揺らめく。
黄龍と蒼龍——かつて“仙道”と呼ばれた二人の幻影は、薄靄のように漂いながら、膝をつく紅龍とその傍らに立つアルドを見下ろしていた。
その蒼い光の中で、蒼龍がそっと視線を横に向ける。
穏やかな微笑みが、かすかに揺れる。
「……アナタ、本当に優しいのね。」
その声は、月の光のように柔らかく、どこかくすぐったい温度を含んでいた。
アルドは目を瞬かせ、思わず首を傾げる。
「え?」
蒼龍はふわりと笑い、光の裾が風に溶けるように揺らいだ。
「かりそめのアタシのお願いを、聞いてくれたんでしょ? 紅龍ちゃんが自暴自棄にならないように……あえて厳しい言葉で止めてくれてたのよね。」
アルドは頬をかきながら、少しだけバツが悪そうに目を逸らした。
「……そんなんじゃないよ。ただ、見てらんなかっただけ。」
その素っ気ない言葉に、蒼龍はクスッと笑う。
「そういうのを“優しい”って言うのよ。」
静かな笑い声が空気に溶け、紅龍の背中を包み込むように広がった。
アルドは気恥ずかしそうに頭をポリポリと掻きながら、何気なく黄龍に視線を向ける。
その瞬間——黄龍の幻影がピクリと身体を震わせた。
「……」
無言の気まずさが漂う。
アルドは苦笑しながら肩をすくめ、
「ゴメンね、さっきは。パワーボムしちゃってさ」
と、まるで体育館で後輩を転ばせたような軽さで言った。
黄龍はコホンと咳払いをし、姿勢を正す。
その気品のある仕草は、まさに“長兄”の面目だった。
「……弟と、かりそめの私を止めてくださり……感謝いたします。」
黄龍は、静かに頭を下げた。
アルドは少し気まずそうに「いや、そんなつもりじゃ……」と手を振り、苦笑する。
その姿に蒼龍がまた小さく笑い、紅龍の口元にも一瞬だけ、微かに笑みが浮かんだ。
——だが、それも束の間。
紅龍は再び俯き、小さく震え始めた。
その肩から、ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。
蒼龍と黄龍が視線を向けたとき、紅龍は声を震わせて呟いた。
「……本当に……本当に、本物の……兄者と、姉者……なのか……?」
その言葉は祈りのようで、懺悔のようでもあった。
次の瞬間、紅龍は地面に両手をつき、嗚咽を漏らした。
「すまない……すまない……ッ……! あの時……儂に……力があれば………… わ、儂が……ッ……」
「──姉者の想いの……後押しをしよう、などと……よ、余計なことを……しなければ……ッ……!」
涙は止まらない。
紅龍の胸から溢れる後悔の声は、風に混ざり、かすれながら夜空へと消えていった。
彼の心が砕けていく音が、静かな戦場の空気に響く。
蒼龍と黄龍は、互いに一瞬だけ視線を交わした。
そして、迷いなく紅龍のもとへ歩み寄る。
幻影の身体が紅龍を包み込むように重なり合い、光が彼を抱きしめる。
蒼龍は、その肩にそっと手を置いた。
その指先は確かに触れられぬ幻影のはずなのに、温もりが伝わってくるようだった。
「紅龍ちゃんは……昔から、不器用なんだからぁ……」
蒼龍の声が涙に濡れる。
それでも、笑みは絶やさなかった。
黄龍もまた、紅龍の背を抱きしめながら嗚咽を漏らす。
「俺達こそ……すまない……ッ……。あの日、お前を置いて逝った……兄として、情けない限りだ。」
「兄者……姉者……ッ……!」
紅龍は両腕を広げるようにして二人の幻影を抱きしめる。
光が彼の身体に溶け込み、三つの魂がまるで一つに融け合っていくようだった。
アルドは、その光景を少し離れた場所から見守っていた。
何も言わない。
ただ、ゆっくりと目を細め、静かに頷いた。
風が吹く。
焦げた空気の中に、どこか懐かしい匂いが混ざる。
それは——家族の温もりだった。
光は少しずつ穏やかに薄れていく。
だが、その温度だけは、確かにそこに残っていた。
◇◆◇
しばらくの間、ただ静寂だけが残っていた。
風の音も、戦いの余韻も、すべてが止まってしまったかのような——そんな静けさ。
淡い光がふたつ、紅龍の傍でゆらりと浮かび上がる。
それは、蒼龍と黄龍の幻影。
光の粒をまといながら、ゆっくりと天を目指して上昇していく。
その輪郭は少しずつ薄れていき、やがて、今にも風に溶けて消えてしまいそうだった。
「……兄者……? ……姉者……?」
紅龍の掠れた声が、夜の静寂に溶けた。
立ち上がろうとするも、膝が震えて力が入らない。
ただ、必死にその消えゆく背を見つめることしかできなかった。
黄龍が穏やかに振り返り、静かに言葉を落とす。
「……俺たちの肉体は、ここではない世界で、すでに滅んでいる。──帰る場所のない魂は……天へと還るのだ。」
その言葉に、紅龍は唇を震わせた。
「そ……そんな……ッ……! 漸く……会えたというのに……!?……!」
顔を上げた紅龍の瞳からは、涙が滝のように流れていた。
その涙は、焼け焦げた大地に落ちるたび、蒸気のような霞を上げる。
蒼龍はそんな弟を見つめ、ほんのりと笑みを浮かべた。
その笑みは、まるで生前と変わらぬ、優しい姉の顔だった。
「ほらぁ、泣かないの。紅龍ちゃんは……いつまで経っても、子供なんだからぁ。」
その声は柔らかく、風鈴の音のように澄んでいた。
紅龍は嗚咽を押し殺しながら、なおもその名を呼ぶ。
「兄者、姉者……! お願いだ、行かないでくれ……!」
だが、光はもう止まらない。
黄龍もまた、静かに頷くように視線を紅龍へ向ける。
「……仮初の身とはいえ、最後に三龍仙で再び討竜へと挑めたこと……それだけで僥倖だった。
──結果は、惨敗も惨敗だったがな。」
黄龍はそう言って、チラリとアルドの方を見た。
その表情には、悔しさよりも清々しさが宿っていた。
アルドは目を伏せ、どこか照れくさそうに肩をすくめる。
蒼龍がくすくすと笑う。
「アタシたちみたいな、清く正しい仙道の魂とは、また天国で会えるわよぉ。
……あ、でもね? 紅龍ちゃんはこっちの世界でい〜っぱいオイタしちゃったから……」
その瞳がイタズラっぽく細まる。
「長生きして、たくさん良いことをしなきゃ、アタシたちと同じとこには来れないかもねぇ? 頑張りなさい。」
「姉者ぁ……ッ……!」
紅龍は伸ばした手を、必死に天へと掲げる。
だが、掴もうとした光は指先からすり抜けていく。
まるで、夢の終わりを手で引き止めようとしているかのようだった。
——その時だった。
「……そうだよ。行くには、まだ早いって。」
その声が、静かに空気を震わせた。
どこからともなく響いた少年の声。
聞き覚えのあるその声に、三人の龍は一斉に顔を向ける。
アルドが立っていた。
夜風に銀の髪をなびかせ、手のひらを前へとかざしている。
その掌の周囲に、淡く輝く泡のような光が集まりはじめていた。
次の瞬間——
“ぽわん”と音を立てて、黄龍と蒼龍の幻影が巨大なシャボン玉に包まれた。
虹色の光を映すその泡は、ゆらりと膨らみ、二人の魂をやわらかく閉じ込める。
それはまるで、消えゆく命を守る“揺り籠”のようだった。
「……えっ?」「……な、何これ……!?」
泡の中の二人が、ほぼ同時に驚きの声を上げる。
彼らの輪郭は先ほどよりもはっきりと戻り、光の濃度が増していく。
紅龍も呆然と立ち尽くしていた。
目を大きく見開き、声にならない息を吐く。
視線の先、泡を操るアルドの瞳が静かに輝いていた。
アルドは軽く息を吐き、肩を回しながら言った。
「ブリジットちゃんから頼まれてるんだよね。」
「“蒼龍さん達も助けてあげて”ってね……!」
柔らかな笑み。
怒気でも憐憫でもない、ただ真っ直ぐな慈しみの色がそこにあった。
蒼龍は泡の中から、目をぱちくりと瞬かせながら
「ちょ、ちょっとぉ……」
と呟く。
黄龍もまた言葉を失い、ただ茫然と弟とアルドを見つめる。
夜空の下、虹色の泡がゆっくりと揺れる。
そこにはもう、絶望も、悲しみもなかった。
ただ、かすかな希望の光だけが、静かに瞬いていた。
◇◆◇
「い、一体……何を……!? 一体、何をなさるおつもりなのですか……ッ!?」
紅龍の声は震えていた。
目の前のアルドは、まるでこの世の理を無視するように、穏やかな顔で光の泡を弄んでいる。
その表情に焦りも迷いもない。ただ、澄みきった湖面のような静謐さがあった。
アルドは淡々と答える。
「二人の魂を、“竜泡”で包んだ。これで……霧散したり、成仏したりはしないはず。」
蒼龍の幻影が泡の中でバタバタと手を振る。
「ちょ、ちょっとぉ!? アルドくん!? な、何をするつもりなのぉ!? 魂を閉じ込めるなんて、無茶し過ぎよぉ!」
隣で黄龍も慌てたように眉をひそめる。
「い、いくら魂を保存できようと……肉体のない我らに未来など……!」
だがアルドは、軽く息を吐いて肩を回すと、口の中で何かをモゴモゴと動かし始めた。
「── だったら、魂の依代を作ってやればいい。」
紅龍がそれを聞いて青ざめる。
「ば、馬鹿な……!? 死者を蘇生するなど……! いかに貴方が凄まじい力の持ち主とて、それは──神の意に背く所業! 出来るはずがありませぬッ!」
神の存在など信じない紅龍の口から、思わず漏れる言葉。
アルドは無造作に頬をふくらませたかと思うと——
「ぷっ」と、何かを右手に吐き出した。
ころりと転がった二つの白いもの。それは、磨かれたように艶のある奥歯だった。
「──神? 知らないよ、そんなもん。」
アルドは軽く笑う。その瞳の奥には、どこか遠い光が宿っていた。
「もし神様ってのが本当にいるなら……今から起こることは、“橘隆也”を“アルドラクス”に生まれ変わらせた、そいつの責任だよ。」
そう言い、アルドは手のひらに乗せた歯を宙に放り投げた。
「"竜牙兵"」
——次の瞬間。
白銀の閃光が走った。
空気が震え、地面の砂粒が浮き上がる。
放られた二つの歯が眩い光を放ちながら膨張し、金属の軋む音を響かせて、人型を成していく。
それは等身大の白銀のデッサン人形のような姿——無垢で、顔のない「依代」だった。
紅龍は呆然とその光景を見上げ、声を失った。
彼の知るどんな仙術とも違う。
ただの“現象”として、世界の理が組み替えられていく——そんな錯覚すら覚えた。
アルドは、光に包まれた依代を見上げ、にっと笑った。
「実際やるのは初めてだから──っ! ミスって変な感じになっちゃったら……ゴメンねっ!!」
その瞬間、空気が弾けた。
“竜泡”に閉じ込められていた黄龍と蒼龍の魂が、アルドの掌の動きに合わせて泡ごと舞い上がる。
銀の光の粒子が渦を巻き、二つの泡は軌道を描くように白銀の依代の胸の中へと吸い込まれていった。
「なっ……!? こ……これは、一体…ッ!?」
紅龍が叫ぶ。しかしその声は、風に呑まれて消えた。
アルドの周囲から銀色の魔力が奔流のように吹き出す。
それは夜空を染め、星のような輝きを放ちながら大地を照らす。
周囲の瓦礫や残骸が浮き上がり、アルドの体を中心に螺旋を描く。
「真祖竜のスキルと、人間の魔法のコラボ技ってやつだ——!」
アルドが印を結んだ瞬間、空気が震えた。
その声は、言葉というより“宣言”だった。
世界の根幹に直接響き渡るような重みを持ち、地面が低く唸りを上げる。
「──"再顕現"ッ!!」
——轟音。
——閃光。
——そして、息を呑むほどの静寂。
白銀の奔流が地平線まで広がり、瓦礫の破片が浮き上がる。
世界の色が一瞬、すべて“白”に塗り潰される。
そこには熱も、風も、時間すら存在しない。
ただ、純粋な「再生」の概念だけが息づいていた。
やがて、光の中から二つの影が現れる。
はじめは曖昧で、まるで夢の中の像のようだった。
しかし、徐々に輪郭が濃くなり、透明な皮膚に色が宿り、髪が風に舞い——
金糸のような光沢が夜を照らし、青の衣が波のように揺れる。
──そこに立っていたのは、確かに“彼ら”だった。
黄龍はゆっくりと己の掌を見つめた。
その指がわずかに震え、空を掴むように動く。
「し……信じられん……ッ……! こんな……!」
声はかすれていたが、確かな生の温もりがそこにあった。
蒼龍は足元に目を落とし、指先で頬をなぞった。
「アタシ達……本当に……蘇ったの……?」
彼女の指先が涙を拭うと、それが頬に残る“塩の重み”を感じ、瞳を大きく見開いた。
——もう幻ではない。
光でも影でもない。
確かに、命が宿っている。
アルドはふうっと息を吐き、軽く頭をかいた。
少し気恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、何でもないように言った。
「とりあえず、仮の肉体として使ってるのは、俺の"歯"だけどね。」
紅龍は茫然自失で、唇を押さえた。
震えが止まらない。胸の奥が、痛いほど熱い。
(“神の意に背く所業”……? 違う……儂は……大きな勘違いをしていた……!)
その心に広がるのは畏怖ではなく、崇敬だった。
(このお方こそが……神そのものではないか……ッ!)
紅龍は堰を切ったように泣き崩れた。
嗚咽が漏れ、地面に両手をついて頭を垂れる。
その背中に、温もりが重なる。
蒼龍と黄龍が、まるで子を包む母のように、その体を抱き締めたのだ。
「ああ……紅龍ちゃん……ッ……!」
「兄者……姉者……儂は……ッ……!」
紅龍の言葉は涙に溶け、声にならない。
その涙が頬を伝い、掌を濡らし、地面に落ちた雫が銀の光を放つ。
それは、まるで星々の欠片が大地に舞い降りたようだった。
アルドは少し離れた場所から、その光景を静かに見つめていた。
彼の目にも、ほんの少し涙が浮かぶ。
けれど、その表情はどこか穏やかで、遠く懐かしいものを見ているようでもあった。
「……三人とも。」
柔らかい声が夜に響く。
「まだ全部、終わったわけじゃないからね。」
その言葉に、三龍仙は顔を上げた。
アルドの瞳には怒りも威圧もなく、ただ“人”としての優しさが宿っていた。
「やっちゃったことは、無かったことには出来ない。
……だからさ。皆に、ごめんなさいして、後始末、頑張れる?」
紅龍は泣き腫らした目をこすり、震える声で答えた。
「は……はい……ッ……! 必ずや……!」
黄龍は胸に手を当て、静かに頭を垂れる。
「我ら三龍仙……命を懸けて償います……。」
蒼龍も涙で滲む笑顔を浮かべながら頷いた。
「……ありがとう……アルドくん……」
三龍仙は互いを抱き合い、再び肩を震わせた。
その抱擁は、過去と現在、罪と赦し、そして家族の絆をひとつに結ぶ。
銀色の風がそっと三人の背を撫で、夜空に消えていく。
星明りが再び瞬き、まるで世界そのものが——再び呼吸を始めたかのようだった。