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第175話 アルド vs. 三龍仙② ──強く優しい竜──

黄龍の巨体がアスファルトに深々と突き刺さり、土煙を巻き上げて動かなくなる。

その衝撃は遠くにまで響き渡り、戦場を見守っていた者たちの胸にまで振動を伝えた。


マイネは、その光景を凝視したまま息を呑み、喉の奥からかすれた声を漏らす。




「……あ……圧倒的じゃな……道三郎の力は……」




瞳には恐怖と同時に尊敬の色が宿っていた。




「“大罪魔王級”と称されるベルゼリア最強の将軍、紅龍……その分身体を……スキルも使わず、ああも容易く……」




隣に鎖で縛られたヴァレンは、珍しく真剣な声色で口を開く。




「ああ……単純な戦闘なら、相棒が負ける要素は一ミリたりと無ぇよ」




その声音は確信に満ちていたが、その額には一筋の冷や汗が流れている。


ヴァレンの心は冷静さの裏で、焦燥にかき立てられていた。




(……だが、出来れば初撃で三人まとめて倒して欲しかったぜ……!)


(今の紅龍は、自分達のプライドを守る為、あえて“我欲制縄”を使わずに相棒に挑んでいる……!)


(だが、もし奴が……“力では敵わない”と悟ったその時……!)




唇を噛み、ヴァレンは視線を前へ戻した。紅龍と蒼龍、そして彼らと向き合うアルド。



だがその緊張感を吹き飛ばすかのように、横からは能天気な声が次々と飛んできた。




「アルドくん……! か、かっこいい……!」




両頬を赤らめ、ブリジットは思わず、といった様子で呟く。




「さっすが兄さん!! 鬼ツエーっす!! そこに痺れる、憧れるぅー!」




リュナは縛られた鎖をガチャガチャと鳴らし、すっかりファンのノリで叫んでいる。




「ああん、アルドきゅん!! なんてパワフルなのッ!? ギャタシもう、メロメロだわぁ〜!」




巨大なティラノフェイスを輝かせ、ジュラ姉は身をよじって恍惚とした声を上げる。




「道三郎殿……! このベルザリオン……心の底から敬服いたしますっ……!」




ベルザリオンは涙目で胸に手を当て、感極まったように声を震わせた。




「凄すぎますっ! 黄色の人が収穫前の大根みたいになってますっ!」




フレキは鎖に繋がれたままハッハッと息をしながら称賛する。


戦場を見渡せば、皆がワイワイと盛り上がっていた。緊張と畏怖に震えていたのは、もはやマイネとヴァレンだけだ。


その光景に、ヴァレンは思わず苦笑する。




(……皆、相棒が来てから、何の心配もしてねぇな)




小さく笑みを浮かべたその目が、再び真剣な色を帯びてアルドへと向けられる。




(──頼むぜ。紅龍の気が変わって“我欲制縄”を使う前に……早めに決めてくれ、相棒……!)




胸中で静かな祈りを捧げながら、ヴァレンは鋭い眼差しで友の背中を見つめ続けた。




 ◇◆◇




黄龍の上半身がアスファルトに突き刺さり、瓦礫と煙に埋もれて動かなくなっている。


その隣に、小柄な少年が静かに立っていた。


アルド。


ただそこに佇むだけで、場の空気を支配している。


紅龍は、冷たい汗が背を伝うのを感じながら、その光景を見つめていた。隣では姉、蒼龍が小刻みに肩を震わせている。




(……兄者の感じた恐怖は、正しかったということか……!)


(この小僧……いや、この竜は……かつて無い強敵……ッ!!)




喉の奥が渇く。だが紅龍は、己の内に生じた怯えを悟られまいと、唇の端を吊り上げた。作り物の笑みを浮かべ、声を張る。




「黄龍の兄者を……こうも容易く倒してのけるとはな」


「凄まじい功夫よ。それに、容赦も無い」




わざと黄龍の下半身──地面から無惨に生えたその足──へ視線を流し、挑発めいた言葉を吐く。


アルドは少し首を傾げ、あっさりと返す。




「そう? 大分優しくしてあげたつもりなんだけど」




パキパキ……と指の関節を鳴らしながら、淡々と続ける。




「俺のゲンコツに比べたら、アスファルトの硬さなんて、スポンジみたいなもんだからね」




その声音には冗談めいた軽さがある。だが、紅龍の全身を包むのは寒気だった。




(……ハッタリではない。あの拳……打ち込まれれば即ち“死”であると……我が魂が告げている……!)




思わず喉が鳴る。ゴクリ、と唾を飲み下す音が耳に響いた。




(“我欲制縄”を使うか……?)




一瞬、その選択が脳裏を過ぎる。だが、紅龍はすぐに首を振った。




(いや……それでは、我ら三龍仙が此奴一人に劣ると認めるも同然……ッ! それだけは、許されぬ!)


(それに……儂の奥の手は“我欲制縄”だけではない……!)




決意を固めるように、紅龍は双刀をヒュンヒュンと旋回させる。

刃が赤く輝き、じわじわと熱を帯びて炎を纏い始めた。


その隣で、蒼龍もまた小さな震えを抑え込むように深呼吸し、両手の扇を持ち直す。




「──心配かけてごめんなさい」




蒼龍の声は震えていたが、その瞳には覚悟の光が宿っていた。




「……アタシもやるわ。紅龍ちゃん!」




紅龍はニッと口の端を釣り上げ、双刀を構え直す。




「──放馬過來(ファンマーグォライ)(かかって来い)ッ!」




燃え盛る双刀を前に突きつけ、堂々と挑発するその声。だが次の瞬間、紅龍は違和感を覚えた。


アルドが──自分を見ていない。


視線の先にあるのは、隣の蒼龍だった。




「……えっ!?!?」




蒼龍の肩がビクッと跳ねる。


慌てて左右にちょこちょこと小走りで動いてみる。

だが、アルドの首もそれに合わせて動く。まるで標的を逃さぬ狩人の眼差し。




「つ……次は、アタシって事ぉ〜!?!?」




涙目になり、蒼龍は震えながらも媚びるように微笑む。




「ア、アタシ、女の子だしぃ……ちょっと、手心とか加えてくれたら……嬉しいなっ……!!」




その仕草は必死の愛嬌。だが、アルドは一切表情を変えず、ただ静かに見つめ続ける。




「姉者ッッ!!」




紅龍が堪え切れず、怒号を上げた。




「みっともない真似をするなッ!!」




怒声が響き、紅龍の額に青筋が浮かぶ。蒼龍は小さく「ひぃっ」と身をすくめた。




 ◇◆◇




蒼龍の手が震えていた。だが、彼女は自らを鼓舞するように声を張り上げる。




「わ、分かったわよぉ! やってやろうじゃないの!」




その両手に握る扇が、ひらりと舞う。刹那、大地が低く唸りを上げた。


アスファルトが裂け、土砂が盛り上がる。そこから鎌首をもたげたのは──二匹の岩蛇。


ビルの二階をも超える巨体が、口を開け、鋭い岩牙を剥き出しにする。ズズン、ズズンと大地を揺らし、アルドめがけて突進を開始した。


その直後。




「破ッッ!!」




紅龍の咆哮と共に、彼の両手の双刀から赤熱の炎が噴き上がる。刀身がうねり、炎は形を変えた。


二匹の巨大な炎竜が唸りを上げながら、岩蛇に続いてアルドを呑み込まんと迫る。


四体の巨獣が、一斉に少年へ襲いかかる。


だが、アルドは──表情一つ変えなかった。


ただ静かに、足元の瓦礫に視線を落とす。そして、地面に転がっていたアスファルトの破片を二つ拾い上げると、指先で軽く弾いた。



ビッ!!



乾いた音と共に、石片は弾丸のように空を裂く。



ズシャァンッッ!!!



岩蛇の頭部が直撃を受け、次の瞬間──パァン!!と爆ぜた。

砕け散った岩片が宙を舞い、巨体は痙攣したのち、その場に崩れ落ちた。


蒼龍の瞳が大きく揺れる。




「ひっ……!?」




だがアルドは追撃の手を止めなかった。

腰のマジックバッグから銀色の水筒を取り出す。カチリと蓋を開け、水をひと口含む。


そして。




「──プップッ!!」




口から吐き出されたのは、二発の小さな水弾。

一見、ただの水飛沫にしか見えない。だが、その速度は視認すら困難なほどだった。



ズバァァァンッッ!!!



炎竜の頭部へ直撃した瞬間、轟音を立てて火炎の化け物は弾け飛ぶ。

火の粉となって夜空に散り、まるで花火のように儚く消滅していった。


残ったもう一匹も同じだ。小さな水弾に貫かれ、パァァン!と破裂音を残して煙と化す。



……沈黙。



わずか数秒の間に、四体の巨獣が無に帰した。


蒼龍は顔を青ざめさせ、震える声を漏らす。




「──な、何なのぉ!? この子……!?」




紅龍の瞳も大きく見開かれ、炎を纏った刀を下げることすら忘れていた。




「……化け物が……ッ……!!」




そんな二人をよそに、アルドは残りの水筒をゴクゴクと飲み干す。喉を潤し、最後にプハッと息を吐いた。

そして、何事もなかったかのように肩をすくめる。




「あ、ちなみに。今のはスキルでも何でもないからね」


「ただ、石投げて、水吹き出しただけだよ」




サラリと放たれた言葉に、紅龍と蒼龍は揃って絶句した。

戦場を支配するのは、圧倒的な力の差と、信じられぬほど自然体な少年の姿だけだった。




 ◇◆◇




蒼龍の喉がひくりと鳴った。




(……魔竜ちゃんは言ってた……この少年は、人に化けた『超強い竜』だって……!)


(その話を聞いて、アタシは……てっきり、この子は師匠──喰竜と同じ“上位竜”なんだって思い込んでた……)




視線が自然とアルドに縫いつけられる。

その歩みはあまりに無造作で、それでいて逃げ場を一歩ずつ確実に奪っていく。




(……甘かった……! この子は……この竜は、そんな次元の存在じゃない……ッ!)




ぞわり、と背筋を冷気が駆け上がる。

目に映るのは、蒼龍を正面から見据え、首をゆっくりと彼女に向けるアルドの姿。

グルン、と無感情に回るその首の動きが、異様に生々しくて、心臓が嫌な音を立てる。



スタッ……スタッ……。



軽い足音を響かせて、アルドは歩き出す。迷いなく、一直線に蒼龍へ向かって。




「ヒ……ッ……!?」




小さな悲鳴が漏れた。視界が揺れ、膝が勝手に震える。




「姉者に近寄るなァッッ!!」




紅龍の絶叫が夜を裂いた。

その両手に握る双刀を、カチリと組み合わせる。

刃と刃が噛み合い、一振りの双刃刀へと変形する。



キィィィィンッッ!!

 


それを車輪のように回転させ、火花を散らしながら弾丸のように飛び出した。

紅の髪が逆立ち、瞳に烈火のごとき殺意が燃える。




「オオオオオオオオッ!!!」




刃が届く直前。


アルドの身体が沈む。

低く、鋭く、しなやかに──。


そして。



バギィィッッッ!!!!



アルドの後ろ蹴りが、紅龍の双刃刀に直撃した。

ガギィィン!と金属を悲鳴させながら、紅龍の両腕が痺れに震える。




「お、重……ッッ……!?」




次の瞬間。

紅龍の身体は、ガードの姿勢のまま弾丸のように吹き飛んだ。



ドゴオオオオオオオオオオン!!



高層ビルを一つ、二つ、三つ……四つ。

ガラスが割れ、コンクリートが砕け、火花と粉塵を撒き散らしながら、紅龍は都市の夜景を突き破り続ける。


やがて遠くで爆煙が上がり、地鳴りが尾を引いた。




「……あっ、やべっ」




アルドが小さく呟く。

まるで空き缶でも蹴飛ばしたかのような、気の抜けた声色で。


彼はチラリと後方を振り返り、観戦していたマイネに向けて頭を下げた。




「ごめーん、マイネさん! 手加減、間違ってビル壊しちゃった!」


「後で直すから……!」




両手を合わせ、ペコペコと何度も頭を下げる。


マイネは引き攣った顔で、口元には呆れた様な笑みを浮かべながら返した。




「あ、ああ……もう……気にせんで……好きに戦っておくれ……」




アルドはぱっと笑顔を見せ、手を振った。




「分かった! ありがとう!」




そして、くるりと蒼龍へ向き直る。


その視線に射抜かれ、蒼龍の心臓は跳ね上がった。

膝から力が抜け、尻餅をつく。




(こ、こんなの……勝てるわけ……無い……!)




恐怖に支配された彼女の瞳に、ゆっくりと迫るアルドの影だけが映っていた。




 ◇◆◇




膝を崩し、地面に尻餅をついた蒼龍は、震える指先で必死に後ずさる。

だが、背中に冷たいコンクリートの壁が迫っているのに気づいた瞬間、彼女の瞳から希望の光は完全に消えた。


その眼前に、アルドがしゃがみ込む。


柔らかい声色で、まるで幼い子をあやすように。




「ごめんね、怖がらせたかな……?」




蒼龍の目が大きく見開かれる。


──何を言っているの、この少年は? さっきまでビルを吹き飛ばした怪物じみた存在が、今はまるで隣家の気さくな兄ちゃんのように、こちらを気遣って微笑んでいる。


アルドは指を立て、地面に突き刺さったままの黄龍を示した。




「ほら、あっちの彼……キミのお兄さんも気絶してるだけだから! ちょっと……犬◯家みたいにはなっちゃったけど!」




どこか申し訳なさそうに言い添える。




「でも、あれは鬼塚くんの魂を奪ってカッチカチにしちゃった黄龍さんが悪いからさ。仕方ないよね? 少しは反省してもらわないとだし!」



「……あ、アナタ……何を言ってるの……?」




恐怖に顔を歪ませながらも、思わずキョトンとした声が蒼龍の口から漏れる。

理解できない、というより──理解したくない。


アルドは困ったように頭をかき、視線を逸らす。




「……あー、実はさ。俺、キミ達の事情っていうか……色々聞いちゃったんだよね。過去の……お師匠様とのこととか……」




一瞬、蒼龍の表情が止まった。


しかし次の刹那、かっと目を吊り上げ、憤りを隠さぬ瞳でアルドを睨みつけた。




「……それで? それを知ったアナタは、アタシをどうしようってわけ?」


「強くて優しいアナタは、可哀想なアタシに──同情でもしてくれるのかしらぁ?」




嘲るような声音。だが震える声色が、心の奥に隠しきれない怯えを滲ませていた。


アルドは表情を変えず、ただ静かにその声を聞いていた。

やがて口を開き、あっさりと告げる。




「……うん、そうだよ」




蒼龍の心臓が跳ねた。




「可哀想だと思ってるし、同情もしてる」




淡々とした声が、逆に胸に突き刺さる。




「それに……出来れば助けてあげたいとも思ってる」



「な、なんで……!」




蒼龍の声が裏返る。涙がにじみ、しかし必死に睨みつけた。




「なんで、そんなことを言えるのよッ! アタシは……アタシ達は、アンタの敵なのよッ!?」




叫ぶと同時に扇を振るい上げる。

キィィィンッと空気を裂き、氷の刃が無数に伸び、鋭い牙のようにアルドの全身を斬り裂かんと迫る。


だが。


バシュウッ! パァン! パァンッ!


氷の刃はアルドの身体に触れた瞬間、逆に砕け散り、透明な破片が光の粒となって宙を舞った。


アルドは微動だにしない。

ただその場に立ち、必死に攻撃を繰り出す蒼龍を見つめ続けていた。




「……ブリジットちゃんがさ」




静かに、けれど確かに届く声。




「キミのことを助けてあげてって、言ってたんだ」




氷の刃が砕け散るたび、蒼龍の心の氷壁も崩れていく。




「だから……俺は彼女の願いを叶えるために、キミのことも助けてあげたい。そう思っただけだよ」




蒼龍の瞳が揺れた。

その胸に去来するのは、怒りでも憎しみでもない。




(ああ……この子は……この竜は……なんて優しく、強い……)


(そして……心の底から……ブリジットちゃん達を、大事に思っているのね……)


(──羨ましい。)



視界がにじむ。頬を一筋、温かい雫が伝った。


アルドはそっと手を伸ばし、蒼龍の額にかざす。

柔らかな微笑を浮かべて。




「戦いが終わるまで、ちょっと眠っててよ」


「なるべく……悪いようにはしないつもりだからさ」




睡眠の魔力が淡く流れ込み、蒼龍のまぶたが重くなる。


最後の力で彼女は呟いた。




「……お願い……紅龍ちゃんを……アタシの……可愛い弟を……止めてあげて……」




ぽたりと涙をこぼし、蒼龍は静かに崩れ落ちた。


規則正しい寝息が響く頃、アルドは困ったような、けれどどこか慈しみに満ちた眼差しで彼女を見下ろしていた。




 ◇◆◇




──轟音。


高層ビルの瓦礫が、まるで爆薬を仕掛けられたかのように四散した。


煙と塵が吹き荒れ、そこから現れたのは、なお健在の紅龍。両手に携えた二刀は赤々と光を帯び、刃の縁から熱気が迸っている。




「……やはり、手に入れたばかりのスキルは、上手く使いこなせんようだな」




その声には、怒りと嘲笑が入り混じっていた。

赤い瞳が鋭く細まり、地に伏した黄龍と眠りについた蒼龍を一瞥する。




「分身で作った兄者も姉者も……結局、敵に恐れを為し、情を移すか。……とんだ出来損ないだったわ」




静かな憤怒。声を震わせるほどの激情を押し殺しているのが、誰の耳にも分かった。


アルドはその言葉を聞き、瞳を細める。

わずかに顎を上げ、ギラリと紅龍を睨み返した。




「……この人は、最後まで、弟であるアンタを心配してたよ」




その一言に、紅龍の眉間がピクリと動く。




「笑止!!」




叫びは、怒りを覆い隠す必死の声だった。




「“それ”は所詮、分身体に姉者の真似事をさせた人形に過ぎん! 感情など有り得ぬ……!」




だがその否定の響きには、わずかな迷いが滲んでいた。


紅龍は二刀を高く掲げ、まるで宣言するかのように言い放つ。




「──貴様は、我が人生において最強の敵。それは最早、疑う余地も無い」


「故に……我ら"三龍仙"の最終秘技を持って、貴様を屠る!!」




次の瞬間──黄龍と蒼龍の身体が淡い光に包まれた。


その姿が崩れ、粒子となり、やがて二つの宝珠──黄金と蒼の輝きを帯びた宝珠へと変化する。




「なっ……!」




遠くで見ていたブリジットが息を呑む。


宝珠は音もなく紅龍の胸へ吸い込まれ、瞬間、天地を揺るがすほどの魔力が解き放たれた。

紅蓮の炎が渦を巻き、青雷が迸り、金色の光が空を裂く。




「“三龍合一(さんりゅうごういつ)”……!」




低く呟いた声が、雷鳴のように地を這った。

光が弾け飛び、現れたのは──紅の髪に、金と青のメッシュを帯びた姿の紅龍。


その身体を覆う装束は、赤・青・黄が複雑に入り混じり、燃え盛る炎の紋様と雷光の筋が走っていた。


その姿はまさに、三つの龍が一つに収斂した、戦の化身。




「さあ……始めようぞ」




紅龍が静かに拳法の構えを取る。

その気配は、先ほどまでとは比べ物にならぬほど濃く、鋭く、圧倒的だった。




「真なる闘争を……!」




周囲の瓦礫が震え、地表がひび割れる。

ブリジットもリュナもジュラ姉も、ただ息を呑んで立ち尽くすしかない。


そんな中、アルドは──ぽり、と首を鳴らしながら、のんびりとした声を漏らした。




「……自分で分身しといて、更に合体するとか……」




肩を竦め、呆れたように。




「そんなんアリなの?」




あまりに場違いな呑気さが、張り詰めた空気を一瞬だけ揺らした。


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