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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第五章 魔導帝国ベルゼリア編

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第143話 ヴァレン vs. 紅龍 ──ハイエスト・ウェイの戦い──

──魔都スレヴェルド上空。


摩天楼の間を縫うように走る高架道路 "ハイエスト・ウェイ"は、夜景の光を背に二人の巨影を映し出していた。


フェンシングの騎士を思わせる端正な立ち姿。

 

左手には黒皮の魔本"ときめきグリモワル"、右手には十一本の薔薇が巻き付いた魔剣"最愛の花束(イレブン・ローズ)"を構えたヴァレン・グランツ。

 

彼の背に吹き抜ける風は軽やかで、どこか舞台上の貴公子を思わせる。


 

対するは、"ベルゼリアの紅き応龍"の異名を持つ将軍。

 

紅蓮の衣を纏い、両手に握るのは緋色の双剣"緋蛟剪(ひこうせん)"。

 

その構えは武術の舞踏そのもの──中国拳法の剣舞を思わせる流麗さと、炎を宿す猛獣の凶暴さを兼ね備えていた。




()ッッ!!」




紅龍が踏み込む。


炎を纏った双剣が夜を裂き、ヴァレンへと殺到した。


その一撃は、ビルの壁面にまで衝撃波を刻み込む暴威。




──キィンッ!




だが、ヴァレンは軽やかに剣を振るい、その斬撃を受け流す。


細剣と細剣が火花を散らし、残光の軌跡が夜空に弧を描いた。


 

その瞬間、ヴァレンの眼が淡く光る。

 

魂視(ソウル・サイト)


 

紅龍の魂が視界に透けて見えた。

 

紅き竜魂に癒着するように──無数の光の塊。

 

呻き声を上げるように波打ち、かすかな助けを求める声が響く。




(……なるほど。これが“喰われた魂”か)


(完全に消化されたわけじゃあない。紅龍の魂にべったりと張り付いて……支配されている)




次の一撃。紅龍が下段からすくい上げるように斬り上げた。

 

ヴァレンは剣を滑らせて軌道を逸らしながら、さらに奥を覗き込む。



そこには、高校生たちの魂が揺らめいていた。


目を閉じ、苦しげに呻き声を漏らす魂たち。


彼らは紅龍に飲み込まれ、意識を奪われ、いまも竜の中で蠢いている。



(……癒着部分を、綺麗に切除できれば……或いは、救えるかもしれないな)



紅龍が吠える。



「儂との闘争の最中に考え事とは、随分と余裕だのう! ヴァレン・グランツ!」



ヴァレンは口角を上げ、剣を軽く跳ね返す。



「ククク……戦場こそが、考えを整理するにはうってつけだろう? 紅龍殿」



紅龍はにやりと牙を剥いた。

 


「……減らず口よ。ならば、これでどうだ──!」



双剣の柄の部分を、カシャンと音を立てて組み合わせる。

 

繋ぎ目の鎖が柄の内部に収納され、双剣は一本の双刃刀へと変貌した。



ギュイィィィィン……!



紅き炎が双刃を包み込み、紅龍の手の中で轟音と共に回転を始める。


回転に合わせて炎が伸び、炎の輪となって宙に浮かぶ。


その光は夜空を切り裂き、ビル群を赤々と照らす。




(はし)れ……宝貝(パオペエ)ッ!」


「"炎龍圏(ヤンロンクァン)"ッッ!!」




紅龍の腕が振り抜かれる。


炎を纏った輪が高速で飛翔し、轟音を撒き散らしながらヴァレンを襲った。



──ゴオオオオオオオッ!!!



炎龍圏は軌道上の建物を焼き切りながら飛んだ。


高架道路の欄干が一瞬で熔解し、外壁が燃え上がる。


電線が次々と爆ぜ、街灯が破裂し、スレヴェルドの夜景に黒煙が立ちのぼった。



ヴァレンは眉をわずかに寄せる。




(平気で街を巻き込むか……相変わらずイケてないねぇ……!)




対峙するヴァレンは、炎輪を正面から迎え撃ちながらグリモワルを開いた。



「"心花顕現(サモン・フラッター)"──」



だが次の瞬間、瞳が細く鋭くなった。

 


(……ッ!? 反応しない……!)



グリモワルの魔法陣は発動せず、頁の光はすぐに潰えた。



紅龍が不敵に笑う。



「クク……小娘から喰らった"封印呪法"よ。貴様の“魔神器”など、呼吸ひとつで封じられる!」



ヴァレンは舌打ちをしつつ、細剣を構え直した。



「やれやれ……野蛮な炎輪に、若者からぶんどったスキルとは。実に趣味の悪い二本立てだ」



紅龍の炎輪が迫る中、ヴァレンは右手に掲げた魔剣"最愛の花束(イレブン・ローズ)"を強く握る。


十一輪の薔薇を象った鍔が赤熱に照らされ、花弁の影が揺らめいた。



──ガァァァァンッッ!!



旋回しながら突進してきた"炎龍圏"を、剣先で正面から受け止める。


炎が噴き出し、灼熱が皮膚を焦がすように迫る。


ヴァレンの足は石畳を削り、後方へと二歩、三歩と押し戻された。


が、次の瞬間、薔薇の蔓を模した刃が炎を絡め取り、炎輪を強引に弾き上げる。



その一瞬の隙を──紅龍は逃さない。


地を蹴り、紅の体躯が弾丸のように迫る。



「オオオオッッ!!」



跳躍と共に叩き込まれる飛び蹴り。


炎龍圏の轟熱に続く追撃は、夜の都市そのものを蹴り砕くかのような一撃だった。



しかし──。



「……お前の呼吸、止まってるな」



ヴァレンは低く呟き、半回転しながら紅龍の蹴り足に自らの足を合わせた。



──ガギィィィィィンッ!!



凄絶な音が夜空に弾けた。


二人の足がぶつかり合った瞬間、紅龍の赤黒い魔力とヴァレンの薔薇色の魔力が激しく噛み合い、稲妻のような閃光となってスレヴェルドの空を引き裂く。



紅龍は空中で双刃刀をキャッチし、そのまま軽々とバク宙で距離を取った。


ヴァレンもまた優雅に着地し、剣を払って火花を散らす。

 


──わずかに、グリモワルが光を取り戻していた。


 

(……今、封印が解けていたな。やはり……)


 

ヴァレンは思考を巡らせる。

 



(影山くんの証言通り。“封印呪法”の発動には呼吸を止める必要がある。)

 

(つまり、格闘の最中、呼吸を乱した瞬間には発動できない。……なるほど、クセが見えてきた)



 

紅龍は双刃刀を構え直し、不敵に嗤った。

 



「“魔神器”を封じれば、ただの鵜戸(うど)の大木かと思えば……なかなかどうして。やるものだな」




ヴァレンは剣を掲げ、わざと軽薄に肩を竦める。




「ククク……一芸だけでやっていけるほど、大罪魔王の座は甘くないんでね」




その声の裏で、冷ややかな分析を続ける。



(まぁ……マイネの奴は力の殆どを“魔神器”に依存してるからね。"我欲制縄"を奪われれば、ほとんど何もできないポンコツだがね)



闇に浮かぶ二人の影は、互いに刃を向けながらも、次なる一手を探る静かな間合いへと移っていった。




 ◇◆◇




──スレヴェルドの夜空に、不意の影が差した。


ヴァレンと紅龍が剣を交えていたハイエスト・ウェイの上空を、小型の魔導飛空挺が轟音を響かせながら横切る。


漆黒の機体に帝国の紋章。艶やかな夜景の中で異様に目立つそれを見て、ヴァレンは片眉を上げた。




「……ベルゼリアの飛空挺、だと?」




魔剣"最愛の花束(イレブン・ローズ)"を軽く下げ、紅龍の出方を窺いながら視線を送る。


その横顔は普段と変わらぬ余裕に彩られているが、瞳の奥では油断なく“警戒”の光が揺れていた。



だが──紅龍は別の色を見せた。


炎を纏う応龍の瞳が、一瞬だけ苦々しげに細められる。



(……何だ? こいつ、仲間の飛空挺を見て嫌そうな顔を……?)



ヴァレンの胸に疑念がよぎる。


直後、飛空挺の外装に仕込まれた拡声器が鳴り響いた。


鋭い女性の声が、夜空を震わせる。




『どういうおつもりですか!? 紅龍将軍!!』




ヴァレンの耳に、聞き覚えのある名が届く。


──フラム・クレイドル。


召喚に関わった帝国側の高位魔導官、その声色は普段の冷静さを欠いていた。




『本国からの指示を待てと再三申し上げたはず……! それなのに召喚者達を喰い散らかし、あまつさえスレヴェルド内で戦闘を始めるなど……!』




強い叱責。だが、その声音には怒りよりも明らかな“焦り”が滲んでいる。


ヴァレンは心中で唸った。




(……なるほど。やはりこれは紅龍の独断。帝国の命令じゃない……?)




その思考の隙間に、紅龍が呵々と笑う。


怒りを隠すように口角を吊り上げ、芝居がかった声を放った。




「ふっふっふ……すまんな、フラムよ。儂はもう、貴様らに従うのは飽いたのだ」




冗談めかしたその言葉に、飛空挺からの声は一瞬途切れる。



『なっ……!?』



絶句の後、フラムは震える声で続けた。



『貴方は……帝国に、ベルゼリアに恩義があるはずです……!!』



紅龍の瞳が、闇夜にギラリと閃いた。

 


「……恩義?」



その声色は冷たく、先ほどまでの嘲笑すら消え失せていた。


紅龍は大気を震わせるほどの咆哮に近い声で言葉を叩きつける。



「そうか……そういう“設定”だったな!」



ヴァレンは目を細め、わずかに体を固くした。



(……設定? 今、あいつ……何と言った?)



紅龍の気配が一気に膨れ上がる。


その体躯が夜空を覆うほどに威圧を放ち、瞳の色が血のように赤く染まる。



「儂に植え付けられた『染魂の種』に描かれた記憶は──!!」



瞬間、飛空挺の中から押し殺したような悲鳴が漏れた。




『……ッ!? ま、まさか……!!』


 


フラム・クレイドル。

 

その声には、恐怖と動揺がはっきりと滲んでいた。


ヴァレンは息を呑む。

 


(染魂の……種? 魂に記憶を書き込む……? ……待て、これは……!)


 

彼の瞳は鋭く細まり、次の一言を聞き逃すまいと紅龍の口元に視線を注いでいた。




 ◇◆◇




紅龍の黄金の瞳がぎらりと光を放ち、夜空を睨み据える。

 

スレヴェルドの摩天楼を背に、その双眸はただ一機の飛空挺を射抜いていた。


 


「ベルゼリアで代々“異世界召喚”の儀式を担う、クレイドル家……」




低く唸るような声。


フラムの名を思い出すように呟き、続ける。


 


「そこに伝わる、一子相伝の秘術──召喚者がこの世界に来る刹那を狙い、無防備な魂に命令式を書き込む“染魂の種”ッ!」




ヴァレンの眉がひそりと動いた。


剣を下げたまま、内心で舌を巻く。




(……魂に命令式を書き込む? それがベルゼリアが召喚者を従えている仕組み……!?)




紅龍はゆっくりと牙を剥き、声を張り上げた。




「よもや、この儂にまで植え付けておったとはなァ!!」




怒声がビル群を震わせ、窓ガラスがビリビリと揺れる。


飛空挺の拡声器から、短い悲鳴が漏れた。



『ひっ……!?』



フラム・クレイドル。その声には、普段の冷徹さなど微塵もない。


ただ、素顔を暴かれた女の狼狽が色濃くにじむばかりだった。



紅龍はさらに吠える。




「すべて理解したわ!! ベルゼリアが儂らの周囲に人員を配置せず、召喚者と生命なき魔導機兵だけを兵に据えてきた理由……!」




両手の"緋蛟剪"をぐるりと回転させ、赤炎が輪を描く。




「万が一、貴様の洗脳が解けたとき……儂が皆まとめて“喰らう”ことを恐れていたのだろう!? 小癪なり……!!」




ギュルルルル……ッ!


双刃刀の回転が唸りを上げ、轟炎が軌跡を描く。




「──謀った報い、受けよ!!」




咆哮と同時に、紅龍は"緋蛟剪"を炎の輪のまま投げ放った。


夜空を裂く真紅の閃光。


摩天楼を照らしながら唸りを上げ、飛空挺めがけて迫る。



『か、回避!!』



フラムの声が悲鳴に変わる。


しかし、命令よりも速く炎刃は到達した。



──ガシュゥゥッ!!


鋼鉄の外殻が焼き切られ、機動部が一瞬で引き裂かれる。




『きゃあああああああッ!!』

 



フラムの叫びが、夜に散った。


飛空挺は制御を失い、蛇のように身をくねらせながら墜落していく。


遠方の大通りに激突し、ボゥンと爆炎が噴き上がった。


轟音と炎光が夜景を揺らす。



その光景を背に、回転しながら戻ってきた"緋蛟剪"を紅龍はパシッと片手で受け止めた。


炎の余熱を浴びながらも、その顔には冷笑が浮かんでいる。




「しぶとい女だ……死んではおるまい」




わざと軽く呟き、唇の端を吊り上げる。




「待っておれ……後で儂がきっちり喰いに行ってやるわ」




その言葉に、ヴァレンの視線が鋭く細められる。


魔剣を構え直しながらも、口調だけはあえて崩してみせた。




「おいおい……帝国を裏切っちまっていいのか? “ベルゼリアの紅き応龍”ともあろう者が」




紅龍はふっと鼻で笑う。


その瞳にはもはや迷いの色はない。




「何を白々しい」




紅の瞳が、獲物を睨む猛獣のように爛々と燃え上がる。




「先の会話で、貴様も察したであろう」




ヴァレンは無言のまま、剣をわずかに構える角度を変えた。


紅龍は、大気を震わせるほどの声で高らかに告げる。




「そうだ……儂は、元よりこの世界のモノではない」


「儂もまた──“異世界召喚者”よ!!」




ニヤァ……と、口角が不気味に吊り上がった。


夜景を背に浮かび上がる紅龍の姿は、異形の剣士であると同時に、“異界の戦士”としての異質さを証明していた。


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