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【250000PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第五章 魔導帝国ベルゼリア編

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第140話 ビルの谷間の巨竜


────────────────────



アグリッパ・スパイラルのリビング・フロア。


訓練を終えたクラスメイト達が、ソファやラグに思い思いに座り込み、夕食後の団らんを楽しんでいた。


天井の照明は柔らかな橙色に灯り、窓の外にはスレヴェルドの夜景がきらめいている。



鬼塚玲司は、その喧噪から一歩退いた場所に腰を下ろしていた。


木製の椅子にどっかと身を預け、手にしたグラスの水をゆっくりと喉へ流し込む。


汗で濡れたシャツが背中に張り付き、まだ身体の芯が熱を帯びていた。




「そう言えばさ!」




弾む声に顔を上げると、石田ミオがソファの背もたれに身を預けながら、スマホをいじるみたいに指先をひらひらさせていた。




「今日もまた助けられちゃった〜!」



「えっ、また? 例の“守り神”……?」




高崎ミサキが目を丸くし、カチューシャを押さえながら身を乗り出す。




(……守り神? 何の話してやがる、あいつら。)




鬼塚は眉をひそめつつ、グラスをテーブルに置き、耳を傾けた。




「そうそう! あたし、モンスターから逃げ遅れて転んだんだけどさ、気づいたら立ってたの! ほんっと一瞬で!」



「うちなんかさ〜、ベルゼリアから支給された魔導具、絶対無くしたと思ったのに……帰ったら、テーブルの上に置いてあったんだよね〜」



「ね〜!? ありえなくない? あれ絶対、守り神様のおかげだって!」




キャピキャピと笑い合うギャルズ。


その声に、近くのテーブルでカードを広げていたオタク四天王も反応した。




「いや……でも分かる。魔物との戦闘中、誰かが横からカバーしてくれた感覚あったんだよな」



「そうそう! 誰もいなかったはずなのに、急に攻撃が逸れて……!」



「マジで!? お前らもか!」




乾流星が椅子の背に足を掛けて笑い、榊タケルと五十嵐マサキも肩を並べる。




「俺もだわ! バランス崩したと思ったら、誰かに支えられた気がしたんだよな」



「分かる分かる! 絶対いるって、俺らの守り神!」




フロアの空気が一気に盛り上がる。


笑い声と「マジ?」「本当?」という声が飛び交い、皆が一様に“目に見えない味方”の存在を語っていた。



鬼塚は、無意識にグラスを握る手に力を込めていた。




(……は? そんな事、あるわけねぇだろ……)




鼻で笑い飛ばす。だが──。


仲間達の表情は真剣で、嘘を言っている様子もない。


話が重なるごとに、鬼塚の胸にざわつきが広がっていく。




(マジか……? 本当に、あるのか……?)




心臓が不意に強く鳴った。


だが次の瞬間、鬼塚はかぶりを振る。




(“守り神”、か……)


(このクソッタレな世界に、そんな御伽噺みたいなもんがいるかよ……)




彼は椅子の背に深くもたれ、グラスの水を飲み干した。


窓の外には、渓谷の闇に囲まれながら煌めくスレヴェルドの夜景。


その光を無言で眺め、鬼塚は深い吐息を洩らした。




────────────────────




崩壊したハイエスト・ウェイの瓦礫が、夜空へと舞い上がっていく。


その中を、鬼塚玲司の身体が吸い込まれるように落ちていた。



ビル群の明かりが、彼の瞳に縦横無尽に流れ込む。


吹きすさぶ風が顔を叩き、耳を裂く轟音が思考を奪っていく。




──だが。




「……っ?」




鬼塚は気づいた。


さっきまで、自分の手を確かに“誰か”が掴んでいた。


見えもしない、声もない──だが温もりは、確かにあったのだ。



その感覚が、不意に途切れている。


残されたのは、掌の奥に染みついた温かさ。




(……本当に、いたんだな。“守り神”の野郎……)


(俺を引き上げるほどの力は無かったみてぇだが……)




胸の奥がじんわりと熱くなる。


それは恐怖でも絶望でもない、ただ一つの確信。


鬼塚は空へ向かって吠えた。




「……だが、お陰で──頭冷えたぜッ!!」




腰のバックル、獏羅天盤。


指先が無意識にその歯車へ伸びる。


ギュイィィィンッ!!と甲高い金属音が夜を裂いた。




「変身ッ!!」




瞬間、紫電の奔流が鬼塚の身体を包む。


鬼とヤンキーを融合させたような紫の鎧が肉体を覆い、鋭いスパイクが肩から突き出す。


仮面の両眼が血のように赤く光り、蒸気が噴き上がった。



"魔装戦士(ストラディアボラス)"──パーフェクトフォーム。



空中で体勢を取り直した鬼塚は、さらに獏羅天盤を連続で回す。


ギュイン!ギュイン!ギュイン!ギュイン!




《インカネーション! ボコボコ──FULL・ボッコ!!》




無機質な機械音声と共に、彼の周囲に歯車の魔方陣が展開し、そこから二つの巨大な拳が召喚された。

まるでロケットパンチの化身。


紫電を纏った拳が夜空に浮かび上がり、彼の意思に呼応して動き出す。


鬼塚は血走った目で下を睨みつけ、唇を歪めた。




「……やりたかねぇが──地面に叩きつけられるよりは、マシだよなぁぁぁーーッ!!」




拳が一斉に唸りを上げる。


次の瞬間、自分の身体を斜め下から殴り飛ばすという無茶苦茶な一撃。



ドゴォォォォォンッ!!



「ぐぉっ……!? クソ……俺の拳も、捨てたもんじゃねぇじゃねぇか……っ!!」



胸をえぐられるような衝撃に呻きながらも、鬼塚は窓ガラスを突き破って近くの高層ビルへ叩き込まれた。



──ガシャァァァン!!



硝子片が飛び散り、夜風が室内へと吹き込む。


鬼塚の身体は床に転がり、鉄骨の軋む音が辺りに響いた。




「……はぁ、はぁ……」




荒い呼吸を整えながら、鬼塚はゆっくりと立ち上がる。


そこは真ん中が吹き抜けになった集合住宅のような造り。


頭上には、まだ遥か高く天井がそびえていた。




「紅龍の野郎……本格的に俺を殺しに来やがった……!」




奥歯を噛み締める。


だがその直後、耳に甦ったのは銀髪の少年の声だった。




──『俺たち、君たちを助けに来たんだ!』




鬼塚は瞼をギュッと閉じ、拳を握りしめた。




「……あぁ……完ッッッ全に、腹ぁ決まったぜ……!」




拳と拳を、ガキィン!!と打ち合わせる。


紫の火花が散り、彼の決意が轟音となって心臓を震わせた。




「俺は、アイツら……フォルティア荒野の連中に付く!!」


「そして……クラスの奴ら皆、救ってやる……!!」




叫びは吹き抜けに反響し、虚空へと木霊した。


その時だった。



──ガシャァァァン!!



頭上の上層階から、何かが吹き飛ばされるような轟音が響き渡った。


鉄骨が軋み、粉塵が舞い散る。




「なッ……!?」




鬼塚は反射的に天井を仰ぎ見た。


吹き抜けの最上層、瓦礫と硝子片の向こうで、影が蠢いている。


何者かがこの建物へ叩き込まれたのだ。


鬼塚は唇を歪め、低く呟く。




「……チッ。何か分かんねぇが──無関係じゃねぇよな!」




両脚に力を込め、壁を蹴る。



──ドンッ!



鬼塚は三角跳びの要領で吹き抜けの壁を駆け上がる。


紫の残光が尾を引き、彼の決意が夜を切り裂いた。




────────────────────


(アルド視点)




──ドサッ。


俺は『ハイエスト・ウェイ』から飛び降り、瓦礫の間を縫って地上に着地した。


周囲は高層ビル群が林立し、夜の街を埋め尽くす光が不思議なほど眩しい。




「……綺麗な街だな〜」




思わず感嘆が口をついた。


煌びやかなネオンとガラス張りのビルが立ち並ぶ様子は、どこか現実世界の光景を思わせる。



六本木……?いや、丸の内っぽい?


まあ、俺あんま行ったことないんだけどね。



自分で心の中でツッコミを入れて苦笑いする。


こんな状況じゃなければ観光気分で散策してみたかった。……が、のんびりしてる暇なんてない。




「いやいや、そうじゃないだろ! 影山くんを探すんだ!」




自分に言い聞かせて、ビルの谷間を駆ける。



その時。



──ドゴォォンッ!!



近くの高層ビルの上層階から爆発のような衝撃音が響いた。


硝子が砕け散り、煌めく破片が夜気に舞い落ちてくる。




「うおっ!? 戦闘が始まった!?」




俺は慌てて上を仰ぐ。


だがすぐに首を振った。




(いや……影山くんじゃないな。あの子に戦闘力はほとんど無い。多分仲間達か、敵の誰か……)




胸の奥に焦りがよぎるが、それを振り払う。




(みんなを信じろ。俺は俺にしかできないことをやるんだ……! 一刻も早く、影山くんを見つけないと!)




決意を新たに走り出す。



街中には、ベルゼリアの魔導機兵が巡回していた。


甲冑を纏ったような鋼の兵士たちが、機械じみた動きで街路を警備している。




「おっと……見つかったか」




視線が交差した瞬間、数体の魔導機兵がこちらへ突進してきた。


俺は深呼吸し、腰を落とす。




(万が一、中に人間が入ってたら困るから……)




本気は出さない。


迫り来る兵士の腕を取り、軽く突き飛ばす。



──ゴシャァンッ!!



魔導機兵はビルの壁に叩きつけられ、そのままガコンと力なく崩れ落ちた。


同じ要領で何体かを壁にぶつけ、道を切り拓いて進む。




「……ふぅ。俺的には、平和的な解決ってことで」




やがて、ビル群の谷間にぽっかりと広がる広場へ出た。


ここだけ空が大きく開け、四方の高層ビルが壁のように囲んでいる。


夜風が流れ込み、街灯の光が広場の床を冷たい水銀のように照らしていた。



──その時だった。



鼻先をふわりとくすぐる匂い。




「ん……? なんだろ、この香り……?」




甘く爽やかな、花の香り。


街の排気や油の匂いにまみれたスレヴェルドの空気の中では、あまりにも場違いで際立っていた。


そして、それと同時に──。




「ん……? なんか……イビキ?」




低くリズミカルな音が、夜気に混じって響いてくる。


ぐぅ〜……すぅぅ〜……時折、笛のような「ピピピピ……」という妙な音も混じる。


俺は広場の中央に一歩踏み出し、耳を澄ませながら警戒を強めた。



──そして、視界に飛び込んできたものに、思わず固まった。




「……は?」




そこにいたのは、ビルの壁に背をもたれかけ、巨大な身体を折り畳んで眠るティラノサウルスだった。




「なっ……」




某恐竜映画で見た姿よりも二回りは大きい。


全長は優に二十メートルを超えているだろう。


夜の街にそぐわない、圧倒的な存在感。


にもかかわらず、そいつは口を半開きにして、気持ちよさそうに寝息を立てていた。




「シュ〜ル……ピピピピピ……」




なにそのコミカルなイビキ。


恐竜の吐息ってもっとこう、ドゥゴォォォッ!!みたいな迫力あるやつじゃないの?


映画の予告編の最後で流れる様なやつ。


そもそも本当に恐竜なのかも分からないけど。


俺は思わず心の中で派手にツッコんでしまった。


しかもよく見ると、その口先や前足の爪に、赤いものがべっとり付着している。


月光に照らされてぎらりと鈍く光る。



(血……? いや……なんか……)



喉の奥でごくりと唾を飲む。


嫌な予感が全身を駆け巡ったが、立ち止まっている暇はない。




「な、なんでこんなビル街のど真ん中にティラノサウルスが……!?恐竜パニック映画かよ……! 魔王領だと、これが普通なのかな……?」


「……とりあえず寝てるっぽいし……。何これもう訳わかんないけど、一旦スルーだスルー……!」




俺はそっと足音を殺し、ティラノを起こさないようにソロリソロリと歩みを忍ばせた。


まるで爆弾の上を歩く気分だ。


冷や汗が背筋を伝い、心臓が鼓膜を突き破りそうなほど鳴り響く。


……まあ、起きちゃったとしても、ぶん殴ればもう一回眠らせられる気もするけど、平和的に回避できるに越した事はないよね。



だが──その瞬間。




「……っ!?」




ティラノの口の奥。


半開きになった顎の隙間から覗いたその光景に、俺の目が釘付けになった。



舌の上に、ぐったりと横たわる半透明の人影。




「か……影山く───ん!?」




思わず声が裏返り、広場に響き渡った。


ティラノが寝返りでも打つんじゃないかと慌てて口を押さえたが、幸い奴は「シュ〜ル……」と気持ちよさそうに寝続けている。



だが、そんなことより問題は──。



影山くんの左脚が、ティラノの鋭い歯の間に絶妙に挟まり、上手い具合に固定されていた。


そのせいで舌の上から転げ落ちずに済んでいるけど……


逆に言えば、少しでも動けば牙に貫かれかねない、もっと言えば胃袋の中へグッバイ!という危うい状況。




(な、なんで!? なんでこの一瞬の間に、とんでもない大ピンチになってんの!?)




俺は頭を抱え、広場のど真ん中で盛大に内心ツッコミを入れたのだった。

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