ゴシックA・1
次話 暫定版
書き直しあるかも。
ぽとり、と足元に何かが落ちた。
ヒガンはそれが落ちるさまをじっと見ていた。何故なら、それは自分の腕から落ちたものだ。
いや、そもそもそれは自分の右腕だった。そしてその右腕の手には刀が握られている。
綺麗な切断面だ。
ピンク色の肉と白い骨がよく見える。
ぴしゅ、と右腕を失った肩から血が噴出した。
そこでようやく、自分が斬られたのだとヒガンは悟った。
次に、べちゃり、と音がした。これも足元から。
見れば、他にもピンク色があった。長くて、うねうねした形をしている。
そのうねうねはヒガンの腹から出ていた。
ヒガンの腹がぱっくりと割れていた。そしてその割れ目から腸が飛び出している。
―――こっちも斬られたのか。
「ヒガンっ!?」
天城の悲痛な叫びが聞こえた。
―――あいつ、病み上がりなのに、あんな高い声出して……熱がぶり返したらどうするんだ?
天城はまだ叫んでいる。ヒガンは何か言ってやりたかったが、声が出ない。代わりに口からは内臓からの血がどばどばと溢れ出る。
血で溺れるとはこういうものか、とヒガンは納得しながら、意識が薄くなるのを感じる。
「無様な」
女の声が聞こえた。
目の前にその声の主が居る。白い肌に金色の長髪を伸ばした女だ。その手にはレイピアが握られている。
―――負けた。
ヒガンは力なくその場に倒れ伏した。
●
強風が吹き、激しい雨が降っている。雲は荒れ、暫くは太陽の光を地に浴びせることはないだろう。
草木なき荒野の土は、雨水を弾き所々に水溜りを作っているが、雨跡が多く形状が把握できない。
荒野に一つ、岩山がある。
其処には二人の男が居た。
一人は成人男性としては若い部類に入るであろう外見を持っていた。湿った長い白髪を靡かせ、腕を組んで立っている。顔立ちはどこか人間離れしたように細い。そして尖ったような目線の先は荒野の地平へと向いている。
もう一人は十の歳を過ぎた辺りの少年だ。これもまた白い髪を持っているが、耳に被さる程度に短く切られている。彼の蒼い目は今にも涙を流しそうなほど不安に満ちていた。いや、既に泣いているのかもしれない。雨の所為で判断が出来なかった。
蒼い目の少年の腕には一人の蒼い髪の女性が居た。少年と同じ歳に見える。その少女は気を失いぐったりと衰弱していた。その身体は雨と風に熱を奪われぬようにマントを巻かれている。少年が与えたものだ。
少女はマントによって見えないが、男二人の服は荒れる天候の中では場違いに見える。
成人男性は海賊を彷彿とさせる服と帽子を纏っており、少年は白と蒼のストライプが入った服で関節部などが少しふっくらとした作りになっている。
「ヒガンさんとファーディアさんはまだなのですか!?」
少年が叫ぶように言う。
すると成人男性が少年に振り向き、首を振った。
「まだ人影も見当たらん。あいつらがそう簡単にやられるとは思えんのだが……、相手はゴシック魔導隊だ。楽観的な想いは出来んな」
「そんな……」
少年は絶望した声で言い、ぎゅっ、と少女を抱く腕に力を入れる。しかし少女は何の反応も見せず、ただその目を閉じるだけだった。
「取り敢えず、雨足が弱まれば此処を動くぞ。最悪、僕たち二人で殴り込みだ」
成人男性は手に持っている鞘に収めた剣を、少年に見せるように掲げる。
「やるしかないのですか……」
少年も少女の上に乗せている鞘に収まったレイピアを見るが、腕が震えている。
それを見た成人男性は「安心しろ」と言う。
「お前たちを殺させはせん。いざとなれば国外に逃げればいいのだから」
「でも、あいつらは追って来ます。ただの逃亡生活になるだけですよ……」
「そうだな。――だから、ここでゴシック魔導隊は叩いておくべきなのだ。例え、ヒガンやファーディアが居なかろうと……」
「………」
少年は口を閉ざした。
成人男性は少年を横目で見る。彼には少年が恐怖に包まれていることがよくわかった。そして不安なのだと。
成人男性は空を仰ぐ。その顔は厳しい。
「ヒガン……、一体どうしているのだ……」
その口調はどこか旧友を心配するかのようなものであった。
少年の名はグ・コ・マリン。
少女の名はカンパス。
成人男性の名はマハカッセ・ランドラ。
この物語はグ・コ・マリンとカンパスを中心に動く。