ゲイボルク・完
そこには骸が転がっていた。
人の骸とバンプ・ナイトの骸。エーテルの蒼い粒子が止め処なく舞い上がっている。
そんな骸たちの中に立つ男が居る。
紅い紋付羽織袴を纏った染井・吉野である。
ヨシノは泣いていた。彼の目の前には一騎のバンプ・ナイトが横たわっている。
目の前に倒れているバンプ・ナイトはゲイボルクにそっくりであった。ただし色は薄緑ではなく、白色である。これはゲイボルクの姉妹機であるスカアハだった。
スカアハの頭部は砕かれ、コックピットがある胸部よりやや下の部分には大きな刀傷があった。それ以外にも激戦を行った為に各部は傷を負い、その傷からゲル状のエーテルが血のように流れ出し、粒子化していく。中にあるエーテル機関も破壊されており、既にスカアハは死んでいる状態だった。
「すまない……」
ヒガンは細く、弱く呟く。ぽつり、ぽつり、と涙が落ちる。
その涙は、至る所に転がるバンプ・ナイトとその搭乗者だった者たちに、そして目の前に倒れるスカアハに向けてのものだ。
じゃり、とヨシノの後ろで砂を踏む音が聞こえた。
「ヨシノ、此処に居たのね」
後ろには桜子が居た。ヨシノは涙を拭う。
「俺が殺した。全滅させてしまったのだ。――弔う者が居ないのなら、俺が弔うしかないじゃないか」
「ヨシノ……」
ヨシノは歩き出す。その後を桜子が追った。
「最後の仕上げになる。後の事、頼んだ」
「待って、待ってよ! 往かないで!」
桜子はヨシノに駆け寄り、その背中にしがみ付く。ヨシノの足が止まった。
「それは駄目だ。俺は撫子の処へ往かなければならない。――そして、あいつを殺して、俺も……」
「嫌よ! なんであんたまで辛い道に往くのよ! なんで、わたしだけ普通に生きるのよ!」
「……すまない。でも君は生きなければならない。これから来る混沌とする未来の為にも……既に彦には話をつけてある」
ヨシノは振り返り、そっと桜子の手を服から放すと、また歩き出そうとする。
桜子は泣く。そしてヨシノの背中に向かって叫ぶ。
「わたしたちを置いて往かないで!!」
ぴくり、とヨシノがその言葉に反応する。
「わたし……たち?」
ヨシノが振り返れば、桜子が自身の腹に手を置いていた。
「あんたを引き止めるにはこれしか考えられなかったの!」
「なんてことを……」
「……わたしはあんたとの子が欲しかった。撫子が羨ましかった!!」
「………」
「……だからわたしたちを置いて往かないで……」
その場に崩れ落ちる桜子をヨシノは見詰めた。そしてもう一度「すまない」と言い、腰に差している刀に手を置く。
「君と俺の子だ。技師と機士、どちらの血が出るか楽しみではあるな。――もし機士なら……全てが終わったら、この刀を与えてくれ……」
「ヨシノっ!?」
桜子が顔を上げた時、ヨシノの姿はなく、彼の居た場所にはエーテルの粒子が渦巻いていた。
東照の日没、前日のことである。
なんてこったい。
こんな長々と書きながら、この話が序章であった事実。
なら最初のプロローグは何か? 多分、序章の序章じゃないでしょうかね?
これからは時々、フラグメントを書きながら、次の話を書きます。あと校正