ゲイボルク・20
機械の鳥が大きく鳴いた。
その時だ。
バンプウェルズとショート・ホガーズの間に猛風が割り込む。
「!?」
驚いたのはヒガンとミカエルの二人だ。
ショート・ホガーズの手はバンプウェルズの頭部を開放し、風に押されるようにその身を後退させる。
ヒガンは見た。風の流れをだ。
猛風は横に渦巻いていた。見慣れた風の流れ。しかしそれはとても大きい。竜巻を横にしたような凶悪なものだ。
風によりバンプウェルズの躯体はびりびりと振動する。結局、ショート・ホガーズと同じく、後へと押され、尻餅を着いた。凶悪な縦の揺れがヒガンを遅い、身体を浮かされ、コックピットの上部に頭をぶつける。
「ぐんぺっ!? ――シャレにならん程いてぇ!!」
ヒガンは頭を抱え、その場で転がる。
「くそっ、誰だ! 邪魔したのはよ!!」
ミカエルはヒガンと比べて無事であった。風がやってきた方向へと振り向くが、そこは機人の村があるだけだ。
ぴゅうりりりりぃ
その鳴き声は上から聴こえた。
ミカエルはその声を追う。
鳥が飛んでいた。
ヒガンも涙目になりながら、その鳥を見上げる。
「……あれは、見たことがあるな――……」
機械の鳥。
鳥型バンプ・ナイト――カンムリ。
しかしその真の名を知る者は僅かだった。
カンムリは大空を舞う。まるで全ての視線を自分に集めているようだ。そして、十分に注目されたと思ったのか、機人の村とは反対の方向へと、その躯体を急降下させる。
ヒガンとミカエルの目はカンムリを追い、そしてその先にあるものを確かめようと、追い越す。
「ははっ!」
ミカエルが笑った。
カンムリが一度大きく羽ばたき、落下の慣性を消し、その足元にあるものに掴まり、翼を休めた。
「なんだあれは……」
ヒガンが言葉を漏らす。カンムリが翼を休めた場所についてだ。そこは肩だった。人型をしたものの肩だ。
其処にはバンプ・ナイトが居た。
とても細いバンプ・ナイトだ。
エーリングリーンをその身包んだ、枯れ木のように細く華奢なバンプ・ナイト。
頭部が長く、カンムリが掴まる肩はその細身とは対照的に大きい。
そして驚くべきはそのバンプ・ナイトが担ぐ獲物――槍だ。
百mはある躯体の更に倍はある、長い槍。
………まるで全身が槍のようなバンプ・ナイトだ。
ヒガンは始めにそう感じた。
もっと近く見る為に、モニターを拡大しようとするが、ショート・ホガーズの攻撃で主眼部がやられており、上手く焦点が合わない。
「来た来た来た!! やっと来た!!」
ミカエルが叫んだ。その声に落ち着きが無い。
細身のバンプ・ナイトはミカエルのショート・ホガーズへ顔を向け、顎を動かす。
戦いの誘いだ。
「その為に来たのか……」
ヒガンが呆気に取られていると、ショート・ホガーズがバンプウェルズに近付いた。
「悪いが、その槍……返してもらうぞ」
と、ショート・ホガーズはバンプウェルズの肩に刺さった槍に手を伸ばす。
「くっ……、そう簡単に渡しては――って、あれ? 脚が動かない……」
バンプウェルズがショート・ホガーズから遠ざかろうとしたのだが、脚を伸ばすことが出来ず膝部からエーテルを吐き出す。
――尻餅の衝撃で膝のスタビライザーと駆動部がやられた!? ――いや、それとも酷使し過ぎたか!
動けないバンプウェルズの胸をショート・ホガーズは踏み、肩に刺さった槍を強引に引っこ抜いた。べぎり、とバンプウェルズの肩にある駆動部や部品が悲鳴を上げ、壊れる。
ショート・ホガーズは、もう用なしとばかりにバンプウェルズを蹴り離し、バンプウェルズは背中を地面に叩きつけられる。その結果、ヒガンはコックピットの中でもう一度頭を打つことになる。
「俺は更に気分がよくなった。この決闘はなしにしてやる」
ミカエルはそう言い捨てると、槍を担いで細身のバンプ・ナイトへと歩いていった。最早、バンプウェルズにを目もくれない。
ショート・ホガーズが信号弾を打ち上げた。
すると、景色の一部が揺れ、だんだんと違う色を見せ始める。荒地に十数騎のS・ショート・ホガーズが姿を現す。間違いなくミカエルの仲間だ。
その様子を見て、ヒガンは悔しさでコックピットを叩いた。
「擬態装置! くそっ、思いっきり嘗められていたのかよ! 俺は!」
だが、ヒガンの悪態はミカエルには聞こえない。既にヒガンの戦闘は終了したのだ。ヒガンは何とかバンプウェルズを動かそうと、ディスプレイを操るが、脚は動く気配を見せない。
そんな時、がんがん、と音がした。バンプウェルズの装甲が叩かれているのだ。
「誰だ! 盗賊か!」
ヒガンは鉄パイプを構える。
そして強制的にコックピットのハッチが開けられた。そして一人の男が顔を覗かせる。
「よう、修行が足りんかったな」
彦だった。ヒガンを馬鹿にするにやけた顔をしている。
「彦先生……」
「まぁ、でもよく頑張った……、とでも言っておこうか。俺なら勝てたがな」
「貶して、褒めて、貶すなよ……」
ヒガンは肩の力が抜かれ、鉄パイプを下ろす。
「ほれ、掴まれ。今から面白いものが観れるぞ」
「面白いもの?」
ヒガンは差し出された手を握る。
「聞き返すなよ。気になるだろっと!」
彦はヒガンを持ち上げ、ハッチの上に降ろす。そして顔は細身のバンプ・ナイトへと向いていた。
「……彦先生はあれが何か知ってるのか?」
ヒガンは眉を顰めて訊くと、彦は「まぁな」と頷く。
「久々のお目見え。老体を引き摺っての登場だ。――よく見ておけよ、ヒガン」
彦は細身のバンプ。ナイトを指し、言葉を続ける。
「――ゲイボルク。最古にして最強だったバンプナイトだ」