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ゲイボルク・14

 機人の村。外からやってくるギャリーを収める格納庫に一台のギャリーが停車した。

 雇われで格納庫の番をしているエーリンの青年、ケネス・ミルは暇潰しに読んでいた雑誌から目を離す。

 格納庫にやってきたギャリーは普通のものより重いのか、停車時に出すブレーキ音は大きく、タイヤ跡もくっきりと残っている。

「もうちょっと穏便に停められないのか」

 ケネスは眉を寄せて不快を示すが、来訪者の相手をするのも仕事なのでいやいやそのギャリーへと近付く。

 丁度、ケネスがギャリーに着くと、中から骨太な男が一人出てくる。大柄なのは間違いないが、筋肉の締まりがよいのか、それとも体捌きが上手なのか、ケネスにはその男が身軽に見えた。

 男は古びたコートを纏い、髪の毛は無造作に伸び散らかっている。目元はどこかどんよりとしているが、面倒臭い、という感情のものではなく、どこか獲物を探している目であった。

「ようこそ、機人の村へ。機士さんも、この村の用心棒で?」

 ケネスは当たり障りのない言葉を吐きながら、男に右手を差し出す。

 男はその差し出された右手を見て、数秒黙り、ゆっくりと手を差し出し握手をする。

「……どちらかというと品定めだな」

 握手はすぐに終わる。

「はー、そうなるとバンプ・ナイトの買い物ですか」

 ケネスは少し驚いた。バンプ・ナイトはそうそう買える代物ではない。この男はその金を持っているのか、と。

 また、男の腰元にある剣を見るが、鞘は汚れきり、値打ちものではなくそこらに打っている安物だった。

 ―――まぁ、見かけで判断しちゃいかんよな。

 ケネスは無難な選択をする。

 元々、機士と張り合えるような技量は持ち合わせていない。それに機人の村でトラブルを起こしても、機士が多いこの村ではすぐに鎮圧されるのが落ちであった。

「それよりも、俺のギャリーには触るなよ」

 男はケネスを睨みつける。

 そのどんよりとした目の奥はぎらぎらとしていた。

「わ、わかってますよ。機士の人は自分のバンプ・ナイトを見られたり触られたりするのを嫌う人が居ますからね。そこらへんは心得てます」

 ケネスは半歩下がり、苦笑いで言った。

 それを見た男は「ふん」と鼻で大きく息を吐く。

「ならいい」

 そして、ずんずんと格納庫から出て行った。

 ―――また変な人が来たな……。

 ケネスは声に出さずに呟いた。

 そして、男が乗ってきたギャリーを見上げ、

「あんな風に念を押すってことたぁ、それほど大事なものなのかねぇ……」

 溜息を吐いた。


 ●


 ファーディア・コンラが機人の村を出て十日。

 ヒガン・カーネーションは退屈といえる日々を過ごしていた。

 それというものも、鬼や盗賊の襲撃がないためであり、遠くへ行こうとも自身のバンプ・ナイトが未だに修理中であるからだ。

「天城、差し入れ持って来たぞ」

 ヒガンは師である彦・麻呂との稽古を終えると、商業区で買った団子を片手に天城の工房へと足を運ぶ。最早日課になろうとしている光景だ。

「わかった。すぐ行く!」

 天城の返事が頭上から聞こえる。

 ヒガンが見上げれば、そこには全ての装甲を外され、フレームだけになったルコルパーンの姿がある。そして周りには宙吊りされた外部装甲、エーテル装甲が見える。

 二三分待つと、頬に油の汚れを乗せた作務衣姿の天城が現れる。

「ほいよ」

 ヒガンは予め用意していた手拭を渡すと、天城は手と顔を拭い「ふぅ」と気持ちよさそうに息を吐く。

「ありがと」

「別に。それよりも俺のルコルパーンはエーテル装甲もつかないじゃないか。遅くないか?」

 動力伝達も兼ねるエーテル装甲は第一装甲にあたる。つまりヒガンのルコルパーンは未だに骨子段階での修理になっていた。

 すると、天城は頬を膨らませて抗議する。

「しょうがないじゃない。診れば診るほど、問題点が見付かるんだもの。取り敢えずで、大体は終わってるからフレームの微調整さえやってしまえば、装甲の取り付けに入れるわ」

「でも次はエーテル装甲だろ。確かエーテルを流す溝――」

「エーテル回路」

「そう、エーテル回路がちゃんと繋がってるか、とかそのエーテルを流体制御とかでも時間喰うから、まだまだ待たなきゃいけないな」

「オーバーホールだからね。まったく、これは整備不足とあんたの無茶な使い方の所為なんだから」

「そ、それについては謝っただろ!」

 ヒガンは咄嗟に身を引いた。天城と会えば、同じような小言を聞かされるからだ。

 天城のバンプ・ナイトに対する愛は十分にわかるが、ヒガンはとほほ、と気疲れで泣きたくなることもある。

「まっ、でもわたしもそれなりに片手間でやってるから遅いのだけどね」

 天城は腰に両腕を当て、自分の非を認め、溜息を吐く。

「片手間ってあれか?」

 ヒガンはルコルパーンとは別のハンガーにあるバンプ・ナイトを指す。

 鱗状に造られた装甲があるためか、どことなく武士に似ているバンプナイトだ。塗装はされてなく、少し蒼っぽい色をしている。この蒼色は、形状保持、復元機能を魔術により付加された装甲特色の地の色である。

「そうよ。あの子はわたしの処女作でもあるからね。結構はりきってるんだから」

 天城は頷いた。

「でもさ。あのバンプ・ナイトは小さくないか?」

 と、ヒガンは首を傾げた。

 そのバンプ・ナイトの全長がルコルパーンよりも低いのだ。

「小さいわよ。四十くらいかしら」

「なんであんなに小さくしたんだよ?」

「お金がないのよ。あれ全てわたしのポケットマネーで造ってるもの。考えてみなさい。百m級と四十級のバンプ・ナイト。装甲の量なんかを考えても、遥かに四十mの方が安いわよ」

「まぁ、確かにそうなんだが……」

「それにバンプ・ナイトは百mである理由は、大型の鬼で時々百m級が居るからと、最初に作られたゲイボルクが百mだっただけなの。でも、ルコルパーンで五十m級でも戦えることが証明されてるから、これくらいでも問題ないわけ」

「でも大きい奴とは戦い難いだろ」

「それは機士の腕よ。わたしはこのバンプウェルズを名のある機士に嫁がせるつもりだもの!」

「バンプウェルズ?」

「あの子の名よ。なにか変?」

「いや、別に変でもないけど。八丈軍の家系だから、あのバンプ・ナイトにも八丈軍・某って名づけていると思ってさ」

「わたしはブランドには拘らない主義なの。それに比較されるのも嫌だしね。何もバックにないわたしの腕と、この子を見てもらって評価されたいの!」

「……ふーん」

 甘いな、とヒガンは思った。

 天城の展望は甘い。現実はそんなに優しくはない。

 つまり天城は無名として出発したいのだろうが、無名である辛さを知らないのだ。

 無名から大成するのは、一山当てるようなものだ。余程の運がなければ、そのまま埋もれる。

 そして、八丈軍の名を軽視し過ぎであった。

 天城がどれほど八丈軍とは関係ないと言い張っても、八丈軍のブランドはついて回るだろう。

 ヒガンはそのことを天城には言わない。

 いつか彼女も気付く時が来るだろう、と考えたからだ。

「このバンプウェルズは今のわたしを詰め込んだの! ありとあらゆる知識と技術が注ぎ込んだ。不肖の子よ!」

「いやいや、不肖じゃないだろ。言いたいことは伝わるがな」

 しかし自身の造ったバンプ・ナイトを語る天城は、自分に入り込んでおり、ヒガンの忠告が聞こえていない。

「まずはこの外部装甲! ラインシャッハ装甲といって、本来一枚のところを数枚に切り分けて、段々に重ねているの!」

「あー、あの鱗状の装甲のことね……」

「最近ではあまり使われなくなった装甲形態だけど、その頑丈さは折り紙つき! それに加えて盾も装備するから小型バンプ・ナイトだからといって脆いわけじゃないのよ!」

「盾って……。あー、あれか」

 ヒガンは吊るされている菱形を二枚重ねた形の盾を見た。

「だって、盾の騎士だもの! 盾を持ってても可笑しくないわ!」

「そりゃそうだけど、盾持ちってのは珍しいな。――てか微妙に会話が成立してね?」

「あとね。小型バンプ・ナイト用の制御プログラムも最新のものをお婆ちゃんからちょろまかして――」

「――別に会話は成立してないな。あと、ちょろまかすって何だよ、おい!」

 ヒガンが突っ込み兼語り防止として天城に脳天チョップをかますと、天城は「みゃぅ!」と亀のように首を引っ込めた。

「い、痛い……」

「もうそろそろ現実に戻ってくれ。ファーディアは二人も要らないんだ。――あとちょろまかす、てバレたらやばくね?」

「うぅ……そりゃバレでもしたら説教とかいろいろ喰らうだろうけどさ……。なんかエーリンの最新型っぽかったし」

「地味に軍事機密じゃねぇか!」

「大丈夫! バレなきゃいいから!」

 天城は胸を張って答え、ヒガンは自分の額に手を当て天を仰ぐ。

「……こうして犯罪が生まれるのか……。俺知ーらない」

「あら、聞いてしまったからにはあんたも共犯よ」

「マジで!? いやいや、ないって、ないない!」

 ヒガンが首を振っていると、天城が携帯端末を取り出し、画面をヒガンの前に「これ見て」翳す。ヒガンは反射的にその画面に映るものを見てしまった。

「見た? 見たよね!」

「あ、あぁ……でも、これ何?」

 そうヒガンが問うと、天城はにゃまり、て意味ありげな笑みを浮かべた。

「知りたい?」

「うわっ、嫌な予感とかしねぇ……。てか、あれだろ。エーリン軍の軍事機密」

「正解」

「……もう最悪だね、お前!」

「と、言いながらわたしの携帯端末を取り上げるのね」

「毒食らわば皿まで、てな」

「立ち直りはやっ!」

 ヒガンは天城の声を無視すると、その携帯端末の画面をじっと見始めた。

「これ、バンプ・ナイトか? ルコルパーンみたいだが、形がもっさりしてるな」

「改良版みたいね。次世代機ではないみたい。重装甲型としての設計ね。わたしのバンプウェルズも少し基準より重くなりそうだから参考になったわ」

「ふーん。確かに盾も持ちゃ重くなるわな。でも、成る程……駆動部へ回すエーテル量を増やして、あと耐久力も上げてるのか。機動力は少し落ちるが、それでも少し、なのは凄いとしか言いようがないな……。若干動きに癖が出そうだが、俺も使いてぇな、これ」

「あんたは扱いじゃ普通のバンプ・ナイトだとすぐに駄目になるからね」

 すると、ヒガンは天城へと顔を向けて答える。

「うるせぇ! あれは彦先生の教えの所為だ。あの人の操縦もかなりだぞ」

「そうなの?」

「そうだよ。彦先生の壊したバンプ・ナイトの数は数え切れんからな」

「へー」

「まぁ、その話は置いておこう。ところで、この重装甲型ルコルパーンの名前は……と」

 ヒガンは携帯端末へと顔を戻し、そのバンプ・ナイトの名を確かめる。

「ショート・ホガーズね」

 ヒガンの横から覗き込んだ天城が読み上げた。

「……ショート・ホガーズ?」

 ぴくり、とヒガンの眉が動く。

すみません。某のプラバッシュ作ってました。

取り敢えず、仮組みまで終わった……。

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