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ゲイボルク・12

「あんじゃこりゃぁぁぁぁ!!?」

 天城の声を聞き、ヒガンは申し訳なく思った。

 時はファーディアが機人の村を去ってそう経ってはいない一時間と少し前。

 ……その一時間半の間にこのようなことがあった。

 ファーディアを送り出したヒガンと彦は天城と合流していた。

 機人の村の居住区。その一角には大きく開けた場が用意されており、バンプ・ナイト以外での商業区となっていた。

 その商業区にある甘味屋『ぱぱいあ』の外席に座り、三人は団子をほうばる。

「あ、また飛んでる……」

 天城が上を向き、空を飛ぶ大きな鳥――のようなものを見た。

「………」

 彦はただそれを見て無言。

 ヒガンも天城の声につられ、その鳥を見る。

「でけぇな。――なんだあれ? 機械? 飛行機?」

「鳥型飛行機なんてわたしは知らないわよ。ってこの問答はファーディアともやったんだわ。いけないいけない」

「そうなのか。あいつなら知ってそうな気がするけど……んー、敵意はないな」

「わかるの?」

「逆にわかんなきゃ駄目だろ」

「……当たり前のように言われた。ショックすぎる。てか絶対にわからないわよ」

 天城がいじけ始めるのを見て、優位に立てた、とヒガンは「ふん」と鼻で笑う。彦はジト目で見ているが。

 ヒガンはもう一度、大きな鳥を見上げ、理解できない、と小首を傾げる。

「でも、敵意はないけど、見られている感じもするな……変な気分だ」

「そんなことまでわかるんだ……」

「当たり前だ」

「……成る程、あんたはそういうタイプの人間なんだ」

「く、くくっ……!」

 と、ヒガンと天城の会話を聞いていた彦は堪らず吹き出してしまった。

「彦先生、何が楽しいのだよ」

「いやいや、悪気はないぞ。本当、いいデキ具合だな、と思ってな。――ヒガンとこうして話す奴が出てきて嬉しいのだよ。今まではファーディアくらいだったからな」

「……そりゃ、一日中ギャリーとバンプ・ナイトの中に居たらこうなるだろうさ」

「別にそれが全ての原因でもなかろう。どうせ交渉なんてものをファーディアにまかせっきりだから、人との交流が少なくなる」

「うっ……図星っぽい……」

 ヒガンがわざとらしく胸を押さえる。

「なにそれ、ヒガンって面倒臭がりなのね。でも人としての協調性が何かやばそうだけど」

「五月蝿いやい! いつかはちゃんとやろうと思ってるさ。――それに交渉相手と言っても、村長や町長なんかじゃ弁が立つファーディアが出た方がいいし、他の相手となれば……軍とか国関係だからな……」

 ヒガンが深い溜息を吐くと、彦が「まだ駄目なのか」と呆れた顔で言う。

「あぁ、夢に囚われすぎだな。お前」

「ねぇねぇ、彦さん。ヒガン、何か国を嫌うことでもあるの?」

 天城が彦の袖をひっぱり、小声で問う。

「まぁ、思いっきり嫌いなわけでもないんだが……。んー、どういえばいいかな。ちょいと十代のセンチメンタルな悩みがこんがらがってるだけ、といえばいいのか」

「反抗期?」

「そこまで単純だと、俺としても楽なんだがな」

「色々と面倒な存在ね、ヒガンって」

「本当にな」

「……あのな。こそこそと話しているつもりかも知れないが、丸聞こえだからな」

 流石にヒガンが割り込んできた。

 彦はおどけた表情で身を遠ざけ、手を挙げる。

「ははっ、こんなこと言われたくなければ、早く直すことだ。――あと、天城。この原因ってのは、いずれヒガンが教えてくれるだろうよ」

 彦はそのまま、席を立ち身を翻すと、早足で逃げていった。

「言いたいことだけ言って去ったわね……」

「彦先生らしい、といえばらしいか……」

 こうして二人は残される。

「………」

「………」

 沈黙が生まれた。

 ヒガンはもくもくと団子を食べ、天城はせわしなく地上と空を交互に見る。

 そして、始めに声を掛けたのは天城だった。

「ヒガンのバンプ・ナイトを見せてよ」

「……なんだ、藪から棒に」

「別に変じゃないでしょ。わたしは技師なんだから。蛇なんて出さないわよ」

「でも突然だよ。俺のルコルパーンなんて旧式だぞ。この機人の村なら見たことはあるだろ」

「そりゃあるけどさ。んー、あれよ。恩返し?」

「恩返し?」

 二人して言葉の最後に疑問符をつけた。

「お婆ちゃんに言われたの。助けてもらった恩は返すこと、て。だからあんたのバンプ・ナイトを診てあげるわ。勿論、無償でね」

「あぁ、成る程。そりゃいい。俺も診てもらおうと思ってたとこだ」

「そうそう。それにさっきも彦さんと出てたんだから点検、修理は必要でしょ?」

 そう天城が言うと、

「あ……」

 ヒガンは表情を固まらせた。

 今、ヒガンのルコルパーンの右腕は使い物にならないくらいに壊れている。

 ―――もしかして、怒るかな……。俺の経験上、技師って、結構大事に扱わないと怒るからな……。

「どうしたの?」

「え、あ、いや……。で、でもほら悪いし」

「何が悪いのよ。何か色々と言葉が抜けてるわよ」

「あー、えー」

 ヒガンはこういう時、どう対処すればいいのかわからず、ただ口から声を出すだけだった。

 結果、天城の話を断れ切れず、ヒガンのギャリーへと向かうことになった。

 そして、

「あんじゃこりゃぁぁぁぁ!!?」

 と天城の声がギャリーの中、ギャリーを停めている格納庫の中に響いた。

「いや……すまん」

 ヒガンは反射的に謝った。

「すまん。じゃないわよ! てか、何これ! これはあまりにもひどい……」

 天城はこの世の終わりが来た、とばかりの絶望をその顔面に浮き出させていた。

「そ、そんなにひどい、かな? な?」

 ヒガンは恐る恐る天城へと問い掛けたが、「くわっ!」と天城に睨まれその身を縮込ませた。

「右腕はもう言えばわかると思うけど、他も酷いわよ! 一体全体どんな調整をしてきたの! そこらじゅうガタだらけ! 関節の合いも悪いし、隙間からエーテル漏れ起こしてるし! いつ停止しても可笑しくない状態よ、これ!」

「え、そんなに?」

「これでも見た感じの意見よ。点検を開始したら、それこそ地面を箒で掃く如くに、出てくるでしょうね」

「………」

「本当はちょちょいと手を加えれば終了だと思ったけど、これはオーバーホールしかないわ」

「……ご免なさい」

「謝るなら、このルコルパーンに謝りなさい!」

 ヒガンは脳天チョップを受けた。

「いっつぅー……」

 天城はルコルパーンを指す。

「痛いのはこの子よ! なんて、なんて可哀相!」

 びしばし、とヒガンは殴られるのだが、止めようとはしない。天城が涙目になっており、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったからだ。

 ―――俺、女の子を泣かしちゃったよ。

 女性の涙がここまでとはヒガンは思いもしなかった。

 天城は怒りを吐き出したのか、それとも殴りつかれたのか肩をがくり、と落とした。

「……もう、いいわ……。とりあえずギャリーごとわたしの工房に移動させましょう」

「お前の工房ってもう持ってるのか?」

 ヒガンはびくびくとしながら問うと、天城は「そうよ」と胸を張る。

「あんたが既に機士として外に出てるように、わたしもそれなりに技師として独立してるのよ」

「おー、それはすごいな」

 ヒガンは素直に感心した。自分のことは端に置いての意見だが、天城の若さで独立まで漕ぎ着けるのは容易なものではない。しかも周りが技師だらけの機人の村では尚更だ。

 天城はヒガンの率直な意見に顔を赤くする。

「ん、まぁ……ね。あと、わたしもオリジナルのバンプ・ナイトを製作中なの。これでも結構頑張っている、ていうか……、もう、そんなにジロジロ見るな! ――それにまだお婆ちゃんに頼るところも多いわよ。見習い以上、一人前未満……かな」

「それでもすげぇよ。技師にとっちゃ自分の工房を持つことが夢でもあるんだからな」

 ヒガンの目はまっすぐに天城を捉え、尊敬の色まで見せている。

「もきゅぅ……。は、はやく行きましょ……」

 天城は無性に恥ずかしくなり、てくてくとギャリーの運転席へと歩いていった。

「ん、どうした?」

 そして彼女の後ろ姿をヒガンは不思議そうに見る。

 この場にファーディアか彦が居ないことが悔やまれる。

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