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ゲイボルク・10

「お疲れ様。そしてお帰りなさい」

 彦とヒガンが機人の村に着くと、ファーディアが出迎えた。

 しかし、ファーディアの笑顔はどこかぎこちない。

「あぁ、本当に疲れた。どちらかというと、彦先生の説教に疲れた」

 ヒガンはげっそりとした顔で言うと、彦が「馬鹿者め」とヒガンの頭を叩く。

「駄目なところは、駄目と言う。みっちりねっとり、とな。これが俺の流儀」

「嫌な流儀だろ。年取ったら絶対に近付きたくない老人になるな、こりゃ」

「黙れ。俺は今後ダンディーはご老体になる予定なんだよ」

「嘘だ!」

「……あの、じゃれあうのは後で構いませんかね?」

 ヒガンと彦の言い合いが始まるが、ファーディアはその身を二人の間へと入れ、彦へと向いた。

 すると彦はファーディアの思いに苦しむ顔を見て、「やはり、か」と眉を上げる。

「言ってみろ」

「はい。ですが先にこれだけ伝えておきます。――彦様のギャリーに例のモノを……」

「バンプ・ナイトか。わかった。後で確認をしておこう」

「お願いします。アレはかなりデリケートなもので」

「わかってるさ。俺も嫌というほど知ってる」

「何の話をしてるんだ?」

 ヒガンは首を突っ込んでくるが、ファーディアはまた表情に笑みを戻して、答えを返す。

「後々、わかりますよ」

「なんだよ、後々ってさ」

「はいはい。話が逸れるから、ヒガンもいちいち突っかかるな。――取り敢えず、ファーディア。急いでるんだろ?」

 と、彦が意味ありげな口調で言うと、ファーディアは真剣な顔をして「はい」と答え、彦とヒガン、両者を視界に入れた。

「私は一度、ベルファストへ赴こうと思います」

「ベルファスト、って何処だ?」

 ヒガンの問いに彦が深い溜息を吐いた。

「お前、そりゃこのエーリンの首都だよ。こっから北に向かって約一週間ってとこのアルスター領にある。――これくらい知っとけ」

「お、俺も今勉強中だい!」

「……話を戻します」

 ファーディアが咳払いをするので、ヒガンとファーディアは気まずいというばかりに口を閉ざした。

「……すまん。次言ってくれ」

 彦が促すと、ファーディアは短く頷く。

「ベルファストで少しやることが出来たのです」

「やることって?」

 ヒガンが聞き返すと、ファーディアは苦めの微笑を伴って答えた。

「色々ですね。ヒガンはこの機人の村に残り、警護をしてください。既に村長の楓様から依頼として受理していますので」

「え、ちょっと待てよ。俺だけ留守番かよ!? 用があるなら俺も何か手伝うぞ」

 その申し出にはファーディアは首を横に振った。

「駄目です。今此処の守りを多い方がいい。――ですね、彦様?」

 ファーディアが彦へと顔を向けると、彦は「そうだな」と頷いた。その様子にヒガンは口を尖らせる。

「俺だけ話についていけてないじゃないか」

「ヒガン。そうむくれないで下さい。――そうですね……私がベルファストに向かう目的というのは、情報収集なのです」

「情報収集なら、尚更人手が居るだろ」

「地理に疎いヒガンが来てもあまり変わりませんよ」

「うっ……ずばっと言うなよ。結構傷つくぞ、俺」

「すみません。しかし、ヒガンには此処に残ってもらわないと困ります。盗賊は次に機人の村を狙う可能性が高いのですから」

「ん? なんでそんなことがわかるんだ?」

 ヒガンは眉を寄せ、首を捻るって言う。

 すると、ファーディアは目を閉ざし、哀しい顔をした。

「今回の盗賊はちょっと特殊なのです」

「特殊、というと?」

「機体潰し……とでも言いましょうか。名のあるバンプ・ナイトを壊して回っているのですよ。――アンナ・ヒュラは知っていますよね?」

「あぁ、あの遊撃キャラバンの頭だろ」

「彼女が死にました。キャラバンも全滅。生存者は居ません」

 すっ、とファーディアを包む空気が凍りついた。またヒガンの目が細くなり、口が一文字になる。

「……本当か?」

「本当だよ。俺が保証してやる」

 彦がファーディアの代わりに答えた。

 ヒガンは彦へと顔を向けるが、彼がこの場面で嘘の情報を教える意味がない、と悟ると、一層難しそうな顔をした。

「ファーディアに交渉は任せていたから、俺はアンナ・ヒュラと会って話す機会なんて数えるほどしかなかったし、よく知らないが……アンナ・ヒュラって剣三位を持っていたはずだよな?」

「あぁ、その通りだ。俺がまだ剣一位じゃない昔、剣十位を授けてくれたのも彼女だ。剣技もバンプ・ナイトの操縦も熟練している」

「そんな人が負けたのか……」

「だからこそ、機人の村には機士が必要なのです。それも腕が立つ機士が」

 ファーディアは厳かに言った。しかし、ヒガンはその声の内に言い知れぬ怒りが込められている様に感じた。

 ―――ファーディアがここまでなるのか。それ程までにアンナ・ヒュラがやられたことに……。

 友の新たな一面に驚きを覚えた。だが、深くは訊けない雰囲気も感じていた。

「アンナ・ヒュラの乗るルコルパーンMkⅢは彼女用にチューンされた特別機だ。やっこさんが機体潰しをやっているなら、狙うのもまた必然だったわけだ」

 彦の言葉にファーディアは「えぇ」と同意し、続けて言う。

「この機体潰しをやっている盗賊が今、エーリン国境を荒らしている輩であるのは間違いありません。――そして、次に狙うのならバンプ・ナイトを造る機人の村でしょう」

「でも、なんで今更機人の村なんだ? 普通は一番最初の被害に遭いそうなものだが」

「多分、ですが……その盗賊は何かを待っているのですよ」

「待ってる、って何をだ?」

「エーリンを荒らせば、いつかは出てくるモノです」

「それって、もしかして……」

「そう、ゲイボルクとスカアハです」

「ゲイボルク……でも、あのバンプ・ナイトはここ数十年は出ていない代物だぞ。スカアハなんて、二百年以上も表舞台に立っていない!」

「だからこそ、待っているのです。――しかし、痺れを切らしているのでしょうね。今回は剣三位のアンナ・ヒュラ――彼女の遊撃キャラバンは剣の位からわかる通り、エーリンの中でも一二を争うほどの力を持っていました。それが狙われ、未だにゲイボルクが出ないとなると、次はもっと大きな獲物……エーリンの王宮がゲイボルクを出さざるを得ないものを狙うしかない」

「……それが機人の村」

「此処近辺でなら最高の獲物であり、餌でしょうね」

 すると、ヒガンは彦へと振り向き、問う。

「もしかして、彦先生が居るのは――」

「まぁ、そういう意味もある。ぶっちゃけ、お前の腕を見たのも、使えるかどうかを確かめるためでもあったしな」

「………」

「安心しろ。及第点の合格だ。お前は並の機士よりつえぇよ」

「んなこたどうでもいい! くそっ、むかつくな! 俺だけハブか!」

 ヒガンは彦の胸倉を掴もうとするが、ファーディアに腕を掴まれる。

「落ち着いてください。ヒガン。私も村長と話して知ったことです。――取り敢えず私はその盗賊とやらを調べてきます。何かわかったらすぐに連絡しますので」

「………」

「………」

「……わかったよ。でも早めに戻ってこいよ。じゃなきゃ俺が全部倒すからな」

 ヒガンは肩の力を抜き、ファーディアへと拳を軽く当てる。それにはファーディアは笑みを見せて応えた。

「わかっています。それにもし貴方が危なくなれば、すぐに駆けつけますよ」

「言えよ。そうそうやられてたまるか」

 と、ヒガンも笑うが、

「さっきは微妙に危ない戦いをしてたがな」

 彦がぽつりと呟くので、睨みつけて黙らせた。

「では、私はこれから発ちます」

「もうか?」

「えぇ、早いに越したことはありません」

「そか……、気をつけろよ」

「はい」

 ファーディアは力強く頷くと、機人の村を出て行った。

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