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ゲイボルク・9

 キルケニー。

 機人の村と比べれば、まだ発展していない部分も多々あるが、それでも人口は五万を超える町である。街並みはエーリン特有の丸太を重ねて造られた家で構成されている。町の中心部にはコンクリートのビルが数棟建っており、町の頭脳として働いていた。

 しかし、現在、このキルケニーからは活気を感じない。

 つい先程まで多くの人が居た形跡があるのだが、まるで無人だとばかりに人の声も足音も聞こえなかった。では、人は何処へ行ったのか……。

 答えは地下である。キルケニーの住民は皆、地下に用意されたシェルターへと避難していた。

 どぉん。

 腹に響く地響きが、キルケニー全体を揺らす。地面の砂が振動で跳ね上がった。エーリンの地質上、地震は滅多に起きることがない。この地面の揺れは大質量のものが動いたから起こるものだ。

 りぃん。

 地響きに混じり、エーテル機関の音も聴こえる。

 遠く、町の郊外へと目を向ければ、そこには山と見違える大きな人影が組み合っていた。

 片や無機質な装甲を身に纏った影。片や有機的でありながらも煙のようにその形を変化させる影。

 バンプ・ナイトと鬼である。

 違う方向を見れば、同じくバンプ・ナイトと鬼が対峙していた。ただしこちらは二体の鬼が居る。

 ぶちり、と組み合っていたバンプ・ナイトが鬼の腕を引き千切る。すると鬼は千切られた断面から黒い血を吹き散らし、地面を染めた。

 その地面。鬼の足元を見れば、うじゃうじゃと動く黒き群れがあった。

 鬼の群れだ。

 人の肌が溶けたかのようにどろどろな表面をした鬼。

 胴が異常に細く、腕が人の二倍はありそうな鬼。

 犬のように歩く、人の赤子のような形の鬼。

 犬を真っ黒に染めただけに見える鬼。

 様々な形の鬼が徘徊している。

 小型の鬼である。

 大型の鬼と戦うバンプ・ナイトは隙を見ては小鬼たちを踏み潰すが、如何せん数が多く、始末しきれない。

 バンプ・ナイトからの駆除から逃れた小型の鬼たちは我先にとキルケニーの町を目指していた。

 群れの一角が突出し、あと数分でキルケニーに到着するところまで来た。それを確認した二騎のバンプ・ナイトは慌てて向かうが、大型の鬼に邪魔をされ近付くことが出来ない。

 小鬼がキルケニーに到着してしまえば、すぐさまシェルターの存在に気づくだろう。鬼はエーテルに反応し、そこへ向かう性質がある。エーテルとは生命の力だ。万物、ありとあらゆるものに宿っている。人間も例外ではない。だから小鬼は人をすぐに見付ける。更に集まっている状態でならすぐだ。

 故に、子鬼のキルケニー到着は虐殺の始まりであり、町を守るバンプ・ナイト――それを駆る機士たちにとってはデッドラインに他ならない。

 鬼の行う虐殺は見るに耐えないものになるだろう。

 鬼は喰う。

 何でも喰う。

 岩でも草でも喰うことでエーテルを取り込む。

 人間もまた然り。

 時には喰い残しも存在する。――いや、時にも、ではないだろう。鬼に襲撃された町や村ではよくその食い散らかしたあとがある。

 もし、あの光景を見たのであれば、二度と脳裏からは離れないものになるだろう。

「―――――!?」

 バンプ・ナイトから悲痛な声が聞こえる。しかし何を言っているかは聞き取れない。

 子鬼の群はキルケニーの目と鼻の先にまで来ていた。

 そして群れがキルケニーに到着する。

 が、

 びょぅ。

 と空気を切り裂くような風の音が聞こえた。

 そして、地面が一本線に抉れて、裂ける。町へと辿り着いた子鬼たちが宙を舞い、その身を黒き煙へと変え、消滅した。

「危なかった……」

 とは、ヒガンの声だ。

 声は町から遠く離れた五km先から発せられたものだ。

 そこには荒野に立つルコルパーンの姿があった。

 ルコルパーンは腰に携えていた刀を抜刀した形で制止している。また刀を持った右腕の肘と肩からはゲル状のエーテルが噴出し、蒼い粒子となって霧散している。

「やはり、それが限界か?」

 ルコルパーンの肩の上、彦は顔に付着したエーテルを手で拭い、そして粒子となる様を見て言った。

 すると、ヒガンは肯定するように頷けば、それに連動してルコルーパンも頷いた。

「骨董品だし、調整が万全でもないからな。線形衝撃波ライン一回で腕に限界が来ている」

「しょうがないか。こればかりは腕でどうにか、という話でもないからな。――その腕、動くか?」

「問題ない。それよりも早く加勢しよう」

 ルコルパーンが顔を向ける先、そこには他のバンプ・ナイトが相手している三体とは違う二体の鬼がキルケニーへと寄って来ている。

「いっぱしに波状攻撃をかけてやがるな。――ヒガン。俺を町の入り口まで運び終わったら、すぐにあの二体へと向かえ」

「言われなくてもそうするつもりだ」

 ヒガンは先程子鬼たちを葬り去った場所へと移動し、彦を降ろす。すると開いていた通信番号から今まで戦っていたバンプ・ナイトの機士の声が聞こえた。

『君達が助っ人か!?』

「そうだ」

 ヒガンが答えると、その機士は戸惑いの言葉を言う。

『そんな旧式で大丈夫なのか? 見たところ、右腕部のエーテル装甲にエーテル漏れが発生しているようだが……』

「問題ない。こういうのには慣れてるからな。――取り敢えず、子鬼たちはこっちの連れが対処する」

『剣一位が来てくれたんだ。そっちは心配してないよ』

 その機士は余裕が出来たのか、笑いながらヒガンの言葉を返した。

「ちぇ……」

 ヒガンは口を尖らせるが、彦が「さっさと行け」とルコルパーンの足を蹴り始めたので、急いで自身の受け持ちである鬼へと向かう。


 ●


 彦は鬼を駆除する為に鬼へ向かっていったルコルパーンの背を見送り、「さて」と腰に差した刀へと手を伸ばした。

「子鬼の数……事前の情報では百と聞いていたが、どう見ても二百は越えてるな」

 町の郊外へと目を向ければ、無数の子鬼が勢いよくこちらへと向かってきていた。ヒガンのお陰で先程の子鬼群は一層されているが、あと一kmという距離に新しい軍勢があるのだ。

 彦は先刻、ヒガンの線形衝撃波ラインで彫られた大きな溝を背後にして立つと、そこをボーダーラインとする。

「では、まずは――」

 ちん。

 刀を鞘に納める音がした。

 すると、一km先にある子鬼群の一角が崩れる。まるでそこだけ横向きの竜巻が出来たかのような吹き飛びで子鬼たちが舞う。

曲線衝撃波キャブド……削りは上々か。十ぐらいは吹き飛んだが、やはり遠いな」

 彦はもう一度、刀を走らせば、十数体の子鬼が吹き飛び、黒い煙へと姿を変える。

 あと十数発放てば子鬼群は一層出来そうであるが、彦は連続で行おうとはせず、ちらり、とヒガンのルコルパーンへと視線をズラす。

 彦の目的は鬼の駆除ではなく、ヒガンの成長具合を見ることである。今回の子鬼相手はただの片手間でしかなかった。

 ルコルーパンが獣型の鬼へ斬りつけるのを見ると、彦は少しだけ眉を上げる。

「あいつ……人型と同じ要領でいきやがった。あれじゃ、前脚の攻撃が来るぞ――お、来た」

 ちん。

 数秒送れて、子鬼群が吹き飛んだ。

「おぉ、避けた。――が、あれは単に相手の姿勢が悪かっただけか。取り敢えず、獣との戦い方を教えにゃいかんな、と」

 ちん。

 また子鬼群が吹き飛ぶ。

 こうして、彦はヒガンの戦いを観戦し始めた。


 ●


 ヒガンは二体の鬼を視界の中に収める。人型と獣型が各一体。まずは機動力のある獣型の鬼へと斬りかかる。

 ぎちち、とルコルパーンの右腕部装甲が軋む音が聞こえるが、構わず刀を振るう。

 斬り方は上段の唐竹割り。獣型の鬼は獅子に似た姿をしており、その頭部を狙ったが、

「りゃりゃりゃりゃっ!!」

 エーテル機関の音にも似た、鈴を連続で鳴らしたかのような鬼独特の叫びと共に、獣型の鬼は大きな口を開きルコルーパンの刀に噛み付こうとする。

 結果、獣型の鬼の牙が一本斬れただけ。

「ちぃ!」

 ルコルパーンの右腕に負荷がかかりすぎた為、またもや、ぶしゅり、とゲル状のエーテルが吹き出る。咄嗟に、刀を右から左へと持ち帰るが、獣型の鬼は復帰が早く、その右脚をルコルーパンへと振りかぶっていた。

「りゃりゃっ!」

「そうそう喰らうかい!」

 ルコルパーンはわざと横へと倒れ、スラスターを全開にさせることでその場を離れる。ぎゃりり、と爪が肩アーマーの一部を引っ掻く。その反動でルコルーパンは地表とコスれる形になるが、無理矢理に躯体を捻らせ、その勢いで獣型の鬼の振り抜いた前脚を斬り落とす。

「りりりりりりりりぃりやぁっ!?」

 飛び散る黒い血。

 獣型の鬼の断末魔が空気を振るわせる。

 ヒガンは咄嗟に鼓膜を庇いたくなったが、体勢を立て直すことを優先。刀を支えに立ち上がる。

 次いで、ルコルーパンは躯体を回し、先程と同じようにして首を斬り落とそうとするが、後ろの気配に気づく。

「りりりりりりぃ……」

 獣型の鬼と比べれば低音の声。人型の鬼のものだ。獣型の時は気にならなかったが、人型の鬼の大きさはルコルパーンの大きさを凌ぎ、八十mはあった。もし背後から組み付かれたのなら、そのまま押しつぶされる可能性がある。

 ルコルパーンは回転をやめ、その場に踏みとどまると、背部の羽型ブースターを展開する。ルコルパーンの羽はぴん、と上へ起き上がり、その先端が人型の鬼の腹部へと突き刺さる。そしてブースターに火を入れると、人型の鬼は吹き飛ばされた。

「ふぅ……」

 ヒガンは一度息を漏らすが、すぐさま獣型の鬼へと刀を向ける。

「りゃりゃりゃりゃりゃ!」

 獣型の鬼は威嚇をするが、前脚が一本ない状態であるため、何度も立ち上がろうとするが、すぐに地面へと身体を落としている。しかし、その前脚。切断面がぶくぶくと沸騰したように泡を出し、液状になれば、徐々にであるが修復を始めている。

 鬼の治癒力――復元力は異常である。

 元々、鬼はエーテルの塊であるため、一定の形を持たない。故に傷という部分をエーテルで埋めてやれば、元通りになってしまうのだ。

 そして鬼を駆除するにはその身体を構成するエーテルを跡形もなく吹き飛ばすか、核となるエーテルが密集している部分を叩くしかない。

 ヒガンは前脚が復元される前に、獣型の鬼の首を刎ねようとする。鬼の核はわかりにくい。その為、思いつくだけの急所を狙うことにしているのだ。運が好ければすぐに核を叩くことは出来るが、悪ければ延々と鬼の身体に攻撃を与えることになる。

 それに加え、鬼は抵抗する。また、バンプ・ナイトのエーテル機関に溜まるエーテルを欲し、襲い掛かる。

 物理的に壊しかかることもあれば、時には――

「やべっ!?」

 ヒガンが声を上げる。

 獣型の鬼の口がぐぱり、と顔全体を覆い隠すほどに開いたのだ。そして中央のにある食道の入り口と思しき部分に黒色のエーテルが集まっていた。

 時には鬼も魔術も使う。

 魔術もエーテルが基である。エーテルの塊である鬼にとって、魔術を使うのもまた道理。

 ルコルパーンの躯体を黒い炎が包んだ。

 口を閉じる獣型の鬼。そして炎の中のルコルパーンを睨みつけながら、その前脚を完全に復元させた。

「りりりりりぃ……」

 人型の鬼も再び近付いてきて、炎に包まれるルコルパーンへと無造作に手を突き出す。じゅわじゅわと、人型の鬼の手や腕が炙られ、肌が溶け、再生を繰り返す。そしてルコルパーンの肩を掴んだ。

「触るな!」

 とはヒガンの声。

 りぃん、りぃんと音がすると、突如ルコルパーンを包んでいた炎が弾け、そこから発せられる爆発のような風は人型の鬼の腕がそのまま吹き飛ばす。

「リリリリりりりりりりいりりりりいりりりりいりぃ!?」

 先程までの低音な声とは違い、人型の鬼は甲高く叫び、腕を失った肩を抑える。

 しかし、その叫びはすぐに終わる。

 人型の鬼の顔にルコルパーンの刀が突き立てられ、そのまま捻りを入れられ、ぐちゅり、と肉と血が混ぜ合わさる音が聞こえる。

 刺突の構えで人型の鬼を見上げるルコルパーンの装甲はどこも焼かれた痕跡はなかった。

 代わりに、

 りぃん

 と、蒼いエーテル粒子が周りを包み込んでいる。

「大当たりだ」

 ヒガンの声と共に、ルコルパーンは刀を引き抜くと、人型の鬼は身体の芯を失ったかのようのその身を後ろへと倒す。そして、大地に倒れる間際にりぃん、と音を鳴らし、黒い煙となって姿を消失させた。

 ルコルパーンは刀に着いた黒き血と肉を振り落とすが、それもまた煙へと変化する。

「りゃりゃりゃりゃりゃっ!」

 獣型の鬼は仲間意識でもあったのだろうか、人型の鬼が駆除されたことに一際大きな声を出し、ルコルパーンへと組み付こうとするが、

「俺は魔術を使ってねぇだろが!」

 ルコルパーンは身を翻すと同時、獣型の鬼の首を刎ねる。

 だが、獣型の鬼は黒い煙へ変わらない。

 核は首にはなかった。何処に核あるのか、ヒガンは首を失った鬼の身体へと目を走らせるが、

「りゅぁぁゃあぁぁっ!?」

 鬼の頭部がルコルパーンの右腕に噛み付いた。

「そっちか!」

 ヒガンはみちみち、と装甲を喰い貫かれる様を見ながら、鬼の頭部に刀を刺す。今度はその額にだ。

 すると鬼の頭部は一瞬、目を大きく見開き、りぃん、と姿を溶かしていった。

 ヒガンは鬼の身体も消えていくのを見て、一息吐く。だが、

「あっちはどうだ!」

 と、ルコルパーンの躯体を振り返えさせ、他のバンプ。ナイトへと目を向けるが、丁度、あちらも最後の一体を駆除したところであった。

「終了、終了。撤収するぞ! ヒガン!」

 彦の声が真下から聞こえてくるので、ヒガンは下を見ると、そこにはバイクに乗った彦が居た。

「彦先生。そのバイクは何処から?」

「町の中に捨ててあった」

「……あとで返しとけよ」

 鬼の襲撃で元の持ち主が慌てて乗り捨てたのであろうバイクを見て、ヒガンは溜息を吐く。

「それよりもとっととずらかるぞ。事後処理に付き合う必要はない」

「そうだな……。俺のルコルパーンも色々とやられてるから」

 ヒガンはルコルパーンの損傷箇所をチェックするが、やはり右腕が酷かった。

「ぶっちゃけ、それは自業自得だ。取り敢えず、ギャリーまで戻ったら説教だからな」

「なんでだよ!?」

 耳をほじくる彦にヒガンが叫ぶと、「当たり前だろ」と自然に言葉を返される。

「いくら旧式ルコルパーンだろうと、今さっきの戦闘は酷い。――お前、上質なものを喰ってなかっただろ?」

「仕方ないじゃないか。戦う相手を選ぶ余裕なんか流れの機士にはないさ」

 この彦が言う『喰う』とは鬼の駆除、または機士同士の決闘のことだ。ヒガンは彦と別れ、ファーディアと旅に出てからというもの、殆どの相手が歯応えがあるものとは言えない状況であり、その腕は鈍っていた。

 腕が鈍る。ヒガンも自覚はしていた。ただ、彦という存在に面として言われれば、流石に口惜しいものがある。

 ヒガンは唇を噛んだ。

 だが、彦は飴も与えることを知っている。

「しかし、バンプ・ナイトの自重を活かすなんて技術が普通に使えてるから、そこは褒めてやるぞ。――やっぱ、身軽なルコルパーンに乗っているお陰か、重さを武器にすることを覚えたな」

「彦先生……。出来れば鼻をほじりながら言うのは止めてくれないか?」

 ヒガンががくり、と肩を落とした。

「おおっ、すまんすまん。どうも痒くてな」

 彦はそう言いながら、こんこん、とルコルパーンの足をノックするので、ヒガンは彦をルコルパーンの手に乗せることにする。

「……それじゃ、帰るか。ファーディアの方も話が終わってるだろうし、今後の方針を決めなければ」

「あぁ? そりゃあんま気にしなくてもいいと思うぞ」

 彦があっけらかんにものを言う。

「どうして?」

「お前は当分は機人の村に滞在するってことだよ。俺も久々にお前に特訓させたいし、そもそもルコルパーンの修理が必要だ。この際、色々と診てもらったほうがいいな」

「それは俺もそうしたいが……金銭に余裕なんて」

「心配するな。桜子にでも頼めばいい。あいつも恩知らずじゃない。ルコルパーンの面倒は見てくれるさ。――もし駄目なら俺が払ってやる」

 彦がそう言うと、ヒガンは「マジで!」と大はしゃぎする。

「彦先生。太っ腹じゃないか!」

「ふふふっ、大人の余裕ってもんさ。――高かったら踏み倒す」

 ぼそり、と彦は最後の言葉を小声で言った。

「え? 何か言った?」

「いんや、何も。――あと滞在場所は村長の家――八丈軍の家にでも泊めてもらえ。俺も其処に厄介になってるし、話は通してやるよ」

「おおっ! もしやふかふかの布団に寝れるのか!?」

「その通りだ。流石に和式だからベッドはないけどな」

「それでもすげぇ! 身体がちゃんと包み込まれるんだからな! 起きたら関節が痛い、とかないんだからな!!」

「……お前、どんな状況で寝てたんだ?」

 彦は哀れむ目でルコルパーンの胸部――その奥の操縦席に居るヒガンを見た。


 ●


 数十分後。

 ヒガンと彦がギャリーに戻り、機人の村への帰路へと就いていた時のこと。

 ヒガンは彦の説教が始まりそうな雰囲気を察し、コンテナの上へと逃げていた。

 コンテナの上はその高さと、走行中とあって風が強い。

 ヒガンの羽織るローブは風に大きく煽られ、ほぼ真横へと羽ばたいていた。ヒガンは取り敢えず落ちないようにと、足をコンテナ内部へ入れる穴に引っ掛け、座る。

 ちゃり、とヒガンが腰に携えていた刀が音を立てる。

「………」

 ヒガンは普段、刀を持ち歩くことをしない。無手による線形衝撃波ラインがあれば、大抵は必要としないからだ。使う場面といえば、バンプ・ナイトの操縦感覚をよくすることくらいである。

 ―――ルコルパーンで無手の線形衝撃波ラインが使えればいいのだがな……。流石にそこまでは機体の限界か。

 その点についてヒガンは不満だった。昔、彦と一緒にバスケッタと戦っていた時に使っていたバンプ・ナイトはそれこそ無手での線形衝撃波ラインを扱えたからだ。

「はぁ……」

 溜息を吐くヒガンはおもむろに首から下げている紅い宝玉を握る。――何故だか、少しだけ気が楽になった。

 ヒガンは暫くの間、強風に煽られ顔が冷える感覚を楽しんだが、ふと、遠くに物陰を見付ける。

「あれは……ギャリーか?」

 五台ほどのギャリーが荒野を走っている。

「何処に行くんだ? 機人の村とは少し方向はズレているが――……」

 ヒガンは首を傾げるが、地理に疎い為、ギャリー群の行き先を察することはできない。

 ただ――、


「きな臭いな……」

 ヒガンのギャリー。その居住ブロックの中、窓からギャリー群を見ていた彦は顔を顰めていた。

「――餌が勝手に動いてやがる」

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