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サンライズ・2

 染井・吉野はエーテルが満ちたコックピットに立っていた。バンプ・ナイトの中だ。

 エーテルは蒼く光り、ヨシノの心音と動機して点滅を繰り返す。

 ヨシノは鞘に収めたままの刀を杖代わりにして、ただじっと目を閉じていた。

「ヨシノ。もういいよ」

 外部から桜子の声が聞こえる。

 すると、りぃん、とエーテル機関が奏でる音と共に、ヨシノを包むエーテルが輝きを失い霧散する。

 ヨシノは目を開けると、コックピットのハッチが開く。

 そこにはハンガーの梯子があり、桜子が立っていた。

「どの程度のマッチングだ?」

 ヨシノが問えば、桜子は親指を立て、その期待に応える。

「調整は完璧。二年間分のズレがあったけど、元通りよ」

「そうか。やはりこういうバンプ・ナイトとの適合調整は君に頼むしかないのだな」

「当たり前よ。――でも、流石はエーリンの技師。他に関してはいい仕事してるわ」

 桜子はあまり嬉しくないようで、苦々しく言った。その様子にヨシノは苦笑する。

「しかし、すまないな。俺がダマリから帰ってきて一月経つというのに、定定との調整が出来なくて」

「いいわよ。貴方には撫子姫の教育係と護衛があるのだから。――ところで、その姫は何処に?」

「今は蔵八木様と居る。俺では教えられないことなど、姫様に教えているところだ。――蔵八木様も、やっと元老院への牽制で一息出来るようになったらしい。これからは時々、姫様の相手もするだろう」

「ふーん。でもさ、これって逆に貴方が此処に居ては駄目じゃないの? 今、国の重要人物が固まっているのに、その警護はどうしたのよ?」

 と、桜子が尤もな意見を言えば、ヨシノは「それはだな」と苦笑いする。

「蔵八木様の気遣いだ。今は俺の部下が周りを固めている。――それに、俺も防人だ。自分のバンプ・ナイトを放っておくわけにもいかないだろう」

「確かに、一ヶ月も放置だったものね。――それで、どう? 久々のコックピットは」

 その桜子の問いには、ヒガンは満足した顔をする。

「やはり俺は戦う人間だな。此処はとても居心地がいい……。それにダマリでのエーリン軍との模擬戦を思い出した」

「模擬戦? そんなものやったの?」

「やったのだよ。俺としてはあれが一番の収穫であった。ルコルパーンはもう見たのであったな? それとの模擬戦だ」

 ルコルーパン。その名を出すと桜子の目が鋭くなる。

「ふぅん。成る程。で、結果は?」

「俺の圧勝ではあった。逆にいい試合をしては東照宮守備隊の名折れだろう。相手は新型に慣れていないのだ。それに仮にも量産機。俺の定定は特注品だぞ」

「まぁ、そうね。実際、そんな答えを言ったなら、わたしは二度と定定に乗せないつもりだったもの」

「……おっかないな。しかし、それでもあのルコルパーンの出来は大したものだ。桜子も認めていたが、あれを越える量産機はそうそう出ないだろう」

「悔しいけど、そうなのよね。コスト面でも優秀だし……、てか大きさを半分にするなんて英断よね。全長五十m。一番小型なバンプ・ナイトよ。装甲はかなり脆いけど、それを補えるほどの機動力。定定のように特別なバンプ・ナイト以外なら正に最高峰よ」

「量産機の最高峰……ね。しかし、エーリンは当分、ルコルパーンを外にはバラまかないだろうな」

「えぇ、その通りよ。エーリンとしてもすぐに自分の技術を曝け出しはしないでしょ。――そういうことを踏まえれば、貴方の模擬戦の話は貴重だわ」

「その代わり、代償を支払ったけどな。少し俺の技をエーリンの軍人に授けることになってしまった」

 ヨシノは肩を竦め、右手をぴん、と伸ばし手刀を作ってみせる。

「貴方の技って、あれ? 真空波、みたいなの」

「そうだ。流石に無手で出来る猛者は居なかったがな。俺は自分の技に名前を付けてはいないが、エーリンで何か名付けられるかもしれない」

「貴方って、そういうところには欲はないわよね? それだけの腕があるのに」

「俺は自分の強さで存在証明をしたくないだけだ。――それに過信もしていない。まだまだ修練が必要なんだよ」

 ヨシノが自分の刀を持ち上げ、楽しそうな笑みを浮かべると、桜子は呆れて溜息を吐く。

「訂正するわ。やっぱり欲はあるのね。――違うベクトルで」

「そう言うな。俺の性分なのだ。――ところで、どうする?」

「どうする、って何が?」

「模擬戦の話だ。聞きたいのだろう?」

 そのヨシノの言葉に桜子は「あぁ」と手を叩く。

「確か、今日は一日フリーなのかしら?」

「俺はそのつもりだ」

 と、ヨシノが答えれば、桜子はこれは好機、と笑みを浮かべる。

「じゃあ、今日の夕食を一緒にしましょう」

「ん? あぁ、それもいいな。桜子と食べるのも久しぶりだ」

 ヨシノが「それはいい考えだ」と頷くと、桜子は、

「ついでに、ホテルの予約もしようかしら。――どう、一緒に寝る?」

 流し目で、そして挑発の目でヨシノを見る。

 しかし、ヨシノは真面目な顔で、

「桜子。冗談でもそのようなことは言ってはいけない。あの時の恋人云々もそうだが、君はもっと自分を大事にするべきだ」

「………」

 桜子の表情が固まる。

「どうした?」

「……そろそろ力尽くでの行動を考えるべきなのかもしれないわね。撫子姫に獲られる前に……」

「なんのことだ?」

「貴方のことよ! この馬鹿!」

 きしゃー、と牙を剥く桜子にヨシノは訳もわからず後ずさる。

 そして桜子はずんずん、と大股でその場を去っていく。

「……一体何のだ? ――ぬぅ……やはり女性というものはわからん……」

 ヨシノは首を捻り、眉を顰めた。

前のゲイボルク・6は納得がいかないできなので、区切りのいいところで書き直すかも。

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