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ゲイボルク・6

「やっと着きましたね。ヒガン、天城嬢! 機人の村に着きましたよ! ――おや? どうしたのです、二人共。お顔が優れませんが……」

 ファーディアは、まるで徹夜明けのようにぐったりとしているヒガンと天城を見て、首を傾げた。

「……くっ、なんであいつはけろっとしてやがるんだ……」

「おかしい。おかしいわ……。アレだけ長時間語りをやったくせに、疲労も何も見せないなんて……」

「しかも声も嗄れていないとは……。俺はファーディアの新たな可能性を見た気がする……ぜ」

「あぁ、ヒガン! 駄目よ、こんなところで倒れちゃ!」

「おやおや、楽しそうですね。その調子なら大丈夫そうなので、さっさと外に出ましょうか」

 ファーディアは笑顔でギャリーから出て行く。

 そして、ヒガンと天城はとぼとぼと力なく、その後をついて行く。

 三人がギャリーから出れば、其処は大きな格納庫の中である。高さ五十mのコンテナを積んだギャリーが軽々と入ってしまう程の広さがあった。ヒガンたちのギャリーは天城の誘導の下、此処に案内されていた。

「……機人の村にはね。バンプ・ナイトの受注や整備やらの仕事を頼みにくる防人や機士がよく来るの……。此処はその為の専用駐車場みたいなものね」

 とは、天城の疲れた説明。

「成る程ね……。って、あれ? じゃあ、此処には機士たちがいっぱい来るんだよな?」

 ヒガンが何かに気づいたのか、天城を見る。

「そうよ。それが何か?」

「……いや。それじゃあさ。この村で用心棒とか、そういう仕事ってないんじゃないのか?」

「………」

「……答えろよ」

 ヒガンは苦笑いで固まる天城を無視して、ファーディアを見れば、ファーディアは「大丈夫ですよ」と笑顔で否定する。

「本来なら、この村に集まる機士たちで何とか出来ますが、最近の盗賊は活発ですから、そこらじゅうの町に散らばってしまっているのですよ。ね、天城嬢?」

 そうファーディアが天城に言葉を投げかけると、天城は「まぁね」と今度は自嘲気味に言う。

「お陰で村の収入が減ってるのよね。――それに、バンプ・ナイトってのは部品一つでも高価で、余分に置いとくとかがきつくてね。だから結構自転車操業な部分も多いわけよ。それ故に一度景気が悪くなると、お金の遣り繰りが辛くて辛くて……」

「……身につまされる話だな、おい」

「私たちも前払いとかで仕事を受けますしね……」

「泣けてきた……」

 ヒガンは機人の村に親近感が沸いてきた。

「お陰で、わたしもパーツやらの購入でちょっと遠出することになったのよ。今までは取り寄せだったのだけど、直に取りに行くほうが若干安いからね……」

「もう言わないでくれ! そんな節約話を聞きたいわけじゃないんだ!」

 ついにヒガンは滝のような涙を流し始めた。

「ヒガン……。貴方、本当に涙腺が緩くなってませんか? ――まぁ、これはこれで面白いですが」

 くすくす、と笑うファーディアを余所にヒガンは、ふと格納庫の端に停まっているギャリーに目がいった。

「……あれ?」

 細めになり、もっとよく見ようとするが、そこでファーディアに肩を叩かれ、注意が逸れる。

「あともう一つ手があるのです」

「……何の手だよ?」

「勿論、仕事の伝手ですよ。――幸運なことに私たちはこの村出身の者を助けました。それも権力に近い方に――」

「あぁ……、そういや八丈軍の娘だもんな」

 ヒガンとファーディアは揃って天城を見た。その視線に気付き、天城を身体を隠すように自身を抱く。

「ちょ、邪な目でわたしを見ないでよ!?」

「いやー、天城さん。長旅ご苦労様です。疲れたでしょう。肩をお揉みしましょうか?」

「ヒガン! 性格が変わってるわよ!? ――こっち来んな!!」

「ぐほっ!?」

 手揉みをするヒガンに天城は回し蹴りをした。どすり、とレバーに入ったのか、いい音が鳴り、ヒガンはその場に蹲る。

「天城嬢は手が早い……、と。あまり意外ではありませんが。――ヒガン、大丈夫ですか?」

「……なんとか」

「まったく。汚らわしい」

「なんでそうなる!?」

 ヒガンは立ち上がろうとすれば、その背後、

「はっはっ。いい感じに出来上がってるではないか」

 男の笑い声が聞こえた。

 ヒガンが声の方向へと振り返れば、そこには見知った顔があった。

「彦先生!?」

「彦さん!!」

 ヒガンと天城が揃って声を出した。そして、

「「あれ?」」

 互いに顔を見合う。

「なんで、お前が彦先生を知ってるんだよ?」

「それはわたしの台詞よ。あなたこそ、何故彦さんを知ってるのよ?」

 ヒガンと天城が問い合えば、彦は吹き出すのを堪えるように笑う。

「くくっ……。いい感じに出来上がってるじゃないか、ファーディア」

「えぇ。二人共、波長が合うらしいです」

「なかなかに面白い。――おい、そこの二人。いいじゃないか。お前らは、俺と知り合いだっただけじゃないか」

 と、彦がヒガンと天城の頭に手を置くと、二人は彦を見上げる。

「まぁ、それはそうだけど。――でも、驚いたよ。こんな処で彦先生と会うなんて」

「そりゃ、此処は俺の生まれ故郷だからな。……言ってなかったか?」

「言ってねぇ!」

「まぁまぁ。そういう訳で俺と天城は顔見知りなんだよ。なぁ、天城?」

 彦が今度は天城に顔を向ければ、天城は「そうだけど」と戸惑いながら頷き、

「あぁ、そっか。ヒガンの師匠みたいな人って、彦さんのことか!」

 ぽん、と手を叩く。それを見た彦は苦笑する。

「理解が早くて助かるよ」

「でも、彦先生。俺たちとイスイで別れてからはずっと此処に? たしか、旅に出る、とか言ってなかったか?」

 ヒガンが問うと、彦は「旅には出てるさ」と頷く。

「俺も久々に此処に来たところだ。半年振りかな? ――今もずっと。そこら辺の国を行ったり、来たり。たまーに機人の村に帰るくらいだな」

「実際。わたしが初めて彦さんと会ったのも、一年くらい前だよ。それまでは、すごい人が居る、くらいにしか聞いてなかったもの」

 彦の言葉を肯定するように、天城を続けて言う。

「一年前……? あぁ、そっか。俺たちと別れた後くらいか」

「そっ。その時一回、此処に戻ったんだ。――しかし、天城。また背が伸びたか。見違えるものだ」

 そう彦が言えば、天城は身体のラインを強調するような立ち方をして答える。

「どう? 美人になった?」

「……あぁ。胸が成長していな、ぐぱはぁっ!?」

 彦の水月に天城のつま先が刺さる。

「いい蹴りです」

 とはファーディアの意見。

「あぁ、成る程。こいつの攻撃はこうして鋭さを増していくのか……」

 ヒガンは先程蹴られたわき腹を擦った。

「と、取り敢えず……久しぶりの再開に喜ぼうじゃないか。――なぁ、ヒガン」

 涙目の彦はヒガンの肩を叩いた。

「……何故、俺限定?」

「お前の先生ともなれば、成長具合ってのも気になるわけだ。どうだ? これからちょっと鬼退治にでも行かないか?」

 軽く飲みに誘うような言い振りで、彦は自分のギャリーを親指で差す。そのギャリーはヒガンが一瞬だけ目に止めたギャリーであった。

 ――やっぱり、あれは彦先生のか。

 ヒガンは納得する。

「少しよろしいですか、彦様」と声を掛けたのはファーディアだ。「鬼がこの近くに居るのですか? その割には警報も鳴ってはなく、あまり騒ぎらしいものを感じられませんが……」

「そりゃ、この機人の村に鬼が近付いていないからだ。警報は、他の町で鳴ってるだろうさ」

「となると、救援に行くというのですね」

「ちょっと待って。この近くの町って、キルケニー?」

 天城の問いに彦は「そうだ」と頷いた。

「ギャリーを走らせても、二時間くらいで着く。――多分、その時には既に鬼も到着して戦闘になっているだろうが、問題はあそこの戦力はバンプ・ナイト二騎だけ、ということだ」

「バンプ・ナイト一騎と大型の鬼一体で戦力の彼我はありませんからね。三体を越えていれば、余程の機士が居なければかなり辛い戦いになるでしょうね。――私も行きましょう」

「悪いが、ファーディア。お前の申し出には首を横に振ろう。ヒガンなら大丈夫さ。――俺もついてる」

「ですが――」

「お前はここの村長に会ってけ。天城の婆ちゃんだから、こいつを連れて行けばすぐにでも会えるだろう」

 彦は天城の頭を軽く叩く。

「彦さん! 気安く髪を触らないで! てかわたしはモノ扱いか!?」

「すまんすまん。――まぁ、そこまで気を回すなって、ことだ。流石に大群で鬼が押し寄せているなら、エーリンの軍も出る。これはヒガンの腕試しさ」

「……むむ」

 ファーディアは腑に落ちない、といった表情だ。そして、その様子を見たヒガンは天城に耳打ちする。

「あいつ、彦先生に自分の腕も見てもらいたかったんだろうよ」

「そうなの?」

「そりゃ、曲がりなりにも剣一位の指導が受けられるかもしれないんだからな」

「じゃあ、あんたってかなりの果報者なのね。昔から教えてもらってたんでしょ?」

「まぁそうだけど……。あんま自覚はないかな。他に教えてくれる人が居なかったから、比較できん」

「ふーん。そういうものか」

 天城の場合、技師たちに囲まれて育った為、ヒガンの言うことはよく理解できなかった。しかし、ファーディアの気持ちはわかる。

 ――わたしも、もし八丈軍・桜子が居たのなら教えは受けたいものね。

 ヒガンと天城は話している傍、彦はファーディアの肩を叩いて、こう言った。

「いいから、村長に会え」

「………」

 彦の強い押しに、ファーディアは一瞬顔を渋くするが、程なくして「わかりました」と頷く。

「おおっ、ファーディアの方が折れたな。結構頑固なのに」

「ヒガン。私だって引き際を知っています。――では、早速ですが天城嬢。行きましょうか」

 ファーディアは身を翻し、格納庫の出口へと向かう。

「ちょっと待ちなさいよ。わたしが居なきゃ意味ないでしょ!」

 天城はファーディアの後を追った。

 そして、残されるのはヒガンと彦。二人は、互いの目を見やる。

「……お前も大きくなったものだ」

「一年と少し。成長期なんだから当たり前だろ」

「そうだな。――ちゃんと持ってるか?」

 彦がヒガンの胸元を見れば、ヒガンは首から下げているものを服の上から握る。

「希望なんだろ? まだよくはわかってないけどさ」

「いつかわかるさ。――行こうか」

 彦は優しい笑みを浮かべれば、ヒガンのギャリーへと身体を向ける。

 そしてヒガンは、彦の背中を見て、

「はい!!」

 と、大きく返事をした。

一話の中盤くらいかな?

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