プロローグ・1
ちょいと連載ものゆるゆるとやろうと思います。
ロボットもの書きたいなぁ、と思いながらどこかの賞の投稿小説用に構想していたやつですが、枚数の関係上無理なので、こっちで……。
因みにFSSをイメージした部分もあり。
誤字脱字はご愛嬌。
東照の宮といわれる国がある。
その名の意味を問えば、世界中の者が同じ答えを放つだろう。
『東の国より破邪の光を差し、鬼を払う』
緑深紀という年号が始まり、はや二百の年月が流れているが、この東照の宮を例える言葉は未だ続いている。
何故ならば、大地に緑が茂るのは東から照らす光があり、今の豊かな暮らしがあるのは、東照の宮国、その皇帝が居るからである、と。
その緑広がる大地。しかし、全ての土が緑色に覆われているわけではない。
鳥瞰でもしてみれば、痩せこけた荒地を目にすることも出来るだろう。まるで、その場所だけが生命を忘れたが如く、ぽっかりと荒野があるのだ。それも多数。
と或る緑と荒野との境界。
その上空を鳥が飛んでいる。
鷲と呼ばれる鳥だ。
蒼穹の空と相まって、飛ぶ姿は凛々しく見えた。
鷲が飛ぶのは、東照の宮国から馬車で一月、エーテル機関を搭載した車でも半月は掛かる場所。どの国の支配下に於かれていないダマリ・カオスノフキと呼ばれる中立エリアである。
ごぉん。
丁度、鷲がその身を緑広がる大地から荒地の上へと移すと、砂煙が大質量の鉄と土がぶつかり合った轟音と共に舞い上がった。
砂煙は大きく、空高く飛んでいた鷲の下まで届く勢いを見せた。
鷲は一声鳴くと、砂煙に巻き込まれぬように上昇する。そして、安全な場所まで身を移せば、砂煙が上がった場所を瞳に移す。
砂煙は輝いていた。
蒼い粒子が混じっているのだ。しかし、それも束の間、蒼い粒子はあっさりと消え、茶色の砂だけが舞い上がる。
蒼い粒子はエーテルの光だ。
大気に混じるエーテルが凝縮され、魔術の対価として使われた光だ。
砂煙が膨張を止め、うっすらと晴れてくる。
すると、その砂煙を突き破るかの様に人型の紅い影が這い出てきた。
人型の影が高さ百mはあろう自らの巨体を持ち上げると、金属の擦られ軋む音が響く。
それは全身が金属で囲まれていた。
人間ではない。
機械だ。
魔術と化学が織り交ざった人型の機械であった。
紅い機械はその身を完全に起こす。
りぃん。
金属が擦りあわされる音がなくなり、代わりに鈴虫の鳴りのようなエーテル機関の駆動音が聴こえる。
砂煙が完全に晴れ、紅い機械の全貌を顕わにする。
まず目に入るのは紅の色。紅を基調に白と黒でカラーリングされたそれは、流線型をしており、巨体でありながらスマートであった。腰にはその身に合った刀が装備されている。また腰から伸びるスカートは後方部分が長く、全体的に和風の雰囲気を醸している。さながら剣客を連想してしまう。
バンプ・ナイト《盾の騎士》
エーテル機関を動力とし、またエーテル循環のパイプともなるエーテル装甲と、その上に頑強なる装甲を纏う機械人形。
国を守る盾である。
「仕留めたか!」
そのバンプ・ナイトから男の声が響いた。
青年の声。だが、若々しくはない。声には経験が積まれた重みがあった。
紅のバンプ・ナイトは巨体に似合わぬ速さで、腰の刀へと手を置き、前方へと顔を向けるが、
「………」
すぐに構えを解く。
周りを包む空気が軽くなる。どうやら、紅のバンプ・ナイト――その中に居るであろう男が発していた殺気がなくなったようである。
殺気がなくなった理由。
紅のバンプ・ナイトの前には黒い物体が転がっている。黒い皮膚に黒い体毛。そして飛散した黒き肉と血。全てが漆黒で創られた生き物の屍骸がある。大きさは紅のバンプ・ナイトと同じだろう。正確な大きさを知るには、少し原型を失っている。
紅のバンプ・ナイトとの死闘の結果である。
ぱしゅ。
紅のバンプ・ナイトの装甲の継ぎ目から、蒼い粒子が噴出する。モードを戦闘から通常へ移行させたのだ。蒼の色は紅い機体を映えさせる。
次いで、胸部のハッチが開かれた。そして、奥から現れたのは一人の男。
歳が二十五といった男だ。顔は彫りは深くないが、眉間には苦労の蓄積か皺がある。声にも苦節な経験を感じたが、実際、彼はもう少し若い歳の二十三である。また彼は紅い派手な色ではあるが、それ以外は質素な造りの袴姿に一口の刀を手に持っていた。刀の柄端からはじゃらり、とガラスで造られたレンズが数枚連なってぶら下がっている。
「あぁ、やっと終わった……」
男は首を鳴らし、凝りを解した。
彼の名はヨシノ。染井・吉野という。東照の宮国出身のバンプ・ナイトの操者――防人である。そして、彼の駆るバンプ・ナイト。名を八丈軍・定定という。
ヨシノはハッチの上から、飛散する黒き物体を見下ろし、様子を見る。
「いい感じの大物だったな」
と感慨深く言えば、黒い物体は外回りからじわじわと黒煙となって消えようとする。その黒煙は立ち上りヨシノの下までやってくるが、ヨシノは顔を顰め黒煙が来るのを嫌がる。なので、己の刀に手を置くと、
ちん。
音がした。つられて、じゃらりとガラスとガラスが触れ合う音もする。刀の柄にぶら下がっているレンズのものだ。
ヨシノは抜刀し、瞬時に鞘へよ刃を戻していた。刃の軌跡が蒼いエーテル粒子となって宙に残っている。
すると一拍置いて、ヨシノの前方で風が生じ、黒煙は消し去った。また同時、ぱりん、とレンズの一枚が砕けた。
エーテル粒子と砕けたレンズ。それはヨシノが魔術を行使していた証拠である。彼はエーテルとレンズ一枚を代償に風を生み出したのだ。
気がつけば、大地に飛散していた黒い物体は跡形もなく消え去り、ただ荒野だけが広がっている。
「これでもう大丈夫だろ――ん、なんだ?」
ぴっぴっ、と定定の内部から電子音が漏れ出ていた。通信が入ったらしい。
ヨシノは鞘の先をコックピットの中へと入れ、ハッチ近くに設けられているボタンを押し通信回線を開くと、少年のものである声が聞こえ始めた。
『ヨシノ様。ご無事で御座いますか?』
現在、ヨシノと共に行動している部隊の通信兵からであった。
「あぁ、無事だよ。それよりもそっちはどうだ? 怪我はないか?」
『カザ軍曹が頭を打ったくらいですかね』
「いつものことだな」
『ですね』
二人は通信機越しで軽く笑った。
『しかしですね、ヨシノ様。私たちがこうして無事なのも貴方様のお陰なのです。こうして危険な場所を全て引き受けてくれているのですから』
「なに、若い芽は失わせるわけにはいかんだろう。俺は君たちの部隊との共同戦線を命じられたが……、君たちはまだ若い」
『ヨシノ様もお若いではないですか。私たちとも、そう歳は変わりません。それに私たちは皆、貴方様を憧れとしているのです』
「よしてくれ」とヨシノは笑い飛ばす。「俺が此処に居るのは勅命があったからだ。――それに憧れ、と言っても君たちと俺の母国は違う。君たちはエーリン、俺は東照宮だ」
『それでもですよ。他国であるのにその垣根を越え、こうして私たちを守ってくれています。それに若くても国の王の側に立てるという希望を与えてくれました。この意見だけはどうしても譲れませんね』
「よせよせ」ヨシノは背中がむず痒くなり、話を区切る。「ところで、何の用だ? 定期通信の時間ではないが」
そう問えば、『そうでした』と言葉が返ってくる。だが、何か歯にものが挟まったように、言葉を濁す。
「どうした? 何かトラブルでもあったか?」
『あ、いえ……ある意味事件といえば事件なのですが……。でも、それといって危険でもなく……或る意味、愕然というべきか……」
「ん、どうした。歯切れが悪いぞ」
『ヨシノ様に会いたいという人が来ているのです』
「俺にか?」
『はい』
「誰だ」
と問えば、またもや相手は言葉を躊躇う様子を見せた。そして恐る恐る言う。
『ヨシノ様の恋人だ、と言えばわかる……、と』
「は?」
ヨシノは間抜けな声を出した。恋人、と言われても身に覚えがないのだ。そもそも縁のない単語である。
ヨシノを一言で例えるならば、武人、である。気さくな面もあるが、頑として己の道を違えず、硬派である。女性とプライベートで親しくなる、などと不得手と自分で認めている。
女性と縁がないの事実は、通信機越しに居る少年を含めてヨシノを知る者なら全員が承知していることだ。
――あぁ、だから歯切れが悪かったのだな。
ヨシノは自分自身が慌てているのにも関わらず、そう冷静に判断した。
一旦、他に思考を移したお陰か、ヨシノは己を俯瞰的に見ることが出来るようになった。そして、ふと、思い当たることがあった。
「……あいつだな。こんな冗談を吐く輩は」
『はい?』
「いいや、こちらの独り言だ。――その客人とやらは、俺の恋人ではないが知り合いだ。迎えてやってはくれないか」
ヨシノが溜息混じりに言う。
『了解致しました。それではお帰りをお待ちしております』
通信が切れる。
ヨシノはやれやれ、と客人のことを思い出し顎を撫でるが、ほんのりと笑みを見せる。
「考えてみれば、面と向かって会うのは二年ぶりか。――全く、皇帝のお側機士ともあろう者が二年も郷に帰っていないとは俺の面目もないな……」
ヨシノはコックピットの中へと戻る。
コックピットの中は広かった。半球状で直径五mはあり、奥にぽつりと操縦席が設置されている。しかし、操縦席といってもレバーなどはなく数個のボタンがあるだけだ。
ヨシノはその操縦席へと腰掛け、刀を杖のように前に着くと、
「では、帰ろうか」
言葉を発する。するとハッチが自動で閉じ、八丈軍・定定が歩き始めたのだろう振動が伝わってきた。
こうして、染井・吉野――東照の宮国の防人部隊、東照宮守備隊の筆頭は自分が世話になっている駐屯地へと帰還する。




