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救世主は執事さん

「北海道の親戚がね、蟹を送ってくれたのよ~!だからコレ、おすそわけ」



5軒お隣の高田さん(推定40代前半)が、ニコニコしながらそう言った。



5軒離れておすそわけって・・・。

それにはワケがある。



受け取ったあたしの背後に目をやり、用事が済んだにも関わらず、帰ろうとしない

高田さんの目的は・・・。




「すごい!大きな蟹ですね。ありがとうございます」


いつの間にやら現れたセルジュさんが、にっこり微笑みお礼を言う。




そう。お目当てはセルジュさんだ。



セルジュさんが我が家にやって来て1週間。


目立つ美貌は、一気にご近所の評判になった。


昨日は博多の、有名だとかいう明太子を頂いた。

その前は、東京で行列が出来るというお店のプリン。

それから新潟の親戚からもらったというお米を20キロ、うんしょうんしょと持ってきた

ツワモノも居た。

あたしはその日、たまたま外出していて、帰って来たら玄関先でお米袋を横に置き、

重い荷物を持ってきて汗だくになったのを一生懸命化粧直ししている

高田さんとは反対方向の7軒隣の野村さんの奥さんを目撃してしまったのだ。


セルジュパワー、恐るべし!



しかも、新潟のお米に博多明太子は、最高最強の組み合わせだった!

あれはウマかったーーー!



って。そうじゃなくて。


ここはセルジュさんにまかせて、あたしはもう一度お礼を言ってさっさとキッチンに

向かう。

お礼を言ったところで、高田さんはもうあたしの事なんて見ていない。

セルジュさん!後は頼んだよ!



「ママ!今日は高田さんから蟹がきたわ。すごいね~。お鍋で食べたいな~」


「あらまー。一応、ママからも高田さんにお礼を言ってこようかしら」



パタパタと向かうママだったけど・・・多分高田さんはセルジュさんとの

時間を邪魔されたくないと思うなーー。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「みはる、ショッピングモール来週改装オープンじゃない?」


「うん。あー。こんなに蟹を食べるなんて久しぶり!美味しい~」


「ほんとにね~。で。ところでお店から何も連絡無いの?」


「?うん。だからいつもの時間に行こうと思って・・・なんで?」


「高田さんが話してたんだけど・・・ちょっとモール側と店舗側が揉めてる

らしいわよ」


「お嬢様は、雑貨店でお勤めなんですよね。」


あ。まただ。どうも、他人の目がある時だけ「お嬢様」は止めてくれるらしい。

段々慣れてきた自分も怖い。


「そう。地元の若い芸術家の作品を置いてるお店なの。」


「お嬢様も何か作られているのですか?」


「作ってるって程でもないの。でも色々勉強になるから、働かせてもらってるの」


ホラ、と見せたのは、最近作った物。

手作りと言うにはおこがましい作品だ。

ジュエル王国は、その名の通り様々な宝石も沢山採掘できる事で有名らしいんだけど、

さすがにお小遣いでは買えない。

そんな時、小さなガラス玉に、宝石の欠片が入ったのを見つけた。

とっても綺麗だし、入ってるのが欠片だからか、とても安かったので記念に

買ってきたんだけど・・・ガラス玉は持ち歩くのに不便なので、得意の針金細工で

ガラス玉を囲み、ストラップを通して携帯につけた。これで、いつも持ち歩ける。


「ジュエル王国で買ってきたの」


「これは・・宝石加工の時に除かれる欠片・・?」


「そう。これなら安いし、持ち歩けるでしょう?」



と、そこで手にしていた携帯が振動した。



「あれ?まゆさんからだ・・・」


まゆさんというのは、雑貨店を営む店長だ。

地元の大きな画材屋さんの専務夫人で、自身は編み物が得意で、このお店を開店した。

10歳違うのだけれど、とっても気の合う、友人のような存在だ。



「もしもし??」


「みはるちゃん!どうしよう・・・大変なの。お店、畳まなきゃいけないかもしれない・・・」


「ええっ!?なんで!??」


「モールを改装したでしょう?それで、お家賃が変わるかもしれないとは

改装前の説明会で聞いていたんだけど、倍額なの!うちみたいなお店じゃとても・・」


ば、倍額ですとーーーーーー!!!



動揺するまゆさんに、「何か方法考えますから!」とは言ったが、

そんな・・・あたしに何ができると言うのだ・・・。


食卓に戻ったあたしは、一気に食欲が無くなっていた。


あぁ・・・蟹さん・・・。


「お店のお家賃、上がるからお店続けられないかもって・・」


「あら。高田さんが言ってたのもそれかしら」


「多分・・・倍額だって!うちみたいな小さな店じゃ、無理かもしれない・・」


「それは・・・お店の売り上げ次第。と言うことですか?」


突然、会話にセルジュさんが割って入った。


「・・・そうなる、かな。売り上げが伸びたら高いお家賃も払えるし」


セルジュさんが細く長い指で顎をなぞりながらなにやら考えこんでいる。


「お嬢様」


「うん?」

思わず返事をしてしまった。あぁ・・慣れって本当に怖い!



「これ・・・売りませんか?」


あたしの手にあるストラップを指差す。


「この欠片は、大体は処分されるんですよ。手軽に買える土産用に、試しに

ガラス玉に入れてみたのですが、お嬢様ならもっと良いアクセサリーにできそうだ。

もっと色々な種類の宝石の欠片がありますよ。

取り寄せましょうか?勿論、ジュエル王国の宝石だという保証書もつけますよ」


勿論、あたしはそれに飛びついた。


「ほ、本当!?」


「えぇ。かなりの数が手に入るはずです。今ある物は全て日本に送らせます。

この宝石のガラス玉が手に入るのは、これからはお嬢様のお店だけ。という事です」


「ありがとう!!あたし、何か方法を考えるってまゆさんに言ったとこだったの!

あたしの針金細工でも役に立てるかもしれない!まゆさんに早速電話してくる!」


急ぐあたしの背後では、こんな会話が繰り広げられていた。



「あんなに喜んじゃって・・・お店以外にも理由はあるわよ、あの子ったら」


「え?」


「モール内の別なお店に、憧れの人がいるのよ~~。これで横井くんと離れずに

済むもの」


「ヨコイ・・・ですか・・」


「まぁ、憧れてるだけらしいけどね。彼はかなりモテるらしいから」


「・・・そうですか・・」





「まゆさんに報告してきた!あたしもお店のために頑張らなきゃ~~!

それには腹ごしらえだよね~。蟹さーーん!」


なんとかなるかも!と思ったら、急にまた食欲がわいてきた。

なんて現金なんだ。あたしのオナカ。


・・・と。


今度はセルジュさんのお箸が止まってる。


「どうかしたの??」


「いえ・・ちょっと食欲が・・・」


「じゃあ、その大きな蟹足ちょうだい!」


あぁ~~。蟹はやっぱりおいし~~い!!


ウチも毎年北海道の親戚より立派な蟹を頂きます。

ありがたや~~。

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