表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

迷子の執事さん

王子が執事。


王子が執事。


王子が・・・


その衝撃に、口をあんぐりしていると、そんなあたしのあほ面にも王子様だっていう

執事さんは、それはそれは素敵な微笑みを見せた。


「早速で申し訳ないのですが、おじいさまの部屋に参りましょう」



おじい・・・


あぁ!そうだった!あの時のおじいちゃんに会って、お悔やみを直接言いたい。

それに、今回はおじいちゃんにも日本から贈り物を持ってきたのだった。


そして・・そして・・このとんでもない遺産相続を断る。

そう、あたしはそのために、ここに来たんだった。




------------------------------------------------------




遠い・・・・遠いんだけど・・・・


家の中なのに、こんなに広くて目的の部屋に行くまでの何十分もかかるなら

デカイ家なんて嫌だ!!!


最近リフォームしたっていう上司の3階建ての自宅を羨ましく思ってたけど、

今あたしはこじんまりした2階建ての我が家がとてつもなく懐かしくなった。



左隣には、長い足を持て余し気味に、あたしの歩幅に合わせて歩いてくれてる

王子様で執事さんが居る。

王子様で執事さんは・・・あぁ。めんどくさい!セルジュさんでいいや。



「セルジュさんは、どうして王子様なのにあたしなんかの執事になったんですか?」


「私は王子とは言っても7番目です。念のため、3番目までは王となる為の教育を

受けますが、健康上問題が無ければ1番上の兄が王になり、2番目、3番目は

補佐をします。

更に下は、他に仕事をする事になっています。

大体は城の中で、ですがね。私は、将来の王子・・兄の子供ですが、その方の

教育係をするはずでしたので、執事のようなものですよ。主人が変わっただけです」


はぁ・・・。でも将来の王子とあたしとじゃ大きな違いが・・。


ま。断るんだし。


「ご兄弟、多いんですね。うちは2人だから羨ましいです。皆さん仲が良いんですか?」


「・・ええ・・そうですね」


あれ?なんだか・・セルジュさんの明るいブルーの瞳が・・微かに揺れたような・・



「着きましたよ。こちらです」


目的地に着いたという言葉で、あたしの思考は止められてしまった。



-----------------------------------------------------------



「わが国へ、ようこそ」


パリで見た時と、そんなに変わらずおじいさんは元気にあたしを迎えてくれた。


でも少し表情が暗い。


立ち上がったソファの近くのテーブルに、おばあちゃんの写真が置いてあった。

やっぱり・・寂しいんだ・・・。


「セルジュ、このお嬢さんと思い出話をするから、少し席をはずしなさい」


セルジュさんが、少し迷いを見せて部屋を出る。



「突然の事で・・驚いたであろう?」


「ハイ。おじいさんは、日本語がとてもお上手なんですね」


おばあちゃんは、かなりカタコトだったし・・思い出しながら言うと、

おじいさんは楽しそうに笑った。


「あれは、演技だよ」


「演技!?」


「そう。カタコトの日本語で話しかける変な外国人のばあさんの相手を根気強く

してくれたのは君だけだったよ。だから、君なんだ」


「へ???」


「君なら、変えてくれると思ってね」


「かえる?」


頭の中では<帰る・買える・変える>と色んな「かえる」がぐるぐると回ってた。



「いや、こっちの話だ。話は、受けてくれるのだろう?」


「へ?あっ、・・いいえ。申し訳ないですが・・あたしなんかじゃ、ダメですよ」


「・・・君だから、受け取って欲しいんだが」


「ええと・・私には必要の無いものばかりだし。世界が違うし・・」


「・・そうか・・残念だな。せっかくマンションも近代的にリフォームしたのに・・全部、断るのかい?」


どうしよう・・そんなに寂しそうにされるとは計算外だよ!!

うーーーーん・・・と考え込み、


「あの!!ここに時々遊びに来ていいですか?その時の搭乗券だけタダっていうのは

すごーーーく嬉しいですけど・・」


と言ったら、おじいちゃんはすごく嬉しそうにしてくれた。

あぁ~~良かった。少し話しただけのあたしをすごく気にかけてくれたんだもの。

良ければ時々来たいもんね。


「では、そのように書類を書き換えよう。あとでセルジュから説明を聞いて

サインをしておくれ・・・と。セルジュも・・・断るのか?」


「・・・はい・・。私、ほんとにほんとに庶民なんです。どちらかと言えば・・

一番必要ないと言いますか・・・。」

相手が人なだけに、語尾がもにょもにょ小さくなってしまう。


そう言うと、おじいちゃんはあたしには理解できない言葉で何かをつぶやいた。

そうして、にっこり笑うと、「ではこの話は終わりだな。日本の話を聞かせておくれ」と言った。


小一時間位話しただろうか。


控えめなノックが響き、「お薬の時間ですが」と、メイドさんらしき人が

申し訳無さそうに入ってきた。


「おぉ、もうそんな時間か。すまん、もう年でな、薬を飲んで休まなくてはいかん。」


「いえ。あたしこそ、長くご無理させてしまってごめんなさい。あの、これ

日本から持ってきたんです。日本の、徳利とお猪口です。お酒は召し上がりますか?」


「あぁ、この年になっても酒は飲むよ」


「日本では晩酌って言って1日の終わりに1杯お酒を飲んで奥さんと話をするんですよ。

えっと・・・我が家だけかもしれないですけど・・・。

おばあちゃんの分もお猪口ありますから、1日の最後をおばあちゃんとゆっくり

過ごせるかなぁと思いまして・・。」


おじいさんは、にっこり笑って「それは良い考えだ。1日の終わりの話し相手は、

やはりエレンが良いからね。ありがとう」と言った。


喜んでくれたみたい。良かったー!余計悲しませたらどうしようかと思ったけど・・

パパとママの意見を聞いて選んで良かった!!


「やっぱり・・君が変えてくれると思うんだがの・・」


ホッと安心してるあたしには、おじいさんのつぶやいた言葉が聞こえなかった。



--------------------------------------------------------



あらためて書類を作りなおすというので、その日はお城から行けるジュエル王国の

名所をセルジュさんが案内してくれた。

執事は断ったんだけど・・1人だと暇だし、地理もわからないからそのまま

お願いしてしまった。


けど、町に出てすぐ後悔した。


セルジュ王子はとんでもない人気者らしい。


様々な人が話しかけ、写真を撮り、どこぞのアイドルだ!?って騒ぎだ。


ナントカ寺院とか、ナントカ城とか、ナントカ公園とか色々説明されたけど

さっっぱり覚えていない。


夕方疲れて城に戻り、クリスティンさんにこの事を話すと、クリスティンさんですら

うっとりした表情で「セルジュ様は特別お美しいですから・・」と言った。


特別、の意味が分かったのはディナーの時。


兄弟が全て揃った時だった。確かに話の通り、全員驚くほど美形だ。

でもそんな中で、セルジュさんだけが確かに特別だった。

どんなに美形でも、彼の美しさの前では色褪せてしまう。

そしてゲストはあたしだけ。という、家族団らんの中でもセルジュさんの

完璧に紳士な態度は変わらなかった。家族に対してさえも、だ。

他の家族・・・第1王子ですら、少しくだけた様子で寛いでいたのに、彼だけが

仮面を被ったように、張り付いた微笑みで少し距離を置いて接していた。


なんか・・なんかもやもやする。他の方々はセルジュさんに対してもとても

親しげに接しているのに・・・。

明るく仲の良い我が家を思い出して、セルジュさんの態度がとても悲しく思えたのだった。



ま。断るからいいけど・・・もう、会わない人だし・・・


・・・・・・・


でも気になるじゃないか!!!



---------------------------------------------------------



翌日、新しい書類を、これまた完璧な微笑みで説明するセルジュさん。


むかむか


むかむか


昨日のムカムカが、おさまらない。


「セルジュさんは、お兄さん達と仲が良くないんですか?」


一瞬ぴたりと書類の文字をなぞっていた美しい指が止まった。


「・・いいえ?どうしてです?」


「セルジュさんだけが、違って見えたから」


「どう、違って見えました?」


「キレイすぎた」


そう言うと、少し、キレイな顔が歪んだ。ほんの少しだけ。


「あなたも、私が特別だと思うのですか?私が第1王子よりも特別だと?」


あれ?なんか・・スイッチ入れちゃったみたい?


「私も、そう思いますよ。私が、王にふさわしいとね」



・・いえ、そこまで言ってませんが。



そしたら、美しさがどーの、学校の成績がどーの。スポーツが。国の大臣だってそう言って・・・と、どんどん

出てきたよ、鬱憤が!

え?こんなキャラだったんですか?

なんか別な意味でムカついてきたんですけど!愚痴王子かい!執事拒否して良かったよ!


どんどん出てくるキツイ言葉。なのにセルジュさんの表情は反対に、悲しげに、なんだか

泣きそうになってきた。


なんなんだ!?


「あの!!!」


大声を出してセルジュさんの言葉を止める。


驚いてあたしを見たセルジュさんの顔は、気持ちが高ぶっていたのか少し赤くなっていて、

大きな瞳は揺れていた。

なんで・・なんでお兄さんより自分がふさわしいって言っときながら、そんな

捨てられた子犬のような目をするの!

本当は、お兄さん達が好きなんじゃん!


大きく深呼吸をする。ここはあたしが落ち着いてなくちゃ。


「セルジュさん、この国を出た事は?」


「・・大学の時に・・留学しておりましたが」


いきなり話が逸れてびっくりしている。


「どんな大学?」


「イギリスの全寮制の大学ですが・・」


「そこから外出は?」


「時々は致しましたが、基本的には寮にショッピングモールやレストランもついておりましたのであまり出ませんでしたよ」


「て事は、ほとんど外を知らないんじゃない」


「・・・」


「この国で王になるって事は、お兄さんを王の座から追うって事でしょう?

でもさ、この世界ってもっともっと広いよ?他の世界を知らないのに、家族を

傷つけてまでこの国の王に執着するなんて!」


「・・・・・・」


「王様より、もっとふさわしいものがあるかもしれないじゃない!」


「・・・例えば?例えば、何です?」


「・・・医者になれるかもしれないし、教師とか・・こ、コメディアンとか!」


「コメディアンはちょっと・・ご勘弁いただきたいですけれど・・」


段々感情的になるあたしとは反対に、セルジュさんの方は落ち着きを取り戻していた。


勢いとは言え、この完璧キラキラ王子にコメディアンと言った事が急に恥ずかしくなり、

「ううううるさいっ!」

と、書類にさっさとサインをして、部屋を飛び出した。


でも、一番言いたかった言葉を言うのは忘れなかったよ?


「王様だけが職業じゃないんだよっ!!!」


ん?王様って、職業なのか?

実はナルシスト愚痴王子デシタ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ