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執事さんの賄賂

復活しました。


ええ。もう体調も万全です!


あの寝込んでる間に身体を拭かれて着替えさせられてました事件で精神的にも大打撃だったんだけど、見事復活しました!


それは翌日シーツを取替えに現れたメイドさんたちのお陰!


部屋にやって来たメイドさん達に目をぱちくりさせていると、セルジュさんがあたしを軽々と抱き上げ(メイドさんに集中していた為、抵抗らしい抵抗もできなかった)カウチソファーに移動する。

すると、メイドさん達はお布団を上げ、糊の利いた真っ白なシーツをパァーン!と良い音をさせてシュパパパ!とシーツを取り替えたのだ。

それはそれは見事な連係プレーで。

「セルジュ様。お嬢様のお着替えでございますから、少し外してくださいませ」


ん?


すると、セルジュさんはさも残念そうにあたしをベッドに戻すと部屋を出て行った。

入れ替わりに、温かなお湯が入ったたらいを持ってまた別のメイドさんが入って来た。

その様子をまたぼんやり見詰めていると……。


するっ。


え?


は?


「あああああああああ!ぱ、ぱんつ!!」


いつの間にか、先に居たメイドさんがまたもや素敵連携プレーでパジャマを脱がしにかかっていた。

かかっていた、というか、その時点ではもうほぼ裸でした……。

いつのまに前のボタンを外されてたんでしょう……これもプロの技ですか?


慌てて抵抗して色んな体勢になるのに合わせ、最期に入って来たメイドさんが温かいタオルで丁寧に拭いていく。

な、何なんだこの素晴らしいチームワーク!


ものの数分で全身が綺麗に拭かれ、新しいパジャマを着せられておりました。

ハイ、勿論パンツも新しくなりました。


つまり!着替えも身体を拭いてくれてたのも、メイドさんトリオなわけで、恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど、それでも相手がセルジュさんじゃなかったってだけで心底ホッとした。


それが分かると、一気に気持ちが軽くなって翌日には完治です!

病は気から!


やっと都子と香澄に会える!

そうしていそいそと連絡をしたら、あたしが東京に来たお祝いをしてくれる事になった。

なぜかドレスコードがあり、普段よりもドレッシーな格好をする事になり、それに合わせてヒールの高い華奢な靴を履く。

こんな格好、親戚のお姉ちゃんの結婚式以来かもしれない。でもたまにはいいな。なんだか背筋がピンと伸びて、気持ちいい。

すると細身のブラックスーツを優雅に着こなしたセルジュさんが現れ、軽くお辞儀をすると右手を差し出した。

手の平は上を向いている。

いつもなら恥ずかしくて絶対そんな事はできないんだけど、今日は可愛いワンピースを着てるから雰囲気に乗っちゃいたい気分。

そっと手を乗せると、目の前でセルジュさんが困ったように微笑んだ。


「お嬢様、右手ではなく左手を……そうです。お車から降りられる時も、左手を預けてくださいね」


あ、つい癖で利き手の右手を乗せてしまった。

握手じゃあるまいし、右手と右手じゃ歩きにくいか。


「セルジュさんが送ってくれるの?」

「ええ。運転はジェラールが致しますが、私も会場までご一緒致します」

「ええー?わざわざいいよ!」


近くまで送ってくれるならお店まで歩くって主張したんだけど、セルジュさんは取り合ってくれなかった。


「普段お履きにならないヒールでは、足に負担がかかりますので」


……そう言われると弱い。確かに不安なのでそれ以上は反対しなかったんだけど……。



何?なんでこんな事になってんの??



香澄からのメールで、カジュアルフレンチレストランって聞いてたんだけど……。


セルジュさんに連れられて入ったお店には、懐かしい顔が溢れていた。


「え?え?山ちゃん?ナオくんも!わぁ!吉田だ!」

「うわ!お前、何イケメン連れてんの?」

「えー!久しぶり!何これ?」

「東京近辺にいる連中でさ、時々集まってんだ。ミニ同窓会みたいなもんだな」

「へー。楽しそうだね」

「今回はみはるちゃんも引っ越してきたって聞いたから、急遽計画したのよ?」

「わー!ありがとう!」


入り口で懐かしい面々と話しているその最中も、店の奥から沢山の視線を感じる。

勿論、その視線はあたしをスルーして後ろにいるセルジュさんに向けられている。


「じゃあ、みはる。俺はこれで……終わったらすぐ連絡しろよ?迎えにくるからね」


あ、スイッチが入った。

沢山の視線に気付いてるはずなのに、そちらには目もくれずに甘い微笑みを浮かべる。


「やーん!イケメン!しかも優しいー!」


きゃーきゃー喜ぶ山ちゃんに、その横で面白そうにニヤニヤ笑う吉田。


「お前、面白い事してくれるな。正直三宅が幹事って時点でつまんねーなって思ってたけど、これで今日は楽しめそうだ」


三宅――その名を聞いて、あたしは固まった。


高校時代のクラスメイト、三宅小百合。

性格がキツいけど、学校一の美人で1年からずっと学園祭でミスに択ばれていた。夢が玉の輿って子で、犬猿の中だったんだよねぇ……そっかー。あいつも東京だったのかー。


「幹事は持ち回りなんだ、いつもは大体居酒屋でワイワイやるって感じなんだけどさ。アイツ、この店に出資してる金持ちと婚約したんだと」

「要は見せびらかしたかったのよ。そこにみはるがあーんなイケメン連れてくるから……あー、あたし今日来て良かったー!」

「は、あは、あはははー……」


もう帰りたいんですけど……


「来た来たー!みはる待ってたわよー!」

「セルジュさん、連れてきてくれてありがとー!あっ、その時計素敵ー!F社のでしょう?素敵ー!さすがセルジュさん!」


み、都子?香澄?なんだかやけに声が大きくない?

生地の薄いワンピースなのに、なんでだろう……背中に汗が……。

そのまま2人に両脇を固められ、店の奥に連れて行かれると、そこには般若のような形相の三宅が居た。


「あらぁ?みはるじゃない。久しぶりね。なーんかずっと田舎に残ってるようなタイプだったのに、こっち出てきたの?」

「最近引っ越してきたんだよねー?住所まだ聞いてなかったわ。どこ?」

「あ、A町なんだけど……」

「すごーい!高級マンションが並んでるとこよー!みはるもマンション?何階?」

「ええっと、30階って言ってた」

「言ってたって、セルジュさんー?」

「う、うん」


ちょ……なんか2人いちいち大げさだし!しかも三宅の顔今にもちろちろとヘビの舌が出そうになってるよ!?


「先ほどの方?どんな方でみはるとどういう関係?」


あーオデコの青筋がこえーよー。


「セルジュさんは今社長さんだよね?みはる」

「うん。ホラ、あのLe Cielの専属モデルの事務所の……」

「えー!モデル事務所の社長さーん!?」


ちょ、ちょっと!事件の顛末知ってるくせに!

そう耳打ちすると、「そこ、バラしていいわけ?」と切り替えされた。

ごめんなさい、香澄さん。それは勘弁してください。


「で?ど・ん・な!ご関係?!」

「どんな……どんな!?」


答え考えてなかったー!!!

実家では、留学生のホームステイって答えてたけど、今の状況でそれはあり得ないし!

ええと、ええと……。


「一緒に住んでるのよねー?」

「ど、同棲してるって事?」

「そうそう!」


ちょ、ちょっと待て2人!


両脇を抱えられたまま2人を引きずって化粧室に行くと、あたしは2人を問い詰めた。


「ちょっと!何で同棲とか行ってるの!」

「えー。だってそうでないと三宅色々突っ込まれるよ?」

「でも、だからって……」

「それにさ、前から思ってたんだけど、みはるはセルジュさんをどう思ってるの?」


急に真面目な顔をした都子が問いかけてきた。


「どう、って?」

「あのさ、みはるが執事だとかそーゆーの、隠したい気持ちもわかるよ?でもさ、セルジュさんは全てを捨ててみはるのところに来たんでしょう?それなのに、恥ずかしいとか自分には勿体無いー!とか、そんなのばっかりでセルジュさんに悪いと思わないの?」

「え!?どういう事?」

「みはるがそう言うって事は、セルジュさんを全否定してることになるって事よ」

「……そんなつもりは無かったけど……でも、仕えてもらう身分じゃないもん」

「だから執事とは説明しなかったじゃない」

「あ、あり……がとう?」

「あのさ、執事とか、王子とかそんな立場とか身分じゃなくって、ちゃんとセルジュさん自身を見て受け入れなさい。今、一緒に居る。この事実は変わらないんだから。ちゃんと受け止めなきゃ人として失礼よ!」


キメ台詞のようにあたしをビシッ!と指差して言う都子の姿に、なんだか目から鱗な気分だった。



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その日の夜遅く、なにやら考え込んで帰宅したお嬢様をお部屋にお送りすると、自室に戻った私は電話を手にした。


「首尾は」

『バッチリです!』

「ありがとうございます。おふたりの誕生石はガーネットとトパーズでしたね」

『やったあ!あ。でも協力できるのはここまでですからね!』

「充分ですよ。ありがとうございます」


短い会話を終えると、報酬を手配するべくパソコンに向かった。

おふたりには奮発してさしあげねば。明日、お嬢様と顔を合わせるのが楽しみだ。

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