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執事さんのミッション

突っ込みどころ満載だと思います(-_-;)

こーゆー事件とか法律とか…苦手だ……矛盾点もイッパイあると思いますが、

さらっと読み流してくださいm(__)m


眩しい照明に照らされても、目を細める事もなければ、まだ充分暖かいというのに冬物の重ね着を強いられても汗ひとつかかずに堂々とカメラの前に立った私を見て、一瞬スタジオが静かになった。


「……始めてもよろしいですか?」


その言葉で、ようやく短く刈り込んだ髪と顎鬚に白いものが混ざり始めた壮年のカメラマンがはっと気付いたように動き出した。


「ベテランが圧倒されるなんてな。とんでもない新人が出てきたもんだ。今日は何カットも必要なんだが…さっさと終わらせれんの?」


男のスタイルから、フランスの名優に影響を受けているのだろうという事は容易に推測できた。

彼の口調は嫌味っぽいが、丸メガネの向こうの目は好奇心に輝いている。始めは具体的にポーズを要求していたカメラマンも、今では無言で次々シャッターを切る。

近付いたり遠ざかったり、しゃがんだり寝そべったり。次々ポーズを変える私の動きを全て捉えようでもするかのように忙しく動き回るカメラマンは反対に汗だくだった。


タートルネックのセーターにロングトレンチコートを着て、ポーズをとっていた私が動きを止めると、男はカメラをアシスタントに渡し、近付いてきた。


「予定の時間を3時間も縮めたな。捨て写真なんかほぼ無いだろう。お前さんとはまた組みたいよ。シモン…だったな?」


「シモン・ラリューです。フランスからの留学生です。」


差し出された大きく分厚い手を軽く握ると、力強く握り返してきた。


「なぁ、全身が出せないなんて、勿体無いよ。何とかならんのか?」


「留学生の身ですし…先生の腕ならば、一部のみの写真でも充分作品になりますよ。」


「言ってくれるなぁ、オイ。まかせとけ。すぐに日本中がお前さんが誰だと躍起になって探すだろうさ。」


ニヤリと笑って、男は「ご苦労さん」と肩に軽く手を置いた。

そんな撮影の様子を遠目に見ていたお義兄さまは踊りださんばかりに喜んだ。


「すっごいわ~!ほんとにモデルやった事ないの?ポーズもすっごいサマになってるし、照明、まぶしくないの?あのセンセ、すっごく厳しい事で有名なんだけどなぁ。すっごくもう惚れこんじゃった感じだよー!」


興奮したように頭ひとつ低い位置から見上げてくるお義兄さまに、曖昧な笑顔を返事とすると、そうか…背が高いから余計香水が刺激臭となるのか?匂いは上へくるというからな…。そんな事を考えていた。お嬢さまの上目遣いなら大変可愛らしく、いくらでもどんとこいなのだが、いくらお義兄さまといえども、男からの上目遣いは嫌悪感しか生まれない。しかもこの激臭、さっさと撮影を終えたくてどんな角度でも完璧な私になるよう計算しているのだから、サマになるのは当たり前だ。


「でもさぁ、カラコンなんて必要かなぁ?ブランド名だってLe Ciel(青)なんだし、シモンくんの綺麗なブルーの瞳の方がブランド名に合うんじゃなーい?」


その言葉で、目の前のお義兄さまに意識が戻る。


「Le Cielと言えば…今日は吉田社長はいらっしゃらないんですね」


すると、お義兄さまは何とも分かりやすく私から少し身を引いた。


「あぁ~、あの方はお忙しい方だから…昨日のロケを見て、シモンくんで間違いはないってあの後すっごく褒めてたわよ~!」


「あの後?ご一緒だったのですか?」


「えっ!?あぁぁぁぁ…まぁ、そう…えぇっと、打ち合わせを兼ねたディナーをね!お互い事務所がすっごく近いから、よくあるのよ~」


「あぁ…事務所が近いんですか。それは便利ですね」


「そ、そうなのよ~すっごく、便利なのよ。あっ、ホラ、次の衣装は?ほらほら、変えなきゃ!あのカメラマンさん、怒ったらすっごくコワイのよ~!ねね?行ってらっしゃ~い!」


慌てたようにそう言うと、お義兄さまは既に帰り支度を始めているカメラマンの方向を指差し、「タケちゃんっ、ホラ、報告はっ?」とタケちゃんを引きずってスタジオを慌しく出て行った。


「今日の撮影はもう終わったんですけどねぇ。」


何とも分かりやすい人だ…予想以上にボロを出してくれる。もう一度スタジオのドアを見ると、私も帰り支度を始め携帯を取り出した。すると、メールが届いていた。発信者は本物のシモン。


『報告したい事がある。そろそろ本格的に動けるぞ。クリフォードルームで待つ』


それを見て、ふ。と笑みがこぼれる。


「あら、素敵な笑顔。恋人ですか?」


メイクアシスタントの女性に声をかけられた。


「遠距離中の愛する人に、もうすぐ会えそうです。」


そう、もうすぐだ。その為の準備は抜かりない。




------------------------------------------------



「脱税?」


クリフォードルームの応接セットでシモンと向き合って座った私は、思わず聞き返した。

勿論、この応接セットも探偵クリフォードのセットを模している。が、こちらは本物のアンティーク家具だ。向かい合って6人が座れる応接セットだが、座っているのは私とシモンの2人だけ……クリフォードルームを完璧に再現したこの部屋を他に見る人が居ないなんて、なんとも寂しい事だ。もっとも、あのドラマは日本で放送されていないので、誰も気付かないと思うが…。


「脱税…の、疑いがあるって段階だ。」


正直驚いた。あんなに分かりやすいお義兄さまが、まさか犯罪に手を染めようとしているとは…。


「疑惑はここ数ヶ月ほどの事だからな…まだ税務署も動いていない。意図的なものなのかはまだ把握していないだろう。どうやらKIJIMAとLe Ciel間の契約金額と実際の額が違うみたいなんだ。その他の会社とは問題ない。」


「何が違う?」


「モデルのギャラだ。Le Cielは湊を指名し、多額のモデル契約料を支払ったことになっているが…湊の他ブランドとの契約から見ても、それは破格の額なんだ。何%かがKIJIMAに入る計算にしても…破格すぎる。2社間では他もあるかもしれないが、証言が取れてるのはモデル契約料だ。それに…」


「木嶋社長と吉田社長は不倫の関係だ。か?先程の証言は誰から?」


「あぁ。そこは読んだ通り。証言は、湊だ。連絡は取れた。証拠が欲しいし、できれば2人で姿を見せて欲しいとは伝えてある。それと…」


「それと?」


「吉田社長は、1年前に夫を病気で亡くしている。大学生の1人娘がいるが……父親は木嶋だ。」


「ただの不倫では無い、ということか?」


シモンの話をまとめると、こうだった。


若い頃、木嶋と吉田は恋人同士だったが、吉田の父親に交際を反対され破局。吉田は見合い結婚するも、その時には木嶋の子供を身ごもっていた。

木嶋はその後、モデル事務所社長として成功し、みさきさんと結婚するわけだが、吉田の面影をみさきさんに見ていたようだ。それほどに2人は背格好が似ている。だが、性格は正反対なので、吉田の面影も見れなくなり自然と木嶋は家庭から離れ、仕事に没頭していった。

そんな時、仕事場で吉田と再会。彼女は未亡人となっており、また恋人関係に発展した。

今度こそ、吉田の父親に自分を認めてもらおうとした野心が、間違った方向に向いてしまったようだった。

更に…木嶋が最近になってDNA鑑定をしているのが分かった。相手は、吉田の娘と、それに悠馬くん。


「息子のDNA鑑定もか?」


「……離婚したいのさ。万一、悠馬くんが自分の息子じゃなかったら、それを突きつけて離婚するつもりだったんだろう。」


「最低な男だな…だが、みさきさんを犯罪者の妻にするつもりはない。すぐに動くには…証人に、証拠、か…」


その時、インターフォンが鳴り響いた。映ったのは、このマンションのコンシェルジュ。

「設楽様と、高橋さまがお越しでございます。お通しいたしますか?」


「すぐに通してくれ!」


「シモン、任務が増えたぞ。みさきさんと悠馬くんも連れて帰る。」


あんな男の傍になんて、置いておけない。


部屋に入ってきた2人は、少しやつれているように見えた。

まだ我々を警戒しているのか、なかなか座ろうとしない2人に、簡単に自己紹介し、みさきさんの名前を出すと安心したのかやっと座ってくれた。


「この1週間、どうしていたんですか?あの男は、部下を使ってあなたたちを探そうと躍起になっていましたよ。」


すると、女の細い方がぴくりと反応した。その肩を、大きな手で包み込み、男が引き寄せ話し出した。


「それをお聞きして、こちらに来たんです。社長…やばい事してるみたいで…俺、それ知っちゃって…。」


「調べはついています。なるべくなら事件にはしたくない。すぐにでも修正申告させたいのですが、何か証拠となるようなものはお持ちですか?それと、知った経緯は?」


「俺、社長には内緒で、お手伝いだった彼女を付き合ってて…そしたら彼女、事務所で金額の違う契約書2枚を見つけたみたいで…俺のギャラも知ってたから、おかしいって相談してきたんです。」


「私、実は以前税理士事務所で働いてたことがあるので、ちょっと引っかかって…」


「それからです。社長がデカイ仕事、俺に回すようになって、しかもLe Cielの娘が俺のファンだとか言って無理矢理紹介しようとするし。…でも、実際会ったら全然俺のファンじゃないし。これってもしかして…」


湊は身を乗り出すようにして話し、私とシモンを交互に見た。

それに応えたのはシモンだった。


「口止め、それかあわよくば共犯にでもなってもらうつもりだったんだろう。」


「それで怖くなって逃げたんです。でもあの仕事好きだったし、戻りたい…どうにかなんないすかね?」


「どうにかしますよ。君たちは数日、このマンションの客室を使ってもらえますか?すぐに自宅に戻れるし、仕事にも戻れますから。何か資料はありますか?」


「彼女が見つけた契約書のコピーと、俺のギャラの明細書ですけど…」


「充分ですよ。ありがとう。さ、部屋に案内させますよ。シモン、2人をよろしく。」


「あ!あの!!」


「はい?」


「俺…ほんとに仕事に戻れますか?」


「勿論。モデル事務所の社長が変わるだけで、他は今までどおりですよ。」


にっこり笑った私に、2人は深々と頭を下げた。




それからの展開は早かった。


あの後、先にみさきさんの元に向かったが、悠馬くんのDNA鑑定の事を知ると離婚を決意。一緒に戻ることを約束してくれた。

一番ぐずったのはやはりこの男かもしれない。あれこれと理由をつけて逃げようとする。この期に及んで、まだ自分が危ない橋を渡っているとは気付いていないらしい。

反対に潔かったのは同席していた吉田社長だ。口止めに材料に愛娘を使われていたことに大激怒。その場で別れを切り出したのだ。

放心状態の木嶋社長から私に向き直り、清々しいまでの笑顔を見せた。


「私のプライドに賭けても、この人に修正申告させてキチンと整理するわ。まかせて頂戴。」


「よろしいのですか?」


「勿論よ。でなきゃキッパリ別れられないでしょ?娘と2人で生きて行くには、乗り越えなきゃいけないものね。」


その言葉で、ようやく危機を感じたらしい木嶋社長は、吉田社長に縋るような目を向けた。


「ゆ、百合子?それはどういう…」


「あぁ、木嶋社長には手続き終了後、社長も辞任していただきます。」


「え!?」


「当然だわ。看板モデルを危険な目に合わせて。そんな社長に誰がついてきます?」


もはや吉田社長もこちらの味方だ。


「だ、だって。僕が大きくしたんだよ?誰が出来るって言うの!」


「大丈夫です。ウチには優秀な人材がおりますから。」


笑みで返すと、今度は胸ポケットから慌てて携帯電話を取り出した。


「そ、そうだ!みさき!みさきなら僕の気持ちが分かって…」


「あぁ、そうだ。みさきさんから、こちらを預かっています。離婚届。もうみさきさんはサインしていますよ。すぐに、サインして欲しいそうです。印鑑もお預かりしていますが?」


目の前にペラン。と1枚の紙を見せられた木嶋社長は、全身から力が抜けたように膝からくずおれた。


木嶋社長は、一晩で地位も、名誉も、妻も、恋人も、そして子供達までもを失ったのだった。





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