執事さんは王子様
ジュエル王国。
なにそれ?言葉の響きから、なんとなくキティとかミッキーみたいな
そんなキャラクターが頭に浮かんでも仕方ないと思う。
「どっかのテーマパークとか?」
目の前のタレント弁護士は呆れたような表情になった。
む。何よ。
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そしてあたしは今、機上の人だったりする。
今度はひとりきりだ。いや、ひとりきりではない。横にはあの弁護士が座ってる。
それもファーストクラスってやつだ!!
あたしが会ったあの老夫婦は、そのジュエル王国とかいうヨーロッパの小国の
先々代の国王ご夫妻だったんだそうだ。
道理でお上品に見えたわけだ。なんて妙に納得してしまったんだけど、だからといって
なんとなく扇子を渡しただけで遺産相続って、そんなのは納得できない!
しかも、その遺産の中には「執事さん」ももれなくついてくるのだ。
イキモノだよ!しかも外国人だよ!困るっつーの!
長い長いフライトの間、弁護士さんは無知なあたしにジュエル王国の話しをしてくれた。
他に話す事ないものね。
ジュエル王国とは、ヨーロッパの大国と大国の間にちんまりと存在する小国らしい。
周りを高く硬い岩山で囲まれ、更にその岩山の頂上付近は常に霧が濃く、それが
城壁のような役割を担い、戦争に巻き込まれなかったのだそうだ。
硬い岩山は、現代の技術をもってしても陸路を造る事が出来ず、隣国であっても
基本空路のみ。という、ある意味半鎖国のような国で、良くも悪くも他国の影響を
受けず、ひっそりと長く続いてきた国なのだという。
なんか神秘的!!
高い岩山と濃い霧の影響か、日本のように四季がはっきりした気候で、自然豊か。
特に水がきれいで美容に良いらしく、温泉も湧いていて、ジュエル王国の国民はというと
そんな豊かな自然とキレイな水のおかげか、全員、と言っても過言ではない位
美形揃いなのだそうだ。
宝石のような美しい人種の住む、美しい国。それがジュエル王国なのだ。
最近では、欧米のセレブの間でジュエル王国のリゾートエステが人気で、自然と
美容と美食(水が良けりゃ食べ物も美味しいってね~)で裕福な国になったのだと
言う。
あぁ、そういえばかなりのお年に見えたけれど、確かにおじーちゃんもおばーちゃんも
気品があって凛とした雰囲気で若い頃はさぞかし美しかったのだろう・・って
面影がありまくりだったわ。
けど、なぜあたしに遺産を・・と思うほど、あたしが印象に残ったのだろう?
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「霧が濃くなってきた。もうすぐ着きますよ」
言われて窓から外を見たら、本当だ。何にも見えない!!真っ白だ!
この霧を抜けたら・・その神秘の国があるのか・・・。
白い濃い霧が段々薄くなり、視界が開けた!と思ったら、目の前には
中世のお城や大聖堂のような大きな威厳のある建物や、その周りにはエンジ色に
統一された屋根の可愛いお家が並んでいた。
至るところにそのような集落があり、その周りは濃い緑の芝、そして森だった。
現代的な道路や車も小さく見えるけれど、馬や馬車が走っているのが当然とも
思えるような、そんな景色だった。
飛行機を降りたら、マントを羽織った従者みたいな人が来て馬車に乗せられるんじゃないの??
なんてちょっと乙女チックな事を考えていたけど、迎えに来たのはスーツをきちんと
着たお兄さんで、
車も日本の狭い道じゃ走れないね~って位車体の長い、所謂リムジンってやつだった。
真っ白なリムジンが現れた時もびっくりだったけど、車から降りたお兄さんを見たら
リムジンの驚きなんか吹っ飛んだ。
だって、運転手してるのが不思議なくらいのイケメンだったんだもの!!
そういえば、空港でもちらほら美形の人は居た。
けど、まぁ至って普通の容姿の人もいたので、気にならなかったし、さっき弁護士さんから
聞いた「国民全員が奇跡の美形」っていうのは大げさな賛辞だな。って思ってた。
けど、空港に居た人全員がこの国の人では無いのも当たり前よね。
それ位、この国の街の奥に入れば入るほど、目に入る人は美形ばかりだった。
なんだこの国!そりゃ、欧米セレブもあやかりたくなるわ!!
呆気に取られていると、イケメン運転手と共にやってきたスーパーモデル並みの
女性にクスクス笑われた。
女性はクリスティンと言って、滞在中にあたしのお世話をしてくれるらしい。
ありがたやありがたや~。
だって今回は友人もいなくて1人。言葉もわからない初めての国で・・・・
・・・・・・
・・・・・
ん?
言葉、通じてるんですけど?
つか、運転手さんもクリスティンさんも日本語話してるんですけど??
そういえば、亡くなったおばーちゃんもちょっとつたなかったけど話してた・・。
質問すると、なんと、突然どこからともなく現れ、この国に住み着いた日本人家族の
伝説があるのだという。
もう100年位前、と言っていたから、どうやってこの国にたどり着いたかはナゾ。
最初は肌の色も髪も、目の色も、言葉も違う家族を避けていた住民も、真面目に
よく働く日本人家族に段々心を許した。
その噂を聞きつけ、その時代の王子が馬に乗って日本人家族に会いに来たのだという。
その時、王子が日本人の娘にヒトメボレ。
その想いを貫き、めでたく結婚。
一途に娘を想った王子は、自分が王になったら一夫多妻系を廃止。同時に、第二言語を
日本語に指定。熱心に日本語を広めたのだという。
そんな伝説もあって、異国で会って扇子をくれたあたしの事が、心に残ったらしい。
へー、こんな遠くにある、小さなキレイな国で日本語が使われているなんて・・。
「更に伝説があります。日本人と結婚してからというもの、王族の皆さんは
更に美しくなったそうですわ」
「はぁ・・でもクリスティンさんもとーっても美しいですよ?」
「ありがとうございます。でも王族の皆様に較べたら全然・・国王の一族は、
お名前の一部に宝石の名前を持つほど、美しいんですよ」
「はぁ~。それは凄いですねぇ」
想像もつかないや。クリスティンさんより全然美しいって、レベルがもうわかんないよ。
一生懸命想像しようとしてる内に、リムジンが大きな大きな門を通った。キリンも
通れるんじゃないか?って位の巨大さだ!
遠くに、日本だったら絶対「ドーム○個分」って表現されるぞって位、桁違いの
大きさのお城が見えた。
これ、人の住居ですか?
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通された部屋は、靴を履いているのが申し訳なくなるくらい、ふわふわの
つやつやの柔らかい絨毯が敷き詰められた、高~い天井がシャンデリアで
まぶしい部屋だった。
座って待つように言われ、これまたやけにふかふかの座り心地の良いソファに
身を沈める。
・・・・落ち着かない!!!
飛行機、疲れるだろうなーと思って、エコノミー体質なあたしは少しゆるめの
ジーンズを履いていた。
今、ものすごく後悔している。この場にそぐわなさすぎる・・・。
思わず隣のソファに座る弁護士さんを恨めしげに見てしまう。
こんなお城だって知ってたなら言ってよ!
こんなイチキュッパのジーンズなんて履いてこなかったよ!
せめて・・・そう、せめてナナキュッパのワンピ?あー。むなしい。
少しすると、控えめなノックが響き、一人の長身の男の人が入ってきた。
運転手さんで少しは美形に免疫がついたと思ったあたしを衝撃が襲った。
な、なんですかこのヒトーーー!!
窓から降り注ぐ陽の光に、キラキラの金髪は白く輝き、後光を差してるみたいに
見える。
透き通るような白い肌は、それでも健康的に見えるし不思議だ。
少し明るいブルーの瞳を、まっすぐあたしに向けている。
ま、まさか。まさか・・・・・ね。
「お初にお目にかかります。お嬢様。私が執事のセルジュ=アクアマリン・ジュエルでございます」
耳に心地よい低音で話す、きれいな日本語。
こ、こんなきれいな執事ってあり得るの!?もっとキレイっていう王族ってどんなんよ!
と、ここまで思ってふと気付く。
セルジュ=アクアマリン・ジュエル・・・
「あ、アクアマリン???」
さっきクリスティンさんが、「王族は宝石の名を持つ」って・・・。
思わず声に出し、それにセルジュさんのキレイな明るいブラウンの眉がピクリと
上がった。
「あぁ・・もう聞いておいででしたか。私はこの国の第7王子です」
な、
なんで王子が執事!!!
アクアマリンが宝石で一番好き。