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代役は執事さん

その日、彼は上機嫌だった。



ふんふんふ~~~ん♪



こんなに盛大に鼻歌を歌ってる人を見るのは初めてだった。


「せ、セルジュさん?」


「はい?」


軽やかな鼻歌が止み、華やかな笑顔で体ごと振り返り目の前までやって来た。

ほんとに目の前にね!ち、近いって!!!


「なんでそんなに機嫌がいいの?」


「え?なぜです?」


「盛大に鼻歌歌ってたから…」


「え?そうでしたか?」


え!無意識ですか!!


「うん。えっと、フンフンフ~ン♪って感じの。聞いた事ない歌」


「あぁ…それはジュエル王国の国歌ですね」


「へぇ!そうなんだ!なんだか華やかな曲なんだね」


「気に入っていただけましたか?お嬢様も早く覚えてくださいね」


え!ど、どして!?

話の展開に頭がついていかなくって、目を見開いたあたしに、目の前のセルジュさんは

妖しげな微笑みを浮かべた。


「私の国に来てくださるのでしょう?」


「へ?」


相変わらずあたしの頭はセルジュさんの話についていかない。

ジュエル王国に行く?行くって言ったっけ?


えぇと、え~~っと?思い出せあたし!!


一生懸命記憶を遡って、あたしはひとつの記憶に辿り着いた。

そうだ。おじいちゃん……!セルジュさんのおじいちゃんと約束したんだ。

時々会いに来ますから、その時の搭乗券だけ甘えさせてくださいねって話した……。


「うん!行くよ。約束したもの」


やっとセルジュさんの話に追いつけて、ほっとしたあたしだったんだけど…

実はまだ、セルジュさんとの会話にはズレがあったらしい……。

勿論、この時はまだ全然気がつかなかったんだけれども。


あたしの返事を聞いたセルジュさんは満足気に微笑みを投げかけると、あたしに

ぽふん。と帽子を被せた。


「さ。参りましょう。東京駅でお土産を買うのでしょう?」


「うん!そう、そうなんだよー。芋ようかん!」


「奥様がお好きなんですか?」


「ウチの家族全員好きなんだよ~」


あ。最近色々ご近所さんから頂き物も多いし(セルジュさん目当てだけど!)

多めに買った方がいいかな?


音もなく静かに動き出したエレベーターの中で、ふと思い出した。

明太子にお米に蟹に…えっと、プリンとか。あぁ、あのプリン美味しかったぁ~。

でも全員に買ったら一体何個買わなきゃいけないんだろ!?

そんな事を考えていると、いつの間にかフロントに着いていた。

でもやっぱりセルジュさんが向かうのはあの部屋で……ついて行こうとしたら、

「お嬢様はソファに座ってお待ちください」と言われてしまった。

じゃあその間にママにお土産の相談をしようっと。


見渡すと、ロビーには空いているソファがひとつだけあり、そこに近づくと隣のソファに

座っていた女性が勢いよく立ち上がった。


「湊!」


あたしの背後に向かって、切羽詰ったような声をかける。


驚いて振り返ると、背の高い日焼けした肌の男性が駆け寄ってくるところだった。

この人……どこかで見た事があるような……。

隣の女性もサングラスをかけてるけど、どこかで見たような…。


きっとじっと見ていたんだろう。ふたりはあたしに視線を走らせると、男性はさっと

サングラスをかけ、すぐさま視線を逸らした。女性は持っていたバッグで顔を

隠すようにしてあたしに背を向けると、2人は急いでホテルから出て行った。


む。なによぅ、あれ。


少し嫌な感じを受けたけれども、誰だったか思い出せないので気を取り直して

ママに連絡すべく携帯を取り出すと、ちょうど着信があって驚いて携帯を取り落とす

ところだった。

あわわ。危ない危ない!


「もしもし。お姉ちゃん?」


「あっ、みはる!!」


「どしたの?慌てて。あたし何か忘れ物でもした?」


「ううん。そうじゃないの!あの……セルジュさん一緒かしら…」


「えっと…今チェックアウトしに…どしたの?」


「ウチの…トップモデルの湊、覚えてる?」


その言葉で、あたしの頭の中では、以前お姉ちゃんが自慢げに話していたモデルの湊さんと、

さっき「湊」と呼ばれた男性が一致した。


「あぁ!どこかで見たと思ったらお姉ちゃんのとこの湊さんだったんだ」


「え!?どこかで見たの?」


「ん?今ホテルのロビーでね。女の人と一緒に出て行ったから……」


「女と!?それ……高橋さんじゃない?」


「え?……あ。そう、かも」


そうだ。どこかで見たと思ったら、お姉ちゃんの家に通いでやって来てるお手伝いの

高橋さんだ。

やっぱり見た目に拘るお義兄さんが、お姉ちゃんが選んだお手伝いさんの中で

やっと認めてくれたお手伝いさんだって言ってた人…。


「あれ?どうして一緒だったんだろ…」


「…逃げたのよ……」


「え?」


「湊は事務所の稼ぎ頭で、大きな仕事が湊を名指しで入ってきて、殆ど休みが無かったの。

更に……有名ブランドの社長令嬢に気に入られてて…あの人、交際するよう迫ってたから…」


「はぁ…」


なんとも義兄のやりそうな事だわ…。あのツンとした高橋さんも、辛い恋をしてたのかな…

そう考えると、ついさっき手を繋いで出て行った2人を応援したくもなった。


「2人がお互い好きなら、それでいいじゃない」


「そんな問題じゃないのよ!今日、CM撮影なのに湊が時間になっても来ないって連絡があって……。

先方は湊本人か、それ以上のモデルをすぐに用意しないと訴えるってカンカンで…それで…」


「それで……セルジュさんなの?」


高橋さんを雇ったのはお姉ちゃんだ。そして、住居部分以外…つまり、モデル事務所の

方にも出入りさせたのも、お姉ちゃん。

その高橋さんが、看板モデルの湊さんと逃げた。お姉ちゃんはその責任を押し付けられて

いるのかもしれない。


「私が、どうしたのです?」


いつの間にか傍に来ていたセルジュさんが目の前で跪き、心配そうにあたしの顔を

覗き込んだ。


「お姉ちゃん……から。セルジュさんに助けて欲しいんだって」


それだけ言って、セルジュさんに携帯を渡した。


「私に?……もしもし。お電話代わりました。セルジュですが…ええ」


話しながら少し離れるセルジュさんの横顔が、なんだか知らない人に見えた。


「モデルの、代役を頼まれました」


戻ってきたセルジュさんが、困ったような笑顔を見せた。


「そっか。…どうするの?」


「お嬢様は、どうして欲しいですか?」


さっきと同じように、目の前に跪いて目を覗き込むセルジュさんの目を、あたしは

なんだか見ていられなかった。


「あたし?」


「貴女の望むままに」


「手伝ってあげて。お姉ちゃんを、助けてあげて」


「……本当に、それで良いのですか?」


「……うん」


この時は、本当に助けてあげて欲しいって思ったんだもん。それは本心のはずだったけど、

「本当に?」と聞かれても目を見て答える事が出来なかった。

あっ。久しぶりなのに、ちょっと!またもやシリアス?

なのにジャンルはコメディー?って感じですね。……ご、ごめんなさい(汗)

その分明るい場面が引き立つ…と、信じて!

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