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フェミニストな執事さん

ふんわりと柔らかく抱きしめられ、なだめるように肩を後ろから丸く撫でられると、

高ぶっていた感情も段々と落ち着いてきた。


そうすると、さっき一瞬唇に触れたモノに意識が行って。


あれは・・もしかして・・ど、どうしよう!?!?


それにこの状況!!!


こないだのお姫様抱っこなんか、まだカワイイって位の密着振りですが!


さっきのはもしかして。どうしよう。いや、まさか!


そんな感情がぐるぐると頭の中を駆け巡る。


救いの手は突然差し伸べられた。


静かだった室内に、突然明るいメロディーが流れた。


「け、携帯!!!」


不自然な程に大きな声を出すと、柔らかく温かい、心地よかった腕の中からの

脱出した。


ん?心地良かった?


ブルブル。大きく頭を振って、今の言葉を外に追いやる。心地良かっただなんて・・。違うもん。


連絡は都子からで、10分位遅れそうという内容だった。


「あ!いけない!待ち合わせ!」


「お嬢様、お着替えはいかがなさいます?」


「う、ううん。このままで・・行こうかと」


「でしたら、とりあえず荷物は寝室に持って行きますね」


柔らかな笑顔で、よどみなく話すセルジュさんの様子はあまりにも普段通りで。

やっぱりさっきのは気のせいだったんだ。と思えた。

でも、まだ自分じゃない熱が唇に残っているようで。そっと唇に指を当てたけれど

勿論答えなんて見つからなかった。



---------------------------------------------------------



「きゃー!みはる、久しぶり!」


「香澄、都子~~~!」


2人に抱きつき、あたしは久しぶりの再会を喜んだ。


「2人とも仕事帰りにごめんね~~!」


「いいよー。大丈夫。それより・・さ。」


都子がチラリと視線をあたしの頭上に飛ばす。あ。早速ですか。


「セルジュ・ロマーニです。今はみはるさんのお家でお世話になっております」


「キャーーー!」


待ち合わせにしていたのは、この辺では待ち合わせ場所として有名だという、

あるオブジェの前。

同じように待ち合わせの人でごった返してる中でも、きっと一番目立っている人・・

セルジュさんが話すと、都子や香澄だけじゃなく、周りで様子を窺ってた女性までが

歓声を上げた。


「すごい!想像以上にカッコイイ!」


普段クールな香澄までが、はしゃいだ声をあげた。


ちょ、ちょっと騒ぎが大きくなっている気がするんですけど!

彼氏を放り出してこちらを向いてる子だっているし、なんか・・・なんかこの空気

怖いんですけどーー!

あわあわして周りを見渡すと、


「お話は座ってからに致しましょう」


セルジュさんが微笑んでまたひとしきり歓声があがると、彼は都子と香澄の背にそっと

手を添え、

移動を促した。それを見てちょっとだけ、胸になんだかモヤモヤしたものが出来た気がした。

そして3人はそのまま歩き出す。

あたしは・・・モヤモヤに気を取られて、歩き出すのが遅くなってしまい後ろから

ついて行く形になった。

時々人に押されて、人ごみに慣れていないあたしは3人との間に距離が出来る事があって、

その都度小走りで追いかけた。

東京に到着した時はセルジュさんが上手に手を引き、人ごみに巻き込まれないように

うまく誘導してくれてたんだ・・・。

香澄が予約していたという、隠れ家風洋風居酒屋(どんだけ「風」がつくんだーい!)までの

移動の間、そのセルジュさんが振り向く事は無くて・・・。モヤモヤは大きくなった。


食事の間も、専ら3人で会話は進んでいく。

セルジュさんは聞き上手でもあって、2人の会話を上手に盛り上げていた。

香澄も都子も、今回の一番の目的はセルジュさんだったから、話の矛先は自然と

セルジュさんに向く。

際どい質問もあったみたいだけど、セルジュさんはそれも上手にかわしてるようだった。

本当のところ、あたしは皆の会話が耳に入ってこなくてあんまりよく覚えていない。

時々へらっと笑って見せてあとは食事してたんだけど・・・あんまり味も感じなかった。

やっぱりモヤモヤは増えた。


都子がお手洗いに立った時、戻って来た都子を立ち上がって迎え、椅子を引いてあげた

セルジュさん。

モヤモヤは、もう胸いっぱいに広がって喉にまで苦味を感じていた。


思えば、セルジュさんがウチに来てからというもの、ママやまゆさん以外に

セルジュさんが女性と親しげに接しているのを見た事が無かった。

これが本来のセルジュさんなのかな。だとしたら、あたしは全然、彼の特別じゃない。

セルジュさんは誰にでも優しいんだ・・・。


それに気付くと、食欲までも無くなっていた。



あれれ?どうした、セルジュ!

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