執事さんの牽制
結構重いハズなのに。
まるで、重さなんて感じていないかのように、あたしを横抱きにして、
ずんずんずんずんと歩いて行く。
横抱き・・・・つまり、俗に言う『お姫様抱っこ』だ。
ひ~~~!キャラじゃないんだけど!!!
恥ずかしいよ~~~。
セルジュさんに密着している、体の右側と、思った以上に逞しい腕が回されている
膝裏と、背中から脇にかけてが・・・・熱い。
は、恥ずかしい・・・。
でもきっと、2階には従業員用のエレベーターで行くはずだから、人目につかずに・・と思ったら。
セルジュさんはずんずんと、速度を落とさずに建物の真ん中の吹き抜け部分の
エスカレーターに向かっていた。
「ちょ・・!エレベーターで行けばいいでしょう?」
焦って言ってはみたものの・・・
「遠回りになりますから」
確かにそうだけども!!!
「そうだけど・・あの!恥ずかしいから降ろして」
ちょっと、お願いしてみるも・・・
「ダメです」
即答かよ!!
準備中の為まだ動いていないエスカレーターを、セルジュさんはあたしを
抱き上げているとは思えない軽やかさで上っていく。
だぁぁぁぁ!!!2階にこの状態で行くのは嫌だ!!
もう、ただでさえ人目についていた。
存在するだけで目立つセルジュさんが、お姫様抱っこをして颯爽と歩いていたら、
それはそれは目立つ。
でも困る!!だって2階には・・・
「おーろーしーてーー!」
どうしても降ろしてもらわなきゃ、困るんだってば!!!
「お嬢様、暴れると落としてしまいますよ?」
バランスを崩したのか、セルジュさんの腕から、一瞬背中が飛び出しかけた。
「やぁっ!!!」
落ちるのは怖い~~~~!187cmからの落下は、相当痛い!!
必死でセルジュさんにしがみついた。その時。
「・・日野さん?」
背後で、ずっとずっと聞きたかった声がした。
折りしもあたしは、落ちかけた恐怖からセルジュさんに必死にしがみついたとこで。
しっかりとセルジュさんの首に腕を回していて。
傍から見たら、そりゃ~抱きついてるようにしか見えず。
あたしの耳が、セルジュさんの柔らかいキラキラ金髪でくすぐったく感じる位に
密着してる時だった。
今!
今ですか!なぜこのタイミング!!!
振り返るに振り返れない・・・なんとか、「人違いです」って感じで通り過ぎよう。
そう思ったのに!
なぜ!!!!なぜ止まるんだセルジュ!!
「よ、横井さん!えっと、あの、足を・・ぶつけてしまって、あの。医務室に・・」
出来る限りセルジュさんから離れて(でも落とされない程度に)必死に説明するも・・
なぜか、横井さんは厳しい表情でセルジュさんを見ていた。
あの~ぅ?話しているのはあたしなんですが~?
「失礼ですが、あなたは?」
セルジュさんが、今まで聞いた事がないような冷たい声で聞く。
「N時計店の横井と言います。日野さんとは・・友人です。あなたは?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・しまった!!!
人に聞かれた時に、セルジュさんをどう紹介したらいいのか、まだ考えてなかった!
まさか正直に執事っていうワケにもいかないし(ウチは庶民だから)、
遠縁??いやいや!どっからどうなっても親類っぽくないし!
ど、どうしよう?
と、ひとりあわあわしていると・・とんでもない爆弾が投下された。
ふ。
頭上で、セルジュさんが柔らかく笑った。
へ?思わず見上げると、そこには蕩ける位の甘ったるい表情をしたセルジュさんが。
「みはるの、婚約者です」
な、何ですとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
「!横井さん、違・・・・・いったぁ!!!」
違う。そう言いかけたら、脇に鋭い刺激が!
「足が痛むの?ごめん。早く行こうね。では、失礼」
瞬く間に、遠くなる横井さん。
チガウ!足じゃなくて!今!脇の肉をつねった~~~!?
「な、なんでつねるの!」
「私が?何をおっしゃっているのですか」
つねったじゃん!!!
思いっきり睨んでも、セルジュさんは相変わらず甘ったるい笑顔を向ける。
むーーー。
諦めて後ろに視線を向けると・・・・
セルジュさんの背中越しに見える横井さんは、いつもよりちょっと硬い表情をしていたように見えた。
主人をつねる執事。