シュールストレミング
「聞きましたぜ……旦那。儂は思ってたんですよ、旦那の魅力が何故オナゴに伝わらないのかを。ええ。やっと解るモンが出てきやがった。こりゃあ目出度い、何よりですとも」
陽気な男が上野の肩を揉みながら感情豊かに言葉を発する。
この男は上野が唯一仲がいいと自信持って言える友人、神田 優也だ。
「いや、何だよ。その口調。お前は江戸時代の人か、タイムスリップしちまったんか……そもそもそんな奴居ねえよ、俺の魅力解ってんのは」
「んー、本当にそう思いで?拙者は旦那が魅力的過ぎて毎日キュンキュンと……え?一寸、シュールストレミングを目の前に出されたような顔辞めてくだせえ!」
彼の発言に思わず、彼の方へと向いて顔を歪めてしまう上野。
「何だよ、その……しゅー、え?何?しゅー……?」
「シュールストレミング。スウェーデンのニシンって魚を塩漬けした缶詰。世界一臭い食べ物らしいぞ」
「そんなもん、よく一瞬で出てきたな。やっと何時もの口調に戻って安心した」
話に区切りを着くと神田は話を戻した。
「まあ、所詮、高田さんの演技の練習に付き合った所に秋葉原ちゃんが来たのを察したからアドリブした。そこで高田さんは勿論、友也は基本的に何でもこなすからリアル過ぎて秋葉原ちゃんが信じちゃったんでしょ」
「御前ってすげえな、探偵か。俺の魅力や俺の事を優が1番知ってるかもな、だからこそ、全てオープンに出来て落ち着くわ。優と居ると」
上野が神田に微笑んで、思っている事を素直に告げる。
神田も照れ臭そうにしてしまう。
「うるせえよ!今更だろ!そんなの!俺もだぜ!俺も御前が1番……」
神田も自身が思っている事を告げようとすると、教室の奥側からガチャっとドアを開ける音が聞こえる。
「あ……なんか……ごめん、その……邪魔しちゃったね……うん……おめでとう?……あ、うん、じゃあね!」
ドアを開けたのは上野の幼馴染である秋葉原だった。
秋葉原は以前にも見たように顔を紅潮させ、戸惑いながら、慌ててドアを閉めて走り去る。
「……御前の所為で誤解が生まれたぞ、優也」
あまりにも予想外の出来事に呆ける2人。
暫く間を開けて上野が発した。
「いや、今のは御前からじゃね?」
「そうか?……てか、何処の部分から聞いてたんだ?」
「知るか……まあ、あの反応からするとお互い熱い想いを伝えている所じゃね?」
「おい、優也間違っては居ないが言葉には気をつけろ」
「お前もな」
「因みにあれがシュールストレミングを目の前に出されたような顔か?」
「分からん」
え、今の何?……え?
先程の目撃現場で頭が真っ白だ。
あれ……?前にもこんな事有った気がする。
嗚呼……高田さんの告白の時か。
高田さんに続いて、神田君も!?待って、異性問わず、友也は狙われているの?え……!?更に混乱するし、なんだろう……焦り?なんで?やっぱり、私は友也の事が……その……好きなの!?
待って、待って、待って……あ、なんか……倒れている気が……。
秋葉原は走り続けながら頭の中で先程の事を、自身の気持ちを整理していた。
段々、頭が回らなくなり、酸欠状態になり倒れかけた所に同い歳ぐらいの女の子に支えられる。
そう、御徒だった。
「ねえ、陽夏!大丈夫!?」
私は気が付くとベッドの上にいた。
目を開くと目の前には照明が見えた。
周りは静かだ。
数秒間経って、やっと、今居るのが保健室だって事を理解出来た。
居場所を理解して暫くすると、カーテンを開ける音がする。
「良かった、その様子だと落ち着いたみたいね。……もう廊下や階段を走り回ってたそうじゃない。そんな事したら駄目でしょ。」
白衣を身に纏った大人の女性に優しい声音で注意される。
養護教諭だ。
「本当にすみません……因みに、何故私はここに?」
「恐らく酸欠じゃないかな?……もう下校時間だし、今日は帰って、一応ゆっくり休んでね。何か可笑しい所あったら病院に、ね?」
「はい、解りました」
秋葉原は少し時間が経ってからゆっくりと起き上がり、御徒が荷物を持ってきてくれていたらしく、そのまま荷物を持って、養護教諭に頭を下げてから保健室を後にする。
下駄箱に向かうとそこには御徒がいた。
御徒は秋葉原を見掛けるとこちら側に走り寄ってくる。
「陽夏!大丈夫?……めっちゃ心配したよ」
「うん、大丈夫。なんか酸欠ぽい……廊下を走るなって注意されちゃった」
秋葉原は苦笑を浮かべる。
「全くもう……どうしたのさ、走り回っちゃって」
「あの……また……友也が告白されているのを見ちゃって……」
秋葉原の発言に思わず驚いてしまう御徒。
「え?本当!?……別の子?」
「まあ……うん、別の子は……別の子……まあ、うん、また自分の中で整理出来たら、ね」
「お、おう……遂に友太郎のモテ期が……!どうするの!友太郎が他の人に取られちゃうよ!」
「うーん……ほら……まだ好きとか解らないし」
御徒は溜息をついて会話を続ける。
「まだそんな事言ってるの?何時も直ぐに好き!ってなって猪突猛進だったのに」
「だって……相手は友也だよ?」
「だってもクソもない……もう良いや、ほら、帰るよ」
「まちの、呆れないでよ……」
2人は靴を履き替え、校舎を後にした。




