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9.果物屋を開業

 商人が訪ねてきた。顔を見てすぐに分かった。会釈をして


「お久しぶりですビリーさん。私を覚えていますか?二年ほど前にサンディモ市の近くで荷馬車に乗せてもらったユートと言う者です」


 少ししてから思い出したらしく、


「あ、あの時のユート君ですか、あの時からずいぶんと変わられていたので分かりませんでした」


「あれから、私はここに移住して生活しています。最近ようやく商売を始めたばかりです」


「ビリーさんは商売の話でここに来られたのですよね」


「はい。最近ベルドグラン王国産の果物がモンテサントで売られているという情報を聞き、それをモンテサント市内の果物店に卸したいと思い商談に来ました」


「実はその件で私からの提案があります。市内の果物店に卸すのではなく、ここの直営店で販売を任せたいのです」


「今は市場で、母に任せて果物を販売してますが、母に代わり、直営店で販売してもらえる会社を探そうと思っていた所だったのです」


「何故ですか」


「いろいろな店に卸す場合、店の儲け分を考えてやらないといけなくなり、儲けが減ります」


「多くの店に卸せば、販売量を増やせ、収益も増えるのではありませんか?」


「ベルドグラン王国産の果物はそう簡単に販売量を増やせないでしょう。また、この商売、私の所以外では出来ないだろうと考えています。つまりこの商売を独占出来ます。私にとって、わざわざ他店に卸して、儲けさせてあげる事が私の損失になるのです」


「現在の販売価格はご存じですか?」とユート


「販売している所で価格は確認しています。ベルドグラン王国産の果物なので、この位の価格でも、おかしくはないと思いますよ」


「店頭価格は現状通り。販売出来た場合、小さい果物は一クロネ、大きいサイズのは二クロネ支払います。六品種各五十個を完売出来たとすると、四百クロネの収益になります。儲けがあまり大きくないのは分かっています。しかし、元々小さいサイズの果物は一クロネ、大きいサイズのは三クロネで販売している商品です。果物の原価の事まで考えると、単に売るだけでこれだけの収益が出る美味しい商売はありません」


「どのくらいの販売数量を考えていますか?」


 先ほど言いました六品種各五十個売れればと思っています。でも、日々の販売数量の推移を聞いて調整し、売れ残りが起きないようにするつもりです。尚、直営店なので、仮に何日も売れ残り、商品がダメになることが有っても損はしませんよ」


「わかりました。もしこの商売で何らかの問題が発生したらどうなりますか?」


 こちら側の問題の場合は気にすることはありません。何が起こったのか正直に連絡頂ければ良いです。もし、ビリーさん側の問題の場合は、損害を弁償してもらう事になります」


「損害については契約書にて明確にしておきたいので、お互いに検討して明記するという事で宜しいですか?」


「はい、それで良いです。私がビリーさんに依頼する理由は、ビリーさんが直営店で働く人、及び売り上げの管理をしっかり行って頂けると思っているからです。返事は直ぐでなくても良いのでこの提案を検討してください。契約して頂けたら、その日の一か月後から販売をお任せします」



 本格的に果物の商売を始めるために果物屋として使える物件を探した。ビリーさんの知り合いでモンテサントに詳しい不動産屋を紹介してもらい、住宅地に近く、商店として繁盛しそうな場所を選んだ。一階は店舗で二階は住居になっており、一階と二階は完全に分かれている。一か月八百クロネだ。

 今住んでいる住居から果物屋の二階に引っ越すことに決めた。

 これからは、ヘルドナの倉庫から、ここへ直接果物をテレポートさせ、そのまま陳列して販売できる。二階を住居にすることで、母も楽になった。


『やっと果物屋を本格的に開業できたな』


 毎日六品種二十個の果物を販売し始めた。しかし、すぐに二十個では少ないと分かった。

 それから一週間後ヘルドナの果樹園に行き、アイラとその父モーガンに会った。


「これからは毎日六品種五十個購入したいのですが良いでしょうか」


「五十個位なら現状問題なく対応可能です。こちらも毎日買ってもらえれば助かります」


「では宜しくお願い致します」


「しかし、例えば五十個を百個に突然増やせと言われても増やせませんから、その場合は購入計画を事前に出してもらえば、対応可能かもしれません。数を増やしたかったら、苗木を植えて、育てるとかしなければなりませんので。あと、それだけ労力とか使いますから、増やした分は少なくとも一年ぐらいは購入してもらわないと困ります。」


「分かりました。更に増やしたい場合は早めに相談致します」


 そうこうしているうちに、ビリーから契約をしたいと連絡が来た。ビリーから弁護士を紹介してもらい、お互いが納得できるような契約書を作成し、署名した。


「一か月後から、販売はビリーさんにお任せしますので宜しくお願い致します」


「ところで店屋は見て頂けたでしょうか」とユート


「はい、相変わらず繁盛しているみたいですね」


「既に、目標であった数の五十個を販売できてますよ」


 ユートはヘルドナをとても気に入っていた。果物店をビリーに任せたら、もうモンテサントに住む必要が無くなる。母とヘルドナで暮らしたいと思い、アイラの果樹園の近くにある貸家を借りた。町から少し離れていたので賃貸料も一月八百クロネ程で借りられた。母は此処に来るのは初めてだ。母と二人で倉庫にテレポートし、そこから南側の坂を上がっていくとそこに借りた家がある。この家は丘の上にあるので、青い海と真っ白な砂浜が見渡せ、とても景色がいい。家の内部も母は気に入ったようだ。


「俺はヘルドナに移住しようと思うけど母さんも一緒に来ませんか?」


「私もここが気に入りましたよ。こんなに景色のいいところ住めるなんて思ってもみなかった」


 早速アリサは家具店に行き、新居に必要な家具を買いに行った。



 果物屋も順調に、毎日六品種五十個を販売していた。ビリーとの契約から一か月経ち、販売をビリーに任せる日が来た、果物の仕入れ額は五百クロネで、完売の場合、売り上げが二千クロネ。ビリーの収入は四百クロネ、ユートの収入は千百クロネになる。

 ユートと母のアリサはモンテサントの役所に行き、職員に他国への移住を申請した。

 すぐにヘルドナの役所に行き、正式にヘルドナの住人になった。

 今までずっと大変な暮らしで苦労してきた母なので、今までよりはのんびりとした暮らしをさせてあげたい。


 こんな日々が続く中、ある飲み屋で、数人が酒を飲みながらこの果物の独占販売に腹を立てていた。


「あいつらだけいい思いをしやがって」


「あんな果物を高額の値段で売りつけるなんて許せねえ」


「ベルドグラン王国に行けばあんな果物、こっちの果物より安いぜ」


「あいつらを少しとっちめてやらねえと気が済まねえな」


「今夜押し入って、商品を潰してやろうか」


「どうせなら、盗んで売っぱらってやろうぜ。そうすりゃ結構儲かるぜ」


「でも、そんなことしたらすぐに足がつくんじゃねえのか?」


「大丈夫だよ、こっちも商人から買ったって言えばいいんだよ」


「入手方法について聞かれても、他の商人も同じように入手したんだろって言えばいいんだよ」


 酒を飲み終わると、その足で果物店に向かった。店には誰もいないようだ。裏の従業員扉をこじ開けて入って行った。その時、一瞬赤い魔法陣が足元に見えたと同時に水の中に落ちた。


 ザブーン「うわ、ここはどこだ」と慌てた。水がしょっぱい。海だ。

 すると更にもう一人海に落ちてきた。

 ザブーン「うお....なんだこれは」

 更にもう一人

 ザブーン「........ぶあっ」

 モンテサントには海が無い。押し入った三人は遥か遠く離れた海にテレポートされてしまったのだ。

 その日以来、その三人の消息は途絶えた。


 一点心配があった。ベルドグラン王国産の果物は独占販売なので、それを良く思わない人が居るであろう。そのため、何らかの問題が発生する可能性がある。

 ビリーには販売時間だけ、責任をもって対応してもらう事になっているが、販売時間外の保安についてどのようにしたら良いか考えていた。その結果、新たに製造した、魔力量が七千有る魔力石のアーカイブ天恵を使って不法侵入者を強制排除することを思いついた。

 使う魔法はオリジナルの保安魔法で、『オートライトニング魔法陣』の記述を一部変更した魔法陣を使う。この魔法は魔力石のアーカイブの中に保管されている。


 どのような魔法かというと、

「アーカイブアウト保安魔法」で魔法を起動する。

 自分が索敵されないように離れたところで「セキュリティ」と詠唱すると索敵を開始する。

 何か索敵しその座標を検知すると、その座標にテレポート魔法をテレポートする。つまりテレポート魔法を二回使う。

 テレポートされたテレポート魔法を使って、そこに居る何かをある特定の場所に強制排除する。

 保安魔法の解除は離れたとこから解除用のパスワードを詠唱する。


 この国では住居不法侵入者に対して所有者が罰して良いことになっている。一階中央の地面に魔力石を埋め込んだ。次の日に販売する商品を運び込んだ後、魔力石の魔法を起動し、朝、店員が出勤する前に解除する。店の鍵は開店前に二階の部屋で店員に渡し、閉店後二階で店員から預かれば誤って店員が強制排除されることは無い。

 なかなか面倒であるが半年ぐらいは警戒し、それ以後は止めても良いと思っている。時がたてばこの果物の値段も一般化してしまう。たかが果物である。宝石や金銭ではない。大して高くもなく、すぐ腐ってしまう厄介な物をあえて盗まないだろう。


 しかし、不思議だ。テレポート魔法という便利な魔法があるのに、それが有効に使用されていないように思われる。皆が使っていたら、この商売で稼げない。

 初めてテレポート魔法を使った時の事を思い返してみた。

 テレポート魔法を起動するとテレポート先の青い魔法陣が現れ、そこにテレポートできた。青い魔法陣が現れる場所の座標は、赤い魔法陣に設定することが出来る。魔法陣にそのような機能がある事を知ていたからだ。たぶん、魔法スキルを使って魔法を発動する場合、魔法陣が無いので、座標を設定出来る事を知らないのであろう。テレポート魔法のスキルを持っている人が居たとしよう。その人は当然青い魔法陣の箇所にテレポートできることを知っている。だからそれを目で見ることが出来る範囲でしかテレポートできないと思っているのかもしれない。


 ヘルドナに引っ越してきてから半年が経った。ユートと母のアリサは果樹園から果物を仕入れ、直営店に転送するのが主な仕事だ。もう必死に働かなくても収入を得られるようになった。


『次はルブラン、ロイトに直営店を出そう』。


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