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8.ヘルドナで、商売を始める

 ユートはベルドグラン王国のダールに居た。桟橋を出ると倉庫と宿屋が有り、その先に練合馬車の停留所があった。千クロネ払いヘルドナに向かう乗合馬車に乗車した。

 御者さんが訪ねた。


「ヘルドナへは何しに行くのかね?」


「冒険者で稼いでるんですが、そろそろ辞めたいと思ってまして」


「まだ若いのに辞めちまうのかい?」


「実は冒険者をやりながらずっと他に良い仕事が無いか探してるんですよ」


「でも魔獣を狩ると結構いい儲けになるでしょう」


「その分危険が伴うし、俺は体力も無いからあまり冒険者に向いてないんですよ」


「そういう自分もこの仕事で儲けて満足してますからね」


「自分に向いた仕事で人生楽に暮らしたいんです」


 こんな話をしていると、冒険者では無さそうな人達が乗り込んできた。


「さすがに貿易港だ。商人なのかな」


 と思いながら、後は普段の通り馬車で眠り、夜食事をして果物酒を飲んでまた寝るの繰り返しだ。

 四日目は宿屋が数件ある集落に着き、宿屋での宿泊だった。宿場町のような場所だ。ここで御者は水、食料を買いこんで次の日の朝出発した。

 さすがに暇なので、二日ほどは野宿の場所で小動物を獲ってきて御者に渡した。そんな旅をして、ヘルドナに着いた。

 いかにも南国の町という感じだ。北側には青い海が広がり東西に白い砂浜が続いている。とても綺麗だ。冒険者ギルドに行き、魔獣の情報を受付に聞いた。


「この一帯は比較的乾燥した土地で大きな木は少ないです。魔獣もEランクからDランクの小さい魔物ですね。しかし南部側に行くと熱帯雨林が広がり、そこには高ランクの魔獣がいます」


 とりあえずこの町の宿に泊まった。風通しの良い暑さを感じない造りになっていて気持ちがいい。町は結構大きく、市場には食材がいっぱい並んでいる。特に果物が多い。見たことのない果物が多くある。小さいサイズの果物は一クロネの値段で、大きいサイズの果物は二から三クロネ位の値段だ。一個ずつ買って食べてみた。なかなか美味しい。


 こんなのルブランロイト公国で売ったら儲かるんじゃないかなと思った。果物屋の店員に聞いた。


「これら果物はルブランロイト公国で見ないんだけど、ここでしか売っていないのかな」


「一応この国の中だったら何処でも売ってるけど、他国になんか持って行っても腐っちゃうから駄目なんだよ」


 確かにそうかもしれない。果物なんかせいぜい持って二週間ぐらい。此処から出荷しても二週間以上掛かってしまうか。でも、俺だったら出来るじゃないか。いい商売を見つけたぞ。


「これって、年中採れるんですか?」


「年中採れるよ。だけど特に美味しい時期ってのはあるよ。果物によってまちまちだけど」


「この果物を入れている籠ってどこで売ってるかな」


「この先の所に籠屋があるからそこで買えるよ」


「教えてくれて有難う」


「ところで君の家って果樹園やってるのかな」


「うんそうだよ」


「また買いに来るから宜しくね」


 籠屋はさほど遠くない場所にあった。店頭で果物を入れていた大きめの籠を見つけ、


「この籠はいくらですか?」


「四クロネです」


「四個ください」


「十六クロネです」


「あと、この大きめの籠を二個」


「六クロネが二個で十二クロネです」


 果物屋に戻り、売っている四種類の小さいのと二種類の大きいのをそれぞれ二十個づつ買った。


「いっぱい買ってくれたから一個おまけだよ」


「ありがとう」


「この籠をちょっとここに置かせてもらえないかな、すぐに戻って来るから」


 買った果物を籠に入れ、そこに置かせてもらった。その籠を二個づつ三往復して、宿に運んだ。全部宿に持ってくるとモンテサント市の家にテレポートした。

 丁度母は家に居た。持ってきた果物を売ってほしいと頼んだ。とりあえず一個ずつ母に食べてもらって感想を聞いた。


「うん、とても美味しい。これなら絶対売れる。後は値段次第だね」


「母さんは野菜を売っていますよね。そこにこの果物も置いてください。小さいのは五クロネ、大きいのは十クロネで売れるでしょうかね」


「結構高い値段だね。それでも買う価値があると思うかどうか」


「売れ行きを見て値段を変えるか考えるよ」


「ベルドグラン王国産と書いて売ってみましょう。希少価値で売れるかもしれない」


『二日後、売れ行きを聞いて今後どうするか考えよう』


 二日間やることが無いので、ヘルドナの東方に行き、魔獣討伐をした。索敵魔法を使って探したが、なかなか魔獣は見つからなかった。魔兎二羽、魔猫一匹、で討伐報酬は五百クロネだった。ヘルドナよりもバノアナの方が効率良さそうだ。

 その夜モンテサント市の家にテレポートし、母に果物の売れ行きを聞いた。なんと、完売していた。


「小さいのは五クロネ、大きいのは十クロネで売れたよ。昨日買った人が、今日また来て、今度はいつ買えるのかって。これら果物は人気が出そうですね」


 これならいける。トータル二百クロネで買って八百クロネで売れた。六百クロネの儲けだ。

 次の日の朝、ヘルドナ市場に行き、この前果物を買った果物屋の所に行った。


「こんにちは」


「あ、いらっしゃい。この前はいっぱい買ってくれてありがとう」


「今日も二十個づつ貰えるかな」


 同じように果物を買い、宿に持ち帰った。


 モンテサント市の家にテレポートし、果物は母に預けて、直ぐにヘルドナに戻った。


 もう一度市場にある果物屋の所に行き、


「先程はどうも、時々果物を多く買いたいんだけど、責任者に合わせてもらえないかな」


「私で構いませんよ。私はアイラと言います」


「私はユートと言います。ここでいっぱい果物を買うのも大変なので、今後は倉庫まで運搬してもらえると助かるんです。そのような事は出来ますか?」


「それなら問題ありませんよ。そもそもここへ運搬して来てるんですから」


「では、果物を多く買いたい時に、ここへ来てお願いするので、宜しくお願いします」


「いいですよ、但し、当たり前のことですが、持ってる果物の数以上は売れませんよ」


「それで構いません。ところで、アイラさんの果樹園は何処にあるんですか。場所を知っておきたいのですが」


「午後、町の鐘が鳴ると、皆市場から引き上げるので、その頃にまた来てください」





 町の鐘が鳴ったので市場に行くと、アイラは迎えに来た従業員の荷車に商品を片付けているところだった。充分明るいうちに市場の仕事は終わる。荷車に乗せてもらい果樹園に向かった。道路は町から丘の方向に延びていた。建物と建物の間から青い海が見える。そのうち建物も無くなり、海が見渡せるようになった。


「此処は海も砂浜も綺麗だね」


「そうでしょう。平日はあまり人がいないけど、休日は結構人が来て砂浜で遊んだり海で泳いだりしているよ。ユートさんは泳いだことある?」


「海に入ったこと無いし、泳いだこともないよ、そもそも泳ぎ方知らないし」


「へーそうなんだ。服屋さんに行けば水着を売ってるから、それを着て海に入るといいよ。とても気持ちがいいよ」


「泳げなくても大丈夫?」


「大丈夫だけど泳げた方が楽しいよね。でも泳げなくても浮かんでるだけとかできるから、これが波にゆらゆら揺られてけっこう気持ちいいんだー。今度暇が有ったら教えてあげるよ」


 果樹園は町の東側の外れにある丘にあった。思った以上に大きそうだ。


「立派な果樹園ですね」


「寄って行きますか?」


「今日は場所を知りたかっただけなので、ここまででいいです」


「そうですか、また買いに来てくださいね」


 この後、早速不動産屋に行き倉庫の賃貸物件を探した。町から少し外れた場所に良さそうな倉庫があった。果樹園と市場の間にあるので良い立地条件だ。賃貸料金は一か月四百五十クロネで借りられた。


 夜にモンテサント市の家にテレポートした。


「母さん果物の売れ具合はどうだった?」


「一日で完売したよ。これなら毎日六品種各二十個送ってくれても充分売れる!」


「三十個に増やせそう?」


「それはしばらく様子を見てからにしましょう。これからは、八百屋から果物屋に鞍替えですね」




 ヘルドナの午後、町の鐘が鳴ったのでアイラさんの果物屋に行った。


「今日から毎日六品種各二十個売ってくれませんか?」


「毎日買ってくれるんですか!嬉しいな。果物を倉庫に運んだあと、果樹園に寄ってきなよ」


「ありがとう、倉庫は、通り道にあるから」


「そうなの!楽でよかった」


「実は借りたばかりなんだ」


 荷車に乗せてもらって果物を倉庫まで運んでもらった。


「そこだよ」


 果物を下ろしながら、


「これ、どこかに売るの?」


「それは、企業秘密だから教えれられないんだな」


「残念。でも、これだけ買ってくれて嬉しいよ。ダメになっちゃったら勿体ないからね」


 果樹園に着くと両親に紹介してくれた。


「こちらはユートさん。最近果物を多く買ってくれているんですよ」


「初めまして、アイラの父モーガンです。たくさん購入頂き有難うございます」


「初めまして、こちらこそ美味しい果物を購入でき、嬉しい限りです。大きな果樹園ですね、どこかに果物を卸しているんですよね」


「はい、あちこちに売っているんですが、全部買い取ってもらえるわけでは無いので余ったものを市場で売っています」


「毎日六品種各二十個買いたいと思いまして、アイラさんに、市場が終わってから、私の倉庫に運んでもらうようにお願いしました」


「倉庫は何処に有るのですか」


「市場に行く途中だよ」とアイラ。


「だったら、売れ残りの果物じゃなくて、市場に行く時に持って行ってあげればいいだろ。これからユートさんはお得意さんになるんだからな」


「そうだね」


「では、明日の分は買ったから、明後日からお願いします」


 それから、毎日、倉庫に果物を運んでもらった。六品種各二十個ずつの購入代金を払い、倉庫の扉を閉めると果物をモンテサント市の家にテレポートし、翌日母が販売するという事を繰り返した。


 果物屋を始めたたことで、ユートは時間的余裕が出来た。そこで、午前中はサントス山に魔力石を採りに行き、魔力量七千の魔力石造りを始めた。

 午後は果物屋で母の手伝いだ。


 ある夜食事をしながら

「今は母に果物の販売をお願いしていますが、このままだと母が大変です。なので別の人に販売してもらえないか考えてるんだ」


「しかし、信頼のおける人じゃないと不安ですよね。私はまだまだ働けるからこのままでもいいけど、何か良い案があるのですか?」




 母が果物を販売していると、商人らしき人が声を掛けてきた。


「これはベルドグラン王国産の果物ですか?」


「いらっしゃいませ、その通りですが」


「始めまして、私はビリー マクガイアと言います。この果物の取引をしたいのですが責任者にお会いすることは出来るでしょうか」


「確認してみますので、後日またここに来て頂けますか?」


 母はユートにこの事を話し、日時を決め、モンテサント市の家で会う事にした。

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