第51話『悪逆皇帝』
――ルゼルス・オルフィカーナ視点
「あっけないものね」
燃えて灰と化した『ゴミ』を一瞥する。
周りに居た魔物達も私の炎によって消え去り、その姿を消している。
「さて、ラースの進化はもう完了したのかしら? クスクス。しかし、私の力を一部とはいえ継承するなんてね。彼が全てのラスボスの力を継承した時、どんな存在となるのかしら? 少しだけ楽しみね」
指を鳴らしてラースとセンカを覆っていた防御結界を解く。
多くの力をこの結界には注いでいたのだけど……殆ど無駄になってしまったわね。
「ラース様ぁ! しっかり……しっかりしてください!!」
センカは今もラースの名を呼び、必死に呼びかけている。
どうやら、未だ進化は完了していないようだ。
まぁ、肉体が作り変えられるということだったしね。無理ない事でしょう。
「まぁ、気長に待つとするわ――」
そう呟いてラースの元へと歩き出した時だった。
「――捕まえた」
先ほど処分したはずのアイファズという名の『ゴミ』がまだ生きていた。
私の手を万力のような力で掴み、恨みのこもった視線でこちらを見つめている。
「あら、ゴキブリ並みにしぶといわね。どうやって生き残ったのかしら?」
――ツー・エス・ウェヒター・フェルン――
私はラースとセンカを先ほどまで覆っていた防御結界を再展開する。
離れた距離からの魔術。さすがに自身の身体強化までは追い付かない。
バキボキと砕かれる私の左腕の骨。「んっ――」と声が漏れてしまう。
「お前如きが僕を殺せるわけがないだろうがっ。僕は無敵で最強の存在なんだからさぁぁぁっ!」
そう言って『ゴミ』は私に抱き着いてきた。
絶対に離さないという執念じみたものを滲ませ、『ゴミ』が私に纏わりつく。
――不快だ。
だが、今だけは我慢する。
この『ゴミ』は何かを企んでいるみたい。
ならばその企みが無駄であると体感してもらってからいたぶったほうが面白いでしょう。
それまでは我慢我慢。
「情熱的ね? なに? 私を抱きたいのかしら? さすがに『ゴミ』の相手は勘弁願いたいのだけど?」
「安心しろよ。僕だって化け物の相手はごめんだね。まぁ、今の僕はそんなお前よりも化け物なんだけどね」
「ふぅん、そう。凄いわね」
………………何か仕掛けるのなら早くしてくれないかしら?
これだけの時間を貰えたのだ。やろうと思えば私はもう魔術を行使できる。
それをしないのは単純にこの『ゴミ』の次の一手を見るためだ。
なので、何かやるなら早くしてほしい。
いつまでも抱き着かれているのは不快だもの。思わず苦痛なく殺してしまいそう。
「ちっ、馬鹿にしやがって。僕は灰になろうがどんなになろうが再生出来るけどなぁ。お前はどうかな? 再生するための核がきっとどこかにあるはずだ。それごとお前を粉々にしてやるよっ!」
「あら、驚きね。大正解よ」
「やっぱりかっ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ――セルプストロング――」
魔法の発動。
アイファズの体が光り輝く。
光はどんどんと輝きを増していく。
「――眩しいわね。なに、これは? 大道芸か何か?」
「ククク、知らないか。なら教えてやるよ。これは――自爆魔法だっ! 術者の命を捧げる事で大爆発を起こすんだよぉっ。間近で喰らえば肉片一つ残らないぞぉ?」
「あら、怖い。でも、貴方も……あぁ、そういう事ね」
「理解したみたいだな。そう――僕は肉片すら残っていなくても再生出来るんだよぉっ! これで僕の――勝ちだぁっ!」
瞬間――大爆発が起きた。
私の体も、アイファズの体も吹き飛んだ。
唯一、距離が離れているうえに私の防御魔法により守られていたラースとセンカは無事だったみたいだけれど。
そして、全てが吹き飛んだ後――地中から肉片が飛び出た。
その肉片は蠢き、その形を変えていく。
手、足を創り出し、最終的には人間のものとなった。
そうして――全てが吹き飛んだ地にアイファズ・トロイメアは降り立つ。
「クククククククククク、アーッハッハッハッハッハッ! 見たかこの化け物女がぁっ。僕の事を散々舐めてるからそうなるんだよぉっ。兄さんの召喚物であるお前なんかが僕を殺せる訳ないだろうがバァァァァァァァァッァァァカ。アハハハハハハハハハハハハハハッ!」
爆心地の中心に立ち、アイファズ・トロイメアは勝利に酔う。
「さて、次は兄さんの番だね。あの化け物女をいたぶれなかった分、兄さんには付き合って貰わないと――」
そう言って、ラースに視線を向けたアイファズに――私は語り掛ける――
「あら、酷い。私とはもう遊んでくれないのかしら?」
「っ!?」
周囲を見渡すアイファズという名の『ゴミ』。
それが私を視認する。
空中に浮かぶ黒い闇。
それが――私の肉体を形作る――
そしてこの私、ルゼルス・オルフィカーナもまた同じように爆心地へと降り立った。
「私をいたぶりたいのでしょう? なら、もう少し頑張りなさいな。私ももっと貴方と遊んでいたいわ。クスクスクス」
呆気にとられる『ゴミ』を見てくすくすと私は笑う。
あぁ、本当にいい表情。
何が起こっているのか分からない。そう言いたげな表情。見ていてとても愉快だわ。
「ば……かな。なんで……生きて? 再生する核っていうのは……まさか嘘?」
「失敬ね。嘘なんてついてないわよ」
私は自身の胸に手を当て、自身の不死性について種明かしをする。
「私の魂と同化している『闇の魔導書』。これを破壊すれば私を殺せるわよ? どうやって破壊するのかは私にも分からないけれどね。あぁ、奇跡を起こせば破壊できるらしいわよ?」
私の登場したゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』の主人公は奇跡を起こし、私の魂と同化した魔導書を破壊して私に死という安息をもたらしたのだしね。
「まどうしょ? なんだそれ? そんなの……しらない」
知らない単語を聞かされて後ずさる『ゴミ』。
一瞬、一つ一つ説明して絶望させようかとも思ったけれど……面倒ね。キリがないわ。
だから私は目の前の『ゴミ』にとって重要な事だけを告げた。
「まぁ、一つ確かな事は……あなたでは絶対に私を殺せないという事ね」
「うそだ……うそ……だぁっ――」
どこから取り出したのか、『ゴミ』が新たな剣をその手に取ってよろよろと私に向かってくる。
その顔に先ほどまでの覇気はない。
私の期待通り、存分に絶望してくれたみたい。
まぁ、それも当然ね。
すべての切り札を出し尽くし、それでもこの私を殺せなかったんだもの。勝ち目がない事を存分に理解してくれたことでしょう。
「僕が……負けるわけが……お前なんかに……兄さん……なんかに……兄さん?」
そこで『ゴミ』がピタリと動きを止める。
その視線がラースを見て――
「っ!?」
ラースが私の張った防御結界から出ていた。
あの結界は外からの攻撃を防ぐものであって、中に居る者の動きを制限するものではない。それでも、まさかラースが自分から出るとは思ってもみなかった。
センカは――居ない。結界の中にも外にも居ない。おそらくラースの影の中にでも潜り込んでいるのだろう。
「そうだ……兄さん……召喚者である兄さんを消せば……まだ僕にも勝ち目はあるよなぁっ!」
「ちっ――」
アイファズが新たな勝ち筋を見出し、ラースへと疾走する。
ラースは何の動きも見せない。
何か狙いがあるのかしら?
そもそも、ラースの進化は既に完了しているの?
永続召喚されてからというもの、私とラースを結んでいたリンクは途切れたみたいで彼の心の内が読めない。
だから、彼がどういうつもりで私の張った防御結界から出たのかも不明だ。
私はアイファズの動きを拘束するべく魔術を構築。そして――
「アイファズ……ぼくちんの……俺の……ルゼルスを……よくも好き勝手してくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
ラースが――吠えた。
それを意に介することなく、アイファズはその剣をラースに向ける。
一方、私はラースの先ほどの叫びを聞いて無意識に魔術の行使をキャンセルしていた。
(ラースのさっきの怒声……自身の事を僕ちんと言っていたわよね? まさか――)
「絶対に許し……ませぇぇぇぇぇぇぇん。――対人間用拷問器具、第三十三番機構、串刺し――」
瞬間、ラースに向かって疾走していたアイファズを地中から突き出た赤黒い槍のようなものが串刺しにする。
「は? ぎ、やぁぁぁぁぁぁぁっ――」
幸いというべきか、足を串刺しにされただけのようで絶命には至らないアイファズ。
――否、これはラースがそう狙ったからこそだ。
幸いではない。むしろ、即死できた方が幸せだっただろう。
「ぷっくくくくく。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪」
「あぶ、もっ、なにが、やめっ」
笑い転げながら『串刺し♪』と歌うラース。
それに合わせてアイファズを地中から突き出た槍が襲う。
「………………まさかアレを憑依召喚で呼び出すなんてね」
私にアレを止める術はない。
例え、憑依召喚が本来のラスボスの力を一割程度しか発揮できないのだとしても、私ではアレには敵わない。
ゲーム『ラストファンタジアⅥ』に登場するラスボス、悪逆皇帝サーカシー。
最強のラスボスにして、最狂のラスボス。
その牙がアイファズに向けられる中、私にはそれを眺めることしか出来ないのであった――




