第37話『修行の成果』
――冒険者ギルド(早朝)
俺とセンカが各々の修行を始めてから五日。
俺たちは修行の成果を試すため、修行の間は休ませてもらっていた俺専用のクエスト(指定された場所で魔物をひたすら倒すというもの)を受けにいく。
「おぉ、少年。こっちに来るなんて珍しいねえ。いつもは訓練場の方へと真っすぐむかってたじゃないか」
受付には毎度おなじみのギルド職員、レイナさん。
「そろそろ依頼を受けようかと思いましてね。俺専用のクエスト、まだ残ってます?」
四日前、俺はギルド長から直接、専用のクエストを受けてくれないかと頼まれたのだが修行中という事もあって断っていた。
それがまだ残っていないかと尋ねてみる。
「ああ、勿論残っているよ。というか、こんなの少年以外受けられないからねぇ」
「良かった。それじゃあそれ、受けたいんですけどいいですか?」
「ああ、もちろんさね。ただ、少しだけ時間かかっちまうけどいいかい? 今から指定区域を守る冒険者を募集すっからさ」
「いいですけど……どれくらい時間かかりますかね?」
「ん~。なんとも言えないけど昼過ぎくらいまでには集まるんじゃないかい? 前回、このクエストを受けた奴らが美味いクエストだって宣伝してくれたからねぇ。殆ど戦わずに魔物の素材がたんまり手に入るって自慢していたよ」
「ああ、なるほど」
俺は今まで倒した魔物の埋葬も素材の剥ぎ取りもしていなかったからなぁ。
他の冒険者からしてみれば丸々残った魔物の死骸というのは、埋葬する手間だけで素材の剥ぎ取りが出来るお得物件って訳か。
「まぁ、中には埋葬くらい自分でしろよって冒険者も居たけどね」
「いや、ホント申し訳ないです」
お得物件とはいっても、やはり迷惑に思っている冒険者も居るようだ。
「いいっていいって。少年はそんなの気にせずパパーっと魔物を狩り続けてりゃいいんだよ。ここらに限らず、魔物は増える一方だったからねぇ。狩りすぎるくらいで丁度いいのさ」
そう言ってくれると助かるが、あまり頼りすぎるのもよくないだろう。
少しは自分で埋葬なりなんなりが出来るんだぜと言いたい物だ。
「しかし少年も隅におけないねぇ。そんな可愛い娘、どこで見つけたんだい?」
「「え?」」
ニヤニヤと笑いながら俺の背中に隠れるセンカを指さすレイナさん。
しかし……おや? おかしいな。
確かレイナさんは俺よりも先にセンカと会っていたはずだが……。
まぁいいか。
タイミングとしては丁度いいので、俺はレイナさんにセンカを紹介することにする。
「えーっと……前にもちらっと言ったと思うんですけどこの子、俺のサポーターにしたセンカです。今日のクエストにも一緒に連れて行きますんでよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
宿屋を出てからというもの、ずーっと俺の背中に隠れていたセンカをずいっとレイナさんの前に押し出す。
「ん? んーー? ……ん!?」
驚きに満ちた表情でセンカを見るレイナさん。
疑問、確認、驚愕で推移する『ん』の三段活用というやつだ(多分違う)。
しかし、改めてセンカの紹介をしただけだというのに、なぜここまで驚かれるのだろう?
センカを俺のサポーターにする件についてはこの前、レイナさんにも言ったはずだしなぁ。分からん。
「え、まさかこの娘……あの時の魔人の娘かい!?」
そう言ってセンカをジーっと見つめるレイナさん。
ああ、なるほど。以前見たセンカの姿と今のセンカの姿が結びつかなかったのか。
センカを拾った翌日、俺は灰や煤で汚れていた彼女を公衆浴場に連れて行って身体を綺麗にさせ、他にも店をいくつか回って彼女に似合う服を与えた。
すると――彼女は化けた。
後ろに居る彼女の姿を見る。
赤と白を基調としたブレザーに身を包むセンカ。
ボサボサだった銀の長髪は今は手入れされた後だからなのか、どこか輝いて見える。
そして、白磁のように白くて綺麗な肌。
加えて幼い人形にように可愛らしく、整った顔立ち。
綺麗になったからか、翡翠の瞳が以前より澄んでいるように見える。
……最初に会った時の姿からは考えられない程の美少女になってるよなぁ。
確かに、最初の薄汚れていた姿からこれを連想するのは無理かもしれない。
というか俺自身、身体を洗わせた後の彼女を見て、思わずうめき声を上げてしまったからなぁ。
あのあと、適当に服を見繕おうと思っていた俺だったが、無駄に気合を入れてセンカ用の服を何着か買って自分好みに飾り付けてしまったし。
外見が人形のように可愛らしいというのに加え、センカ本人が大人しいっていうのもあってどうしても着せ替え人形みたいな扱いをしてしまった。
ぶっちゃけ、元々は彼女の為の買い物だったはずなのに、途中からは俺が彼女の色んな姿を見てみたいという欲求に駆られて俺の為の買い物になってしまっていた。
そんな変身をしたセンカをレイナさんは驚いた顔で数秒見つめた後、こほんと咳ばらいをして俺に向き直った。
「ほえー。化けるもんだねぇ。――っとそれは置いといてだよ。サポーターにした……だって? 少年、正気かい? えと……その子は……まだ子供じゃないかっ!」
「いや、そうですけど……それを言ったら俺もですよ? 俺もセンカも13歳ですし」
前世の記憶を持ち、テラークさんに兄貴と呼ばれる俺ことラース。
だが、その年齢はまだ13歳だ。学年で言ったら中学二年生ですね。
そりゃまぁ前世の年齢まで持ち越したら大人どころかおじさんになるが……まぁそれは置いておこう。
「いや、確かにそうだけど……そうだっ。少年、周りに人が居ると力を振るいづらいんじゃないのかい?
ハッ――。まさかその娘なら巻き込んでもいいかと思ってるんじゃ――」
「いやいや、そんな事は考えてませんって。センカなら俺がいくら暴れようが巻き込まれる心配がないってだけです」
「(こくこく)」
そう説明する俺と、それに追従するように首を縦に振るセンカだが、レイナさんは未だ半信半疑のようで訝し気な視線をこちらに向けている。
――仕方ない。
「センカ、少し潜ってもらえるか?」
「えと……分かり……ました」
そうしてセンカは音もなく……俺の影に沈んだ。
そう――センカはリリィさんとの修行の末、影に自分の身体を沈ませる事ができるようになったのだ。
まだ修行の途中らしいが、俺的にはこれさえ出来れば十分だ。
俺のサポーターとして連れていく価値がある。
「………………は?」
それを目の前で見ていたレイナさんは口を大きく開けて驚いていた。
目の前に立っていた人が音もなく消えて驚く……か。
ふーむ。
やっぱり職業:影使いの人ってあまり居ないのかな?
そこそこ居るのならレイナさんが驚く事もないはずだし。
もしそうなら、やはりセンカを拾ったのは大正解だったな。
センカは半分魔人という事で疎まれる存在らしいが、それを補って余りあるほどの能力がある。
後、可愛いし。目の保養になるって意味でも大変よろしい(買ってあげた服も前世のゲーム作品で気に入ったヒロインが着ていた服に近いものを選んだので視覚的に大変楽しませてもらっている)。
「えーっと……少年? さっきの娘はどこに?」
辺りを見渡し、突然消えたセンカを探すレイナさん。
俺はそんなレイナさんの肩をちょんちょんと叩き、自身の影を指さして答えた。
「ここに居ますよ↓」
「はぁ? ……いや、居ないじゃないか」
俺の足元を一瞥するレイナさん。
だが、影に潜ったという発想には至らないらしく、俺を非難するような目で見る。
目の前で影に潜ってもらったんだけどなぁ。まぁ、いいや。
「センカ。もういいぞ。出ろ」
「……はい」
そうして俺の影から音もなく飛び出すセンカ。
「うえぇぇっ!?」
いきなり現れたセンカの姿を見て、遂には後ろに倒れてしまうレイナさん。
この人、驚いてばかりだな。いや、驚かせてばかりいるこっちが悪いのか。ごめんなさい。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。心配してくれてありがとうね」
「いや、こちらこそ驚かせてばっかりですいません」
「いやいや、これはアタシが悪いんだよ」
そう言って体をはたきながらレイナさんが身を起こす。
そして、神妙な顔をして言い放った。
「少年が異常なのはいつもの事だったね。それを念頭に置いておくべきだったよ」
なんて酷い言い草だ。
確かに色々とやらかしている自覚はあるが、俺自身はとても平凡な少年だぞ。
ちょっとラスボスが好きで、ちょっと厨二が入ってて、ちょっと前世の記憶を持ってるだけのどこにでも居る少年だ。
『ねぇラース。それのどこが平凡なのかしら?』
脳裏に響くルゼルスさんの突っ込み。
うん、冷静に考えれば確かに平凡とは呼べないな。ごめんなさい。
「ま、まぁとにかくです。センカはこうやって影に潜む事が出来るんですよ。彼女は影の中にいる間、攻撃とかは出来ないけど攻撃されることもありません。だから彼女が影に潜んでいる間、俺は思う存分暴れる事が出来るって訳です」
レイナさんにセンカの有用性と、なぜ俺が彼女をサポーターに選んだのかを伝える。
「あー、まぁそういう事ならいいんじゃないかい? 一応、ギルド長にも報告しておくよ」
「ありがとうございます」
「ほいほい。さて、それじゃあ今から人を集めるから適当に時間を潰しててくんな」
「分かりました」
「(こくこく)」
昼過ぎくらいまでには人が集まるだろうという事だったので、俺はセンカと一緒にギルドの食堂で時間を潰すことにした。




