第35話『修行』
「よしっ!」
説得成功。
さすがリリィさんだ。
彼女なら『コウ』の話を出せば乗ってくるだろうという俺の読みは正しかった。
心の中でガッツポーズをとる俺に対し、リリィさんが語り掛けてくる
『さて、この状態では契約が出来ませんね。それに、私はそこの少女に影の使い方を指南しなければならないのでしょう?』
「あ、ああ」
『ではさっさと私を召喚してください。契約の後、その少女に影の使い方を指南します。ああ、それと――あなたの力になるとは言いましたが憑依召喚は止めてくださいね? あなたが考えている通り、私は兄さんの為なら大抵の事は出来ます。ですけど、兄さん以外の男と一緒になるのはやはり耐えられません。もし私を憑依召喚で呼び出したら――舌を噛み切って死ぬ覚悟です。その点、お忘れなきよう』
憑依召喚をして自分を呼び出したらお前もろとも死んでやると脅してくるリリィさん。ホント、話が通じるのはありがたいけど召喚主である俺と仲良くする気が一切ないな。
全てのラスボスと信頼関係を結べってルゼルスから言われているのだが……少なくともリリィさんを相手に信頼関係を築くのは難しそうだ。
いやまぁ、それでこそリリィさんだと思わなくもないが。
「分かってますよ。きちんと通常召喚で呼ばせて貰います」
『いいんですか? 召喚されたら真っ先にあなたを殺してしまうかも』
俺を試すように尋ねてくるリリィさん。
確かに、召喚するラスボスによってはその危険がある。
だが、少なくともリリィさんに関してはその危険はほぼない。
なぜなら――
「リリィさんは兄と会える可能性を自ら失くす人じゃないでしょう? 俺を殺したらリリィさんもこの世界に存在できなくなって、お兄さんと会える可能性は完全に潰えますよ?」
そもそも、あのリリィさんが兄に関することで嘘を言う訳がないしな。
『本当に――――――不快ですね。私の事を理解してくれるのは兄さんだけでいいのに……』
面白くないといった感じで呟くリリィさん。
どこまでも兄想いのラスボスだなと苦笑しながら、俺は彼女の召喚を解除する。
「さて――限定召喚解除。対象はリリィ――」
『リリィの限定召喚を解除します』
そうしてリリィさんの限定召喚を解除する。
そうして続いて――
「通常召喚。対象は――リリィ」
『イメージクリア。召喚対象――リリィ。
通常召喚を実行――――――成功。
MPを1000消費し、闇の担い手、リリィを24時間召喚します』
そうして……彼女は現れた――
腰まで伸びる艶のある漆黒の髪。
眩しそうにこの世界を見る黒の瞳。
そんな黒と合わせるように着ている彼女の世界の黒の制服。
見る者を魅了する整った顔立ち。そして均整のとれた体つき。
ルゼルスとは対照的に、何のプレッシャーも感じさせない齢16の少女。
アニメで見た通りの美少女――リリィが俺の目の前に現れた――
「おぉ……」
「え? だ、誰……ですか?」
センカがいきなり現れたリリィを驚きに満ちた表情で見つめている。
かくいう俺も、それをフォローする余裕がない。
ルゼルスの時もそうだったのだが、好きなラスボスがいざ目の前に現れると思考が止まってしまう。
「はぁ……ダルイですね」
現れたリリィは面倒くさげに自身の黒髪を撫でる。
そして――
「何を呆けているんですか? とっとと契約を始めますよ――影渡し――」
「お、おぉ」「わっ」
リリィが自身の黒髪から髪を一本引き抜くと同時に、彼女の影と俺の影が繋がった。
これがリリィの影使いの能力。その一端だ。
繋がった影は次第に紅に染まり、ゆらゆらと揺れていた。
「契約を交わす。私――リリィは自身の兄である『コウ』の存在が確認されるまで汝『ラース』の力になることを誓う。
その対価として『コウ』の存在が確認された瞬間『ラース』は私を永続召喚にて解き放ち、その自由を保証する事。ここに誓うか?」
「あ、ああ。誓う」
その幻想的な光景に気おくれしながらも、彼女の『契約』を承諾する俺。
「契約……完了。契約は各々の影に縛られ、抗う事は出来ない――――――ふぅ」
彼女が脱力すると同時に、俺と彼女の繋がっていた影が途切れる。
「終わった――か」
初めての契約。俺自身は何もしていないがその幻想的な光景にいつの間にか息を止めて魅入ってしまっていたようだ。
ほっ息を吐く。
「ええ、これにて契約は終了です。不本意ではありますが、私はこれからあなたの命令には基本的に逆らえません」
「心配しなくてもそこまで働いてもらうつもりはないですよ。リリィさんが本当は争いを嫌ってるっていうのは知ってますし。というか、俺のそういう心の内が分かってるからこそ契約してくれたんでしょう?」
「……本当、鬱陶しいですね。まぁ、いいです」
そうしてリリィさんはセンカの方へと向き直り――
「さて、それでは影の使い方についてこの子に教えます」
「へ? え? え?」
いきなり現れたリリィさんに対してどう接するべきか分からない様子のセンカ。
そんな彼女にこの人から影の扱い方について学んでくれとリリィさんを指さして伝える。ラスボス召喚についての詳細は今言っても信じて貰えないだろうし、また落ち着いたときに説明するとしよう。
「わ、分かりました。頑張りますっ!」
「はぁ……ダルイ。とっとと始めますよ――」
こうしてリリィ先生観衆の下、センカの影使いとしての修行が始まった。
★ ★ ★
――スタンビーク(夜)
「――さて」
宿屋にはセンカとリリィを残して、俺は一人でギルドの訓練場に来ていた。
夜遅いこの時間、訓練場には誰も居なかった。
「ここなら問題なさそうだな」
『ええ、そうね。周りに人の目もないことだし、変な目で見られることもないわ』
「――よし」
俺は意を決して、奴を召喚する。
「限定召喚、対象はウルウェイ・オルゼレヴ」
『イメージクリア。召喚対象――ウルウェイ・オルゼレヴ。
限定召喚を実行――――――成功。
MPを5消費し、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴの精神を24時間召喚します』
――そして、かの魔人が呼び出される。
『ん? ――――――ああ、なるほど。理解した。これが限定召喚というやつか』
召喚されたウルウェイ・オルゼレヴは理解が早く、自分がどのような立場に居るのかすぐに把握したようだ。
今回、呼び出したウルウェイ・オルゼレヴは限定召喚で呼び出したからか、はっきりと自分の事を認識できているらしい。
今までは憑依召喚でしか呼んでなかったから俺の精神と混じり合って不安定だった……という事か。
「初めまして。ウルウェイ・オルゼレヴ。自己紹介は必要か?」
こうして話すのは初めてなので、そう問いかける俺。
それに対しウルウェイは面倒くさげに言う。
『要らん。ラース、お前が己をこうして召喚したのは力を欲しての事だろう? ならば、己が貴様に言うべき言葉はただ一つだ』
そうしてウルウェイは宣言する。
『己の力が欲しいのなら――貴様の覚悟を己に示してみるがいい――』
以前、ルゼルスに言われた召喚対象となるラスボスとの対話。
俺は自身と相性が良いらしいウルウェイの力を得るべく、彼との対話を試みた。




