第21話『討伐した魔物』
そうしてギルドの職員さんがぐちゃぐちゃになった魔物の素材セットを必死に確認する間、テラークさんと話すこと数分。
「あ、あのぅ」
ギルドの職員さんがなんだか恐る恐ると言った様子で声をかけてくる。
どうやら、魔物の査定が終わったらしい。
魔物の乱雑詰めセットの仕分け……お疲れ様です。
そしてすいませんでした。
「えぇっと、受注したクエストはオーク10体、ゴブリン20体、スケルトン8体――――――これの討伐ですよね?」
なぜか引きつった笑みで確認してくる職員さん。
これは――あれですね。達成条件満たせてないっぽいですね。
『まぁ、無理もない事だけれどね。ルールル、結構適当に入れてたもの』
俺の為にしてくれてた事だから、責めようとは思わないんだけどな。
というか、あそこまで想われて悪い気はしないし。
「あのぅ? 聞いてますか?」
そこでギルド職員さんが反応のない俺に向けて再度声をかけてくる。
ああ、いかんいかん。脳内会話してるとどうしても目の前の事がおざなりになるな。
「あぁ、すいません。受注クエストは……はい。その三つを受けたって感じで間違いないです。……やっぱり、討伐証明の部位とかきちんと入れられてなかったですかね?」
先回りしてクエスト失敗か確認してみる。
確か、クエストの失敗って違約金とか払わなきゃいけないんだよなぁ。
受注したクエストの達成期限は後数日残っていたはずだけど、もし今後もこんな調子で失敗続きだったらどうしよう? お金、足りるか?
俺の懸念を肯定するようにギルド職員は重々しく頷く。
「え、ええ。ゴブリンの討伐部位が一つも見当たりませんし、オークの討伐部位も二体分しかありません。唯一、スケルトンの討伐部位は十体ほどあったのでクエストの一つだけは達成してますけど――」
ああ、良かった。一つでも達成扱いになっているのであれば御の字だろう。クエストは数万の報酬のやつを選んだはずだし、これで明日以降の宿代も安心だ。
この返り血で汚れた体――――――お風呂に入ってサッパリ流したいし。
なんて俺がホッとしていると、
「ですが!! そんな事は問題ではありませんっ!!」
バァンっと受付の机を両手で叩いて職員が叫ぶ。
それに反応して「何かあったのか?」と他の冒険者が遠巻きになってこちらの様子を窺ってくる。
うーん。正直、露出狂の気はないからそんなに注目しないで欲しいんだが……まぁ、仕方ないか。あんな魔物の腐臭を放つぐちゃぐちゃセットを持って服の購入やらお風呂に入りに行くわけにもいかなかったし……。
ここに来る途中、街の人たちの奇異の視線に晒されたのは言うまでもない事だろう。
「これ……どんな魔物から取れましたか?」
先ほど叫んだ職員が机の上に俺が取ってきた魔物の部位の一部を置く。
それは、とある魔物の耳だった。人間の十倍くらい大きい耳。
「えーっとですねー」
どんな魔物から取れたっけ? これ?
この身にルールルが憑依していた間の事はきちんと記憶に残っているのだが、それは夢より少し印象深いという程度のものだった。
そもそも、結構な数の魔物をルールルは倒したからどんな魔物から取れた素材かと聞かれても正直、自信をもって答えられない。
『これはアレね。人の十倍くらい大きい人型の魔物を倒した時のやつね。色は緑だったわ』
おぉ、ルゼルスさんありがとうございます!!
俺はルゼルスが教えてくれた魔物の特徴をギルド職員さんに伝える。
すると、職員さんは肩を落としながら――
「それ、トロールです。討伐ランクはAですね」
と、力なく答えた。
ざわつく周りの冒険者達。
だけど……あれ? あの森には基本的にBランク以下の魔物しか現れないって聞いたんだけど?
まぁ、『基本的には』ってだけの話だしな。きっと運が悪かったんだろう。
しかしそうか……あれ、そんなに強かったのか。
正直、暗殺者さん達もそうなのだがルルルール・ルールルの戦い方は異質そのものだから相手の強さが測りにくいんだよな。
「あー、なるほど? ま、まぁ別にFランクの俺がAランクの魔物を倒してしまっても問題はなかろう?」
「大問題ですよ!!」
怒られた!?
――って当然ですよね、ごめんなさい。
などと心の中で謝罪していたらギルド職員さんはわたわたと慌てた様子で手を動かし、
「あ、ごめんなさい。言い過ぎました。ですけど、ランク差がある相手からは可能であればきちんと逃げてくださいよ? 命は一つしかないんですから」
なんていうフォローを入れてくれた。
「まぁでも、ラースさんも運が悪いですね。トロールって日中、稀にしか確認されない種なんですよ。アレ、夜行性ですからね」
そして更に、俺の不運を嘆いてくれている。
えっと――――――うん。
「ごめんなさい。夜に出かけました」
「猛省してください」
「……はい」
慈悲はないとでも言わんばかりに今度はフォローもされませんでした。当然か。
職員さんは溜息をつき。
「いやまぁ、実はそうなんじゃないかなぁとは思ってたんですけどね? 他にも日中はあまり確認されないはずの魔物の部位らしきものを確認しましたし」
話を聞くと、あの森では確かに基本、Bランク以下の魔物しか出ないとの事だったが、それは日中に限るという事だった。
夜の場合、活性化した魔物も含め普通にAランクの魔物も闊歩する魔境へと変わるらしい。
そういう事は先に言っておいて欲しかった……。
いやまぁ、夜に狩りに出る冒険者なんて普通居ないから言うまでもないと思ったって話なんだろうけど。
「ああ、それと――」
職員さんがそう前置きして、最後にある魔物の素材を取り出してきた。
それは一枚の鱗だった。
ギルド職員さんはその鱗を出しながら首をかしげ――
「これだけ何の魔物の素材か分からなかったんですけど――どんな魔物から取ってきたんですか?」
と、聞いてきた。
あぁ、これならちゃんと覚えてる。かなり印象深かったからな。
俺は一言
「ドラゴンです」
と、答えた。
シーンとまるで墓地のような静けさになってしまったギルド。
しかし、それは一瞬だけだった。
「「「ハアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」」」
次の瞬間、驚愕する冒険者たち&ギルド職員さん達の叫びがギルドに木霊するのだった――




