【38.5】獣は隣に
遡ること数分前……。
「分かった……分かったから姉ちゃん。カラオケに行くことは認めるOKだ。けど部屋に乗り込もうとするのだけはやめてくれ」
「何?あんたは姉の幸せを願ってはくれないの?」
「願っている。超願っている。けど、それと同時に遊里の幸せも願っている」
全く我が姉ながら恐ろしいな……。
友よ……気軽にそして面白いとかの理由だけで紹介したことを激しく後悔。はしないが同情はするぜ。
「まぁ、あんたの言うことも一理あるか……それなら部屋を調べてきなさい」
「なぁ、姉ちゃんよ。なんで部屋の番号を知ろうとしてるんだ……乗り込むのは無しって話をさっきしたばっかだろ?」
「あんたってほんと何にも分かっていないわね……」
やれやれと言わんばかりに姉は頭を抱えていた。
おかしいな俺変なこと聞いたかな。
「もういい年した男女が暗がりの密室にしかも二人っきりよ?そんなの何か間違いが起きてもおかしく無いでしょ」
この万年発情期の姉は一体なにを言っているんだろうか。
まぁ、でもないとは断言出来ないよな。
遊里からはそんな事しないと思っても相手のことを知らない俺からするとどうなるか分からない。
「はいはい……どこにいるかそれとなく聞いとけば良いんだろう」
「流石よくできた弟だわ」
そう言われ、俺は「はいはい」と返し、遊里にメッセージを送った。
メッセージ送りはしばらく経ったが既読にすらならない。
「はぁ……全く使えない弟だわ」
この姉様さっきと言っていること変わりすぎじゃありませんかね。
カラオケに熱中してるんだろうなぁと普通なら思うことだろうが、この隣にいる頭まっピンクな姉様はそんなこと思わないんだろうな。
「仕方ない。一つずつ部屋をしらみつぶしで見つけていくしかないわね」
「姉様、周りから変な目で見られ始めているので一旦どこでもいいから入りましょうか……」
別に小声で話しているわけでもないから、周りも視線を集めてしまっていた。
ぶつぶつ言っている姉の腕を引っ張り受付で言われた部屋に直行した。
「さて、遊ちゃんの声が聞える部屋に行きましょうか」
部屋に入るなり何を言い出すのかと思えばこの姉は現在進行形で頭がイかれている。
この暴走しそうな獣を止める為には一刻も早く遊里からの返信を待つしかない。
それから俺は一旦姉に無理矢理歌わせることで行動を止めておこうと思い、マイクを渡すと、「仕方ないわね、そんなに私の美声が聞きたいのね。いいわ聞かせてあげる」となんだかんだ歌わせることに成功はしたのだが、ある意味失敗だったのかもしれない。俺も何かしら歌おうかなと思い1曲入れたのだが、俺が歌えるのは10曲以上先になっていた。
しかも明るく盛り上がれることが出来る選曲ならよかったのだが、姉が入れたのは全部失恋曲だった。……まだ部屋探す方が良かったかな。
玉村和斗の苦悩が続く一日はまだまだ続く。




