【36】関係値
「えぇ……何言ってるんですか嫌に決まってるじゃないですか」
「嫌って何よ!いいから!教えてよ」
「でも、先輩。人のは聞くって事は自分のも教えなきゃいけないんですよ?」
「最近出会いも別れもない哀れな枯れた先輩に恋愛という水を……」
「そりゃ……出会いが無ければ別れもないでしょ……」
「そんな細かいところはどうでもいいから。前なんか言ってたでしょ?友達のお姉ちゃんとどうとか」
「あー、そーいえば先輩には言ってましたっけ?」
「その子とはどうなの?付き合うの?」
「そう簡単に次にいけたらいいんでしょうけど、やっぱどうしても怖さが抜けなくて……また浮気されるんじゃないかって。自信がないんだと思います」
ホント情けない。せっかく新しく踏み出せるチャンスがそこにあるのに進めないなんて。
「んーそりゃ、もはや呪いだね…-」
「あながち間違ってないかもしれないですね」
俺は先輩の呪いという言葉に思わず笑ってそう返した。
「でもさ、とりあえず1歩踏み出さないと何も変わらないよ」
「それもそうですね……でもなんというか自分のために利用するみたいで何かこう……」
「いいんじゃない?」
「え?」
「利用でもなんでも。それで最後君が幸せになれればさ。それは『その人を利用』じゃなくて『その人のおかげ』に変わるんじゃないかな」
先輩は少しはにかんだような顔をしていた。
「まぁ?先輩は一歩踏み出すどころか踏み出せる土地すらないじゃないですもんね」
そんな先輩の顔から目を背けながらそう言った。
「ちょっ……あんたね!せっかく先輩がカッコつけてるだから空気読みなさいよ!」
「ははは、すいませんすいません。でも先輩モテるのになんで彼氏いないんですか?作ろうと思えば作れるでしょうに」
「さすが、後輩。私のことをよくわかってる!そう!作ろうと思えば作れるのよ!」
先輩は気分を良くしたのか俺の皿に肉2、3枚置き、胸を張った。
「それでそんなモテモテな先輩はなんで誰とも付き合わないんです?」
「いや……なんかさ。今から0から相手を知っていくのがしんどいというか……仕事なら割り切るしかないんだけどプライベートとなるとね」
「あー」
先輩が言わんとしてることは俺自身も凄くわかる。
付き合うとなると相手をある程度知っておいた方がやはりいいだろう。全く合わない人と一緒に居ても楽しくないだろうしな。それに0からの関係を色んな人としていくのは精神的に疲弊すると思う。中にはそういうのが好きという人もいるだろうが。
「となると、先輩。今後出会い皆無じゃないですか……?」
「おい、後輩。言葉には気をつけろ」
「いや、だって先輩のそんな話聞いたら俺の話よりも深刻じゃないですか!」
「まぁ別にいいんだよ。彼氏なんて居なくても充実してるし」
「へぇ……休日は何をしてるんですか?」
「……か、韓ドラみてる」
「先輩」
「わかってる!後輩。みなまで言うな!」
「いいや!言わせてもらいます!俺の恋愛話に耳傾ける前に自分の事に向き合いましょうよ!」
「言っちゃったね……」
「当たり前でしょ。てか、ほんと居ないんですか?幼馴染とかよく話してた男とか」
「んー基本女子で絡むことが多かったもんなぁ。幼馴染なんて存在はしてるけどあんま話したことないし、よく話す男なんて会社の人くらいになってるしね」
「そうは言っても先輩ってあまり上の人とも下の人とも絡みがないですよね。同期の方と話してるのは何回か見はしますけど、基本女性ですし」
「別に男と話しても特に何かある訳でもないし、仕事に関係ないのがほとんどだから」
「なんというか……ほんと俺の心配より自分の先の心配した方が……」
「わかってるからああああ!もうほんっとにわかってる!わかってるから言わないで……」
自分も最近周りに彼女は?結婚は?みたいな話はされるけど、女性となると男の俺なんかよりも言われる頻度も高いんだろう。
「気軽に話せる男が出来るといいですね……」
俺は俯く先輩にそう声をかけるしか出来なかった。
「……あ」
先輩は何かを思い出したかのように声を発した。
「君がいるじゃん」
そう言いながら先輩は俺の方を指さした。
「ん?」
「関係値も0じゃなくて、気軽に話ができる男の人」
「はい?」
「君がドンピシャに当てはまるんだよね」
先輩はそう言うと顔を上げてニコッと笑いかけてきた。




