第2話 射手 2
こんなに期間かけたのに読んでくれる方本当にありがとうございます
「こんな所に出てきてどうするんだ?」
連れられたのは何も無い空き地だった。
「なあだから」
質問しようとした時に、突然こっちに近づいてきた。
「えなになに!?」
無表情でジェイソン・ボーンみたいな歩き方してくるもんだから、かなり怖い。しかもめちゃくちゃ顔近いし。
「ん?」
突然、緑色に俺たちの辺りが光り出す。
瞬きをすると、街の外れにある山にいた。なぜわかるかといえば、目の前に夜景が拡がっている。とても静かで、草が風で揺れる音が聞こえるだけだ。
「誰もいないよな」
こっちも辺りを見回す。もう十時だ、こんな所をうろついている不審者は俺たちぐらいなものだろう。いや、逆に居ないでくれ。
「居ないぞ」
「ならいい」
そう言ってまたタブレットを操作すると、カプセルのようなものが女の目の前に、それも地面から出てきた。
「ええー……」
困惑する。どんなところに作ってるんだ。基準大丈夫かこれ。
「乗れ」
言われるがままに乗り込んだ。
「なあこれどうなってるんだ?」
山の地下にこんなのを作るなんて、どうやってうやったんだ。土地とか建設費とか設計とか。
「私も知らん」
「なんで?」
怖すぎる。無意識にこいつならなんでも知っていそうな気がしていたが、知らない事もあるようだ。人間らしさを見れて安心したが、やっぱり何も分からないのは怖い。
「随分と安い男だな」
しばらくの沈黙の後、唐突に言われる。
「なんで?」
本日二回目。初対面で名前も聞いてないのに、初めての質問がそれかよ。
「私ならこんな怪しい状態で、ついて行くなんてしない。そもそも、言われて変身なんかせずに逃げている」
「連れていったのはそっちだろ……」
情けないなこいつ、と心の中で思いはしたが、事実それは正しい事だった。変身できたのも、勝てたのも偶然でしかない。
でも
「俺が戦わなきゃ、誰もあいつには勝てなかったでしょ」
「……」
女はそれに答えずに、少し息をついた。怒っているのだろうか。
エレベーターが着いたのか、それを知らせる音が鳴った。それを聞いて、ドアを開ける。こんな怪しい組織なんだ、さぞ怖い人がいるんだろう。こういうのは舐められないのが大切なんだ。
「殺れるもんならやってみろこのーー」
大声で威嚇しようとした時、パンっ! と破裂音がなった。目の前に色つきの紐が舞う。部屋は明るくて、何か適当に飾り付けがしてある。行ったことは無いが誕生日会みたいな感じだ。
部屋には四つコンピューター付きの大きなテーブルが、学校の教室のように規則正しく並んでいた。
「なにこれ」
「白刃、横」
「えっぎゃあああああ」
横から強い衝撃を受けて倒れる。
「お兄さん〜今朝ぶり〜」
「その声って……」
誠ちゃん、なんでこんなところに。
「ていうか抱きつかないで! 刺激が強い!」
何か当たっている。絶対これ…… いや、想像するのはやめておこう。
それを聞いて、誠はいい事を聞いたように微笑み、言った。
「なんですかぁ〜 まさか妹の友達に…… なんて〜」
「からかうな! 俺は変態じゃ…… ないことも無いけど」
「そこは否定しろよ」
青髪の女が突っ込みを入れてくる。だってなぁ…… アニメキャラ見てぐへへって言ってて、それが否定ができるとは思えない。
「まあいいや。お兄さんには後で色々お話しよーっと」
そう言いながら抱きつくのをやめて立ち上がり、誠は近くのコンピューター付きの大きいテーブルの前に座った。
「自由人だな……」
重りが無くなって、いつもより体が軽くなったような感覚を覚えながら立ち上がった。
「ところでさっきあいつが説明するって」
指をさして言う。
「私が説明しよう」
後ろから、鼻につく若い声が聞こえてきた。
「誰?」
「僕はここのリーダー、早田 奨。よろしく」
「よろしくお願いします……」
とりあえず握手したが、なにか変な感じがする。座ることを促されたので、その通りにした。
ようやく落ち着いたところで、色々と思い出す。
「あんたらに聞きたいことは山ほどあるんだけど」
「なんの事だ?」
「この剣に…… ここどこかもわかんないし、あの黒い影災も…… とにかくあんたらが知ってること全部」
「……言葉より見せた方が早い」
少し考えたあと、奨はテーブルのタッチパネルを操作して、映像を映し出した。
「これは、さっきの戦闘で、君が影災を倒した直後の映像だ」
覗き込むと、蹴りを入れて吹き飛ばされる黒い物体が映っている。
「倒して、爆発。問題はその後だ」
少しだけ早送りになったが、すぐに等速に戻る。
「女の人……?」
影災が倒された場所に倒れている。
「嘘だろ……?」
白刃は大声で叫ぶ。
「大丈夫だ。危なかったが彼女は死んでいない」
しばらく沈黙したあと、よかったと安堵した。
すぐにフォローを入れてくれたおかげで、なんとかパニックにならずに済んだが、本当に殺してたら。
「今見た通り、あの黒い影災は人間がなった物だ。俺たちは『FEAR』と言っている」
「いつ頃から居るんですかこれ」
「二十年前」
「二十年前!?」
思わず大声で復唱してしまう。なんでそんな前から居るのに、今までメディアにネット、都市伝説でさえそんなこと言っていないんだ。
「なんで」
「人間が変化するとなれば、パニックは避けられない」
「でも……!」
「考えてもみろ。突然家族や友人が、ミサイルでさえ倒せない化け物になったらと。正気が保てるもんじゃない。ペストや天然痘の時、どうなったか知ってるだろ?」
「……確かにそうですね」
上手く飲み込んで、引き下がる。確かに、いたずらに情報を流してもっと酷いことになったら、本末転倒だ。今、この状況が正しいということの裏付けだろう。
「そしてそれを防ぐために作られたのが、僕達独立影災対策部隊、『DRS』だ」
「……かっこいい」
「でしょ?」
後ろで呆れている奴がいるが、知らん。
「それでこれは?」
「黒い影災は、訓練を受けたエース級の令人でも全力でやらないと倒せない。だから僕達は、専用の武器を作る必要があったんだ」
「そんなもん……」
「名前はアービトレイター。ただ、一号機であるそれが最終確認では動作したのに、さっきの初陣で君が知っているとおりに」
「随分とドラマティックな…… 原因ってなんなんですか?」
「アービトレイターのシステムは、令人特有の脳波をキャッチして動かすんだけど、それがある範囲で検出されないと変身できないようにしたんだ。なのに君はガン無視してあれをやった」
「いやーそれほどでも」
「こっちとしては勘弁してくれって感じなんだけど」
「黙れ」
こういうのは凄いって言うところなんだ。
「でも、俺は何をすれば」
話が二転三転してきたので、結論に行こうとする。
「君にはFEARと戦って欲しい。現状の対抗手段は力によるごり押ししかないからね」
「待ってくださいよ」
さっきからうるさい青髪の女、有坂 加古が割り込んできた。
「こんな奴に持たせるなんて危険です。その気になれば、小国同士の戦争を終わらせられる物なんですよ」
「でも今は彼しかいないし……今更帰らせるのもねぇ」
「記憶でもなんでも消して、突き返しゃあいいじゃないですか。こんなもの作れるんだったらできますよね?」
「……出来るにはできるけどなぁ」
二人が言い合いしているのに、白刃は蚊帳の外だった。しかしそんなことは気にもとめず、さっきの言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
「戦って欲しい」。今までやりたくてもやれなかった事だ。しかも、自分が決してやれない事だったからタチが悪い。俺は強くなれても、令人にはなれない。最悪の事実だった。
でも今なら、少なくとも「俺にしか」出来ないことがある。なんの取り柄もなかったから、これ以上の喜びはなかった。
「やります! 喜んで!」
加古と奨は一瞬こっちを見て、その清々しい顔に驚いた。誠は新しい人が増えるからなのか、素直に喜んだ。
「いやぁそんなすぐに決めてくれるとは思わなかった」
「ちょっとだから」
誠が加古の両脇を挟む。
「離せー!」
「加古ちゃんはちょっと私と遊ぼうねー」
「今後に関わることなのにぃぃぃぃぃ」
連れていかれた。
「でも本当に良いのかい? 戦いは」
「そんなのどうでもいいでしょ」
「……まあいいか」
彼がアービトレイターを使用できたのは、おそらくそういう事だろう。
「じゃあこれからよろしく」
「はい!」と白刃は珍しくいい声で答えた。