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変身! 電気男 (第6部)

ようやく1話分が終わりました

 「さっきのと違うような……」

 視界はいつもと変わらない。しかし自分の体を見回してみると、装甲がついているし、頭に触れればヘルメットがついているのがわかった。女の奴は、ヘルメットはついてないしスーツの露出ももっと多かったが、あちこちにプロテクターがついていて、こちらのほうが戦いやすいだろう。

 

 勢いよくFEARに向かい、こちらから仕掛けた。もはや彼我の戦力差はない。戦うことへの恐怖心は消え失せていた。


 雑な攻撃も、抵抗を力でねじ伏せて無理やり押し通した。


 しかし調子に乗って戦っていると、予想外の手段を使ってきた。爪を飛ばしてきたのだ。


 「やべっ」

 さすがに当たったらよくないと思い、がむしゃらに足に力を掛けて跳び上がった。勢いあまって空中で一回転してしまう。


 タイミングをしっかり合わせて着地する。地面を見ると、排水溝があり、グラウンドではなかった。


 白い柵から見下ろすと、そこが校舎の屋上だとわかった。しかし三階建てで、9メートル程あるはずだ。それを優に超えられるとは。


 「すげえなぁこれ」

 黒いのもこっちには来られないようだ。


 屋上から、そいつめがけて飛び降りた。また爪を撃ってきたが、今度は正面からはじき飛ばした。足裏のブースターを、一瞬強くふかして回転し、撃ち漏らした爪を避ける。


 黒い影災を目の前に捉えた。


 そのまま縦に切り裂くと、大きなダメージを与えたようだ。傷が再生していない。切り口からは内蔵が見えず、黒い空間が拡がっているだけだった。


 よろけたFEARは不利だと感じ、二つの影災をどこからともなく召喚した。


 「そいつは私に任せろ」

 ヘルメットのヘッドホンから聞こえてきた。一瞬目の前にいるのかと勘違いしたが、音が荒かったのですぐ気づく。


 「お前さっきやられてたじゃねえか」

 「こいつ程度ならやれる」

 さっきの事がなかったように、自信満々で返してきた。確かに令人なので、一応信用し従うことにする。


 「はぁ……」

 ため息をつきながら、無線を切った。棒立ちで会話していたので、影災がこっちに来ている。後ろからだ。そして今、振りかぶって私の頭から殺そうとしている。


 持っていたナイフを太もものホルスターから逆手で取り出し、顔に突き刺した。振りかぶった姿勢のまま動きを止めて、そのまま体は砂のように崩れ去った。


 体液が残り、刃から滴った。それを見てもう一つの影災がつられて来る。


 早く終わらせたいので正面から叩き切りに行く。相手から加古の刃は見ることが出来なかった。咄嗟によけ、何とか不規則な傷を肌に残すまでにとどめはした。


 加古は一度攻撃をやめ、胸が正面から完全に見えるように構えた。


 影災は隙だらけだと判断した、がら空きの胸を突き刺そうとしてくる。しかしそれも織り込み済みだった。むしろそれをやって欲しかったまである。


 爪の根元をつかみ、肩を落とさせた。これでこいつの腕が動くことは無い。自分は後ろに回り込む。

 少し力をかければ、簡単に首は折れた。


 「こんなところか……」

 こいつも死ぬと消滅する。処理が楽なのはいいが、分析がほとんど出来ないという最悪なものだ。兵器としては良さそうだが。


 あの男の方に目をやると、少し苦戦していた。殴り殴られの、間延びした戦い。いくら実践といっても、泥臭すぎて技術がないのが目に見える。


 「仕方ない」

 もうひとつ持ってきていた物があったが、少し不安がある。起爆剤代わりにこいつを使わしてやるか。


 さっきの二重底のになっていたケースから、それを取りだし、男の方を見た。


 「おい!」

 加古は呼び掛けと同時に投げ渡す。


 「はぁ?」

 声に反応してそちらをむくと、ちょうどそれが顔面に激突した。ジーンとした痛みが顔の表面に伝わる。


 気になるので、後ろの奴を足刀蹴りでふっとばして拾い上げた。

 

 「なんだこれ?」

 銃にしてはやたらとでかい。ライフルではなくピストルの形状をしていた。

 

 「これで戦えっての?」

 使いにくそうだ。銃とは思えないほどヒロイックな、まるで今の俺の姿を武器にしたような色と形をしている。


 しかし、マガジンを入れるようにグリップを上に押し込むと、バレルが上下に分かれて俺の左腕を挟み込む形になった。刃が外側に飛び出して、爪のようになる。


 「殺意たけえな」

 両手に鋭利で巨大な刃物。まるで、影災のようだった。

 

 FEARは赤黒い光弾を放ってくる。咄嗟に左腕で受け止めた。


 小さな爆発とともに、赤黒いエネルギーが滞留する。それがどういうことか、俺にはわかった。


 「こうするかっ!」

 それを光に反転させて、打ち返す。見事に命中して、ひるませた。


 接近する間に次の光弾が何発か飛んできたが、それらすべてをはじき返す。後ろで爆発が起きた。


 当然迎撃してくるので、頭を踏みつけてかわした。すぐさまクローを拳銃に持ち替えて、背中へ射撃する。


 そのまま格闘戦に持ち込もうとしたが、それだとさっきと同じ目にあうのは明白だった。


 一度切りあって相手へその気にさせた。すぐに離れて撃つと、想像以上に効果はあった。


 このパターンを乱数のようにすれば、安全に追い詰められる。そして繰り返せば、大きな隙が生まれる。致命傷を与えられる格闘はそこですればいい。

 

 しかしそううまくはいかないもので、射撃を急所にあてた時の油断を利用され、捨て身の反撃を受けてしまった。それから形成が逆転する。


 「この……」

 両腕の刃物で攻撃を滑らせる。今はそれぐらいしかできなかった。


 力負けして、両手をはじかれたときタックルされのしかかられる。その寸前にクローを空中に投げると、刃が引っ込みグリップが飛び出した。


 「まじかよ」

 事態に介入できなかった加古にいきなり出番が回ってきた。走り出して空中でキャッチする。


 黒いのの大きな口が目の前に迫ってきていた。必死に押し戻すが、時間の問題だった。


 銃声とともに抵抗が一気になくなり、引きはがせた。


 「ありがとう」

 横に来た女からクローを受け取り、また戦いに行こうとした。


 「まて」

 肩を強くたたかれる。


 「今の戦い方じゃ倒すのは無理だ」

 「じゃあどうすんの」

 「今のを最大出力にまで上げて消し飛ばす」 

 冷静な見た目に反して、えらく力技だった。


 「スイッチを三回押せ」

 そういうと女はすぐに離れていった。


 「三回……」

 時間の猶予がないので一気に押した。


 足に電流が集まり、スパークした。目が見えなくなるほどの光が点滅し、耳障りにも感じるノイズのような音が辺りに轟く。


 次第にノイズは、恐ろしい雷鳴へ変貌した。それはFEARにプレッシャーを与えるほど強く、真っ直ぐだ。


 今までに体験したことないほど、鮮明なイメージが浮かんだ。誰よりも速く、どこにでも行く光。


 降り注いでいた雨は白刃の装甲に落ちると、一瞬で蒸発した。


 イメージどおりに足で地面を踏み、前に思い切り進んだ。


 稲妻の軌跡を残し、やつの後ろへ一気に回り込んだ。急な事で一瞬訳が分からなくなったが、すぐに理解する。


 振り返って首元を殴った。気づかれたので、今度は上へ。


 蹴りを空中で何度も喰らわせた。相手は反撃しようにも、次々飛んでくるそれに押し流される。

 そのまま最後の全力を受けきって、相手は地面に倒れ込んだ。


 最後に蹴った反動で一度離れて、着地する。


 「一撃で…… 消し飛ばす」

 地面を右手で、体操選手のように勢いよく叩く。水を伝い、辺り一帯が電流の網に巻き込まれた。遠くから見ていた加古は目を腕で隠し、グラウンドには木の枝のように焦げが入った。


 そして助走をつけ、踏み切る。


 「おりゃぁぁぁ!」

 全力の飛び蹴りは、黒い奴の胸に命中した。


 一点に集中した力が、FEARの中にあるクリスタルを、雪の粉ほどまで粉砕する。俺の体はそいつを貫通して、進み続けた。


 前方に進んでいたのをブースターを使いすこしずつ減速していく。何度か段差を下るような衝撃を受けたが、しっかりと減速した。


 後ろを見ると、既にあいつはいなくなっていた。もうあの目がくらむような光も、戦闘による轟音も完全に遠のいている。真っ暗闇と、雨だけが残っていた。


 変身か着装か分からないが、とりあえずそれを解除する。ブレスレットから短剣を引き抜くと、元の自分の姿に戻った。


 菜希がいる病院に行こうと思い、その場を離れようと校門へ足を向けた。さっきまで装甲で守られていた体は、あっという間にびしょぬれになった。


 「おい、帰ろうとすんな」

 女がこっちに向かってきた。

 言われてようやく気づく。ブレスレット付けっぱなしだ。


 「ああごめん。これ返す」

 右手に持っていた短剣とブレスを、雑に一緒くたにして差しだした。女はそれを受け取って、すぐにさっき投げ捨てたアタッシュケースに放り投げるように詰める。


 「次はちゃんと整備しろよ」

 何となく、そう警告した。しかし言ったあとで、整備不良なら俺が使えていないことに気づき、疑問が一気に増える。


 だが知らないものなのであまり気に留めなかった。作ったのは俺より頭の良い人間だから、わからないわけじゃないだろうし。


 「待てよ」

 ようやくここを出れると思い振り向いたとき、肩を思いっきり引き戻された。びっくりして思わず 「おわっ!」 と声が出る。


 「お前にも用がある」

 きつい目付きで、こちらを睨んできた。


 「……俺これから病院行かなきゃいけないんだけど」

 「もうお前の親にメール送った。それにお前が付き添う必然性はない」

 待ってましたかと言わんばかりの即答だった。


 「嘘だろ」

 当然だがこいつと面識はない。なのに俺のどころか、親のアドレスを知っているというのは、つまりこの女が相応にヤバいやつだということだ。


 少し気が引けるが、逆らうと本当に殺されそうなので話を聞くことにする。


 「どれぐらい重要なんだよ。お前の用は」

 「戦争が起きる」

 少し誇張して言った。しかしありうる事ではあるので、嘘ではない。


 思わずさっきの警戒も忘れて呆れの声が出た。さすがに荒唐無稽すぎてついていけない。


 「ついてこい」

 もう雨がかなり降っているというのに、女はグラウンドの、校舎がない方に見える森に足を進めていった。


 確かにここじゃ雨に打たれて寒いので、森の中でほとぼりが冷めるまで待っていたほうがいいだろう。戦闘の時も、かなり大きな音が出ていたはずだ。


 しかし森の中を歩いても、雫が葉っぱから大粒になって落ちてきていていたので結局雨に打たれることになった。


 「で、どういうことなんだよ」

 腹を立たせながら、森の草と泥を踏みしめて前に進む。


 「少し考えろ、あれがどんなものか」

 「アメリカとか、そこいらの軍のものじゃないのか?」

 明かされてない兵器なんて今でも数多くあるのは想像に容易い。できていても不思議ではないだろう。


 「お前ほんとに馬鹿だな」

 「知ってるよ」

 ふてぶてしい答え方をした。人生で最初に理解したことだから、すぐ答えられる。


 「あれのスペックはただの強化スーツじゃない」

 「ああ…… まぁ」

 一瞬だけだが音より速く走って。それが普通だとは言えないだろう。


 「……でもなんでそんな危険な事を?」

 一通りの恐怖シナリオを考え終わったあと、それを思い出した。別に戦争がしたい訳では無いのだろう。だってやりたかったらとっくに起きている。


 「あの影災を倒す為だ」

 合点がいったようで、まだいってない。いい加減理解したいものだが、自分自身が曖昧を許さなかった。


 話しているうちに、女がしゃがみ込んだ。両手で何かを持っているが、少し引き上げた時、錆び付いて草が張っている鉄の蓋だとわかった。


 一度意識を切り替える。どうやら目的地に着いたようだ。

 

フラッシュライトを投げ渡される。重量のある、それなりに大きな。


 物珍しくそれを観察していると、女はハシゴを使わず飛び降りた。


 びっくりして急いで吸い込まれて行った先を見ると、四メートルはある。よく怖くないな。


 俺に関しては当然骨折るので、怖がりながら降りる。その先には広い空間が拡がっていた。


 ちょうど足を地面につけたところで、バタン、とさっきの蓋が閉まる音が響く。僅かながらあった自然光が無くなり、全く何も見えなくなる。

 

 フラッシュライトをつけて、周りをじっくり見た。トンネルのようなアーチになっている。しかしこれ、いつ建てられたのか。コンクリートが綺麗だから最近なのか?


 「何してる」

 そう言われて、そそくさと女の後ろに戻る。ぽつんと佇んでいたドアの横に読み込み機械があった。カードを切ると、読み込んだ。


 前方の壁が少しこちらに動いた。加古がそれを引き出すと、真っ白な壁と青い廊下が拡がっている。隠しドアだったようだ。


 部屋がいくつかあり、すべてしまっていた。通り過ぎたときに白い布がかけられた家具があったが、俺はそれに気づかなかった。


 「こそこそこそ」

 白い布は俺の後ろに近づいてくる。そして手が届くようになった時。

 

 「もぎょっ」

 頭から袋をかぶせてきた。そのあとに聞き覚えのあるかわいらしい声が聞こえる。


 「捕まえたよ! おにーさん!」

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