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変身! 電気男(第4部)

毎日投稿は厳しいかもしれないので、少しゆっくりになります。ご了承ください。

 鏡のように反射するガラスが、直方体の建造物を包んでいた。そのビルは街中にあったが、他と違い、横にも縦にも大きい上、土地もかなり広い。まるでそこだけが他と切り取られた街のようだ。よく見ると、近くにも同じ所有者のものであろう建造物がその街には点在していた。


 武器を製造していて、ここまで儲かるというのいうのはいいことというのか悪いことというのかどちらであろうか。


 その会社の、アリス・インダストリーという名前は世界に知れ渡っていた。何せフォードより古い、1901年ほどから2030年現在まで存在しているのだから当然だろう。


 自衛隊やかげろう対策のための武器などを製造していて、ほかにやっていることはあまり浮かばない。


11階にある社長室には、落ち着いた色をした三色のモザイク柄のカーペットが全面にしかれていて、入口から正面に社長のデスクがあった。


高いであろう種類の木で作られていて、ノートパソコンが閉じておかれている。その周囲にはこれまた高級そうなペンがいくつか、筒状の入れ物に突っ込まれていた。世間体を気にしてか、灰皿は机の中にしまいこんであった。


しかしこれだけ落ち着いた高級感あるものが揃っていても、書類が空気も入らないほどしまわれたファイルケースがいくつも横に追いやられているのを見れば、ここの社長が決して規則正しい人間でないのがわかるだろう。 


 そこの人間か定かではない、長い髪の女が部屋にたたずんでいた。私の服は真っ白で、死に装束のようだ。


でかい窓の前に立って見下ろした街は、目まぐるしく景色を変えた。建物が動くわけではないが、人の動きは水のように変わる。そういっている今も。


 私にはそれが、普通に見えていると思っている。


景色を青みがからせていたガラスを吹き飛ばした。一枚だけが粉々になって、外に吹き出されていく。警報がなり始めた。


「バレないうちに」

握りしめていた、対象の形をしている尖ったクリスタルを放り投げた。


それを感知して、警備が下層から向かってくる。


投げられたクリスタルは、迷いなく加古達のいる、昔私も通っていた学校に向かった。


私は椅子に座り、警備がここに来るのを待った。彼らは警戒しながらドアを開け、その直後に見たガラスの前に立っている私を見て、自体を飲み込めず唖然としている。


「どうしたんだい?」

首だけを後ろに傾けてそう言った。警備の人間は何一つ言わなかった。なれない外国語で言葉に詰まったときのように。


「そうだ。君達には人助けと思って、少しお願いを聞いて欲しいんだ」

 ずっとお見合いしているわけにもいかないので、こちらから話を進めた。


 顔と顔が触れ合うほどまでにゆっくりと近付く。警備の人間は男だったので遠慮していた。


「なに、別に取って食おうって訳じゃないさ」

 私は持っていた果物ナイフを首に刺した。一気に出血して、彼が気絶するのに時間はかからなかった。


 ほかのやつらは面倒なので、凍らせてほかっておいた。気温が上がって氷が溶けても、温度差のショックですでに死んでいるだろう。


 ナイフの指紋をふき取って、その辺に捨てておく。証拠が少しあるほうが、相手を引き付けておくには好都合だった。あれば捜査の打ち切りがやりにくくなる。


 社長の暗殺とあれば、それはもうやらなければいけないだろう。


 「じゃあ私も」

 風が鳴っているほうに体を持っていき、一切の躊躇もなしに飛び降りた。体は地面にたたきつけられ、自分の腕が潰れていたのが、最後の景色だった。


投げられたクリスタルは突然形を歪め、黒い影災になった。外皮はかなり分厚くなっていて、さながら昆虫のようだ。爪は一本の針と化している。顔は黒目を潰したような眼球があり、目が抉り取られたようにも見える。


苦しみの象徴、FEARは振り向いて、門を破壊し学校へ足を踏み入れた。しかし、それに対して影災の警告アラームはならなかった。


白刃は日が沈みかけているまで寝ていたが、時を同じくして、こっちはしっかり鳴った携帯のアラームで起きた。


びっくりして飛び起き、通話ボタンを押した。ずっと口を開けっ放しだったから喉が痛いし気持ち悪い。


「ああ……? 菜希?」

いつもはこの時間に電話をよこさないのに、今日はどうしたのか。


「……あれ」

普段は言ったらすぐ返答するほど真面目なのに、返してこなかった。しばらく待つが、その間の長さは明らかに異常だった。受話器はとっている、わざと答えていないのか?


「一体なんだ」

さっきまでだらけていた体を立ち上がらせて、音声に耳を傾ける。わかったのは、ノイズが酷すぎて、返答があったとしても聞こえないであろうことだ。


仮にも警察の学校だ。騒がしいということはありえない。


「兄さん! 兄さんですよね!?」

突然大きな声が聞こえたのでびっくりした。

放っておいたという程の間を開けて、菜希の声が聞こえた。かなり焦っているようだ。


「どうした?」

寝ぼけていた声は、すっかり覚めていた。


「今すぐ学校に警察呼んでください! 影災が来たんです!」

俺と菜希に温度差があることは明確だった。影災が来たと言っても、あそこの生徒ならいつも倒してる。


しかし菜希はふざける人間ではなかった。


かと言ってすぐに状況は飲み込めない。どういうことだと聞き返した。


  「教官は? 警備は」

 菜希が焦るほどの緊急事態であれば、必ずそういう人間が対応にあたるはずだ。


 「全員死にました」

 「全員?」

 さすがに非現実的すぎた。全員が殺されるなど、どんなドジを踏んでも今まで、いや影災が現れた三百年の間に、そんなことはなかった。


突然プツッと音声がノイズに入れ替わった。


「おい、菜希、返事しろ」

 応答はなかった。どうやら通話を向こうから切られたようだ。


一度状況を理解したところで、心臓が高鳴る。焦りと不安が心に根を張り始めた。いつものように頭の中に文章で浮かんでくる雑多な思考は、すべてそれに消されてしまう。


大慌てで警察に通報すると、既に向こう側から連絡が来ているようだった。部隊を送るらしいが、心の中ではなにかの欠落を感じていた。


まずい気がする。教官が立ち向かって全員死ぬなんてありえん。そして、菜希はなぜ突然電話を切る必要があった?


それに気づくと、深く考えている暇は寸分もないことだけを理解した。部隊の目的は全員の救出だが、二択なら多い方を助ける。菜希のやつ、囮になったんだ。


だから教官や警備が全員死んだなんて言いきれたんだ。逃げていれば死体は見ていないはず。


 部屋を出てガレージに降りると、義父の趣味であるバイクが置いてあった。鍵はないが、なくてもチェーンがかかっていない、九十年代のバイクなので動かせる。鍵の所を壊し、無理やりエンジンをつけた。アクセルを吹かすと、故障どころか最高の音が鳴る。杞憂だったようだ。


罪悪感を覚えつつも、そんなものをことごとく投げ捨てる。シャッターを開けっ放しのまま、法定速度をかなり超えて菜希の所へ向かった。


白刃が身を案じている菜希は、学校の職員室に逃げ込んでいた。息を少し荒くして、首を動かしながら隠れる場所を探している。


 近くから足音が聞こえ始め、咄嗟に職員室の事務用机に隠れる。私以外はこの校舎から逃げたか死んだかだ。


だが、囮を辞める訳にもいかなかった。影災は人のいる所に引き寄せられる。避難している連中の方にいけば、最悪の事態は避けられないだろう。


足音はさらに近づく。おおよそ人では無いものの呻き声が聞こえてくるほどに。ガチガチという歯が打ち付け合う音も混じっていた。恐怖で心臓の動きが一時早くなるが、深呼吸し、冷静さを取り戻した。正面切っての戦いでは、まず勝てないだろう。


みんなの囮になって逃げる時間を稼がないと、全滅する。それだけは避けなければいけない。さっきの戦い方からして、知能は無いはずだ。


保険のような決意をして、机の影から奴の動向を伺う。さっき見た時と同じ、ゾンビのような挙動をして、窓の方を向いていた。


今なら攻撃ができるチャンスだ。周りを二秒見回す。武器になるものは、せいぜい椅子や家具ぐらいしか無かった。


ノコギリ刃が付いた鎌の柄を手動で縮ませ、両手で強く持つ。狙いを定め、息を吸い込み、振りかぶって投げた。


奴の頭に当たる。突き刺さった刃は頭の内容物をめちゃめちゃにした。


まだ腕を動かしていたのを見て、手をかざして鎌を動かし、思い切り胴体にまで下ろした。


動かなくなる。それもそうだろう。普通なら一撃で死んでいるはずなのを、さらにいらないトドメまでさしたのだから。


「終わった……」

警戒しながら近づいたあと、鎌を引き抜いて死亡を確認した。安堵して、肺に詰まっていた息を全て吐き出す。座り込むと、精神的なのか肉体的なのか分からない疲労がどっと押し寄せてきた。


そこから部屋の時計の秒針が五回ほど動いた時、気がついた。聞き覚えのない音だ。キュッキュッとした擦るような音に、なにかから空気が抜けている。


再び緊張が走る。しかし今度は勝手が違った。振り向いた時にはすでに影災らしきものはそこにいなかったのだ。


「嘘っ」

生命の危機に瀕しているが、出た声の質は恐ろしいほど日常的な物だった。


反応がおくれ、自分の脇腹に強い衝撃を感じた。尻もちをつくが、すぐに立て直して教室のガラスへ鎌を投げる。


割れたガラス片を奴に全て突き刺した。怯んでいる隙に、下の駐車場へ飛び降りる。二階からだったが、着地してもよろけるだけだった。


足跡の代わりに、アスファルトに赤い雫が滴った。脇腹を深く切られてしまっている。


傷口に手を当てて、流血を抑えながら逃げていた。まさか再生してくるなんて。これじゃ戦っても勝てないじゃないか。


「早く…… 早く……」

全力を出して歩いているが、夢の中のように進まない。しかし相手は倍以上の速さで進んでくる。


やけくそで正面に振り返った。このままではどうしようもない。後ろから刺されるだけだ。


落ちていた鎌をまた相手の背後に持っていき、さっきと同じことをしようとした。だが今度は受け止められてしまう。それどころか、手の力だけで鋼鉄製の刃を完全に粉々にされた。


「そんな……」

最後の一手が封じられた。もう破片を使うことさえ出来ない。その上能力を使う体力は残っていなかった。


お構い無しに、黒い化け物は別物のような動きで素早く私の腹に突きを入れようとしてくる。死にたくなくて、咄嗟に右腕で受け止めた。


爪が貫通する。骨を砕かれ、気絶しそうな痛みが襲ってきた。自然と涙が出てくる。


「痛いっ! 痛いっ…… たい」

FEARは叫んでいる菜希を引き抜きながら、邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばした。花壇の側面に背中をぶつけ、そこから立ち上がることはできなかった。


腕を抑えても、必ずどこかから出血している状態になってしまった。手のひらにも、真っ赤な血がべっとりついている。


次第に眠気が来た。ぼんやりと思い出せば、これは出血が多すぎる時に起きる症状だった。しかしもう、死にたくないと思うことさえままならない。それは生物として本当の意味で危険な状態であるということだった。


 それでも薄くなった気がかりは、まだ残っていた。兄さん、私が死んだらどう思うんだろうか。また自分を追い詰めるのだろう。

「死ね…… ないのに」


 加古はそこへ、アタッシュケースを持ち走ってきていた。自身の遅れに気づき、トドめを刺そうとしているFEARを見て「遅かったか」 と呟いた。


その時、切り裂くようなエンジン音が聞こえてくる。それは明らかに荒い路面なのにも関わらずアクセルを全開にし、壮絶な気迫とともに迫ってきた。


校門を時速七十キロで走り抜けて、影災に突進した。さすがにエネルギーには勝てず、吹き飛ばされて攻撃は叶わない。俺も同じように空中に投げ出されはしたが、上手いこと行った。


 バイクは何度かバウンドして、つぶれるような音を出した。修理は面倒だろう。


 「痛って……」

上手いとは言っても、きれいではなかった。

地面を引きずるようにして減速して。服も肌もボロボロだ。幸い骨は折れていない。


「なんだアイツ」

突然現れた者に、加古は動揺を隠せない。バイクで突っ込むとかおかしいだろ。


 俺はそのまま倒れたFEARにのしかかり、持ってきた刃物で顔面を思い切り突き刺した。効果が実感できるまで何度も。だが集中しすぎて、反撃がきているのに気づかなかった。


 「やべっ」

 思わずそう口に出した加古が咄嗟に銃で腕を吹き飛ばした。すぐ再生するだろうが、距離を取る時間は稼げている。


白刃が加古の横まで下がってきて、顔を少しだけ見た。


 「お前令人か」

 そんなにもでかい銃を片腕で撃つのは普通じゃ無理だ。まして17ぐらいの女ができるわけがない。


 「ああ」

 白刃は既に息が上がっているが、加古はまだ目に見える呼吸さえしていなかった。


 「どうすればあいつを殺せる」

 「火力で吹き飛ばす。菜希の処置をしとけ」

加古は首を菜希の方にクイッと傾けた。


 また片腕で拳銃を撃ち始める。歩いてかげろうに迫りながらだが、まったく抵抗を感じさせなかった。 


 いわれた通りにするのは癪だが、ひとまずこの女の指示に従おう。菜希は放っておいたら死ぬ。応急処置だけでもしておかないと。


「はぁ……」

 白刃が救急車を呼ぶのを見て、加古はめんどくさいと感じた。バレないように戦わないといけない。


 弾がなくなったので拳銃を投げつけた。かなり重いものなので、一瞬ひるむ。ノコギリ刃のナイフを取りだし、首の部分に傷をつけた。


 菜希が見たように、すぐ再生してしまう。切ってえぐれた場所が、数秒後には完璧にふさがってしまうのだ。銃弾は効かないし、殴り合いでも不利になる。厄介な特性だ。


 「使うか」

そうそうに切り札を使おうと判断して、持っていたアタッシュケースで頭を殴りつけた。


その隙に中身を取り出す。すでにブレスレットには短剣が装着されていて、手首に当てると、自動的に巻きついた。


 側面のスイッチを押して、変身する。稲妻が体の表面を流れ放電し、装甲を形成した。


「……嘘だろ」

白刃は処置をしている時、それを目の当たりにした。あれじゃまるで、今朝見たビデオの主人公じゃないか。


「あれ…… 兄さん?」

弱い声で応答してくる。すぐに菜希の方に意識を戻す。

安心したのか、少し微笑んだのがわかった。


「お前は動くな」

念の為持ってきた包帯を脇腹に巻く。最悪なことに、血は赤かった。穴をあけたペットボトルのように噴き出している。

静脈じゃなくて、動脈から流れ出した血は止血しづらいのだ。


だがガタガタ言っている暇は無いので、とにかく止血のために傷を押さえる。今はこれぐらいしかできなかった。

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