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第2話 射手 17

「で、あの人が昔の担任だったんだよ〜」

柱の陰に隠れながら、誠の中学時代の話を聞いていた。別にこれと言ってたいそうな話はなかったし、ただの女子だ。高校デビューでちょっとはしゃいじゃった感はあるけど。


「よし。誠行ってこい」

ちょっと陰から覗いてみると、おそらく話に出てきていた担任がいたので、カッコつけて首を振りながらそう言った。


 しっかしみんな仲良く会話してるなあ。あの女と仲良くなるまで中学の時なんて誰とも話さなかったのに。


(全くくそ許せねえ)

陽キャどもめ…… なぜ他人にそんな気軽に話しかけられるんだ。腹立つ。


心の中で愚痴りながら、誠が帰ってくるまで待っている。待てよ、よく聞いてみればあいつ、なんか嘘ついて担任騙してないか? 怖いぞ誠。抜けてるやつだと思ってたらとんでもない女だとかはやめてくれよ。


「何あの人……」

「怪しー」

「きっしょ、盗撮かな?」

当然だが隠れているといっても見えるものは見えるので、不審者扱いだ。だから違うんだって。お前らの同級生のためなんだって。


ボソボソ聞こえてくる怪しむ言葉を頑張って聞き流す。聞き流せているかどうかは別の問題だが。


「おにいさーん」

 そろそろ限界の羞恥心と苛立ちで脳内が大混乱しているうちに、誠が戻ってきた。


「おう。なんかあったか」

「阿澄ちゃんの友達に聞いてみてだって。行方不明になった原因のことは」

「行方不明?」

一度疑問に思ったが、良く考えれば死亡が確認されてないんだった。それにFEARの事だし、情報統制が引かれているのか。どこまでが知られているんだろう。


「で、その友達はどこにいんの?」

脳内の疑問は仕舞っておき、今いちばん知りたい情報を聞く。


「さすがにそこまでは個人情報だし」

「ああ…… やっぱり」

 そううまくはいかないと思ってたよ。


「どうしよっかな」

 誠が次の支持を乞うが、全然考えつかない。


「やっぱり加古ちゃんに協力してもらって」

「うーん」

名前を出されて嫌悪感を示したが、やはり今は協力してもらう方がいいか。でもしてくれるかな?


二人ともが考え込んでいると、白刃が何かにひかれるように誠の背後を見渡した。彼の表情が晴れる。

 

 「見つけたかも」

 無意識にそう呟いた。


 

あのバカが出ていったあと、奨さんに呼び出しをくらった。なんなんだろうと思い、彼の研究室に入る。なお半ば自室のような扱いになっているらしく、ベットなどの家具が置いてあった。


「はい」

そう言って奨さんに渡されたのは、変な形の拳銃だった。照準器がついていないし、銃弾を発射する機構があるはずの場所には、何かを差し込めそうな空間があるだけだ。


「なんですかいきなり呼び出して」

さすがにおふざけじゃないだろうと思い、もう一度それを見るが、やっぱりどういうものなのかは分からない。兵器としては効率的じゃ無さそうだ。


「君のアービトレイターだ」

思いもよらぬ答えだった。決して欲しかった訳では無いが、音沙汰がないのでてっきり作ってないと思っていたからだ。


「私のですか」

「そうだ。前の物は使えなかったが、ちゃんと作り直した」

「作り直したんですか」

 作業量を考えると気が遠くなりそうだ。


「一から見直して、不具合になりそうなものは徹底的に排除した」

聞こえはいいが、自由度が低くなったとも取れる。遊びがないから性能は落ちた。


「君の言うようにこれはまだ弱い。だから、戦っていくにつれて必要なものを少しずつ付け足して行くことにしたのさ」

 性能への懸念を示している加古に対して言った。


「そうですか」

今はデータが足りないだけで、できない訳では無い。考えたのが科学者だけあって理にかなった方法だ。


渡された資料を見る。乗っている武装は主に射撃に特化したものだった。加古の顔がまた少しだけ曇ったのを見て、奨は察する。


「やっぱり、君には接近戦の方がやりやすそうだね」

私の能力は超感覚。敵がどういう動きをして、次に何をするかが直感的にわかるのだ。しかし距離があるとわからなくなっていくため、接近戦向きだ。

さらにいえば、FEAR相手に銃撃が効くかどうかは分からない。殴りあってトドメを刺した方が早いだろう。


「まあこっちで何とかするから、しばらくはそれで頑張ってくれ」

「わかりました」

とはいえ、できない訳では無い。やれるならやるのが私の勤めだろう。


 ひとまずアービトレイターの話は終わったが。

 いつもなら話が終わると呼び止める隙もないほど早く出ていく加古が、しばらく残っていた。

 「出ていかんの?」と俺に言われて、ようやく口を開く。


 「さっきのことなんですけど」

 その話に来たか。彼女が他人のごたごたを口にするなんて珍しい。


「奨さん、さすがにきつく言いすぎたのでは? あいつ多分言えば言うほど反抗するタイプですよ」

言い方を考えた方がいいだろう。そっちの方がことを上手く運べることもある。私には関係ないが、この場合いきなり殺すわけじゃない事をちゃんと伝えておけば、面倒は避けられたはずだ。


そうしても、「他人には任せておけない!」 とか 「信用できるか!」 とか言い出しそうだが。


「あ? うんそうだね」

 淡白な答えを返してくる。


「随分関心なさそうですけど」

「嫌いな相手のことは考えたくないだろう」

「それはこの話題を振った私への嫌味ですか?」

流されるように暗い思考に陥った。今の自分は不機嫌らしい。


「やだ怖いこの子」

「そうではないようですね」

怖がっている顔に変わったので、悪いことは考えて無さそうだ。


「俺そんな性格悪く見える?」

今度は私の疑心暗鬼に怖くなったのか、奨さんから聞いてきた。


「別に、ただ聞いただけです。もう用事もなさそうなので失礼します」

そう言いながら、加古はさっさと部屋を立ち去った。まるでいきなり殴られたような気分だ。


「舵取りの難しいふたりだなぁ……」


セミの鳴く声が聞こえて、帰っていく子供を見る度に憂鬱になる。この後友達と遊んだり、家で宿題したりするんだろうな。


「はぁ……」

今門を通り抜けて入っていくやたらでかい家。私の家は使う部屋は限られているくせに、無駄に多いし、見た目が整っているのがイライラに拍車をかける。


「ただいま」

挨拶をしても、返してくれる人はいない。親は普段、仕事で忙しいのでいなかった。私が物心ついた時からこうだ。


自室のベッドに飛び込んだ。なんにもない。家に帰ってきてからは、やることやって寝ることしかしていない。それで今日はもうやること終わった。


「はぁ…… つまんな」

さっき渡された青いアービトレイターを見てつぶやく。


昔から努力すれば正比例して実力が上がっていった。だから今は何も目立つようなことはしていない。ピアノだったかのコンテストのトロフィーは邪魔だから捨てたし、数学の大会も、倫理の問題でつい最近からはあまりやっていない令人の能力検定だって全部一位を取った。


また、ため息が出る。どんどん無気力になっていくのを感じた。何すればいいんだろう。

  

 暇を持て余している加古の脳裏に、白刃の記憶が浮かんできた。そういえばあいつ変な奴だな。


十年来の友人とかなら、殺せと言われてああなるのもわかる。しかし昨日今日の知り合いにあそこまでなるのは、優しいとは違う。まるで執着しているようだ。それに他人の安全もかかっているんだから、仕方ないと思うのが普通だろ。


「人の命を…… わがままで片付けるんじゃねえ!」

ふと頭の中でさっきのことを回想する。


「わっかんねえなぁ……」

 少し長めの髪をかきむしる。

いつも理解の早い自分が、初めて詰まった人間だった。いうことは聞かないし、すぐ怒るし、優秀かといえばそうではないし。


「やめだやめだ」

こんなこと考えるだけ時間の無駄。どうせアービトレイターがみんなに使えるまでになったら、用済みなんだし。


それより、私も少し調べてみよう。阿澄とかいう女のことを知れば、どこにいるかわかるかもしれない。推測ならいくらでも立てられるし、少しは足しになるだろう。


パソコンを開いて、警察の資料を見始める。

 なんで持っているかと言うと、親がコネで手に入れたのだ。

少し闇の深いものに関わっている気がするが、別に人の安全のために使っているので罪悪感はない。


それにしてもお金でなんでも手に入るんだなぁ。大人になったら好き放題してみようかな。


「これだな……」

関係者に阿澄の名前がある資料で、それが行方不明扱いの物はすぐ見つかった。表向きな捜査は多分やってないだろう。


しかし情報があまりない。中学生で、発覚する前の日に家へ帰ってこなかったことぐらいか。友人と思われる人への聴取でも、結局原因は分からないようだ。


「……おかしいな」

情報から抜け出ているところがある。

顔をあまり覚えていないが、あの最初に襲われた女がいない。普通一番最初に聞かれるはずなのに、まるで霧のように消えている。


普通警察に言ったりするだろう。政府にはそういうFEARの情報統制を行う部署があるのだが、それにキャッチもされてない。


つまり、襲われた女の子は、どういう訳か得体の知れない化け物に全力で殺されかけても警察にすらいかないと。

いるわけないな、そんな中学生。私だって丸腰でFEARに襲われたら怖いのに。


「あいつ…… 腹立つなぁ」

白刃の考えが間違ってないかもしれないことを理解した途端、まるであいつが隣で鼻で笑っているように感じた。「ほら俺の言ったとおりだ」 なんて言いそうだな。心狭そうだし。


私怨は別にして、まだ阿澄が一番FEARであることの確率が高い。だがこれはどうもおかしい。あいつに共感した訳では無いが、もしFEARと関係があるなら、解いておいた方がいい問題だ。


やることができたと思っていたら突然携帯がなる。すぐにとった。


「加古ちゃん!」

「お前かよ……」

誠だ。


「おにいさんが! おにいさんがどうしよう!」

「落ち着けよ」

今にも泣きそうな声で叫んでくるが、状況が分からないのでいまいち入り込めない。後ろで怒声が響いているが、白刃が喧嘩でもしたのか。


「今行くから、そこにいろ」

「早く来てね!」

 切羽詰まった感じだ。とりあえず急がなきゃ。

面白かったら励みになるので感想よろしくお願いします。あれがダメとかこれがあかんとか。わからないので。

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