変身! 電気男 (第2部)
シーンごとに割ることにしているので、不備や見にくいなどがあれば教えて下さい。よろしくお願いします。
「……ああもう」
さっきから嫌なことばかり考えていて、寝られない。おそらくベットに入ってから二時間は立っているだろう。
あの時菜希が助けてくれなかったら、俺は間違いなく死んでいた。今も包帯をした場所が痛んでいて、嫌でもその時を思い出させてくる。
「はぁ……」
どうせ寝れないんだから、テレビでも見て時間を潰すか。
部屋に置いてあるリモコンを使って電源をつけ、持っていたブルーレイを入れた。夜にスピーカーで聞く気は起きないのでヘッドホンを耳にあてた。
特撮ドラマが始まった。子供向けだけあって明るい雰囲気なので、普段ならここで興奮してソワソワしているだろうが、今日はどうもその気になれなかった。
「キラキラしてるなぁ……」
そう、物語が逆効果になっていたのだ。面白いし、演技もいい。何よりアクションは素晴らしいが、全部すごいが今は気に食わなかった。
これに携わってる人みんなが、自分の目標を叶えているであろう訳だが、それに比べて俺はなぁ。
ヒーローになりたいという目標があった。みんなを守りたいという漠然とした物だが、意気込んではいない。それはショールームの中にある高級車のようなものだ。
さっきの出来事でわかるだろう。その素質や才能が微塵もないのだ。現に今日も、友達のまだ小さい妹さえ助けられずに無様に死にかけた。影災の一つを倒すのさえあんなになる。
「はぁ……」
女に生まれたかったとまた大きなため息をつく。令人だったら、少なくともこんなことにはならないはずだ。
だがそれ抜きにして自分の力が無さすぎる。
まだ息も吸っていないのに再度ため息をついた。
ダメだな。なにかに触れると余計に落ち込んでしまう。これじゃまだベットで寝たふりしてゴロゴロの方がいい。
結局、あまり寝られないまま一夜を明かした。リビングにおりていき、真っ黒のソファーに飛び込む。
これじゃ起きたとは言えないが、馬鹿らしい思考回路から一旦は抜け出せた。しかし本当に一旦だけで、また戻ってくる。
「あれ? 兄さん今日は早いですね」
菜希が話しかけてきた。いつもは起こしてくれるのだが、それが結構苦労しているらしい。一度氷水で覚めた事がある。
「寝付けないんだよ」
「昨日あんなことがありましたからね。右手は大丈夫ですか?」
「痛い」
そういうと、「見せてください」 と言って手首を取ってきた。
「大丈夫そう…… ですね。動きます?」
指と手首を動かした。少し違和感があるが、いつものように動く。しかしまだ出血はしそうだし、動かせば多少は痛い。神経は切れていないようだ。
「ごめんなさい。痛いならやんなくていいです」
少し苦しい顔をしたのがわかったのか、菜希は自分の判断ミスを詫びた。こういう時は動かさないのが一番だが、そんなことを気にするほど切迫していない。
ほうっておけば治るし、日本は清潔なんだから細菌も神経質になる必要は無い。
「いいよ」
どうでもいいことなので、どうでも良さそうに許した。
「じゃあ朝ごはんにしましょ」
さっさと準備して、食卓の椅子に座った。俺は朝から卵かけご飯と味噌汁。あとベーコンだ。あまり運動していないので朝飯は少ない。
「兄さん。もうあんな無茶はやめてくださいね」
食べてる途中に菜希が言ってきた。
「嫌だ」
寸分の迷いもなく、ほぼ割り込むような形で強く拒否する。
「あの子が死んでたら耐えられない」
「兄さんが死んでたら私はどうするんですか」
予想通りの答えが返ってきた。
「俺はいい」
言うなればドローンを送り込むような感覚だ。壊れても、探さずに見つかる、そしておそらくはもっと優秀な代わりが大量にある。
「私が良くないです」
「お前のことなんか知らん。俺の命だ」
別に菜希が嫌いなわけじゃないし、出来れば悲しませたくは無い。だが彼女にとって俺は肉親じゃないし、いなくて困る存在じゃないからだろう。
義理の家族の愛情、特に俺個人に向けての愛情など信用はできなかった。
話しながらだが、かなり駆け足で朝食を終わらしていたようだ。すぐに食器を台所に放り込み、一旦着替えに行く。
「今日も学校だろ? 頑張れよ」
通り過ぎる時にそう言った。
菜希はそれに答えなかった。口喧嘩している訳では無いので空気は普通だが、少し落ち込んでいるのがわかる。
階段を駆け上がっていく音を、菜希は静かに聞いた。
「私はどうしたらいいんですか」
そんなことを一人なのに、彼に問うように言った。
元々彼はこんな寂しい人間ではなかった。いい人だった訳じゃないが、少しくらいは私に心を開いていたし、優しかったのに。今やその扉は閉ざされている。
こじ開ける事は出来ないだろう。
「今日は私を送っていくんですよね」
降りてきた時に、ついでで言った。
「そうだったわ」
今日用事があったのを忘れていた。そのついでで菜希を学校まで送っていくことも。
支度をし、家を一緒に出て、バスに乗った。どこもかしこも女の子ばかりだ。男もいるが、大人が多く同年代は居ない。居心地悪い車内。
菜希のカバンについたストラップが揺れている。紫色のメダル付きで、オシャレなものだ。母親に貰った御守りらしい。
会話はなかった。菜希は切り口を見つけようとしていたが、それはやはり見つからない。少し残念に思ったが、別に対して話題もなかったので仕方なかったと割り切った。
そのまま到着して、バスから続々と女の子が降りていく。令人の学校だから当然だが、女子高生しかいないからだ。
菜希もそれに続いていく。先に待っていた、菜希の友達が居た。血のように赤い髪は染めてるんじゃなく地毛らしい。童顔で女の子なのに俺より背が高い。175はあるだろう。
俺は160センチだが。
「菜希ちゃーん!」
袖から僅かに出た手を振って、元気にぴょんぴょん跳んでいる。さっきまで暗かった俺が馬鹿みたいに明るかった。
「じゃあ俺はここで」
「行ってきます」
軽く挨拶をして送り出した。先程までの残念そうな顔はしていないので安心だ。
「菜希ちゃんのおにいさん?」
夏だと言うのに、ピンク色のでかいウインドブレーカーを着ている、血のように赤い髪の少女。
明日香 誠は菜希の顔を覗き込みながら言った。少し嬉しそうにしている。
「そうだよ」
「ふーん。好きなの?」
「家族としてなら」
息を少し漏らした。つまんない答えだなぁ。
すぐに次のネタを思いつく。
「じゃあ私が貰っちゃおうかな〜」
少しからかってやろうと思い、そんなことを言った。
「無理だよ。ていうか朝からそんな話しないの」
予想外の答えに 「ええっ!?」 と叫んでしまった。無理だよと言われるなんて思っていなかったからだ。容姿に自信はあるつもりだった。
「早く行かないと、授業始まるよ」
「はーい」
菜希ちゃんなんか今日はおかしいなぁ。昨日影災出たからかな?