第2話 射手 13
絶賛スランプ中
「いやぁいっぱい買っちゃいましたね」
菜希が四角い紙袋を持っている。
三十分後、ようやく白刃は服屋から開放された。菜希達と喋りながら、人がいつもより少ない商店街を歩いている。なお、女子の話に入れているかといえば……
「何ぼぉっとしてるんですか?」
菜希が考え込んでいる白刃に話しかけた。
「いやちょっと考え事してて」
「いつも何か考えてますね。ちょっとぐらい楽しみましょうよ」
確かに、せっかく商店街に来たので、自分の興味ある物がないか見回す。きらびやかな装飾がされた所もあれば、古そうな、昔の雰囲気が残っているところもある。
でも全て知らない物ばかりで、目当てのものは全くなかった。探し当てるのも楽しみとは言うが、あまりにもこう少ないと、ちょっと寂しい。
「はぁ……」
ため息が漏れる。そもそもこんな遊んでる状況じゃない。阿澄ちゃんがもしFEARなら、なんでこんなことをしたんだろうか。
「なんでそんなに落ち込んでるんですか」
「いや…… なんでもないけど」
「こんな時にまで嘘つかないでください」
「だからなんでもないって」
食い気味に言ってきた菜希に、こちらも食い気味に言い返した。
「ならいいですけど」
菜希は渋々引き下がった。
「……そういえば、阿澄ちゃんは楽しい?」
このままではいけないと思い、さっきから話していない彼女に話を降った。
「楽しい」
少しの間を置いて、ぼそぼそっと言った後、「です」 と続けた。
「良かったぁ」
胸を撫で下ろす。
出会い方が変だったので、結構心配していた。彼女に何があったか分からないが、今は暗い気分では無さそうだ。
「兄さん。ちょっとトイレ行ってきます」
「おう」 と軽く返事すると、彼女は別の方へ走っていった。
(戻ってくるまで気まずいぞ……)
話の種が見つからない。どうしよう。
特に何も興味あるものが無さそうな阿澄ちゃんを、しばらく見ていた。すると、彼女の右腕の動きに、違和感を感じる。まるでロボットのアームのように、関節をあまり動かしていない。
目の色が変わった白刃は、すぐに動き、前にいた阿澄に近づく。
「見せろ」
手首を掴むと、痛がった。やはり骨が折れている。気づいてからよく見ると、ポコっと膨らんでいる箇所があった。
「曲げられないのか」
冷や汗をかきながら、首を縦に落とした。
「腫れてる。病院に行かないと」
どうしてこんなになるまでに放っておいた。
彼女の口から、小さく「や」 とだけ聞こえた。
「どうしてだ。別に痛いことはない」
「……違います」
「大丈夫だって、別に手が動かなくなるわけじゃないん」
「嫌っ!」
手を振りほどかれた。あたりの人の注意がこっちに向く。一気に空気が冷めていった。
「……ごめん」
きょとんとした顔で謝ると、阿澄は苦そうな表情をした。
白刃は珍しく、相手の地雷を踏んだことでパニックにならなかった。疑問が勝っていたからだ。
手を振りほどかれたということは、骨折していないということなのか。折れていたら、添え木のない状態で激しい動きは痛くてできないはず。そしてその前に、菜希と一緒に試着をしていたはずだ。多少痛がって、菜希が気づくはずだろう。
(一体なんなんだ?)
すぐに治った、と考えるのが非現実的だが妥当だろう。しかし、そんなことは改造人間でもない限りありえない。やはりこの子がFEARなのか?