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第2話 射手 7

うーん

かけんのよね

「あの野郎…… 全く」

更衣室で着替えながら毒づく。周りには誠以外いないから、別に何言っても良さそうだ。


ちなみに誠は、さっきから下着を付けている加古の後ろに立ち、彼女を煽っていた。「や〜いやーいひんにゅー」 とか、「ブラつける意味あるの〜?」 とか。

二個目に関しては、誰がニップレスこの年で使うんだとか、貧乳でも成長期には必要だとかあるが、二人ともそこまでになると理解の外だった。理解してたらそれはそれで嫌だが。


しかし女子高なので、下ネタとして使うことはあっても、色恋沙汰として胸の大きさの話は使わないのだ。なので別に、加古はコンプレックスになっている訳では無かった。そもそも彼女ら二人、恋愛経験は皆無なのもあった。


「どうしたの?」

「お前もさっき命令があっただろ」

「あったっけ?」

左右に揺れて煽るのをやめて、誠は自分は知らないところで仕事が行われていたことに、首を傾げた。


こいつの事だ。昼寝でもしていて気が付かなかったんだろう。呼ばれたのはちょうど休み時間だったし。まあ言っても治らないだろうし仕方ない。


「もう少しで仕留められそうだったのに、邪魔してきやがって」

ズボンに足を通す。


「ありゃ…… お兄さんがやりそうな事だぁ」

わかってたならどこかで止めてくれよ、と加古は思った。多分私が言ったら反発されるが、誠が言えばまあ記憶にぐらい残るだろう。なぜ嫌われているかは分からないが。

加古は自分がこんなことを考えなければならないのに腹を立てた。


「だから言ってやったのさ。身の程知らずが出しゃばるもんじゃないって」

「言い過ぎじゃない?」

「だからあいつ殴りかかってきた」

それを聞くと、誠は愛想笑いをした。どっちが悪いと言えなかったから、ひとまずどっちつかずでいようと考えたからだ。


当然アニメに出てくる強化人間みたいに、「FEARは敵! 殺す!」 なんて判断基準は良くないし、逆に理想を見すぎてだらだらしているのも良くない。だが、この問題は誠も加古も、あまり接点のない話だという認識だった。一人で決められる問題じゃないからだ。


当然二人とも人を殺すことに抵抗はあったが、加古に限っていえば、あまり気にしていなかった。死にたくなかったら自分に攻撃を仕掛けてくるわけも無いし、FEARの強大な力を悪事に使われないとも限らなかったからだ。


少なくとも自分以外の人間は、「あの連中」のように、力を持てば傲慢になる。それが彼女の今の結論だった。


「どんな理由があるにせよ、倒さなきゃもっと被害が拡大するのに」

「それはおにーさんもわかってると思うけど」

「わかってるだけじゃ……」

ワイシャツを着て、その上に上着を羽織る。

頭でいくら考えたって、動かなきゃ意味が無い。


(認めたくはないが……)

白刃にあれだけ文句は言ったが、じゃあ自分一人ならやれていたかと言うと、そうではなかった。


あの敵、おそらくは、分身か分離のような感じなのだろう。あそこで感じたのは、それが生成されていくことによるもの。FEARは影災と違って、何も無いところからは出てこない。数で有利を取られたら、よけれる攻撃も避けられない。


勝てる道理はあるが、難易度の高い物だった。そんな中で、助ける余裕などないと、加古は自分を納得させる。


「あれ?」

一旦考えを終えた彼女は、また違和感を感じとり、誠の方を見た。いつも着ている、ダボダボの袖の服じゃない。長袖のジャージだ。さっき喋っている時から、着替えていない。


「どうして着替えないんだ? 次の授業間に合わないぞ?」

「留年はしないから大丈夫なのです」

誠は胸に手を当てて、自慢げに話す。


「そういう問題か……?」

警察や自衛隊の学校と違って、ある程度の自由はあった。戦闘訓練や授業内容を除けば、普通の設備がいい高校という感じ。でもそれを抜いて、授業の遅刻はまずいだろう。小学校じゃないんだから。


「ほら加古ちゃん出てってよ」

「どうして?」

誠は手首を動かして、前に払った。


「同性だろうと目の前で着替えるのは恥ずかしいの!」

「わかったよ」

さっき白刃よりマシと言ったが、こいつもこいつで扱いに困る。第一ずっとそんな袖の長い服ずっと着てる方が、変な感じして自分にとっては恥ずかしい気がするが。


疑問を抱きながら、加古は更衣室の外に出た。


……ちょっと気になるので、少し覗こうとドアを開けた。


「こら!」


「ああもうどうしよう」

自室のパソコンの前で伏せる。

あんなこと言ったはいいものの、全く手がかりがない。わかるのはあの声だ。

一応アービトレイターの記録媒体に音声が残っていた。神経を伝って記録するので、あの得体の知れないテレパシーも残っていたわけだ。


パソコンにわかっていることをまとめたが、声が同い年のこと、単純な目的が殺害ではないことぐらいか。こんなに情報が少ないんじゃ、何も考えがつかないと唸り声を上げた。


「ひとまずこの声は覚えたけど……」

頭を掻きながら画面を見ると、再生ボタンは停止していた。

白刃は特徴のない人間の声を覚えてなんの意味があるのか分からなかった。つまりこれは気休め程度の行動だ。


とりあえず、理由を知っていそうなのは被害者の子ぐらいか。でも彼女と俺にはなんの接点もないし、今は聞ける状況でも無さそうだ。中学生で化け物に殺されかけて、精神的ダメージはかなり強いはずだ。少なくとも今話を聞ける状況ではない。


どん詰まりで、息を吐きながら窓を見る。

時刻は十七時。もう日が落ちかけていて、冷たい空気にダークブルーの空が一番映える時間だ。


言い訳を考えていると、アービトレイターのケースが目に映り、ふと思い出す。

奨さんがなんか、アービトレイター以外にプレゼントがあるって言っていたが、なんだろ。


「私のことか」

機械的な、とてもトーンの高い声が聞こえてきた。


「……?」

部屋を見渡しても、声の主が分からない。散らかっていて間違え探しみたいになっているのは承知だが、特に変わった雰囲気はなかった。


「ぎゃああああっっ!」

後ろを振り向くと、青いモノアイがドアップで映り、めちゃくちゃびっくりした。尻もちをついたまま全速力で離れる。


それは、四角形の物体が傾いて浮いていた。喋る度に波打ってまるでゼラチンの塊だ。無色透明だし。


「まずなんで浮いてんだよ!」

「水蒸気だ」

待てよ、浮いているのは俺のパソコンの上。


「さっさと降りろこのぽんこつ!」

ふざけんなよお前高校入った頃からバイトして買った初めての自分のパソコンなのに。十万もしたんだぞ十万も。ゲーム機一台とソフトが四本ぐらい買えるわ。


手で掴むと、意外と硬かった。ゼラチンじゃなくて水晶だったのか。


ようやく落ち着いて、話ができるようになった。浮くのもやめて地面に落ちている。波は健在だが。


「お前は誰だ?」

「アービトレイターの制御AIだ」

「制御AI?」

おかしい。そんなの説明書に書いてなかったぞ。


奨さんが言ってたのがこれなのか。しかしそれならプレゼントじゃなくて試供品なのでは?


「いつもはこうしていないだけで、お呼びとあらば出てくるのが私だ」

「なんか使えなさそうだな」

「失敬な。私はエンジンで言うコントロールユニットだぞ」

「じゃあそのままでいいじゃん」

学習型コンピュータである必要性、皆無。しかもコントロールユニットは勝手に動かないので調整できるが、これじゃ場面に合わせて調整できないじゃないか。やるかどうかは別として。


「うるさい。とにかく、貴様の悩みを聞こう」

「メンタルヘルス完備とか自衛隊とか軍に回せよ。その技術」

これで戦地から帰ってくる必要なし!(悪魔の発想) ていうかまだ俺は病んでるわけじゃないし。


「いいから言え!」

白刃の顔が不機嫌になる。

わかったよ、言えばいいんでしょ。言い出しっぺは俺だけど。


「それが……」

「ほうほう。つまりどうしたら怪しくないように話を聞けるのかということだな?」

「まだ言ってねえよ」


「それはだな……」

しかしようやく口を開くようで、期待した。


「知らん!」

すぐに両手でしっかりと持ち、ゴミ箱へ放り込んだ。


「なんでやねん! ワイは世界最高峰のAIやぞ!」

「そこで頭冷やしてろ!」

なんで大阪弁なのかは置いておいて、こいつは使えない。


白刃は完全に、スランプに陥ってしまった。

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