79. アルフレッドの回想録
「というわけで、今、ミゲルとロザリンドはミトロン陛下に事情聴取を受けている」
話を聞いた僕は、血の気が引く感覚に襲われていた。
「なんでいつもエヴァばっかりが事件に巻き込まれるんだよ?」
「エヴァは……。困っている人を見捨てておけない性分だからな。おかげでこっちはいつもヒヤヒヤしなきゃならない」
兄さんは半ば呆れたようにしている。確かに、エヴァはめぐみだった頃からそうだった。おかげで僕たちも助かったんだけど……。
「エヴァ……」
僕はエヴァの傍に行き、静かに声をかける。
いつだったか、エヴァが気を失ったことがあったな、と懐かしく思う。
そのときも、こうして僕が側についていて……。
目が覚めたエヴァの笑顔に、さらに魅了されたんだった。
クリストファー殿下に婚約破棄されたら、僕にもらってくださいとかいってたくせに、殿下に心を奪われてしまうなんて……。他の誰のものでもなく、僕のモノになって欲しくて……。
エヴァが、人一倍努力家なのも、僕だけが知っていればいいなんて思っていた。それなのに……。
生死の境をさ迷っているエヴァに、誰を好きでも構わないから、とにかく目を覚まして、そのエメラルドグリーンの瞳で笑って欲しい、そう願わずにはいられなかった。
ここはゲームの世界ではなくて、僕たちが生きる現実だから。
ただ前世の記憶があるから、そう錯覚していた。
エヴァのいない人生なんて考えられないんだ。
だから、そう願ったのに……。
あの時のように、エヴァの手をそっと握り、その指先に口づけを落とそうとしたとき。
"ポカッ”と小気味良い音をたてたのは僕の頭だった。
「どさくさに紛れて変なことすんなよ」
「何だよ、兄さん。なにも叩かなくてもいいじゃないか」
叩かれた頭を抑えながら、若干涙目になって兄さんを見上げる。
「全く……。エヴァの意識がないからって……」
「そうは言いましても、アレクシスだってエヴァにあんなことやこんなこと、してみたいと思うでしょう?聖人君子というわけではあるまいし?」
「ちょっ!なんてことを言い出すんだよ、殿下は!」
クリストファー殿下のクリティカルヒットに、兄さんがたじろぐ。
「俺は大人なの、お前らと違って、前世の記憶含めて、お前らよりずっと大人なの!」
顔を真っ赤にして叫ぶ兄さんは、普段では決して見られない。
「でも、思わないわけではないんでしょう?」
殿下の追撃に、最早返す言葉も見つからないようで狼狽える兄さん。軍配は殿下に挙がったようだ。
「俺さ、エヴァに話したんだよ。前世の記憶があること……」
「「はあ~?」」
間抜けな声が殿下とハモってしまったけど、いや、ホントに『はあ~?』だよ。
「どういう経緯で?」
「ルディスタン国王が王弟を名乗る者に襲われた時、陛下の傷の手当てをしているエヴァに前世のめぐみが重なって見えたから、ついめぐみの名前を呼んでしまって……。それから暫くして、前世の記憶のことを話したんだよ」
「それって、兄さんが前世の夫だってことも話したの?」
兄さんが頷く。
「なにそれ?ズルくない?何でそんなこと勝手に話してるんだよ?まさか、僕たちのことも話したんじゃないよね!?」
そんなことされたら、僕が一番不利になるじゃんか。
思わず兄さんに掴みかかっていた。
「いや、お前たちのことまでは話してない。エヴァのめぐみとしての記憶は、16歳までだ。それも俺と出会う前。俺と結婚していた時のことや看護師だったことは思い出してないって言っていた。それに、その話をしたけどエヴァの気持ちは変わらなかったよ。クリストファー殿下のことを愛していると……」
ゆっくりと掴んでいた手を外される。
そんな……。僕なんかが入り込む隙もないっていうのか……?




