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77.

「モタモタしている暇はありません!とにかく今はこの穴の中に入ってくださ……」

 言い終わらないうちに燃えた梁が私たちをめがけて落ちてきた。

「エヴァ!」

「エヴァ様!」

 アレクシス様とミゲルが間一髪のところで私を庇い、穴へと飛び込んだ。ギリギリセーフ……。

「エヴァ、大丈夫か?」

 アレクシス様に問われ、全身を確認する。うん、大丈夫。どこも痛くない。

「私は大丈夫です。アレクシス様とミゲルは?」

「ええ、どこも怪我はないようです」

「俺も……ッ痛!」

 アレクシス様が小さく呻き声を上げる。

「どこが痛みますか?」

「いや、大したことない」

 アレクシス様の怪我の状態も気になるけど……。  

「話は後です。今はこの穴を抜けていきましょう」

 ミゲルが先を急がせる。

 煙や炎は上に向かっていくから、少しの間ならここも大丈夫かもしれないけど、早く出口に向かわないと酸素がなくなる。

「そうするより他ないですね」

 ミゲルとアレクシス様に挟まれるようにして、奥へと進む。

 狭い抜け道は、アレクシス様やミゲルには窮屈そうだったけど、何とか出口に辿り着いた。

 昨日と違い、街のすぐ近くの教会と思われる建物の裏手に辿り着いた私たちは、そこで複数人の話し声を聞いた。

「ロザリンドさん、よくやりました。これで邪魔者は消えましたし……後は貴女が消える番ですよ」

「……どうせそんなことだろうと思ったわ。それも第三王妃、貴女の命令ですか?」

「さあ?それはどうかしら?」

「ロザリンドさん、余計な詮索は無駄ですよ」

 話し声の主は、ロザリンドとナルディ、そして何故ここにいるのか分からないけど、第三王妃のようだった。

「最後に一つだけ聞いてもいいかしら?」

「そうですね、最後くらい質問に答えましょう」

「なぜこうまでして、人々を……?」

「簡単なことですよ。第三王妃が政権を握るためです」

「全ては私の計画通りよ」

「まさか、先代の国王は……!」

 ロザリンドの息を飲む音か聞こえた。

「そう、そのまさかよ。先代の国王も、この薬を使って私の言いなりにして、私が有利になるように事を進めていた。それなのに、第一王妃はミランダでなければ結婚しないというミトロン陛下の我が儘を聞いたりするから……。第二、第三王妃を正室扱いするように仕向けるのが精一杯だったわ。でも、実際はミトロン陛下はミランダのことしかみていない。第二王妃のあの娘は、政権に全く興味がなかったから放っておいても良かったんだけど、ミランダが第一王妃である限り、私は日陰者。だから、まずはここの土地の者たちから私を崇拝するように仕向けた」

 第三王妃の独白に身震いした。

 なんて恐ろしいことを……。

「なぜ、……この土地を選んだの?」

 ロザリンドの声が微かに震えている。

「国境だからよ。他の国からみれば、アガザエルトで人気のある王妃はミランダではなくこの私。それをこの国を訪れた貴人たちが王城で話して噂になれば、ミトロン陛下だって私を無視できない。それにここは、この麻が自生していて、加工業者からの入手も容易かったからよ」

 そんな……。私利私欲のためだけに、国民を犠牲にするなんて!

 第三王妃に対する怒りが沸々と湧いてくる。

「さあ、お話はこの辺でおしまいだ。ロザリンド、お前もすぐにあの世へ送ってあげるわ」

 第三王妃の言葉に思わず覗き見ると、ナルディがロザリンドに向かって剣を振りかざしていた。

「……危ない!」

 この場で、自分の身を晒すことがどれだけ危険なのか分かっている。

 だけど、私は……!

 アレクシス様やミゲルが止める声を尻目に、ロザリンドの前に飛び出した。

「うらぁぁぁ!」

 ナルディの手中の剣が容赦なく私に襲いかかる。

 痛いというより、重いというか……。とにかくそんな感覚が私の肩にのし掛かる。

 それはまるでスローモーションをみているかのように、ゆっくりと、地面への距離が近づいて……。

「きゃああ!」

 ロザリンドの叫び声と、

「エヴァ!」

「エヴァ様!」

 アレクシス様とミゲルの声と、

「エヴァ!」

 ああ、この声は……。クリストファー殿下の声だわ……。

 最後にもう一度、会いたかったなぁ……。

「エヴァ、エヴァ!しっかりしろ!!」

 愛する人の声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。

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