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76.

「エヴァ様って不思議な方ですよね」

 ロザリンドが道を歩きながら微笑む。アレクシス様とミゲルは犯人を探すと言って別行動だ。

「え、そ、そう?」

 思わずドキッとして挙動不審になる。

「だって、さっきの対応、普通の貴族の令嬢ができることではないです。それに私が薬でおかしくなっていた時も……」

 確かにそう言われれば、この世界の貴族令嬢の、それも社交デビューもまだな小娘にできることではない。

「そう……ね……。でも、ロザリンド、本当に無意識で……」

「無意識であんなことできるはずありません。エヴァ様、何か隠してらっしゃいませんか?」

 隠してる……。前世の記憶(16歳まで)があるなんて、どうしたら信じてもらえるんだろう?それに前世で看護師やってましたけど、その時代の記憶はありませんなんて……。

 アンナには転生者だってことは話しているし、アレクシス様も転生者だ。だけど、ロザリンドにはまだ話せない。

「まあ、いいですよ。エヴァ様。あなたにはここで死んでもらいますから……」

 ロザリンドが嫌な笑みを浮かべる。

 何?どうしたの?ロザリンド……。

「あの薬が……。欲しくて堪らないんです……」

「!?」

 そう言うとロザリンドがポケットから小瓶を取り出した。

「これ、見覚えありませんか……?」

 あのデザインの小瓶は……。微かな記憶を手繰り寄せる。

 メリーが持っていた眠り薬……!?

「バッテンガー侯爵家の……、今はノーサル共和国の側室となられたマリア様が購入されたものと同じものです。元々は不眠症の治療薬として、私個人でお試しに購入したのですが、あまりにも危険なのでマリア様だけにこっそり分けたんです。だからルディスタンの市場には出回ってないし、ロズウェル商会の帳簿にも載っていません。と言っても、今さらこんなこと関係ないですよね」

「何を……言っているの……?」

 ロザリンドの表情が歪む。

 頭の中で警鐘が鳴り響いているけど、身動きが取れない。物理的にではなく心理的に……。

「エヴァ様、ご武運を……」

 いつの間にかロザリンドの後ろに、先日アガザエルト王城で会ったナルディが立っていた。

 それが合図だったかのように、ロザリンドは手にしていた小瓶をこちらに向けて一吹きした。

 “あっ……!”

「そういうことです。友達になって、ロザリンドさんと同じ薬を分けてあげようと思っていたのに、あなた方が色々と嗅ぎ回るからいけないんですよ?」

 ナルディの言葉を最後まで聞き終わらないうちに、意識が遠退いていくのが分かった。

 ロザリンド……。どうして……?





「う……うん……」

「エヴァ、大丈夫か?」

 あれ?アレクシス様の声がする……?

「エヴァ、しっかりしろ」

「あ、アレクシス様……?」

 うっすらと意識が浮上して次第にハッキリしてくる。

 それと同時にこの状況が、絶体絶命だと思い知らされる。

 アレクシス様も後ろ手に縛られており、その側にはミゲルがいる。こちらも同様に縛られていて、おまけに猿轡をされている。

 意識はあるようでしきりに何かを訴えている。

 そして私も……。後ろ手に縛られている。

 何とか外れないかと手を動かすと、すんなりと、呆気なく縛ってあった紐が解けた。

「あ、あれ?」

 なんで私の紐が簡単に解けたの?

「エヴァ、早く俺のも……」

 促されてアレクシス様の紐を解きにかかる。しかし、こちらはどんなに頑張っても素手では難しくて。

「何か刃物のようなものがないか?」

 言われて辺りを見回すと、物置小屋のようだった。ただし、昨日ロザリンドと見つけた小屋とは別の小屋のようだ。

 鉈のようなものを見つけ、アレクシス様を縛っている紐に当てる。何度か鉈を擦り付けようやく紐がちぎれた。

 アレクシス様は自由になった手で、今度はミゲルを縛っている紐を切り落とす。

 唯一の出入口と思われる扉を開けようとするも鍵が掛かっていて開かない。

 昨日見つけた小屋の違和感がなかったように、この小屋も外から閂をかけて施錠するタイプなのだろう。

「おい、何か焦げ臭くないか?」

 アレクシス様の言葉に振り向くと、小屋の隅から煙が立ち上っていた。

 私たちを焼き殺すつもりなの!?

「エヴァ、扉は!?」

「ダメです、開きません」

「ちょっと退いてろ」

 アレクシス様が扉に体当たりをするけど、扉はびくともしない。

 ミゲルも鉈を持って扉に叩きつけるけど、今度は鉈がつきささったまま抜けなくなっていた。

 私はこんな緊急事態のときにロザリンドが最後に私にかけた言葉を思い出していた。

『ご武運を……』

 これから殺害しようとする人に向ける言葉とは、とても思えない。

 昨日から感じていたロザリンドに対する違和感。

 簡単に解けた私の紐……。

 もしかして、ロザリンドは私たちを助けようとしている?

 煙が小屋の中に充満し始めて、いつの間にか火の手が上がっていた。

 もしかしてこの小屋のどこかに昨日の小屋のように抜け道がある……?

 そう思い至った私は、手当たり次第に物を触って押したり叩いたりしてみた。そしてコンテナボックスのようなものを押したとき、ガタッと音を立てて、その下に昨日見つけたものと同じような穴が現れた。この穴がどこに繋がっているのか分からないけど、ロザリンドは……!

「アレクシス様、ミゲル、こっちです!……ゲホッ」

 叫んだと同時に煙を少し吸ってしまったみたいだわ。

 私の声に導かれるようにして、アレクシス様とミゲルが煙の中をくぐって来た。

「なんだこの穴?」

 ミゲルが不思議そうにしていたけど、今はそれどころじゃない。早く脱出しないと、本当に焼け死んじゃう。

 火の勢いは益々強くなり、辺りは炎の海と化していた。

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