73.
「決まっている。俺が愛しているのはミランダだけだったからな。ミランダを第一王妃として迎えられなければ、その二人も娶らない、と。先王……父上はしぶしぶ了承してくれたがな、宰相どもの反対は凄まじかった。そうしているうちに父上は徐々に食事を取らなくなり、痩せていった」
先代の国王も『錯乱状態だった』というところに引っ掛かりを覚えて、考え込む。
「『呪われた土地』の人たちと同じ症状……ですよね」
確認するように問いかけると、
「言われてみれば……そうだな。何で今まで気がつかなかったのだろう。父上の病と同じ病が『呪われた土地』で流行ったのになぜ王城では流行らないんだ?」
そっか、『呪われた土地』の病は流行り病として認識しているから、王城で流行しなかった病と同じだと思わなかったわけね。
そして、『呪われた土地』の人じゃないのに、最近そのような人を見た。
でも、これで一つ分かったことがある。
「『呪われた土地』の人たちの病は流行り病ではないわ」
「何だって!?」
ミトロン陛下もミランダ王妃も私を見る。
「ミトロン陛下、アガザエルトではヘンプはどこで採れますか?」
「何だ、突然。ヘンプとは麻のことか?」
ミトロン陛下の言葉に頷く。
「麻は『呪われた土地』の近くで採れる。それがどうかしたか?」
やっぱり。『呪われた土地』の人たちの症状は……。
「ミトロン陛下、『呪われた土地』の調査を許可して頂けますか?」
「あそこは第三王妃のものだからな。調査の許可を出すのは難しいかも知れん。しかし、ロズウェル商会が品定めに来ているという名目であれば、文句も言えまい?」
それって……。
「ありがとうございます」
それなら『呪われた土地』の調査ができる。
「ところで、なぜ麻なんだ?」
あ、そうか。そこの説明をしていなかったわ。
「……という訳なんです」
一通り説明し終えるとミトロン陛下は唸った。
「まさか、そんなことになっているとはな。だが、麻は昔からあの場所に自生している。なのになぜ今までは何もなかったんだ?」
「そこは……私は詳しく分かりませんが、アレクシス様ならご存知だと思います」
「そうか。今夜はもう遅い。明日、その事について詳しく聞かせて貰おう」
「はい、分かりました」
私と殿下はミランダ王妃の部屋を退室した。
「エヴァ、少しいいか?」
「はい、何でしょう?」
殿下は私の腕を取り、殿下が使っているという部屋まで連れてこられた。
ミッシェルがクリストファー殿下だと分かっても、いきなり待遇を変えるわけにはいかないので、部屋はそのままだ。
「殿下がこんなところで過ごしていたなんて、想像していませんでした」
質素な部屋を見回す。
「今の私は下僕だからね」
と、殿下がクスクスと笑う。
「それより、少しだけ……」
殿下が私を抱き締める。
「そういえば、エヴァはあの男とは何か進展があった?」
ん?いきなり何ですか?
「あの男、とは……どなたのことでしょう?」
そう言って、こちらに来る前の殿下の勘違いの件を思い出した。
「教会で、エヴァが見惚れていた司祭様のことだけど?神に仕える身でありながら、エヴァを誑かすなんて……」
「教会で、見惚れていた?司祭様を?私が?」
ちょっと頭がついていけなくて聞き返すと、殿下はちょっとだけヤキモチを焼いたみたいに頷いた。
「えーと、あれはですね……。侍女のアンナとお似合いで、一枚の絵のようだと思っていたんですよ」
嘘偽りない事実。確かに見惚れていたけど、恋愛感情じゃなくて、美術鑑賞の気持ちと同じだ。
「本当に?」
疑うように尚も聞いてくるので、殿下の耳元に唇を寄せて囁いた。
「私が愛しているのは、あなたです」
その答えに満足したのか、殿下は極上の微笑みを見せてくれた。
私の愛する人の、極上の微笑み。他の誰にも見せたくないという独占欲が溢れてくる。
「さっきからずっと、こうしたかった……」
「……私も……です」
照れて、小さな声しか出せなかったけど、殿下にはしっかり届いていたようで、殿下の腕に力がこもった。
お互いに見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。




